二人だけのバトルロワイヤル


「戦士とは。他者を打ち滅ぼす。それこそが生甲斐であり、それだけが全てだ。」

―女性の声が辺りに響く。

「打ち滅ぼした者が強ければ強いほど、それは良き糧となり、素晴らしき美酒となる。」

―女性の言葉は続く。

「お前も、そうは思わんか?」

―女性の瞳に一人の人間が映る。

「・・蒼い髪の、人間よ。」

―女性は目の前の少女に問いかけた。

「・・・思わない。」

――青い髪の少女は答える。

「アタシは、戦士は他人を打ち滅ぼすことが全てだとは絶対に思わない。」

――青い髪の少女の言葉は続く。

「アタシの拳は、”悪”を倒し人を生かすためにある拳だ。」

――少女の瞳に赤いマントの女性が映る。

「だから、アタシは戦わない!・・アンタ、”悪”ではないから。」

青い髪の少女の答えに、赤いマントの女性は興味を惹かれ、再び問いかける。

「なんと、お前はこの、『炎のロシナンテ』が”悪”ではないと言うのか!・・・では、聞こう。”悪”とは何だ?」

赤いマントの女性、ロシナンテは少女に問いかける。
(・・さて、何と答えてくれるか。)

「”悪”とは・・・正直、アタシにもうまく言えない。」

少女は真剣な表情で答える。

「・・今、アンタのやっていることを”悪”だと言うのならば、世の中は、人間は全て”悪”だ。」
「ほう。」
「アンタは強くなるために他人を打ち滅ぼすと言った。そうしなければ、生きていられないと言った。」
「そうだ。私は戦士だ。戦士とは、他者を打ち滅ぼし強くなることでしか生きていけない。」
「・・少なくとも、アンタはそういうヤツなんだと思った。つまり、アンタは生きようとしているだけだ。」
「・・・よく分からんことを言うな、お前。私がただ生きようとしているだけ?どうしてそう分かる?」

ロシナンテは少女の言葉に怪訝な顔をする。
少しばかり面白そうだと思って付き合っていたが、もはや単なる逃げ口上にしか思えない。
中々の身のこなしで、良き糧となると思ったが相手にその気がないのでは意味がない。
(・・もうよい、さっさと打ち滅ぼしてしまおう。)

「アンタ、何で”魔法”を使わない。アタシを打ち滅ぼしたいだけならば、”魔法”を使えばいい。」
「!?」
「アンタは生きるためだけに戦っている。それを”悪”とするならば、生きようとしている者全て”悪”だ!」
「・・クククッ・・フウハッハッハー!!コレは意外だ!確かにその通りだ!!」

ロシナンテは高笑いをしながら言葉を続ける。

「そう、私はただお前を打ち滅ぼしたいワケではない。お前と対等に戦い、その上でお前を打ち滅ぼし、糧にしたいのだ!」
「お前からは”魔力”の気配を感じない。魔法の使えぬ者を魔法を使って打ち滅ぼしても意味がない!」
「・・・しかし、何故お前は私が魔法を使えると分かった?」
「・・アンタなら、分かるだろ。」
「そうか、やはりお前の中に”戦士”が居るのか!実に面白い!私はお前のような人間に会うのは初めてだ!」

ロシナンテは笑いが止まらなかった。
確かにこの少女から感じるぐらいの”戦士”の気配を持った強者はごまんといた。
そして、私はそれらを次々と打ち滅ぼしてきた。しかし、彼女はそれらと一味違う。
本来は強者でありながらその”戦士”を封じ込め、その状態で私が魔法を態と使っていないことを見抜いてきている。
そして、あろうことかそれを理由に戦うことを否定している。
もし、彼女が”戦士”を解き放てば、私でも勝てるかどうか分からない。
しかし、そんな強者を撃ち滅ぼしたのならば・・。
(さぞ、甘美な美酒であろうな・・。)
私はこの少女の中に眠る”戦士”を是が非でも打ち滅ぼしたくなった。

「・・よし、分かった。私がお前の言う”悪”になればいいのだな?」
「なっ。何、言ってるんだ!どうして、そこまでしてアタシを!?」

少女は慌てた表情で噛み付いてくる。
ロシナンテは少しだけ周りに意識を拡散させてみる。
(・・・よし、居た。)

「ならば、こうしよう。これで・・・」

私は態とゆっくり炎を放つ体勢を取る。
私の予想通り、彼女はこの行動の意味に気付き声を上げた。

「・・・まさか、アンタ!!」

私の予想した通り、彼女は血相を変えて一目散に走り出す。
私はニヤリと笑う。

「私はお前の言う・・・」
「くっ!!」
私はゆっくりと意識を集中させる。
標的は、偶然見つけた人間だ。

「伏せて!!」
「・・え、何っ?」

少女に突然呼び止められて、その人間は立ち止まる。

「”悪”だ!!」

私は笑いながら標的に向けて炎を放った。
少女はその人間に飛びつき、そのまま押し倒した。

「えっ?うわっ!!」
「ぐっ!!うわあああ!!」

背中に炎を受けた少女が苦痛の悲鳴をあげる。
やはり、魔法の使えない者が魔法を受けるとあんな反応になるのか。
威力は最低限まで落としていたはずだが、意外とダメージがあるようだ。
(ふむ。少しだけ、勿体無いことをしたな・・。)

「はぁっ・・はぁっ・・・くっ。」

少女は肩で大きく息をしながら、よろよろと立ち上がる。

「・・・逃げてくれ。」

少女が助けた人間に対してそう告げている。
助けられた人間は何かを言っている。

「・・いいから、・・・早く!」

その人間は、彼女の様子に戸惑いながらもその場を離れた。

「・・さぁ、これで私はお前の言う”悪”だ。」
「・・・そう・・だな。」

少女の身体から闘志がみなぎっているのを感じる。
色々と面倒だったがようやく、あの少女の中に眠る”戦士”と戦える。
あの少女の中に居る”戦士”を引きずり出せる。私は期待で胸が高鳴った。
(さぁ!早く!早く来い!お前の全てで、私を打ち滅ぼしに来い!!)

「アンタ・・・そこまでして・・・。」

少女は俯きながら、ゆっくりと歩み寄ってくる。

「・・いや。・・・分かった。」

少女は俯いたまま、私の正面で立ち止まる。

「アンタは、”悪”だ。アタシは、”悪”を許さない!!」

少女は顔を上げ私を見た。
その瞳は、激しい怒りと、そして悲しみの色を持って私を捉えていた。

「フウハッハッハー!それでいい!お前!!そういえば、まだ名を聞いてなかったな!」

「・・・川澄、シノブ。」

「シノブ、か!」

シノブと名乗った少女はゆっくりと構える。
私の本分は炎を使った遠距離戦闘なのだが、彼女は魔法が使えない以上、それはできない。
それに、私はどうしても、彼女と同じ土俵に立って打ち滅ぼしたい。
それほどまでに、彼女は私にとって魅力的な存在に映っていた。

「・・・ハッ!」

ロシナンテは再び炎を撃ち出す。
シノブはまったく動じなかった。彼女の真意が読めていたからだった。
ロシナンテの炎は彼女達の周りを包み込む。

「フウハッハッハー!これで、私とお前の戦いに水を差せる者は居ない!」
「・・・だな。」
「さぁ!私とお前、どちらかが相手の糧となるまで戦おうぞ!!」

―――此処に、二人だけのバトルロワイヤルが始まった。

【E−2:X1Y1/リザードマンの村敷地内/1日目:朝】

【ロシナンテ@幻想少女】
[状態]:健康、魔力十分
[装備]:無し
[道具]:デイパック、支給品一式
※他の支給品についてはまだ不明です。
[基本]:強者と戦い打ち滅ぼす
[思考・状況]
1.川澄シノブを正々堂々打ち滅ぼす

※川澄シノブに憑いているスピリット=カーマインの存在を感じ取っています。
 しかし、あくまで川澄シノブの中に眠る”戦士としての本性”のような物と思っています。
※川澄シノブが素手で戦う限り、彼女も素手で戦います。
※炎の壁を維持するため、意識を集中させています。

【川澄シノブ{かわすみ しのぶ}&スピリット=カーマイン@まじはーど】
[状態]:背中に軽い火傷、軽い肉体疲労(魔力十分)
[装備]:無し
[道具]:デイパック、支給品一式
※他の支給品についてはまだ不明です。
[基本]:対主催、”悪”は許さない、『罪を憎んで人を憎まず』精神全開中
[思考・状況]
1.ロシナンテを倒す
2.バトルロワイヤルを止めさせる方法を探す
3.なるべく大勢と脱出する

※二人を中心に半径15メートルほどの円状にロシナンテの炎が壁を作っています。
 ロシナンテの意思で解除されるか、ロシナンテが炎の壁を維持できなくなる程に消耗するまで消えません。
 ”魔法の炎”に耐性のある者以外はとても近づく事はできません。高さは大体10メートルぐらいです。

※川澄シノブに助けられた人間の正体は任せます。

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