流石の俺も、女に押し倒されたのは、あの時が初めてだ。
「伏せて!!」
女の声が聞こえた。だが俺は、何があったのか分からなかった。
だってよ、森の中だぜ。いきなり「伏せて」なんて言われて、状況が理解できる奴がいるか?
「・・え、何っ?」
とりあえず聞き返した。
そん時だ、アイツが飛び掛かってきたのは、
「えっ?うわっ!!」
柄にもなく素っ頓狂な声をあげてしまった。
受身も取れず地面に叩き付けられる俺。ダセエ。
その上にアイツが覆いかぶさり、胸が俺の手に当たった。
その直後、アイツが悲鳴をあげた。
「ぐっ!!うわあああ!!」
熱が俺にも伝わる。おそらくは火炎放射器の類か。
そんなモンまで支給されてんのか。本気で殺し合わせるつもりだな。
まあ、俺にはどうでもいいが。
何にせよ、女が焼かれるという良シチュを提供してくれた事には感謝だ。
「はぁっ・・はぁっ・・・くっ。」
アイツが喘ぎながら立ち上がる。根性あるじゃねえか。
にしても、あの悲鳴はなかなか良かったな。声質からして10代半ばか?
胸の凹凸は小さかったが、あの感触はブラをきつく締めているようだ。
年齢の割にはスタイルが良いに違いない。
そんな事を考えていると、アイツが言った。
「・・・逃げてくれ。」
確かに、火炎放射器を相手に立ち向かう訳にはいかない。逃げるのが正解だ。
だが、俺には一つだけ心残りがあった。顔がよく見られなかった事だ。
火炎、悲鳴、ブラで締められた胸と、これだけ条件が揃っていても、
俺は顔が分からなければオカズにはしない。
リスクが高すぎる。
「・・いいから、・・・早く!」
さらにアイツが言った。まさか声が漏れていたか?
俺は時々、自分でも気付かないうちに妄想を声に出す事がある。自重せねば。
仕方なく俺は、戸惑いながらもその場を離れた。
おっと、自己紹介がまだだったな。
俺の名は、強姦男。”ゴウカン
オトコ”じゃねえぞ。”ゴウ
カンオ”だ。
まあ俺もPCで打ち込むときはゴウカンオトコって打ってるがな。
何、本名かって? んなわけねーだろ。通り名だ、通り名。
そもそも「姦」なんて字は人名には使えん。少し前に騒がれてたのを忘れたのか?
ん、本名が知りたいのか? それは教えられねーな。
俺は強姦のプロだ。プロは簡単に本名をバラしちゃいけねー。
仕事? さっきも言っただろ。強姦だ。
女を襲って、動画や写真を撮って、顧客に売って稼いでる。
結構儲かるんだな、これが。月イチで撮れれば生活には困らない。
やりたくなったか? やめとけ。
捕まらずに成果を挙げるには、かなりの知識と経験と直観力が必要になる。
問題ない範囲で言うと、そうだな、まずは場所の選択だ。
裏通りなんかはNG。悲鳴を近所の人に聞かれたら終わりだ。
行為の途中でも逃げ出すことになる。
俺がオススメする場所は、例えばパチンコ屋の裏にある山林だ。
人通りが多く騒がしい道路と適度な距離だから、悲鳴も防犯ブザーも聞こえない。
しかも有名な心霊スポットの廃病院への近道になっていて、
時々、わざわざ夜にそこを探検しようっていう馬鹿なガキが通る。
そいつを捕まえて犯す。楽勝だな。
ま、お前らが来れる場所じゃねーから言うんだけどな。
それで、だ。俺は今、ポケットに短剣を忍ばせて、茂みの中に隠れている。
短剣は俺の近くに落ちていたデイパックに入っていたものだ。
年代ものだが切れ味は悪くなさそうだ。女を襲うには丁度いい。
そして目の前には一人の女。見た目はやはり10代半ばか。ツリ目で、腕を組んで立っている。
これは良い。見るからに気が強そうだ。
こういう女が襲われ、組み伏せられ、絶望していく姿は、一部でかなり人気が高い。
ただ残念な事に、手元にはカメラの類が無いので、ここは俺一人で楽しむ事にしよう。
俺にとって、仕事と趣味は常に同義なのだ。
しかし、コイツはさっきから一歩も動こうとしない。
もう一時間は経ったように感じる。まあ実際は10分ぐらいしか経ってないのだろうが。
本来俺は、獲物が来るのを待ち構えて、確実に射程内に入った所で襲い掛かるタイプだ。
逃げられない為にはこれが一番良い。
だが、そろそろ待つのも飽きた。
どうせ相手はガキだ。第二の方法を実行する事にする。
「やあ、お嬢ちゃん。」
優しい声と笑顔で声をかける。
何、襲い掛からないのか、だと!?
んな事したら走って逃げちまうだろ。
今は周りに人がいないが、逃げる間に誰かに会ったらどうすんだ。
まずは獲物を射程圏内に入れる。プロとしては当然の行動だぜ。
「君も、このゲームに巻き込まれたのかい?」
そう言って一歩、距離を詰める。
彼女は全く口を開かない。どうやら怯えているようだ。
射程範囲まではあと三歩だな。だがこのまま近付いては逃げられるだろう。
上手く警戒を解く必要がある。プロの腕の見せ所だ。
「怖がらなくても良いよ。実は僕も、君と同じ立場なんだ。」
今度は一旦立ち止まって、声をかける。
焦る事はない。時間は十分あるんだからな。
この一言で、ようやく彼女が口を開く。
「・・・そうか、お前もか。」
お前、だと? 俺のほうが明らかにずっと年上だろ!?
まあそれはともかく、第一段階はクリアだ。
一歩近付いてさらに話す。
「ああ。それにしても、”殺し合いをしてもらう”なんて、酷い事するよな。」
強姦のプロである俺は別に興味なかったが、普通の少女ならショックを受けているだろう。
こう予想して問いかけたのだが・・・
「ホント、どういう神経してんだか。きっと頭がイカれてるよ。」
意外と平気のようだ。まあ、食いついてきたから良し。
それにこの気の強さ、犯られる時の反応が楽しみだ。
「にしても、こんな所でこんなに”可愛い”お嬢ちゃんと出会えるなんてね。」
さりげなく煽てる。半分は本音、いや九割九分は本音だが。
彼女は困惑しているが、まんざらでもないようだ。
その隙にもう一歩近付く。あと一歩。ここでとどめの一言だ。
「なんか、”運命”みたいなものを感じるよな。」
・・・決まった。
どこかの誰かが言っていた。女は”運命”という言葉に弱い。
気の強い彼女も例外ではなかったようで、俺から目を離して後ろを向く。
照れてるのか? ツンデレか? さらにポイントアップだ。
もちろん俺は最後の一歩を踏み込み、ポケットから短剣を取り出して、彼女に襲い掛かる。
あ・・・ありのまま、今、起こった事を話すぜ!
『俺は奴の後ろから左手で口を押さえて首筋に短剣を突き立てたと思ったら、
いつのまにか地面に倒されて奪われた短剣が首のた』> な・・・何を言ってるのか、わからねーと思うが、
俺も何をされたのかわからなかった・・・
頭がどうにかなりそうだった・・・
ガキ大将だとかオトコオンナだとか、そんなチャチなもんじゃあ、断じてねえ。
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ・・・
とにかく今は、この状況から抜け出す方法を考えるしかない。
というかそうしないと殺される。
何か言い訳をしなければ・・・
「見事だ、お嬢ちゃん。それならば安心だ。
こんな事態に乗じて襲い掛かってくる男がいるだろうから、
君が襲われても平気かどうか試させてもらったんだよハッハッハッ・・・」
我ながら酷い言い訳をしてしまった。どう考えたって不自然すぎる。
こんなのに誤魔化される超お人好しがどこにいるか。
「そ、そうだったのか、誤解してた。すまん・・・」
・・・ここにいた。
何とか危機を脱出し、短剣も取り返すことができた。
さらに、彼女の提案でしばらく一緒に行動する事になった。俺にとっても好都合だ。
しかし俺には、もう一つ越えねばならない壁があった。
「そういえば名前を名乗ってなかったな。わたしは鬼龍院美咲。お前は?」
・・・これだ。
”強姦男”なんて名乗ったら、間違いなく引かれてしまう。
最悪の場合はさっきの状況に逆戻りだ。
かと言って、本名を名乗るわけにはいかない。プロとして。
「名前か?・・・名前など僕にとっては無意味なものだ。おまえの好きなように呼べばいい。」
どうだ、この見事な切り返し。自分で言えないなら相手に言わせれば良いわけだ。
あとはコイツの言った名前に「それでいい」とでも言えば済む。
ところが彼女は、持っているデイパックの中から、一枚の紙を取り出した。
参加者名簿だ。・・・俺、やっちまったか?
いや、適当な偽名を使うよりはマシか。
彼女が名簿の最初から最後まで目を通し、一つの名を告げる。
「スライム」
・・・は?
こいつ、正気か?
スライムって言ったら、普通プルプルした無機質を想像するだろ?
どこをどう見りゃこの俺がスライムに見えるんだ?
すぐさま俺は否定しようとする。だが、ふと考えた。
・・・待てよ、これは罠だ。
ここで俺が否定すれば、間違いなく俺が名前を言う空気になる。
相手が名簿を持っていて、俺が他の参加者の名前を知らない以上、偽名は使えん。
結果、俺は”強姦男”と名乗るしかなくなる。万事休すだ。
ここは当初の予定通り、肯定しなければ。
「スライム・・・か。まあ、それで我慢してやろう。」
スライムと呼ばれる事に抵抗はあるが、強姦男と知られるよりはマシだ。
俺は彼女の提案を受け入れた、
「行くぞ、スライム。」
彼女が呼ぶ。俺は黙ってその後ろをついていく。
まあ、色々あったが、結果的には悪くない。極上の獲物と同行する事になったのだ。
今のままでは実力的に襲い掛かるのは難しいが、方法はいくらでもある。
オーソドックスなのは寝込みを襲うことだな。
いくら強気といっても、腕でも刺してやればおとなしくなるだろう。
あるいは、このゲームを利用してもいい。
コイツより強いか、あるいは同等の奴と戦わせて、弱った所を襲う。
戦闘で疲労した上に、仲間だと思っていた人間に犯される。面白いシチュだと思わんか?
ともかく、これからが楽しみだ。
俺をコケにした恨み、スライムと呼びやがった恨み、時が来たら存分に晴らしてやるぜ!
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