利用する者 される者


顔に風が当たるのを感じて目を開けたとき、
籠野 なよりは開けた平地に一人で立ち尽くしていた。

状況を把握しようと周りを見渡してみるが、
先ほどの部屋でなよりの周りにいた人たちの姿はどこにもなく、
今なよりの目の届くところには人っ子一人見当たらない。
代わりに足元に落ちていたデイパックと、近くに佇む廃墟を見つけた。

「……お姉ちゃん…」
一人の寂しさと恐怖からか、なよりは自然と姉のことを思い出す。
ふと自分が今殺し合いの舞台で無防備に立ち尽くしていることに気付き、
慌ててデイパックを掴んで廃墟へと向かった。
そのデイパックは予想以上に重く、か弱いなよりには持って歩くだけでも一苦労だった。

廃墟に着くやいなやなよりは外壁にもたれかかってデイパックを開け、中身を漁った。
もちろん、名簿を見るためだ。

「うそ…お姉ちゃんもいる…!」
参加者名簿には、自分と姉、籠野 りよなの名前が並んで載っていた。
頭の隅でわずかにしていた「最悪の予想」が当たってしまった。
姉の名前と自分の名前を確認した後、なよりは名簿を放り出してデイパックを漁り始めた。
今度は、支給品の確認のためだ。

姉は絶対に自分が見つけなくてはいけない。
盲目の姉に、自分の身が守れるはずがないのだ。

(待ってて、お姉ちゃん…。私が絶対に守ってあげるからね…!)
デイパックを中身を漁りながら、そう決心する。
しかしそんな決心とは裏腹になよりの支給品は、果物ナイフと望遠鏡という
どちらも戦いにはあまり向かないものだった。
望遠鏡はデイパックの重量をいたずらに上げるだけで、とても役に立ちそうにない。
果物ナイフも刃が小さすぎて、威嚇程度にしか使えそうになかった。
(こんなんじゃ…自分の身すら守れないよ…)
なよりはがっくりと肩を落とし、うなだれた。

「…そこにいるのは誰だ…?」
不意に声が聞こえ、うなだれた頭を上げて周りを見渡す。
声が聞こえてきたのは、安全だと思っていた壁側からだった。
視線を二階に移すと、窓が見えた。
声はそこから聞こえているようだ。
「だ…誰!?」

「…質問しているのはこちらの方なのだがな…。まあいい。
 これだけは答えてもらいたい。お前はこのゲームに乗っている者か?」

「…私は乗ってないよ!」
相手の姿は見えなかったが、なよりは首を横に大きく振りながら答えた。
「そうか…ならば、私と同じだな。
 私もこのゲームに乗る気などない」

「そう…ですか」
とりあえず胸を撫で下ろす。
まだ本当に殺し合いに乗っていない人かどうかは分からないが、
ひとまず襲ってくる気配はないようだ。

「えと…私は籠野 なよりです。
 貴方は誰ですか?
 まず、姿を見せてくれませんか?」
短い沈黙の後、返答が帰ってくる。
「…分かった。」

そしてなよりは驚きの声を上げることになる。
降りてくる者が、人間だとばかり思っていたからだ。


――――――――――――――――――――――――


「…………!!」
なよりが、降りてきた「それ」から距離を取るのも仕方のないことだった。
「それ」には手足がなく、布に包まれた頭と胴体のみで浮いている、
なよりが考えている人間とは程遠いものだったからだ。

「…ふん。思ったとおりの反応だな」
見越していたように、「それ」は言う。
「だが、先ほども言ったように私はこのゲームには乗っていない。
 それだけは信じてくれ。」
「…………」
なよりは警戒の体制を解く気はないようだ。
座り込んだまま自分のデイパックを握り締めて「それ」を睨み付けている。

「…ふう。…仕方がない」
ふいに、なよりの足元に拳銃が投げ込まれた。
「なより…と言ったか。私の名はリース。
 私がお前の敵ではない印に、それをやろう」

「…………」
なよりは投げ込まれた拳銃とリースを交互に見ていた。
「…信じてくれないか?」

しばらくの沈黙の後、なよりが立ち上がって拳銃を拾いながら言った。
「…分かった。…信じる。
 …えと…」
「リースだ」
「リース…リースね。
 でも、この銃本当に私が貰ってもいいの?」
「ああ。どうせ私には扱えないものだ」

なよりは少しだけ申し訳なさそうに拳銃を仕舞い、
それから一瞬躊躇ったようだが、先ほどの果物ナイフを取り出してリースに差し出した。
「じゃあ、代わりに…これあげる。
 これならなんとか使える…かな?」
「…まあ、危険が迫ったときにでも使うとしよう」
リースは果物ナイフを受け取り、マントの中に仕舞った。


「でも、これから…」
なよりが言いかけた瞬間、廃墟の方から一発の銃声がなより達の耳に届いた。

「今のって…」
「…どうやら、このゲームに乗った輩が少なからずいるようだな。
 今は戦いは避けたほうがいいだろう」
「…そうだね」
リースの冷静さに、なよりは頼もしさと同時に不気味さも感じたが、
リースの意見に従って二人は銃声がした方向と反対―先ほどなよりが来た方向に行くことにした。


(…お姉ちゃん…お願いだから無事でいて…)
殺し合いの場で一人の少女が愛しい姉の無事を願った。
その願いが叶うのか、それとも無残に壊されてしまうのかは、
まだ誰にも分からない。









…これで第一の「利用できる参加者を見つける」という目的はひとまず達成された。
一か八か、武器を相手に渡すという策が功を奏したようだ。
だが、まだだ。この小娘だけでは私の目的に辿り着くには力不足だ。

私の目的…そう、最後まで生き残ることだ。
時間が足りなかったが…ゲームとやらの説明をされてから、
私はこのゲームに対する様々な考えを脳内で張り巡らせた。

私が参加者として名簿に名を連ねたこと。
そして私だけでなくルシフェルも参加していたこと。

この二つから推測できることは一つ。
あの男…キング・リョーナと名乗った男は
おそらく私を封印した忌々しい影人の内の一人か、
もしくは影人がこのゲームの進行役として作り出した人形か、そのどちらかだ。
影人クラスの者でないと私やルシフェルを気付かない内に自在に転移させるなどということは出来ない筈だ。
このゲームも奴らの余興の一つだと考えれば、その推測にも納得がいく。

仮にその推測が合っているとすれば、これは私にとってはまたとないチャンスだ。
男は言った。このゲームで生き残れば願いを一つだけ叶える、と。
人間ならば富、名声、地位…願いなどいくらでもあるだろう。
だが、私の願いは唯一つ。

―「記憶を除く全てを、法を破る前まで戻す」―

同じ過ちを繰り返さぬよう記憶は残したままで、
「影人の法を破り、罪として存在の格を落とされ、力を奪われたこと」全てを「無かったこと」とするのだ。


もう一度私が「私」を取り戻すには、この願いしかない。

巡ってきたこの最大のチャンスを、絶対に逃すわけにはいかない。
私の持てる知恵全てを使い、どんな手段を使ってでも生き残らなければならない。

考えろ。
力をほとんど使えないこの状況で、どうすれば生き残れるのかを。

考えろ。
これからどのような事態が予想されるのかを。

考えろ。
私はこれからどのように行動すればいいのかを。


考えろ。
私が考えなくてはならないことは、まだまだたくさんある筈だ――










【B-4:X2Y3/廃墟の外壁付近/1日目:朝】
【籠野 なより@なよりよ】
[状態]:健康
[装備]:ハンドガン(残弾6)@なよりよ
[道具]:デイパック、支給品一式 
   リョナレスの望遠鏡@怪盗少女
[基本]:お姉ちゃんと元の世界に帰る
[思考・状況]
1 お姉ちゃんを探す
2 リースと行動
3 出来ればもっと仲間が欲しい


【リース@DEMONOPHOBIA】
[状態]:健康
[装備]:果物ナイフ
[道具]:デイパック、支給品一式 
   ???
[基本]:最後まで生き残る
[思考・状況]
1 なよりと行動
2 利用出来る者は仲間にする
3 今は戦闘はなるべく避けたい

※キング・リョーナを「影人か影人の人形」と推測しています。


※銃声はなぞちゃんが撃った火薬鉄砲の音です。
※リースの残りの支給品は次の書き手の人に任せます。


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