「→悩む女る眠←」

 
「・・・ふぁ?」

私は一瞬だけ身体が軽くなった気がして、重い瞼を擦り少しだけ周りを見回してみた。
何処で寝たのか頭がぼぉっとしていて思い出せないが、此処まで静かな場所ではなかった気がする。

「うぅー・・・?」

そういえば、何だかヘンな夢を見た気もする。
いつも通り寝ていたら何処からか『最後の一人になるまで殺しあえ』とか『首輪がどうのこうの・・』とか聞こえてきた。
それから、突然爆発音が響いて周りが騒がしくなった。
流石に五月蝿かったので黙らせようかと思い、眠い目を擦りながら起き上がろうと―――

「むぅっ・・・?」

・・・という所でこの光景だ。
目の前では何やら文字や図形が描かれた壁が微かに発光しているが、それが何なのかはさっぱり分からない。
ただ、一つだけ言えることは意外と眩しいことだけだ。
私はとりあえず、身体を捻って光を避けた。

「このイス・・・ちょっと硬い・・・。」

動いてみて初めて分かったが、私が居る場所はどうやらイスのようだ。
綿のような物が詰められているおかげか、普通のイスよりは柔らかいがベッド程ではない。
ずっと寝ていたら多分体中が痛くなるだろう。私はもう少し寝やすい場所を探すことにした。

(・・・でも、その前に。後5分だけ・・・。)

夢の中で気持ちよく寝ている所を起こされたせいかやけに眠い。
それに、折角こんなに静かな場所があるのだ。寝ておかなくては損という物だろう。

「ふわああーっ!・・・むにゃむにゃ・・ぅー・・・zzZ」

私は一度だけ大きく欠伸をしてから再び目を閉じ、漆黒の桃源郷へと旅立った。
その時微かに女性の驚く声が聞こえた気がするが、それはもう私にとってはどうでも良いことだった・・。
 

私は、あの男の私欲を満たすための”ゲーム”になんて付き合うつもりはない。
しかし、この首輪がある限りあの男に立ち向かうのは無理だろう。
ここは先ず、この首輪を何とかする方法を考えるのが先決だ。

(・・・とは言っても、触った感じだけじゃよく分からないわ。)

あの男は参加者全員に首輪を付けたと言っていた。
自分の首輪をじっくりと観察するのが難しいのならば、誰かの首輪を観察させて貰えばいい。
無論、私に付けられた首輪と他の参加者に付けられた首輪が同じ首輪である保障は無い。
しかし、それでも何か情報を得ることはできるはずだ。

(本当は、居て欲しくないんだけど・・・。)

そう考えた私は照明用の魔法を唱え、デイパックの中身から名簿を取り出し知り合いの名前を探した。
見ず知らずの者に首輪を観察させてくれと頼んで、必ずしも了解が得られるとは限らない。
そればかりか話ができるだけマシで、中には問答無用で襲ってきたりする輩も居るだろう。
もし知り合いが居るのであれば、探し出して頼んだ方が確実だ。
それに私の知り合いは何れも、あの男に立ち向かう時に大きな助けとなってくれる者達ばかりだ。

(そうね・・。ルーファス君を探そうかな。)

そうして見つけた名前は、アーシャ、エリー、ルーファスの3つだった。
エリーは確実に彼を探すだろう。アーシャもそう考えて動くはずだ。
それならば、私も彼を探した方が良いだろう。
私が彼と合流できた時、もしどちらか一人でも居ればもう一人の捜索に動けば良い。
もし両方居るか或いは居なかった場合は、彼と供に首輪を外す方法を考えていよう。
彼と行動を供にしていれば、何時か二人の方から合流しに来てくれるのだ。
その間に彼と協力して首輪を外す方法を見つけておけば、合流して直に次の行動に移れる。
私は、ついでにバックの中身を漁った。
何か使えそうな物があればと思っていたが、出てきた物はモップ、三角巾、雑巾の3つだった。
これに布のエプロンと丸い桶があれば立派な清掃員である。

「・・・まったく、あの男は私に掃除でもしろというの?」

私は掃除は嫌いではない、むしろ好きな方だ。
仕事に疲れた時などの息抜きとして、掃除は中々良い刺激になる。
しかし、だからと言って今この場で掃除をする気になんてなれない。
私は掃除用具を一旦バッグの中に戻して、先ずは洞窟の外を目指すことにした。

「それにしても・・・これ、本当に凄いわね。どういう仕組みなのかな?」

私の手には、バッグの中に入っていた細長くて丸い棒が握られていた。
棒の先からは光が出ていて、私の進む道を照らしている。
これがあの男の言っていた照明道具なのだろう。
持ってみた感じから、魔力の込められた物というワケではない。
それなのに、ただ小さな突起を少し押し込むだけで照明魔法顔負けの明るい光を発している。
私は異界の照明道具に知的好奇心が激しく擽られていた。

(こんなこと考えてる場合じゃないのは分かってる。分かってるんだけど、持って帰ってじっくり調べたいなぁ〜・・。)

・・・その時だった。

『ふわああーっ!』
「きゃあっ!?」

突然、前方から大きな呻き声が聞こえて私は情けない声を出してしまった。
そして、直に身構えて前方に光を向け声の主を探す。
陰気臭い岩肌に混じって不似合いな光沢を返す物を見つけた。
やけに寸胴な人型のそれは、少なくとも2メートル以上はありそうだ。
光沢具合から表面は硬い物に覆われていると見て間違いないだろう。

(アンデッド?・・・でも。)

目の前の物体からは生気が感じられない。
恐らく鎧のような物に悪霊の類がとり憑いた不死系の魔物なのだろう。
ただ、不死系の魔物にしてはあの呻き声は些か不釣合いな張りがあった。
反響音でそう感じられている部分も確かにある。
しかし、それを差し引いても私の知る限りでは此処まで張りのある呻き声を上げる物は無い。

(・・・となれば、ゴーレム?)

同じ生気を感じない魔物でも、傀儡系の魔物ならば地を揺るがすような雄叫びを上げることもある。
先の呻き声も納得できよう。だがしかし、傀儡系の魔物には無くてはならない気配が無い。
奴等は元々、石や泥など意思を持たぬ物の塊だ。
そこに何らかの原因で魔力が宿り、それが中核となって行動している。
つまり、奴等からは微弱ながらも魔力の気配を感じなくてはならないのだ。

(ここは一旦、様子を見た方がよさそうね・・・。)

相手が何物か分からない以上、こちらから仕掛けるのは少しばかり分が悪い。
下手に仕掛けて虚を突かれれば、最悪の場合それが致命傷となる。
私は退くことも考えたが、今までの道で分かれ道のような場所は無かった。
微かに感じる風の流れは出口に向かっているはずで、その流れは奴の脇を掠めていた。
今の私には何とかして此処を突破するしか残されていないのだ。
いっそのこと奴が問答無用で襲い掛かってきてくれれば、その隙を突いて逃げることも可能だ。
しかし、奴は一向に動こうとはしない。時折、小さく呻き声を上げているだけだ。
私はその様子に不気味な物を感じ少しだけ身震いをした。

(先制して魔法を叩き込む?でも、何を?)

もし、奴が不死系の魔物ならば神聖魔法を使えばほぼ一撃でけりが付くだろう。
しかし、傀儡系の魔物ならば殆ど効果はない。
その後の奴の出方にもよるが、距離的に二発目に高威力魔法を詠唱する余裕は無いだろう。
最高位の属性魔法を打ち込んで、その破壊力で強引にねじ伏せるという手もある。
しかし此処は洞窟だ。そんなことをすれば衝撃で何処かが倒壊する可能性は否定できない。
そしてもし、倒壊したのが出口に繋がる通路だったとしたら・・・。

「もう〜・・・食べられないよぉ〜・・・。」
「・・・はいぃ?!」

〜〜〜〜

―夢を、見ていた。
私は大好物をお腹いっぱい頬張って、ごろりと横になって微睡んでいた。
ちょっと硬いけど暖かい床で、誰にも邪魔されない至福の一時。
その私の前にまた違う食べ物が出てきた。
それはとても魅惑的な匂いで私の眠りを妨げる。
本来ならば叩き潰す所だが、私はその甘美なる誘惑に勝てなかった。
渋々起き上がり、食べ物を手に取りつつ呟く。

「ふわぁ〜・・・もう、食べられないよぉ〜・・。」

〜〜〜〜

(食べる!?何を!?と言うか喋った!?えぇっ!?)

私は混乱していた。不死系の魔物も傀儡系の魔物も人の言葉は喋らない。
と言うより魔物自体、基本的に人の言葉を喋れない。高い知能を持った魔物の一部が喋る程度だ。
私の知る限り、奴らは人間と違って見た目と知力のギャップはそんなに激しくないはずだった。
見かけからは絶対にそんな高い知力があるように思えない。
しかし、目の前の魔物は確かに人の言葉を喋った。
もしかしたら、今まで奴が見せていたのは’知能が低い’演技だったのかもしれない。
もし奴が本当は高い知能を持った魔物であるのならば、それこそ下手に動けば私の負けだ。

(と、とりあえずは、こちらから仕掛けなくて正解だった。・・・だけど。)

あの時、考えもせずこちらから仕掛けていたら私は間違いなく奴の毒牙に掛かっていただろう。
私はこの瞬間ほど、自身の慎重さに感謝したことはなかった。
だが、これで事態が更に悪化したことも紛れも無い事実だった。
相手は自らを知能が低い魔物に見せる芝居ができるほど、高度な知能を持った新種の魔物だ。
どんな攻撃を仕掛けてくるのか、どんな攻撃が有効なのか、まったく予想ができない。
もしかしたらこうしている今も、実は水面下で着々と攻撃準備が為されている可能性もある。
それだけに、余り悩んでもいられない。

(・・・さぁ、クリス。いったいどう動くっ!?)

何時間とも何分とも知れない刻の中で、一人は眠る女、一人は悩む女。
二人はとても近くに居ながら、とても遠いことをしていた。

【B−1:X4Y3/洞窟内部/1日目:朝】

【クリステル・ジーメンス@SILENT DESIRE】
[状態]:健康、魔力残量十分
[装備]:懐中電灯@支給品(電池残量十分)
[道具]:デイパック、支給品一式
モップ@La fine di abisso
白い三角巾@現実世界
雑巾@La fine di abisso
[基本]:対主催
[思考・状況]
1.洞窟を脱出する
2.ルーファス・モントールを探す
3.その道中でアーシャ・リュコリスかエリーシア・モントールと会えたら合流する
4.首輪を外す方法を考える

※レボワーカーを新種のモンスターだと思っています
※門番が中で寝ていることを知りません
※懐中電灯の使い方を知りました、しかし電気や電池という概念をまだ知りません

【門番{かどの つがい}@創作少女】
[状態]:健康、熟睡中(大好物をお腹いっぱい食べて幸せな夢を見てます)
[装備]:レボワーカー@まじはーど
(損傷度0%、主電源入、外部スピーカー入、イグニッションスイッチを押せば動作可能な状態で鎮座中)
[道具]:無し
[基本]:寝る!邪魔されたり襲われたら戦う、場合によっては殺す
[思考・状況]
1.一先ず寝る
2.イスがちょっと硬いからもう少し寝たら別の寝場所を探す

※門番は自分が今何処にいるのか知りません
※そればかりか、このゲームに巻き込まれていることにすら気付いていません

※門番のデイパックは鎮座しているレボワーカーの後ろに置いてありますが、まだ誰も気付いていません

@後書き
サイデザ世界の魔法や魔物周りの設定を勝手に妄想してかいてしまったことを先ずお詫びいたします。
そして、門番の大好物って何なんでしょうね・・。(^^;

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