連合東支部――激闘の幕開け


「共鳴が強まってる・・・近いわね。」
ミアが、星の描かれたステッキを手に呟いた。


今から30分ほど前の事。彼女は不思議な少女、なぞと出会った。
それから襲ってきた男の顔を面白く変えた後、とりあえずその場を後にした。
とは言え二人とも、特に行くあてもなく、探すべき仲間もいなかった。
「これからどうする?」
「なぞは、ミアちゃんについていくです!」
「え、えーっと・・・」
何の進展もない会話が続いていたが、しばらくして彼女は、
荷物の中のステッキから、微弱な魔力が発せられている事に気付いた。
「どうしたんですかぁー?」
隣を歩くなぞが、不思議そうに顔を近づける。
「このステッキ、何かと共鳴しているみたい。もしかしたら持ち主かも。」

もし、本当にこのステッキの持ち主だとしたら・・・
感じられる魔力の波動からして、優しい人物であることは間違いない。
しかも、ハッキリとは分からないが、ステッキに秘められた魔力はかなり強いらしい。
これを扱えるとするならば、かなりの実力者であろう。
そんな人と合流することが出来れば、非常に心強い。

「なぞちゃん、このステッキの持ち主を探さない?」

こうして彼女らは、ステッキが指し示す方向、北東に向かって歩き始めた。




「・・・お願い・・・助けて・・・!」
扉を開けて飛び込んできた少女が、右腕から血を、眼から涙を流しながら、
二人の男に懇願していた。
「ど、どうしたの急に!?それにその傷・・・」
少年がそれに応える。

彼の名はルーファス。
冷気の剣を構えているが、剣の腕には全く自信がない。
だが、隣にいる青年は、少なくとも自分よりは圧倒的に強い。
大抵の相手になら負けない、と思う。

「あ・・・あれ・・・」
少女が怯えながら扉の外を指差す。
彼らがそちらに視線を移した瞬間、その扉から風の刃が飛び込んできた。
「うわっ!」
「チッ!」
「きゃあっ!」
間一髪避ける三人。その背後で切り裂かれるレプリカの武器。

「みーつケタ☆」

扉の外では、緑の髪に緑の服を着た少女が、宙に浮いてこちらに満面の笑みを向けていた。

「何あれ、空飛ぶ人間!?」
「ん?ありゃ精霊か?」
「あ、あの子がさっきから、追いかけてくるの!!」
見た目はただの少女。そんなに恐ろしい感じはしないが
今の攻撃を見ると、危険な相手であることに変わりはない。

「アハハ、よけてよけてー!!」
そう言いながら、今度はカマイタチを連射してきた。
どうやら当てようとしている訳ではなく、適当に撃っているようだ。
よく見ていればルーファスの運動神経でも十分避けることが出来た。
だが、飾ってある剣や鎧は避けることを知らない。
「うわっ!!」
転がってきた槍に足を取られる。今攻撃されたら間違いなくバラバラだった。
「くっ、このままじゃマズイ、外に出ろ!!」
青年の叫び声を合図に、三人は入り口から飛び出した。

「こんどはお外でアソブんだねー♪」
やはり少女は攻撃の手を休めようとはしない。
「急げ!向こうの建物に逃げ込むんだ!!」
青年を先頭に、隣の大きな建物に向かって走る。
しかし半分ほど来たところで、後ろを走る少女が転倒する音が聞こえた。
「バラバラになっチャえー!」
「ひ、い、いやあああぁぁぁぁ!!!!」
倒れて動けない少女に、カマイタチが襲い掛かる。
前を走る青年も気付いたようだが間に合わない。
自分が助けなければ!

(姉さん、力を貸して!!)
冷気の剣を振り上げ、彼女の所に駆けつける。
「やあああっっっ!!!」

ガキィィン

カマイタチに冷気の剣を叩きつけ、弾き飛ばした。
普通の剣であれば風の流れを変えることなど出来ないが、
魔力を持った剣だからこそ出来る芸当である。
もっとも、彼自身はそれを期待した訳ではなく、ただがむしゃらに取った行動である。

「ハァ、ハァ、ハァ・・・」
やはり慣れない事をするのは負担が大きい。
しかし、相手の少女はこれ位で諦めてはくれない。
「おニイちゃんすごーい☆ でも、あたしも負けナイよ!!」
上段、中断、下段の三連射。この状況で避けるのは難しい。
たとえ避けたとしても、後ろの少女に当たってしまう。

まず上段を振り下ろしで弾く。
ガキィィン
そこから返す刃で中段を弾く。
ガキィィン
そしてさらに下段を・・・しかし、
「くっ、間に合わない!!!」
辛うじて剣には当てたが、わずかに方向を変えただけだった。
「うぁっ!痛っ!」
風の刃が右足首をかすめる。破けた服の間から血が吹き出た。

「惜しイなぁ、もうチョットだっタのに。次はどうカナ?」
少女はまた攻撃態勢に入る。今度は耐えられるだろうか?
一瞬たじろいだ所に、背後から青年の声が聞こえた。

「おいガキ、あと一回だけ耐えろ!」




ステッキから感じる魔力を辿ってきたミアとなぞは、森に入っていた。
細い道をミアが前に立って歩いていたが、ふと、後ろになぞの気配が無くなった事に気付いた。
「なぞちゃん!?」
慌てて後ろを振り返るミア。するとなぞは、道端に座り込んでいた。
疲れたのかな?と思い、「どうしたの?」と声をかける。
しかし、返事は無い。

一抹の不安がよぎる。
本人は気付いていないらしいが、なぞの中には恐ろしい”何か”が潜んでいる。
ミアは二度、それを目にしたが、その時も彼女はこちらの呼びかけに応えなかった。
もしかしたら、また・・・

だが、その不安はすぐに吹き飛ばされた。
「あったです!」
いつも通りの、明るい声。
「あれ、ミアちゃん、顔色が悪いですよ。」
「だ、大丈夫。」
その声に安堵し、ミアが尋ねる。
「それより、何があったの?」
「ジャーン! これです!」
彼女の手には、なんと四葉のクローバーが、しかも二本も握られていた。
幼いころ、両親とともに何時間も探した記憶が蘇る。

「すごーい、なぞちゃんよく見つけたね!」
「二本あるから、片方はミアちゃんにあげるです。」
「え、いいの?」
「いいです。ミアちゃん、ちょっとしゃがむです。」
言われるままに、その場にしゃがんだミアの髪に、
なぞは、手にしたクローバーを器用に編みこむ。
「似合うですよ、ミアちゃん。」
「そ、そうかな・・・」
「なぞもつけるです。」
そう言って、なぞは自分の髪の結び目に、もう一本のクローバーを挿した。
「ふふ、これでミアちゃんとおそろいです!」
「なぞちゃん・・・」

彼女と一緒にいると、なんだか暖かい気持ちになる。
こんな恐ろしい所でも、彼女と一緒なら頑張れる。
ミアは、そう思った。




彼の勘が告げていた。
「ヤツは、ヤバいな・・・」

彼、オーガは、目の前で人が死んでも、特に何とも思わない。
むしろ労せずして食料が確保できたと、喜ぶことさえある。
しかも今手に入ろうとしている食料の片方は、彼が最も好む、若い女性の肉である。

だがそれは、あくまで、自分が相手をやり過ごすことが出来ればの話である。
目の前にある建物は、外見は間違いなく見慣れた東支部である。
しかし、内装まで同じという保証はない。
仮に二人が殺られている間に建物に飛び込んだとして、身を隠せる場所が無かったら・・・
足の速さは少なくとも一般人より上だが、さすがに空から追いかけられると厳しい。

「やるしかねーな。」
彼はそう判断して、少年に声をかけた。

ガキィィン

一発目の攻撃を、少年が弾く。
その間に彼は、攻撃の主の死角に回り込む。

これまでの動きを見る限り、相手は遠距離攻撃を中心とするタイプだ。
肉体を使った近距離戦を得意とする彼なら、接近さえ出来れば勝機はある。
しかし問題は、彼女が宙に浮いている事。
いくら彼の身体能力が高いといっても、ジャンプ力だけで接近戦を挑むのは無謀である。
ならば作戦は一つ。地面に落とせば良い。
幸いにも、彼女の意識は目の前の少年に集中しており、
それ以外の方向は全くと言って良いほど警戒していない。
このチャンスを逃せば、次は無いだろう。
宙に浮く相手の背後に回り込み、飛び掛かる。
そして渾身の一撃で地面に叩き落す。
常人にはほぼ不可能な技だが、彼の能力ならば十分である。

ガキィィン、ガキィィン

二発目、三発目の攻撃を、少年は見事に弾ききった。
同時に青年が跳躍し、右腕を振り上げる。
作戦成功・・・そう思ったのも束の間だった。

「次はおジちゃん?いいヨ☆」

彼の行動は、ギリギリの所で気付かれてしまった。
少女は彼に向けてカマイタチを放つ。
直撃こそ免れたものの、左手に激痛が走る。
「うぁっ!」
そこに目を向けると、手首から先が無くなっていた。
「イキなり当タっちゃったノ?つマんないナー」
「ぐっ・・・てめえ!」
それでも彼は諦めない。
その驚異の運動能力で、空中で体を回転させ、そのまま少女に殴りかかった。
だが、そもそも気付かれた時点で彼の負けである。

スカッ

少し上昇した少女にあっさりと回避され、そのまま地面に落下してしまった。
「く・・・くそ・・・」
「死んジャえ!!!」
左手の傷と落下の痛みで動けない彼に向かって、少女がエネルギーを溜める。
もう終わりか、と思われたその時・・・

パンッ!

森の中から乾いた音が鳴り響いた。

ミア達がステッキの持ち主の方向を目指していると、突然、大きな建物が見えた。
きっとあそこに隠れているのだろう、と思って近づくと、
三人の人間が、宙に浮く少女と戦っているのが見えた。
青年が少女に飛び掛かるが、回避されて逆に窮地に陥る。
(助けないと!!)
そう思った彼女は、バッグの中から黒い塊を取り出し、
さっきなぞが見せてくれたように、引き金を引いた。

パンッ!

音に驚いた少女は、攻撃の手を止めた。

「待ちなさい!!」
ミアが叫ぶ。
「私達が来たからには、絶対に犠牲は出させない!」

少女はしばらくポカンとしていたが、すぐに笑顔に戻った。
「友達いっぱい、ウレシイな〜」
カマイタチが彼女達に襲い掛かる。
「ミアちゃん、来るですよ!」
「任せて・・・シールド!!!」
ミアはそれを、得意の魔法で受け止める。
もちろん出来るならば魔力は節約したい所だが、この状況でそう言ってはいられない。

「行くわよ!・・・セイント!!!」
ミアの魔法が命中する。少女にとっては始めてのダメージだ。
「あぅ・・・ヤったなぁー、今度はアタシの番!」
少女はミアに向かってカマイタチを連射する。
数発ならば避ける事も可能だが、これだけ数が多いと難しい。
その激しい攻撃に対し、シールドでひたすら耐えるミア。

だが、そもそもシールドの効果は、ダメージの軽減のみである。
「ぎあっ!!、くうぅ!」
シールドの上から体力がどんどん削られる。
これでシールドが無かったら・・・そう思うとぞっとする。
ダメージに耐えながら、彼女の視線は少女が手に持つロッドに向けられていた。
(あれは、マジックロッド! あれさえ手に入れば・・・)

彼女は今の状態でも、戦士としてある程度の実力を持ち、経験も積んでいる。
だが、彼女の真の実力は、今はプラムの手にあるマジックロッドによって開放される。
魔法戦士に”変身”し、戦闘力は2倍に跳ね上がるのだ。

しかし、少女の予想以上に激しい攻撃のため、近づく事すら出来ない。
仕方なく彼女は、マジックロッドを諦め、時間稼ぎに集中した。
「・・・リカバー!」
受けたダメージが回復する。
シールドだけならばすぐに体力が尽きてしまうが、これで魔力が尽きるまでは耐えられる。
その間に、なぞちゃんが・・・

「へぇ〜、おネエちゃんカイフクも出来ルんだぁ。これでズっと遊べルね♪」
ミアが考えている間も、少女は攻撃の手を休めない。
「がはっ!、がふっ!・・・リカバー、リカバー、リカバー・・・がああぁぁ!!」
徐々に押されるミア、魔力も既に底をつきかけていた。

そんな時である。
まばゆい、それでいて優しい光が辺りを包んだ。

「え、何? ドウしたの?」
少女が驚いて背後に目をやる。
「ふふ、まさか、こんな事になるなんてね・・・」
一方のミアは、小さく笑みを浮かべた。

彼女はここにたどり着いた時点で、マジックステッキの持ち主を見分けていた。
そこで、なぞにステッキを渡すように頼んで、自分は相手の注意を引き付けた。
マジックロッドを諦め、時間稼ぎに専念したのもそのためである。

そしてその作戦は成功し、予想以上の成果となって表れた。

「な、何が起こったんだ!?」
「強化魔法!?それにしては・・・」
「わぁー、すごいです!」
その場にいた全員が驚きの表情を見せる。
当然だ、何しろステッキを持ってきたミアにとっても意外だったのだから。

まさか彼女が自分と同じ変身ヒロインで、ステッキが変身道具だったとは。




「ナニ?何なの?アタラシイお友達?」
少女が攻撃の手を止め、好奇の眼差しを向ける。

光の中から現れたのは、白と青の衣装をまとい、
マジックステッキを手に持った、魔法少女・まゆこの姿であった。

「ねえキミ、痛い目にあいたくなかったらもうやめて。」
まゆこは少女に語りかける。
「ナニ言ってルの? こんなに楽しいノニやめるわけナイじゃない。」
少女は全く気にせず、まゆこに向かってカマイタチを飛ばす。
「・・・えいっ!」
彼女がステッキを一振りすると、魔法陣が現れ、攻撃を受け止めた。
そこからすぐに反撃に移る。
「今度はこっちの番よ!」
少女の周囲に、星型の魔力弾をばら撒く。
少女は回避行動を取るが、何発かは避け切れずに当たってしまった。
「ひぃっ・・・イタイ・・・」
「もう一度言うわ。ここから去りなさい!」

彼女の動きが止まった。そして表情から笑みが消えた。
「イタかった・・・イマのは、痛かっタよぅ・・・」
(これで諦めてくれるといいんだけど・・・)
しかしその願いも空しく、しばらくの沈黙の後、少女は怒りをあらわにした。
「モウおネエちゃんなんてキライだ!死ンじゃえーーーー!!!」
まゆこを、今までにないほど大量のカマイタチが襲う。
完全に期待を裏切られた彼女だったが、全く想定外の事でもなかった。
「やぁっ!」
冷静にマジックステッキの一振りで、全ての弾を消し去った。

「これで分かった? やめるなら今のうち・・・って、あれ?」
まゆこは一瞬、目を疑った。
目の前にいたはずの少女が、いつのまにか彼女の視界から消えていたのだ。
その瞬間、真上からギロチンのような刃が振ってきた。
「きゃあっ!!」
なんとか避けるまゆこ。あとコンマ1秒遅れたら当たっていた。
だがこの時少女はすでに、まゆこの背後にいた。

確かに純粋な魔力、特に潜在能力という点では、まゆこの能力は極めて高い。
おそらくは変身後のミアに、勝るとも劣らないだろう。
だが、彼女には大きな弱点が二つある。
まずはスピード。
魔力で多少補われるとはいえ、元々の能力が低ければ、変身しても低いままである。
そして経験。
彼女が魔法少女になってから戦った相手といえば、触手の化け物ただ一体である。
今のように素早い相手との戦いは、全く経験していない。

「わぁっ! うぅっ! ひぃっ!」
回避だけならギリギリできるが、避けるのに精一杯でとても反撃は出来ない。
そうしているうちに、体力も落ち、反応も鈍ってくる。
(な、何とかしないと・・・)
そう思った矢先、
「きゃああああぁぁぁぁぁぁっっ!!!!」
彼女の背中に、巨大なカマイタチが命中した。
全身の力が抜け、そのまま地面に倒れこむ。

「オイ、シャレになんねーぞ・・・」
「そんな事って・・・」
自分達よりずっと大きな力を持つ、まゆこが敗れた。
他に、あの少女と戦える者は、もういない。
辺りに絶望感が漂う。

「アハハ、ハハ、アハハハハハ・・・・」
そんな人間達を尻目に、少女は戦意を失ったまゆこの身体に、二発、三発と風の刃を撃ち込む。

誰もが、まゆこの生存を絶望視していた。
唯一人、彼女の一番近くにいたなぞを除いては。

「あのぅ・・・ぜんぜん怪我してないと思うですよ。」
なぞの言葉がまゆこに届く。それを聞いてまゆこも気付いた。
「あ、ほんとだ。痛くない。」
背中をさすってみる。服は破れているが、体には傷一つ無いようだ。
少し身体を動かしてみる。動き回った分の疲労はあるが、特に異常は無さそうだ。
・・・少女が手加減したのだろうか。
だが、その驚いた表情を見る限り、その可能性は無さそうだ。

「なんで?ナンデ?何で効かなイの!?バラバラになっテよ!!!!!」
やや錯乱しながら、フルパワーでカマイタチを飛ばす。
が、まゆこは今度は、避けようとも防ごうともせず、身体で受け止めた。
やはり全くダメージは無い。

秘密は、彼女が何気なく被った宝冠「フォクテイ」にあった。
その宝冠の風耐性と、変身による魔法防御力アップが重なり、
今の彼女は風による攻撃をほとんど受け付けなくなっている。
無論、周りの人だけでなく彼女自身もそれに気付いてはいないが。

「なんかよく分からないけど・・・大木は壊せても、たった一人の人間は壊せないようね!」
まゆこが少女に向かって言い放つ。既に彼女は勝利を確信していた。
相手の、おそらく唯一の攻撃手段が通用しないと分かった以上、少なくとも負ける事は無い。
勝ち誇るまゆこに対して、相手の少女は静かに呟いた。

「ぜんぜん切れナイなんて、おネエちゃん、ツマンナイ・・・」
少女は落胆したような表情を見せる。
まゆこは、これでこの子も「ゲーム」をやめるだろう、と思った。
だが、次の少女の行動は、彼女の期待をまたあっさりと裏切った。

「やっぱりコッチのおネエちゃんとアーソボ!」
「えっ!!」
少女は、まゆこを翻弄したスピードで、今度は再びミアに向かっていった。
意外な行動に、まゆこの反応が一瞬遅れた。
いや、反応していたとしても、まゆこのスピードではプラムに追いつけただろうか。
魔力を使い果たしたミアに、プラムの容赦ない攻撃が襲い掛かった。
「行ケー!」

バシィッ!

何者かが、その攻撃をさえぎる。
「なぞ・・・ちゃん・・・?」

辺りの空気が変わった。

風を操る少女、トゥイーティ・プラム。
彼女は森に住み、物心ついた時には既に、
人間をみつけては「遊び」と称して追いかけまわす日々だった。
いや、そもそも”物心ついた時”がいつなのかもハッキリしない。
1ヶ月前か、1年前か、10年前か。
ともかく彼女は毎日、誰かと遊んで楽しく過ごしている。

自分の攻撃から逃げ惑う人は、面白い人、好きな人。
より長く逃げ続ける人は、もっと面白い人、すごく好きな人。
時には逆に襲い掛かってくる人もいるが、そんな時は本気を出して、返り討ち。
どうしても勝てなさそうなら最後の手段、飛んで逃げる。
彼女に追いつける人間はいなかったし、たまには逃げる振りして迷わせるのも悪くない。
彼女にとって人間は、「遊び相手」でしかない。

未だかつて、それ以外の感情を持ったことは無かった。

その彼女が、生まれて初めて、人間に対して怯えている。
目の前にたたずむ相手に、恐怖を感じている。

「な、何コレ、い、いや!!」

目の前の少女が自分の攻撃を受け止めた時、周囲の空気が変わった。
身の毛がよだつほどの恐怖、
全身が硬直するような威圧感、
全てを凍りつかせる殺気、
それら全て、プラムと対峙する少女、なぞから発せられていた。

プラムだけではない。その場にいる誰もが硬直し、何一つ言葉も発せられなかった。
なぞはそのまま、プラムに向かって歩き始める。

「や、やめて、コナイデーーー!!!」
彼女は叫んだ瞬間に、腹部に強烈な痛みを感じた。

「うぐぅっ!・・・げほっ、げほっ」
一瞬で自分の目の前まで移動してきた少女の膝が、
腹に食い込んでいるのを視認したのは、その後だった。

「がああぁっ!!」
次は顔面に衝撃。
左手で強引に髪を掴み、顔に強烈な右ストレートを叩き込まれた。

「うあぁっ!!」
後頭部に痛みが走る。
踵落としで地面に向かって一直線だ。

「ぎゃん!」
顎から強烈に大地に叩き付けられた。
そこにとどめの一撃が飛んでくる。

「ひぎいいいいいぃぃぃぃぃぃっ!!!!!」
落下の衝撃を生かした踏み付けが、背骨にクリーンヒット。
骨が砕ける音が聞こえ、途端に意識が薄れてくる。

「うぁ、い、イヤ・・・・」

この一撃でプラムは、全く動かなくなった。




戦いは終わった。
生き残った者達を静寂が包む。

しかし、その少女の発する”気”は、何一つ変わってはいなかった。

「と、とにかく、勝った、勝ったんだよ、ね・・・あ、ありが、とう」
どうにかこの重い空気を吹き飛ばそうと、まゆこがなぞに話しかける。
暫く地に伏したプラムを見つめていたなぞが、その言葉に反応を示し、まゆこ目を向けた。

「ひっ・・・」
あまりの恐怖に、彼女は言葉を失った。
その目は、もはや人間のものとは思えない、恐ろしい輝きを放っていた。
それでも何とか笑顔を作ってなぞと向き合う。
が、次の瞬間。
――目障りだ――

「うええぇっ!!!」
なぞの放った正拳が、まゆこの急所を的確に捉え、大きく吹き飛ばす。

「はぅ・・・うぅ・・・」
そのまま建物の壁に激突し、気絶してしまった。
ぐったりと倒れこむまゆこ。同時に変身が解け、元の服に戻る。

(元に戻らない!?・・・なぞちゃん!!!)
ミアは驚きを隠せない。
前回は、相手の男を倒した時点で、元の明るい彼女に戻った。
しかし今回は、攻撃してきた相手だけでなく、他の人にまで危害を加えている。
(と、止めなきゃ・・・でも・・・)
変身さえすれば、彼女を止められるかもしれない。
そのために必要な道具、マジックロッドも目の前に転がっている。
だが彼女には、変身できるだけの魔力は残っていなかった。

その間にもなぞは、次の獲物を探していた。残っている人間は三人。
ミアと、手首を失った青年、それから足首を怪我した少年。
ふと、少年の手にある冷気を発する剣が目に入る。
――良いもの、見つけた――
彼女は悪魔のような笑みを浮かべて、少年の懐に飛び込んだ。
「いっ・・・ぐあああぁぁぁっっ!!」
一瞬で少年の右腕が捻りあげられ、有り得ない方向に曲がった。
彼の手から滑り落ちた冷気の剣を、なぞが拾い上げる。

(なぞちゃん!!)
ミアは思わず走り出した。
自分に何が出来るかは分からない。それでもじっとしてはいられない。

「う、腕がぁっ・・・」
あまりの痛みに右肩を押さえてうずくまる彼に、なぞは手にした剣を振り上げた。
――死ね――
そのまま振り下ろそうとした瞬間、背後から腕を掴まれる。

「お願い、なぞちゃん・・・元に戻って!」
ミアは必死で、なぞにしがみついた。
しかし力の差は明らかである。簡単に振りほどかれ、逆に片手で首を掴んで持ち上げられた。
――邪魔を、するな――
剣がミアの胸に突きつけられる。
(っ・・・なぞ・・・ちゃん・・・)

その時、ミアの髪に編みこまれた四葉のクローバーが、なぞの目に飛び込んだ。
――うっ、くっ・・・――
彼女の頭の中に、数分前の記憶が蘇る。



道端に、たくさんのクローバーが群生していた。
そのちょうど真ん中にひときわ目立つ、四葉のクローバー。
”四葉のクローバーを見つけると、願いが叶う”
そんな話を思い出し、喜んで摘み取った。

ふと、彼女の頭に名案が浮かぶ。
(ミアちゃんにも、プレゼントしよう)
これだけのクローバーが生えているのだから、もう一本ぐらいあっても不思議ではない。
彼女はその場に座り込んで、もう一本の四葉のクローバーを探した。

「あったです!」
ラッキーだった。もう一本も、案外簡単に見つかった。
それを、ミアの髪に丁寧に編みこむ。
同じように、自分の髪にも挿し込む。
おそろいの髪飾りを手に入れた二人は、仲良く笑いあった。



「ぅぅぉぉぉぉおおおおおおお!!!!!」
なぞが、野獣のような呻き声をあげる。
明るい彼女からは想像も出来ないような恐ろしい声。
しかしそれは、どこか哀しい声だった。

「ミア・・・ちゃん・・・」
なぞが目の前の少女の名を呼ぶ。
同時にミアを掴んでいた手の力が弱まり、彼女は地面に崩れ落ちた。

「なぞちゃん・・・良かった・・・元に戻って・・・」
多少首が痛むが、そんな事は関係ない。
出会って少ししか経っていないが、すでに彼女はミアにとって、かけがえのない存在なのだ。
元に戻って、本当に良かった。
安堵した彼女は、立ち尽くしているなぞに向かって、優しく手を差し伸べる。


しかし、その手が握り返されることは、無かった。

「がああぁっ!」
ミアが数メートル弾き飛ばされる。
なぞは、その少女に冷たい視線を投げかけて、一人森の中へ消えていった。




「なーんだ、結局殺さねえのか。」
東支部の建物の二階で、男が呟いた。
彼はずっと、戦いをここの窓から眺めていた。
「信じてる相手に殺られるなんてサイコーのシチュなのに、ホント残念だな〜。」
部下のレミングスが持ってきたコーヒーを受け取り、考える。
「にしても、まさかあんな力を隠し持ってるとはな・・・ゲームバランスが崩れる前に、殺すか?」
何となくレミングスの胸を指一本で貫いた。
「まあいいか。アイツのリョナり方も嫌いじゃないし、どーせ僕には勝てないんだ。」
そう言って彼はコーヒーを口に含むと、何処かに消えた。




ミアは呆然として、地面に座り込んでいた。
彼女を止める事が出来なかった無力感、
大切な友達と離れてしまった喪失感、
この先起こることに対する不安感。
様々な感情が、ミアの中で渦巻いていた。

そんな彼女に、声をかける者がいた。

「おネエ・・・ちゃん・・・ア・・・ソ・・・ボ・・・」

振り返るとそこには、カマイタチで彼女達を苦しめた少女の姿。
しかし目には生気が無く、骨を砕かれた身体は不自然に歪み、
空に浮かぶこともできずフラフラとゾンビのように歩いてくる。
そしておそらく最後の力で、風の刃を作り出そうとする。
もはやミアには、それを避けるだけの体力も、残ってはいなかった。

ザクッ

切断音が響く。


オーガの投げた円盤が、プラムの首を切り落とす音だった。
 

「ふう、これで終わりました。」
ルーファスがオーガの腕に包帯を巻き終え、告げる。

ミア、まゆこ、オーガ、ルーファスの4人は、一度武器庫に戻って、怪我の治療と休憩、そして今後の相談をする事にした。
ミアの回復魔法とルーファスの応急処置の技術により、全員ダメージは受けているものの、大事には至っていない。

互いに簡単な自己紹介を済ませた後、誰にともなくルーファスが尋ねる。
「これから、どうしますか?」
しばしの沈黙が続く。
他の誰かを探すにしても、外に出れば、何が起こるか分からない。
今の状態でプラムのような相手に出会ってしまったら・・・勝ち目は無いだろう。
かと言って室内も安全とは言えないし、助けが来るという見込みも無い。
誰一人、打開策を発見できずにいた。

そんな中で、最も年下のまゆこが呟く。
「なんか、お腹すいちゃった・・・」
太陽の位置からして、まだ昼には早いと思われるが、あれ程の戦いの後である。
「とりあえず、みんな疲れてるし、食事にしましょうか・・・」
ミアの言葉に、皆が同意した。

各々が、自分のデイパックから食料を取り出す。
だがオーガだけは、扉の方へ歩き出した。
「あの、どこへ行くんですか?」
声をかけたルーファスに、オーガは答えた。
「ん、ちょっと用を足すだけだ。お前らだけで食っててくれ。」




扉がしっかり閉まったのを確認して、オーガは歩き出した。

目の前に首を切られた少女の死体が、全裸で放置されている。
彼女の服は、オーガの提案で、包帯代わりに使うことになった。
もちろん敵とはいえ年端も行かない少女の身包みを剥がすという行為に、3人は反対したが、
他に包帯代わりになるものが見つからなかったので、やむなく同意せざるをえなかった。

少女の他の所持品は、オモチャのような杖と、人体模型のみだった。
デイパックはどこかに置いてきたらしい。
彼には二つともつまらないものに思えたが、
杖の方はミアが真っ先に回収していたので、何かすごい物かもしれない。
一方の人体模型は、誰も興味を示さず、未だに死体の隣に転がっている。

オーガはその少女を見て、食欲がそそられるのを感じながらも、その横を通り過ぎた。

女の肉は彼の好物である。しかし、今の彼には食べられない理由があった。
まず、彼女が人間であるという確証がない事。
彼が食べられるのは人間の肉のみである。
目の前の死体は、一応人間の形をしているが、生前は空を飛んでいた。
変身する魔法少女なんかが実在する以上、空を飛ぶ人間がいても不思議ではないのだが、
もしかすると精霊や忌み子、あるいは人間の姿をしたモンスターかもしれない。
そんなものを食べた日には、腹の中のものを全て吐き出してしまう。

そしてもう一つの理由は、他の3人の信頼を得るためである。
人食いを受け入れるような連中は、リョナラー連合ぐらいのものだ。
普通の人間ならば恐怖して、近付こうとはしない。
彼らには、カニバリストであることを知られてはならないのだ。
もしここで少女を食えば、死体が無くなった事に違和感を感じる者もいるだろう。
いや、それなら他のモンスターか何かの仕業に出来るからまだ良い。
最悪なのは、飲み込めずに吐き出してしまった場合だ。
人間の歯型がついた死体の隣に嘔吐物があれば、真っ先に自分が疑われる。

仕方なく彼は、別の食料を探す。
デイパックの中にはルーファスと交換した人肉があるが、
量はそれ程多くないので、出来れば非常用に確保しておきたい。

彼は、近くの地面から、人間の手を拾い上げた。
少女との戦いで切り取られた、彼自身の左手。
それを彼は、苦々しく見つめる。

彼にとって片手を失ったのは、非常に痛い。
彼が最も得意とする技は、顎の力を生かした噛み付き攻撃である。
しかし相手に噛み付くためには、まず動きを封じなければならない。
本来なら両手で押さえる所が片手になると、戦闘力の大幅な低下は免れない。

チッと舌打ちして、その肉塊に齧り付く。
さすがの彼も、自分の肉体を口に運ぶのは、これが初めてだった。
そして彼は、これが最初で最後になるように願いながら、それを味わった。


【トゥイーティ・プラム@ボーパルラビット  死亡】
【残り48名】




★現在の状況

【A-5:X2Y4/リョナラー連合東支部/1日目:午前】

【ミア@マジックロッド】
[状態]:戦闘と絞首等による疲労
    戦闘と他の人の回復による魔力消耗
[装備]:マジックロッド@マジックロッド
    四葉のクローバー@現実世界(頭に装備)
[道具]:デイパック、支給品一式(食料5食分)
    火薬鉄砲@現実世界←本物そっくりの発射音が鳴り火薬の臭いがするオモチャのリボルバー銃(残6発分)
     参考資料 ttp://homepage1.nifty.com/nekocame/60s70s/gindama/kamikayaku.htm
    クラシックギター@La fine di abisso(吟遊詩人が持ってそうな古い木製ギター)
[基本]:対主催、できれば誰も殺したくない
[思考・状況]
1.体力と魔力の回復
2.なぞちゃんを探す
3.巻き込まれた人を守る
4.バトルロワイヤルを止めさせる方法を探す

※早めの昼食を済ませました。
※まゆこ、オーガ、ルーファスと自己紹介しました。
※まゆこがマジックステッキで変身できる事を知りました。
※自分が変身できる事は、まだ知られていません。
※なぞちゃん捜索を最優先します。他の人に拒否されたら単独行動して探すかも。



【まゆこ@魔法少女☆まゆこちゃん】
[状態]:全身打撲(魔法で多少回復)
    戦闘と変身解除による疲労、魔力消耗
    (右腕の怪我は変身時のお約束で完治しました。たぶん)
[装備]:マジックステッキ@魔法少女☆まゆこちゃん
    宝冠「フォクテイ」@創作少女
[道具]:デイパック、支給品一式(食料5食分)
    デコイシールド@創作少女
    写真入りロケット@まじはーど
[基本]:殺し合いを止める
[思考・状況]
1.体力と魔力の回復
2.皆についていく
3.いざとなったら変身して戦う
4.でも自分より強い相手(なぞちゃんとか)には会いたくない

※早めの昼食を済ませました。
※ミア、オーガ、ルーファスと自己紹介しました。
※宝冠「フォクテイ」の効果で風によるダメージは、通常時:軽減、変身時:無効となっています。



【オーガ@リョナラークエスト】
[状態]:左手首から先が消失(魔法で応急処置・プラムの服で止血)
    戦闘による疲労
[装備]:カッパの皿@ボーパルラビット
[道具]:デイパック、支給品一式(食料3食分)
    赤い薬×3@デモノフォビア
    人肉(2食分)@リョナラークエスト
[基本]:主催者の打倒
[思考・状況]
1.疲労の回復
2.皆と一緒に行動(左手が無いので単独行動は危険と判断)
3.ルーファスの知り合いを探す
4.モヒカン、リゼとは合流したくない(出会ったら諦めて一緒に行動)
5.厳しい戦いになりそうな相手(なぞちゃんとか)には会いたくない

※切れた左手を昼食に自分で食べました。
※ミア、まゆこ、ルーファスと自己紹介しました。
※「変身」という概念と、まゆこがマジックステッキで変身できる事を知りました。
※クリスの大まかな情報を得ました。
※怪我により戦闘力が強めの一般人レベル(強さ6〜7ぐらい?)まで落ちています。



【ルーファス@SILENT DESIREシリーズ】
[状態]:右足首に裂傷(魔法で少し回復・プラムの服で止血)
    右腕負傷(骨折とか脱臼とか適当に)
    戦闘による疲労
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式(食料8食分)
    プラムの服の残り@ボーパルラビット(包帯代わりに使用)
[基本]:主催者の打倒
[思考・状況]
1.疲労の回復
2.皆と一緒に行動
3.アーシャ、エリーシア、クリスを探す
4.自分達に襲い掛かるような相手(なぞちゃんとか)には会いたくない

※早めの昼食を済ませました。
※ミア、まゆこ、オーガと自己紹介しました。
※「変身」という概念と、まゆこがマジックステッキで変身できる事を知りました。



【トゥイーティ・プラム@ボーパルラビット】
[状態]:死亡(斬首)
[装備]:なし(全裸)
[道具]:人体模型@La fine di abisso

※首と体はA-5:X2Y4に放置されています。
※置いてきたデイパックと支給品はB-4:X4Y2の辺りに散乱しています。
※装備していたマジックロッドはミアに奪われました。
※装備していた人体模型@La fine di abissoは死体の隣に転がっています。
※服はオーガとルーファスの包帯代わりになり、残りはルーファスに奪われました。




【A-5:X2Y4から少し移動(正確には不明)/森?/1日目:午前】

【なぞちゃん@アストラガロマンシー】
[状態]:健康、記憶が回復
[装備]:アイスソード@創作少女
    四葉のクローバー@現実世界(頭に装備)
[道具]:デイパック、支給品一式(食料6食分)
    油性マジック『ドルバッキー(黒)』@現実世界←元ネタは油性マジックのマッキー(黒)、新品でペン先は太い
    たこ焼きx2@まじはーど(とても食欲をそそる香ばしい香りのする1ケースに8個入りの食べ物)
    クマさんクッキーx4@リョナラークエスト(可愛くて美味しそうな袋詰めクッキー)
[基本]:記憶回復によりマーダーに変化
    (記憶喪失時は対主催、皆で仲良く脱出)
[思考・状況]
1.ゲームに参加
2.ミアとの遭遇は避けたい

※現在地については次を書かれる方に任せます。
※記憶の回復により、戦闘力が大幅に上がっています(強さ16以上)。
※使い方が分かる現実世界の物は多いようです。

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