「共鳴が強まってる・・・近いわね。」
ミアが、星の描かれたステッキを手に呟いた。
今から30分ほど前の事。彼女は不思議な少女、なぞと出会った。
それから襲ってきた男の顔を面白く変えた後、とりあえずその場を後にした。
とは言え二人とも、特に行くあてもなく、探すべき仲間もいなかった。
「これからどうする?」
「なぞは、ミアちゃんについていくです!」
「え、えーっと・・・」
何の進展もない会話が続いていたが、しばらくして彼女は、
荷物の中のステッキから、微弱な魔力が発せられている事に気付いた。
「どうしたんですかぁー?」
隣を歩くなぞが、不思議そうに顔を近づける。
「このステッキ、何かと共鳴しているみたい。もしかしたら持ち主かも。」
もし、本当にこのステッキの持ち主だとしたら・・・
感じられる魔力の波動からして、優しい人物であることは間違いない。
しかも、ハッキリとは分からないが、ステッキに秘められた魔力はかなり強いらしい。
これを扱えるとするならば、かなりの実力者であろう。
そんな人と合流することが出来れば、非常に心強い。
「なぞちゃん、このステッキの持ち主を探さない?」
こうして彼女らは、ステッキが指し示す方向、北東に向かって歩き始めた。
「・・・お願い・・・助けて・・・!」
扉を開けて飛び込んできた少女が、右腕から血を、眼から涙を流しながら、
二人の男に懇願していた。
「ど、どうしたの急に!?それにその傷・・・」
少年がそれに応える。
彼の名はルーファス。
冷気の剣を構えているが、剣の腕には全く自信がない。
だが、隣にいる青年は、少なくとも自分よりは圧倒的に強い。
大抵の相手になら負けない、と思う。
「あ・・・あれ・・・」
少女が怯えながら扉の外を指差す。
彼らがそちらに視線を移した瞬間、その扉から風の刃が飛び込んできた。
「うわっ!」
「チッ!」
「きゃあっ!」
間一髪避ける三人。その背後で切り裂かれるレプリカの武器。
「みーつケタ☆」
扉の外では、緑の髪に緑の服を着た少女が、宙に浮いてこちらに満面の笑みを向けていた。
「何あれ、空飛ぶ人間!?」
「ん?ありゃ精霊か?」
「あ、あの子がさっきから、追いかけてくるの!!」
見た目はただの少女。そんなに恐ろしい感じはしないが
今の攻撃を見ると、危険な相手であることに変わりはない。
「アハハ、よけてよけてー!!」
そう言いながら、今度はカマイタチを連射してきた。
どうやら当てようとしている訳ではなく、適当に撃っているようだ。
よく見ていればルーファスの運動神経でも十分避けることが出来た。
だが、飾ってある剣や鎧は避けることを知らない。
「うわっ!!」
転がってきた槍に足を取られる。今攻撃されたら間違いなくバラバラだった。
「くっ、このままじゃマズイ、外に出ろ!!」
青年の叫び声を合図に、三人は入り口から飛び出した。
「こんどはお外でアソブんだねー♪」
やはり少女は攻撃の手を休めようとはしない。
「急げ!向こうの建物に逃げ込むんだ!!」
青年を先頭に、隣の大きな建物に向かって走る。
しかし半分ほど来たところで、後ろを走る少女が転倒する音が聞こえた。
「バラバラになっチャえー!」
「ひ、い、いやあああぁぁぁぁ!!!!」
倒れて動けない少女に、カマイタチが襲い掛かる。
前を走る青年も気付いたようだが間に合わない。
自分が助けなければ!
(姉さん、力を貸して!!)
冷気の剣を振り上げ、彼女の所に駆けつける。
「やあああっっっ!!!」
ガキィィン
カマイタチに冷気の剣を叩きつけ、弾き飛ばした。
普通の剣であれば風の流れを変えることなど出来ないが、
魔力を持った剣だからこそ出来る芸当である。
もっとも、彼自身はそれを期待した訳ではなく、ただがむしゃらに取った行動である。
「ハァ、ハァ、ハァ・・・」
やはり慣れない事をするのは負担が大きい。
しかし、相手の少女はこれ位で諦めてはくれない。
「おニイちゃんすごーい☆ でも、あたしも負けナイよ!!」
上段、中断、下段の三連射。この状況で避けるのは難しい。
たとえ避けたとしても、後ろの少女に当たってしまう。
まず上段を振り下ろしで弾く。
ガキィィン
そこから返す刃で中段を弾く。
ガキィィン
そしてさらに下段を・・・しかし、
「くっ、間に合わない!!!」
辛うじて剣には当てたが、わずかに方向を変えただけだった。
「うぁっ!痛っ!」
風の刃が右足首をかすめる。破けた服の間から血が吹き出た。
「惜しイなぁ、もうチョットだっタのに。次はどうカナ?」
少女はまた攻撃態勢に入る。今度は耐えられるだろうか?
一瞬たじろいだ所に、背後から青年の声が聞こえた。
「おいガキ、あと一回だけ耐えろ!」
ステッキから感じる魔力を辿ってきたミアとなぞは、森に入っていた。
細い道をミアが前に立って歩いていたが、ふと、後ろになぞの気配が無くなった事に気付いた。
「なぞちゃん!?」
慌てて後ろを振り返るミア。するとなぞは、道端に座り込んでいた。
疲れたのかな?と思い、「どうしたの?」と声をかける。
しかし、返事は無い。
一抹の不安がよぎる。
本人は気付いていないらしいが、なぞの中には恐ろしい”何か”が潜んでいる。
ミアは二度、それを目にしたが、その時も彼女はこちらの呼びかけに応えなかった。
もしかしたら、また・・・
だが、その不安はすぐに吹き飛ばされた。
「あったです!」
いつも通りの、明るい声。
「あれ、ミアちゃん、顔色が悪いですよ。」
「だ、大丈夫。」
その声に安堵し、ミアが尋ねる。
「それより、何があったの?」
「ジャーン! これです!」
彼女の手には、なんと四葉のクローバーが、しかも二本も握られていた。
幼いころ、両親とともに何時間も探した記憶が蘇る。
「すごーい、なぞちゃんよく見つけたね!」
「二本あるから、片方はミアちゃんにあげるです。」
「え、いいの?」
「いいです。ミアちゃん、ちょっとしゃがむです。」
言われるままに、その場にしゃがんだミアの髪に、
なぞは、手にしたクローバーを器用に編みこむ。
「似合うですよ、ミアちゃん。」
「そ、そうかな・・・」
「なぞもつけるです。」
そう言って、なぞは自分の髪の結び目に、もう一本のクローバーを挿した。
「ふふ、これでミアちゃんとおそろいです!」
「なぞちゃん・・・」
彼女と一緒にいると、なんだか暖かい気持ちになる。
こんな恐ろしい所でも、彼女と一緒なら頑張れる。
ミアは、そう思った。
彼の勘が告げていた。
「ヤツは、ヤバいな・・・」
彼、オーガは、目の前で人が死んでも、特に何とも思わない。
むしろ労せずして食料が確保できたと、喜ぶことさえある。
しかも今手に入ろうとしている食料の片方は、彼が最も好む、若い女性の肉である。
だがそれは、あくまで、自分が相手をやり過ごすことが出来ればの話である。
目の前にある建物は、外見は間違いなく見慣れた東支部である。
しかし、内装まで同じという保証はない。
仮に二人が殺られている間に建物に飛び込んだとして、身を隠せる場所が無かったら・・・
足の速さは少なくとも一般人より上だが、さすがに空から追いかけられると厳しい。
「やるしかねーな。」
彼はそう判断して、少年に声をかけた。
ガキィィン
一発目の攻撃を、少年が弾く。
その間に彼は、攻撃の主の死角に回り込む。
これまでの動きを見る限り、相手は遠距離攻撃を中心とするタイプだ。
肉体を使った近距離戦を得意とする彼なら、接近さえ出来れば勝機はある。
しかし問題は、彼女が宙に浮いている事。
いくら彼の身体能力が高いといっても、ジャンプ力だけで接近戦を挑むのは無謀である。
ならば作戦は一つ。地面に落とせば良い。
幸いにも、彼女の意識は目の前の少年に集中しており、
それ以外の方向は全くと言って良いほど警戒していない。
このチャンスを逃せば、次は無いだろう。
宙に浮く相手の背後に回り込み、飛び掛かる。
そして渾身の一撃で地面に叩き落す。
常人にはほぼ不可能な技だが、彼の能力ならば十分である。
ガキィィン、ガキィィン
二発目、三発目の攻撃を、少年は見事に弾ききった。
同時に青年が跳躍し、右腕を振り上げる。
作戦成功・・・そう思ったのも束の間だった。
「次はおジちゃん?いいヨ☆」
彼の行動は、ギリギリの所で気付かれてしまった。
少女は彼に向けてカマイタチを放つ。
直撃こそ免れたものの、左手に激痛が走る。
「うぁっ!」
そこに目を向けると、手首から先が無くなっていた。
「イキなり当タっちゃったノ?つマんないナー」
「ぐっ・・・てめえ!」
それでも彼は諦めない。
その驚異の運動能力で、空中で体を回転させ、そのまま少女に殴りかかった。
だが、そもそも気付かれた時点で彼の負けである。
スカッ
少し上昇した少女にあっさりと回避され、そのまま地面に落下してしまった。
「く・・・くそ・・・」
「死んジャえ!!!」
左手の傷と落下の痛みで動けない彼に向かって、少女がエネルギーを溜める。
もう終わりか、と思われたその時・・・
パンッ!
森の中から乾いた音が鳴り響いた。
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