こどくのワケアリ

・・・さっきから1つも納得のいく理由が見つからない。
確かに、私は毒虫で、人殺しで、あの場所に居てはいけない人間だったかもしれない。
しかし、私だって好きでこうなったワケじゃない。私にも言い分はある。
むしろ、私の言い分は普通なら通るはずだ。
結果的にあんなことになった責任は・・・確かにあるかもしれない。
だから私は、それに関しては反省しているし、それ相応の罰も受けるつもりだ。

しかしどうして、私がこんな目に遭わなくてはいけないのだろうか。
罰にしては余りにも理不尽だ。普通の殺人でもこんな理不尽な罰はない。
第一、あの男はあの出来事に関して明らかに何の関係もないし、そもそも私とは面識もないはずだ。
私に個人的な怨み辛みの類があるとは到底思えない。
流石の私でも、まったく会ったことの無い人間から怨みを買う真似はできない。

(とりあえず・・生き残ろう。)
あの場には私の他にも沢山の人物が居た。
こんなことに付き合う輩のことだ。恐らくは正真正銘の毒虫で、人殺しなのだろう。
私はそんな輩の手から身を守る道具が無いか、バッグの中身を漁ることにした。

「・・・何でクマ?」
パンや水等と言った物の中に混じって、明らかに場違いな物が出てきた。
よく和室や玄関に飾ってある鮭を銜えた熊の置物だ。
確か、私の家にもあったようななかったような・・・。
(・・・どうでもいいわね。)
兎に角、これは使い物にならない。
アタリかハズレかで言えば120%ハズレだろう。賭けてもいい。
気を取り直してバッグの中身を漁ってみる。

「ヘルメットだ・・。」
次に出てきたのは、工事現場なんかでよく見かける黄色いヘルメットだった。
(これはとりあえず、被っておこうかな。)
この先、突然頭上から何かが落ちてくる可能性はないとは言い切れない。
後ろから頭をガツンと殴られる可能性も否定できない。
見てくれは少々気になるが、命には代えられない。私はヘルメットを被っておくことにした。

「あらっ、銃だわ・・。」
最後に出てきたのは、ハリウッド映画の主役が持ってそうな大きくて重い拳銃だった。
これは間違いなくアタリ・・と言いたい所だが残念ながらそうでもない。
なぜなら、私は使い方が分からないからだ。
(フツー、こんなもんの使い方なんて知らないわよ・・。)
心の中でそう悪態をつくと、バッグにしまっておくことにした。
相手が正真正銘の人殺しばかりだとしたら、こんなものをちらつかせても効果はないだろう。
むしろ、相手を無駄に挑発することになってしまう。
使い方が分かればそれでも対抗ができるだろう。
しかし、私は分からない。つまり、自分を不利にするだけだ。

「でも、何も持ってないのも不安ね。」
そう感じた私は、辺りを見回してみる。
そして運良く、手頃な大きさの尖った石を見つけることができた。
(・・持ってないよりマシ、か。)
私はとりあえず、その石を拾ってポケットに入れておくことにした。

「塔と船が見えるわね。じゃあ・・、私はこの辺りに居るんだわ。」
地図で現在位置を確認してみる。詳しい場所は分からないが、大体の位置はつかめた。
「・・廃墟があるのね。」
私はその時、廃墟に行くことを考えた。
廃墟ならば身を隠しつつも、適度に周囲の警戒ができるだけの視界が確保できるはずだ。
それに、最悪の場合外へと逃げることもできる。
流石に廃墟を人殺しの集団に囲まれたら逃げ場がないが、そういう事態は考えにくい。
そもそも人殺しなんて皆、他人と一緒に行動するのが嫌いなはずだ。
私がそうなのだから、正真正銘の人殺しは絶対そうだと思う。

(問題はどうやって行くか・・だけど。)
内陸部を行くのは流石に危険だろう。
内陸部を行くと警戒しなくてはいけない範囲が広くなってしまう。
私にはそんな器用な真似できそうにない。
(海岸線沿いが無難・・・ね。)
流石の人殺しも海を泳いで私を殺しに来るような真似はしないだろう。
と言うことは、海側には注意を向ける必要は殆どない。内陸部にのみ注意を集中させればいい。
三方を囲まれたら逃げ場がないが、その時はもう海に飛び込んで泳げばいいだろう。
服を着たまま泳いだ経験はないが、大丈夫、多分泳げる。
私にはそれぐらいできるはずだ。できなくてはいけないんだ。

「・・行こう。何時までも此処に留まってるのは危険だもの。」
私はバッグを背負うと、海岸線沿いに廃墟を目指して歩き出した。


【E−5:X3Y1/塔と船が見える草原/1日目:朝】
【加賀 美奈{かが みな}@こどく】
[状態]:健康
[装備]:安全ヘルメット@現実世界
先の尖ってる石@バトロワ(道端に落ちていた物を拾った、手頃な大きさ。ポケットの中にしまっている。)
[道具]:デイパック、支給品一式
木彫りのクマ@現実世界(一般的なサイズの物)
AM500@怪盗少女(残弾1発、安全装置未解除)
※美奈は残弾数について確認していません。
[基本]:絶対死にたくない、元の世界へ帰る
[思考・状況]
1.生き残る方法を考える
2.廃墟へ向かう
3.他の参加者に会わないよう警戒する

後書きと言う名の言い訳。
精一杯加賀美奈らしい思考と、『こどく』風文体を目指してみましたが・・うーん。(^^;

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