<奇妙な隣人 リョナたろう >
「流石の俺でもあれは引くわ」
丸太に腰掛け、自分の首に張り付いた首輪を指でそっと撫でつつ
この首輪が作動したあの瞬間―様々な体内の物質をまき散らかして死んだ少女―
を思い出す。普段なら少女を殺すことや痛めつけることに躊躇の無い彼でも、
あの理不尽な暴力を迎合する気持ちは起きなかった。
・・・あちら側の人間だったら大喜びで拍手をしていたかも知れないが
彼、リョナたろうはこの瞬間、あの男をオーガの晩飯にすることに決定した。
もっとも、同情心というよりも自分自身を無理矢理こんな
場所に連れてきたこと、爆弾つきの首輪で脅したこと対する
復讐心からくるものの方が大きいのだが
一方で彼自身の欲望もふつふつと沸いていた。
暗くて分かりにくかったが、あの会場には多数の女性が集められていた
そして、彼の本能があの場には痛めつけがいのありそうな女性たちが
わんさか存在したことを嗅ぎ付けていた
男は何と言っていた?殺し合え?最後に残った一人を帰してやる?
願ったり叶ったりだ。あの男の計画に乗る形になるのは癪だが、
この興奮は抑えられそうに無かった。
(多分)相当腕の立つ人間が数人襲い掛かって傷一つ、いや
手を触れることすら出来なかったのだ。自分一人だけの力では
あの男をオーガのおやつにすることは難しい。何とか「腕の立つ」
協力者も欲しいところだ。
「つーか、ここはどこなんだ・・・?森か?」
周囲は見渡す限り木、木、木である。
まるでドーラの森のようだが、親切な看板は用意されていない
「おいおい、このまま俺に野垂れ死に
or
爆死させる気じゃないだろうな・・・」
独り言は虚しく木々の中に消えていく、再び森に静寂が戻る。
彼はがっくりと頭を垂らし、溜息をついた。
「・・・とにかく、歩き出さないと始まらないか
こんな森だ、どんな危険が待ち受けているか分からなからな
お前もそう思うだろ?」
沈み込んだ空気に生じた僅かな綻びを見逃すほど
彼は甘い人間ではなかった
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