女――神代 伊予那が目を開けると、そこは木造の建物の床の上だった。
敵がいないか警戒しながら辺りを見渡す。
右、左、後ろと首を動かすたびに自慢のポニーテールが揺れた。
誰も、いないようだ。とりあえずホッと息をつく。
先ほど自分がいた部屋のざわめきとは対照的に、辺りは静まり返っている。
緊張が少しずつ解けていくのと同時に、一時的に外に押し出されていた記憶や恐怖がよみがえってくる。
そうだ。私はさっき、人が死ぬところを見たんだ。
この殺し合いの主催者に向かっていった女の子…
首輪が爆発して、首が飛んで、分かれた二つの傷口から赤い血がたくさん、たくさん…
「ぅ…おえぇ……」
突然の吐き気に、たまらず胃の中身を出してしまう。
思い出すんじゃなかった。後悔してもすでに遅かったけれど。
吐き気が治まるのを待って、今度は女の子のことを思い出さないようにして記憶をさかのぼる。
キング・リョーナと名乗る主催者は言っていた。これは殺し合いのゲームだと。
最後の一人になるまで殺し合い、その残った一人だけが帰ることができる。
でも、残った一人だけということは、それ以外の人はあんな風に死んじゃうってことで…
(私は今、そんな状況の中にいるってこと?)
そんなの嫌だ。誰か、誰か助けてくれる人はいないのだろうか?
(そうだ、名簿…)
すぐ横に置いてあったデイパックを開け、中身を見てみる。
男の人が言っていた通り、水、食料など、必要最低限の物は入っているようだ。
「…なんだろう、これ…」
何か液体の入ったビンを見つけた。SMドリンクと書かれたラベルがついている。
(細長いビンに入っていたから…栄養ドリンクかな?)
とりあえずデイパックの中に戻しておくことにした。
「…あった!」私は参加者名簿と書かれた紙を取り出す。
名簿の名前を一人ずつ見ていくと、自分の名前が確かに書かれていた。
神代 伊予那。やっぱり私はこの殺し合いの参加者なんだ。
そして私の名前のすぐ後に、とても見慣れた名前が書かれていた。
「桜もいる!」つい声に出してしまった。
美空 桜。私の友達の名だ。
桜はいつも私を守ってくれるし、私も桜を守りたいと思う、私たち二人はそんな関係だった。
化け物が出てきた廃病院でだって、桜は気丈な態度で私を守ってくれた。
…少し気丈すぎた気もしなくもないけど。
桜は、たとえこんな状況でも絶対に私の味方になってくれる。
それに桜だって、この殺し合いという状況にパニックになっているかもしれない。
まずは桜を探すことから始めよう。
今すぐ行動を開始しようと腰が上がりかけたが、
あることを思い出し、ピタリと腰を止める。
そういえばこの殺し合いの主催者は、支給品の中に武器も入っていると言っていた気がする。
武器も持たずに行動しようとしていた自分に多少呆れつつ、デイパックの中を探る。
デイパックの底で、手が冷たく硬い何かに触れた。
引き出してみると、それは黒くて重々しく、
よくドラマなんかに出てくるようなものだった。
「…これって、銃…だよね?」
もちろん銃なんて見るのは初めてだ。
それでもこの鉄の塊がこの状況において何をするためのものなのか、
嫌でも理解せざるを得なかった。
付いていた説明書によるとこの銃は扱いやすい部類で、
力のない者でも十分に使うことができる銃のようだった。
さらにデイパックの中にはこの銃の弾も入っていた。
力もいらず、相手を遠くから殺すことのできる武器。
非力な私にとっては、これ以上ないといっていいほどの当たり武器だ。
相手に向けて、引き金を引く。これだけだ。
(でも…私にはそんなことできないよ…)
いくらこんな状況とはいえ、人を殺すことがどれだけ悪いことか、
それくらいは理解しているつもりだ。
一応銃は持って歩くことにした。
もちろん襲ってくる人を殺すためではない。
あくまでも、追い払うためだ。
やり残したことがないことを確認して、
ドアをおそるおそる開けてみた。
今自分がいるここのほかにも、いくつも建物があるようだ。
どうやら、ここは商店街のようだった。しかも結構な広さがあるように見える。
心臓がドキドキと高鳴っているのが聞こえたが、意を決して外に出た。
(大丈夫、桜に会えればきっとなんとかなる)
呪文のようにそう頭で繰り返しながらも、
私は無意識に汗ばむほど強く銃を握り締めていた。
―君たちは一人になるまで殺しあわなければいけない―
ふと思い出した主催者の言葉が、やけに耳に残り続けていた。
【A-2:X4Y4/商店街/1日目:朝】
【神代 伊予那@一日巫女】
[状態]:健康
[装備]:ベレッタM1934(弾数 7+1)
[道具]:デイパック、支給品一式
9mmショート弾30発
SMドリンク@怪盗少女
[基本]:桜と生きて帰る
[思考・状況]
1 桜を探す
2 襲ってくる人は殺さず、銃で追い払う
3 殺し合いに乗ってない人は、できれば仲間にしたい
※名簿を「美空 桜」までしか見ていません。
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