MARDER × MARDER

 
「何か・・・聞こえないか?」
「・・・うん、聞こえる。」
二人は森の中で、奇妙な歌声を耳にした。


「ブ〜キブキブキ武器がない♪」
「あのー、涼子さーん、そんなに声を出すと周りの人に気付かれちゃいますよー。」
そんなの分かってる。いやむしろ分かって歌ってる。
というか誰か気付いて。そしてこの子のお守りを代わって。
「ない、ない、ない、武ー器ーがNAI♪」
彼女はさらに大きな声で歌い続けた。


「どうやら、『武器がない』と言っているようだな。」
「・・・うん。」
声のする方を見ると、二人の人間の姿が見えた。
歌っているのは青い髪の女。もう一人は、それを止めているように見える。

八蜘蛛からの指示はこうだ。
”首輪を外せる知識を持った人間以外はできるだけ殺しなさい。
 首輪を外せそうな人間は脅すなり騙すなりして、私の元に連れてくるのよ。”
すなわち、まずは彼女らが首輪を外せそうかどうか、確かめねばならない。
いきなり襲ってくるリスクはあるが、相手は丸腰だ。
それに対して萩の手には、リゼのデイパックから出てきた長剣がある。
リゼには使えそうにないという事で、彼女が持っているのだ。
本来の得物は小刀だが、刀剣の類ならばある程度の心得はある。問題なかろう。

そう考えて、二人に近付こうとした萩を、リゼが止めた。
「お姉ちゃん、逃げよう。」
「逃げる?・・・何故逃げる必要がある。相手は丸腰だぞ。」
不機嫌そうに萩が尋ねる。
「だって・・・『武器がない』なんて、相当自信がないと言えないよ。
 普通だったら武器が見つかるまで大人しくしてるんじゃないかな。」
確かに、リゼの言うことも一理ある。
武器が無くても戦える人間はいくらでもいるし、そもそも”武器がない”というのが嘘かもしれない。
一つ判断を誤れば死に繋がる状況下で、軽率な行動はすべきではない。
「だがら、逃げ・・・」
「様子を見よう。」
とりあえず、木の陰に隠れて様子を伺うことにした。

「あの・・・お姉ちゃん。」
リゼが問いかける。
「戦わなきゃ、ダメ?」
「ああ。あの者達が攻撃の意思を見せれば、な。」
萩が当然のように答える。身に降りかかる火の粉は払わねばならない。
それについてはリゼも同感だ。実際今までもそのようにして生きてきた。
しかし二人の間には、考え方の決定的な相違があった。
「でも、私達が立ち去れば、戦いにはならないよね。」
リゼが戦うのは、あくまで逃げ道が無くなった時。自分自身の生存の為。
だから、自分から積極的に戦闘を仕掛けることなど無かった。
だが萩は違う。一時身を隠してはいるが、隙あらばいつでも仕掛けるつもりだ。
「確かに戦う意味は無いかもしれない。だが、これは命令だ。」
「命令・・・?」
リゼが首をかしげる。
「ああ。首輪の外し方を知らない者は殺す。知る者は捕らえる。」
「・・・・・・」


「ブ〜キブ〜キ武器がほし〜♪」
相変わらず元気に歌ってる。でも誰も現れない。
「・・・こ・・・涼子さ・・・」
おや、私の名を呼ぶのはどなたかな?
「涼子さんっ、涼子さん!」
コイツしかいないか。
「どした?短剣くれるってか?」
「あげません♪」
なんだ、くれねーのか。だったら呼ぶな。しかも何で嬉しそうなんだ?
「そんな事よりー、さっきあそこに人影が見えましたよー。」
彼女の指差すほうを見る。が、何の気配もない。
「なんかの見間違いでしょー?」
「違いますっ!確かに誰かいるんですよ。」
「だいたい、あんたが気付いてこの涼子さんが気付かないなんて有り得ないでしょ。」
仮にも様々な修羅場を潜ってきた私だ。誰かいれば私が真っ先に気付くはず。
「でも、確かに見たんです。嘘だと思うなら自分で確かめに行ってください。」
「じゃあ短剣ちょうだい?」
「ダメです。」
「ケチ。」
武器も持たずに偵察に行けってか?ったくこの女は・・・
「んなら、あんたが行けば?」
「もう・・・仕方ないなぁ。」
結局、彼女は短剣を手に、渋々歩き始めた。


(向かってくる!気付かれたか!?)
この距離で隠れている相手に気付くとは、相当な実力と思われる。
迂闊に出て行かなくて正解だったかもしれない。
(それに、あの者の服・・・)
少しデザインは異なるが、彼女の服は萩の服とそっくりだ。
デザイン自体はシンプルだが、誰にでも着こなせるものではない。
(実はかなりの実力者かもしれん。)

仮に能力が同程度だとすれば、重要になるのが最初の一撃だ。
上手く決まれば相手を動揺させ、運がよければ圧倒する事も出来る。
相手は短剣を持って歩いてくる。攻撃範囲に入るまで十数秒。
タイミングが命だ。失敗は許されない。
長剣を握る手に力が入る。

しかし、最初に動いたのは、萩ではなかった。

「ぅあ・・・が・・・」
向かってきた少女に、強大な魔力の塊が襲い掛かる。

リゼだった。



伊織が、倒れた。
その直前に木の陰から飛び出した、一人の少女。
彼女が放った、”何か”。

考えるより先に、涼子は伊織に向かって走り出した。
そして伊織の手から短剣を奪い取り、リゼの腹に突き刺した。

トレジャーハンターとしての勘が告げていた。彼女は、危険だ。
何が起こったかは分からないが、少なくとも彼女が何かをして、伊織が倒れたのは間違いない。
仮に逃げたとしても、相手の能力が分からない以上、安全とは言えない。
それならばまずは武器の確保だ。そして・・・

「あがぁ・・・ひぐぅっ」
素早く短剣を引き抜き、今度は右腕を切りつける。
相手の能力が分からないならば、先の先を取る。すなわち先制攻撃で黙らせるしかない。
「いぎいいぃいいぃぃぃ!!」
逃げようとする彼女の背中を切ると、ひときわ大きな悲鳴を上げて倒れこんだ。

(・・・さすがに、ちょっとやり過ぎたかなー)
伊織を攻撃したとはいえ、相手は子供だ。
短剣を持った伊織に怯えて攻撃しただけかもしれない。
「・・ふぇ・・・えぐ・・・ヒック・・・やめ・・やめてよお・・・」
彼女が哀願する。どうやら殺意は無いらしい。
それならばこちらも、これ以上攻撃する理由は無いのではないか。
涼子がそう思って、リゼに手を差し伸べようとした時だった。
(ハッ、これは!)
リゼの傷が涼子の目の前でみるみるうちに回復していった。
(再生能力!?それに・・・)
よく見ると、彼女の頭には二本の角。

「うぎゃああああぅああぁぁぁ!!」
涼子は再び、短剣を突き刺した。
油断していたためか、先程よりも深く刺さったらしい。
「な・・ケホッ、な、なんで・・・」
「・・・この涼子さんを騙そうなんて、一万年と二千年早いのよ!」
騙す・・・リゼには、そんな自覚は無かった。
訳が分からず言葉を失うリゼに、涼子の厳しい一言が投げかけられる。
「あんた、モンスターでしょ。」


”モンスター”
普通の人間ならば、否定して終わりだろう。
しかしリゼは人間とモンスターのハーフ、忌み子。
人間から疎まれ、モンスターからも蔑まれる存在である。
彼女にとってこの一言は、極めて厳しい言葉だった。

”モンスターみたいなもんだから、人に嫌われて当たり前だよな。”
――え・・・
”こんな化け物にお姉ちゃんとか呼ばれて、さぞかしおぞましかったことだろうよ。”
――ちが・・・
”どうせ、お前だって信じてないんだろ。忌み子の自分なんかと本気で仲良くしてくれたなんてな。”
――違う・・・違う!!

思い出したくない記憶が蘇ってくる。
リゼはそれを何とか振り払おうとするが、刻み込まれた苦しみはそう簡単に消えない。
それどころか、今まさに肥大化しようとしている。

「あぎぃぃああぁァあああアアああ!!」
リゼの腹の中が、ナイフで抉られる。
「それっ、もういっちょ!」
「ぎああぅァあおぇああぃイいっ、!!!」
涼子はリゼの腹の中を、ナイフで掻き回した。
(いくら再生能力があっても、内臓がこれだけ傷つけば無事にはすまないでしょ〜)
「いっ、いあっ・・・がぁっ・・・」
最早、リゼの身体の中は傷だらけ。回復どころか生命の維持さえ危うい状態だ。
涼子はそう確信していた。

だがリゼの再生能力は予想の上をいっていた。
「なっ、何ですとぉっ!」
ナイフが刺さっている所の傷が閉じていく。
「まずい、このままじゃ・・・」
武器が奪われるという危険を考え、涼子はナイフを引き抜く。
リゼの腹からおびただしい量の血が噴き出す。
「うぐうぅウゥっ・・・ふあっ・・・はぁっ・・・はぁっ・・・」
さすがに体力を消耗したのだろうか。リゼの呼吸は乱れている
しかし命には全く別状がないらしい。
それどころか、僅かな時間で傷は完全に閉じ、服に空いた穴と血痕のみが残った。

 

(まさか、これ程とは・・・涼子さんピンチ!?)
トレジャーハンターの稼業は、常に危険と隣り合わせである。
身長が二倍ぐらいある怪物や、侵入者を撃退するロボット、時には苦手な蛇だって。
これまでたくさんの敵と戦ってきたが、リゼのような相手は初めてだ。
彼女のように、どれだけ斬っても回復されるような相手は。
(でも、やるしかないでしょ!)

涼子は、弱気になろうとする自分を奮い立たせて、リゼに襲い掛かった。
一ヶ所を集中的に攻めてダメだったなら、今度は手数で勝負だ。
胸、腕、足、顔、背中・・・リゼの身体のあらゆる箇所に切り傷が出来上がり、そのたびに彼女は悲鳴を上げた。
(よし、回復より攻撃の方が速い。これなら・・・)
「くうぅぅああぁぁアアアああっっ!!!」
激しい攻撃を受け、ついにリゼは地面に倒れ込んだ。
涼子はその上から、馬乗りになって切りつける。
「これで・・・とどめっ!」
「いやぁっ・・助けてえぇぇぇ!!!」

”はっ、忌み子なんて誰も助けねーよ。”
――・・・い・・・
”何でお前のような化け物を助けなきゃいけないんだよ?”
――・・・あぁ・・・ぅああぁぁ・・・!
”お前みたいな化け物は、見つかったらすぐに殺されるからな。”
――・・・っう・・・そんなぁ・・・!
”どうせ、忌み子なんて生きててもロクな人生じゃないだろ。”
――・・・ひぐっ・・・ぅぅっ・・・

「うああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・!!」
リゼが大きな泣き声を上げた。しかし涼子は気にも留めずに短剣を振りかざす。
「・・・だから、涼子さんは騙されないって言ってるでしょ。」
そしてその短剣を、リゼの喉に突き刺した。

「がっ・・・・・・」
リゼは途端に呼吸困難に陥った。悲鳴を上げようにも声さえでない。
そんな彼女に、涼子はさらに追い討ちをかけようと、再び短剣を振り上げた。
絶体絶命の危機。だがその時、ギリギリの所で助けが入った。


「痛っ!」
涼子の手首にどこかから飛んできた石が当たり、思わず短剣から手を離してしまった。
そしてその反動で短剣は手の届かないところまで飛んでいく。
(落石の罠かッ!・・・あ、でも洞窟じゃないや。)
全く的外れな分析をしていると、近くの茂みから女性が飛び出し、長剣で涼子に斬りかかってきた。
それを一歩下がって回避し、次の攻撃に備えて身構える涼子。
相手の服装は伊織と似ているが、大きく異なるのは耳と六本の尻尾。
(あちゃー、モンスターの仲間がいたか!)
予想外の事態に戸惑いながらも、相手の動きを見極めようと身構える。
武器が奪われているため戦うのは無謀だ。何とか隙を見て逃げ出さなければならない。

「リゼ、済まない。私がもっと早く決断していれば・・・」
助けに入った女性、萩は、つい先程まで迷っていた。
リゼに襲い掛かった女、おそらくは普通の人間だが、身体能力は圧倒的だ。
自分よりは間違いなく上。もしかすると三将軍筆頭のロシナンテをも上回るかもしれない。
いくら魔法があるとはいえ、戦えば苦戦は免れないだろう。
だが幸いにも、今はリゼばかりに気を取られていて、まだ自分の存在には気付いていない。
不本意だが、今のうちに逃げて、八蜘蛛らと合流してから挑むのが得策である。
しかし・・・そうすればリゼは間違いなく殺される。
戦いに犠牲は付き物、とは言うものの、萩にはそれが耐えられなかった。
あらゆる魔族を統べる魔王軍三将軍の一人として。それ以上に、一人の魔族として。

「・・・ぅ・・・ぉ・・・」
「もういい、喋るな。傷口が開く。」
何かを伝えようとするリゼを制して、萩は涼子を睨みつけた。
涼子も負けずに睨み返し、しばらくの間沈黙が続いた。

その静寂は、突然破られた。
「ひゃあぁっ!」
涼子の足元の地面が揺れた。萩の魔法である。
相手の剣ばかりに意識を集中していたため、足元がお留守になっていた涼子は、
大袈裟に転んで尻餅をついてしまった。
(地震!?こんなタイミング良く・・・って、あっ!)
涼子も気が付いた。この地震は、目の前の相手が起こしたものだと。
そして自分は今、無防備な姿勢で座り込んでいると。
(ヤバい!!!)

だが、それは杞憂に終わった。
萩はリゼを抱きかかえ、森の中を走っていった。



「はあぁ〜・・・折角いい短剣だと思ったのに・・・」
リゼを切り刻んだ短剣は、既に刃が欠け、血と脂でギトギトだった。
はっきり言って、もう使える状態ではない。

(やっぱあれって、”魔法”かなぁ・・・)
伊織を襲った何か、洞窟でもないのに飛んできた石、タイミングよく揺れた地面、それに驚異的な回復。
涼子の世界ではまず考えられない事だが、小説やマンガやアニメなど、
フィクションの世界ではよくある”魔法”である。
(あんなモンスターまで参加してんのか・・・)
もしそうだとしたら、自分の戦い方が通用しない可能性もある。何か対策を立てなければならない。
逆に、魔法を使える人間を仲間に出来れば、これほど心強い事はないのだが。

(それにしても・・・)
涼子は、倒れている伊織に歩み寄り、手を触れる。
「呼吸・・・停止。心拍・・・停止。瞳孔・・・散大固定・・・」
伊織は死んだ。
倒れた時からほぼ間違いないと思っていた事だが、実際に確認するのとは訳が違う。
「まあ、厄介払い出来たのは間違いないんだけど。」
そもそも涼子は、伊織と何とかして分かれたいと思っていた。
望まぬ形であったとしても、その希望が叶えられたのは確かだ。
それに、もしこの一件が無かったとして、伊織があんな化け物のいる森の中で生き残れただろうか。
遅かれ早かれ、こうなる事は目に見えていたのだ。
「でも・・・やっぱ、後味悪いわ。」
涼子はとりあえず、伊織の亡骸を、近くの柔らかそうな地面に埋めてやった。



「ふぅ・・・何とか、逃げ切ったか。」
萩はリゼを抱えて数百メートル走り、ある木の側で立ち止まって、
リゼを木にもたれかかるように座らせると、自分もその隣に座った。

「・・・おねえ・・・ちゃん・・・」
リゼが声をかける。萩は前を向いたままで、それには応えなかった。
「ありがとう・・・」
「・・・感謝する事は無い。私が最初から飛び出していれば、傷つく事も無かったのだ。」
「でも、私を助けてくれたよ・・・」
萩は迷っていた自分を悔いていた。だからこそ、感謝されるのが辛かった。

「それより、傷は大丈夫なのか?」
萩が話題を変える。
「うん、もうちょっと休めば平気。でも・・・」
言いかけてリゼは口をつぐんだ。代わりに萩が言った。
「さっきの技は使えない、か?」
リゼはその言葉に驚いた。さっきの技、カラミティが使えなければ、自分は戦力にならない。
その事を知られれば置いていかれると思って、言わなかったのだが・・・

「安心しろ。私はお前を見捨てたりはしない。」
リゼの心を読み取ったのか、萩が優しい言葉をかける。
「え・・・本当に?」
「ああ。我が誇りにかけて誓おう。」
自分が優柔不断だったために、仲間であるリゼに、辛い思いをさせてしまった。
簡単に償うことは出来ないだろう。だが、彼女のために何かをせずにはいられない。
自分に出来る事は・・・戦う事。リゼに襲い掛かるものを、片っ端から薙ぎ倒す。
元々八蜘蛛の指示で、人間は殺すことになっているのだ。
その対象が人間以外にも広がった。ただ、それだけの事だ。

「ふぇ・・・えぐ・・・ひっく・・・」
「・・・リゼ、泣いてるのか?」
「うわああああああああああん」
リゼは涙を流し、萩に抱きついた。

彼女は、ずっと一人だった。
一緒に生活する人間はいた。リョナラー連合の皆や、お姉ちゃん。
しかし彼らは人間、自分は忌み子。どうしても壁が出来てしまう。
だが、目の前にいる女性は、自分と同じ忌み子。
しかも、自分を見捨てない、と言ってくれる。
彼女は、生まれて初めて、安心できる場所を見つけた気がした。

泣きじゃくるリゼを、黙って抱きしめる萩。
彼女もまた、一人だったのかもしれない。
魔王三将軍とは言っても、歴然とした上下関係があり、八蜘蛛やロシナンテと仲良くは出来ない。
かといって、配下の魔族も、魔王と自分の力を恐れて従っているだけだ。
彼女もまた、この時間を喜んでいた。

しかし、それは長くは続かなかった。



――ミツケタ

 

ダンッ!
発射音と同時に、一本の矢が飛んでくる。
「危ない!」
二人はその場に伏せて、それを辛うじて避けることができた。

「フン、避けたか。」
矢の飛んできた方から、桃色の髪の少女が歩いてきた。
「曲者!それ以上近付くならば容赦はせんぞ!」
「あらら、嫌われちゃったわね。」
萩の大喝に驚きもせず、その少女、サーディは歩みを進める。
「まずは一人仕留めてからと思ったんだけど・・・こうなった以上仕方ないか。」
彼女は手に持っていたボウガンを投げ捨て、二本の剣を構えた。
萩も長剣を手にしてそれに応じる。

「覚悟!!!」
最初に仕掛けたのは萩の方だった。
少女に向かって15メートルほどの距離を一直線に突っ込み、突進力を活かした突きを繰り出す。
当たれば致命傷だ。だがその分直線的な攻撃は見切りやすい。
サーディはギリギリまで引き付けて左に避け、すれ違いざまに斬りつける。
が、萩もそこまで読んでいたらしい。お互いの攻撃は空を切った。

「成る程、お主の身のこなし、中々のものだ。」
「お褒めに与って光栄だわ。尤も、もうすぐ死ぬ人に褒められても意味はないけど。」
「・・・ぬかせ!!」
萩が長剣を両手で握り、右から左へ薙ぎ払う。
サーディは一歩退いて避け、絶妙のタイミングで右手の突きを放つ。
それに対して萩は体勢を低くして避けると同時に、サーディの足元を狙う。
跳んで避けるサーディ。しかし、それこそが萩の狙いだった。
空中にいるという事は、僅かながら全く動けない時間があるという事。
萩はそれを見逃さずに斬り上げる。だが、サーディの姿はそこにはない。
同時に背後から殺気を感じた。サーディが今にも双剣を振り下ろそうとしていた。
急いで、しかし冷静に振り返って対処する萩。間一髪、彼女の攻撃を受け止めた。

「あなたの動きだって、悪くないわよ。」
「・・・当然だ。人間ごときに遅れは取らぬ。」
「あははは、いいわ、あなたのその落ち着いた態度。でもいつまで耐えられるかしら。」
今度はサーディが仕掛けた。左手の剣を力まかせに振り下ろす。
萩はそれを長剣で受け止めるが、次に右手からの攻撃が繰り出される。
避ければさらに左。流れるような連続攻撃で、萩は次第に防戦一方になる。
しかし萩も黙ってはいない。攻撃が大振りになった一瞬の隙を突いて斬撃を放つ。
これにはサーディも驚いて、バックステップで間合いを離した、

「ふぅ、そう簡単にはいかない、か。・・・でも、そろそろ疲れが見えるわよ。」
「・・・くっ・・・」
サーディの言う通りだ。涼子からリゼを救い、彼女を抱えたまま全力疾走、さらにこの戦闘。
疲労していないはずがなかった。萩の額から汗が滴り落ちる。
「あはは、図星のようね。じゃあそろそろ、殺してあげる。」
サーディが萩に向かって静かに近付く。が、次の瞬間、

「ぐっ・・・」
サーディがその場に膝をついた。咄嗟に手で押さえた口からは、血が漏れている。
「う・・・何故だ・・・身体が・・・」
身体の自由がきかない。”悪魔”とは違う。肉体を直接蝕まれる感じだ。
深まる疑問に、萩が答えを出した。
「・・・『毒の大地』」

この付近の地面は、近くに毒沼があるためか、わずかに毒を含んでいる。
とはいえ濃度は低く、土を食べたり、埋まったりしない限り影響は無いが、
萩は魔法で近くにある毒を全て、サーディの足元の地面に集めたのだ。
こうなれば、素肌で触れれば勿論アウト、上に立っているだけでも毒気を浴びる事になる。
萩自身には全く影響は無いが、普通の人間にとっては十分致命的である。

「くっ・・・いつの間に・・・」
「最初からだ。無策で懐に飛び込むとでも思ったか。」
この作戦の難点は、相手だけでなくある程度の範囲に毒の影響が及ぶ事だ。
萩にとって問題が無くても、リゼが耐えられるかどうかは分からない。
だからまずはリゼから離れる必要があった。
そこで、サーディの姿を確認した直後、気付かれないように魔法を詠唱し、
直ちに危険を冒して、彼女に向かって突っ込んだのだ。

「さて・・・言い残す事はあるか?」
萩が問いかけるが、サーディはうずくまったまま動かない。
「最早、口も聞けぬか。仕方あるまい。」
萩が、長剣をサーディの首に当てる。


”チダ・・・チノニオイダ・・・”
真っ赤な血を目にして、サーディの中で悪魔が蠢いた。
”ワレニ、チヲササゲヨ・・・モット、モットダ・・・”
しかしこの血は、彼女自身の血。そんなものには興味が無い。
目の前にいる女の血。無様に崩れ落ちる肉体から、美しく咲き誇り、儚く消える薔薇の花。
彼女も悪魔も、それを求めている。
だが、毒の影響でもはや動くことすらままならない。
”・・・ウソダ。”
悪魔は否定する。これだけ毒を浴びれば、普通の人間の身体は耐えられないのだが、
”オマエハ、モウ・・・”
悪魔は言う。彼女は最早、ただの人間という枠には収まらない。
(・・・そうね。)
人の心も身体も、既に邪神に捧げた。
(私は・・・悪魔だ!!!)


「アハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」
突然、サーディが狂ったような笑い声を挙げた。
流石の萩もこれには驚いたようで、一歩後ずさりする。
「ふふふ・・・よくも、ワタシをここまで苦しめたわね。」
悪魔のような、否、悪魔そのものとでも言うべき笑みを浮かべて、萩に詰め寄る。
「100倍にして返してあげる。苦しんで、苦しんで、苦しんで死になさい。アハハハハハハ・・・」

「ぐぅっ!」
先程までとは比べ物にならないほど重く、速い一撃が萩を襲う。
「アハハハ!!殺してアゲル。」
大振りながら尋常ではない速さの連撃。
萩は辛うじて受け止めるが、明らかに押されている。
「フフ・・・アナタ、もっと足元にも気をつけなさい。」
「な・・・うわっ!」
剣にばかり意識が向いていた萩に対して、サーディが足払いを繰り出す。
萩は転倒こそ逃れたが、バランスを崩してしまった。
そこにサーディの容赦ない攻撃が加わる。
「アハハハハハハハ!さぁ、血を・・・チヲ、ワタシニ!」
「ぐ・・・最早、これまで・・・」
萩は、覚悟を決めて目を閉じた。

 

・・・おかしい。
あれから十分な時間が経ったはずだ。だが、予想していた衝撃は来ない。
あるいは、痛みを感じる間もなく、殺されてしまったのだろうか。

恐る恐る、目を開ける。
すると目の前には、桃色の髪の少女が、倒れていた。

「ぐ・・・くぁ・・・貴様!!!」
サーディが一点を睨みつける。しかしその視線の先にあるのは、萩ではない。
「はぁ・・・はぁ・・・」
萩が後ろを振り向くと、先刻、自分が守ると誓った少女。
リゼが、荒い息をしながら立っていた。

「お姉ちゃん、ゴメン。力が・・・足りなかった。」
リゼの必殺技、カラミティ。
フルパワーで放てば大抵の相手は無事では済まないが、その威力は彼女の気力によって大きく変動する。
今は、最小限の威力で辛うじて放つことが出来たといったところだ。
本来ならこれぐらいの時間が経てば完全に回復するのだが、何故か力の溜まりが遅い。
しかし、この場合は、これで十分だった。

「リゼ、恩に着る。・・・後は、私の仕事だ。」
長剣を再び構え直して、倒れたサーディに、一歩一歩近付く。
「や・・・く、来るなぁっ!」
彼女の言葉に耳も傾けず、無言で萩が迫る。
「ひぃ・・・う・・・お、お願い、やめてええええぇぇぇっ!!」


バシャアッ
「うあっ、くっ」
突如、萩の顔面に赤いものがぶつかって破裂し、その内容物が萩の身体を赤く染めた。
「な・・・何だ、これは!?」

「なんだかんだと聞かれたら、答えてあげるが世の情け・・・」
森の奥から声が聞こえる。
「・・・お主は!?」
「とうっ!」
その声の主は、萩とサーディの間に飛び込み、剣を構えた。
「私は・・・穏やかな心を持ちながら激しい怒りによって目覚めた伝説の超戦士・・・
 スーパートレジャーハンター、涼子さんだぁっ!!!」
「激しい怒り?・・・まさか、あの少女が死んで・・・」
「あの少女?・・・伊織のことかーーーっ!!!」

言っている意味はよく分からない。だが、一つだけ分かる事は、一転してピンチに陥っているという事だ。
先程は奇襲で何とか逃げ出すことが出来たが、今度はそう簡単にはいかないだろう。
(くっ・・・やるしかない!)
萩は、長剣を構え直す。しかし、
「遅い!」
「しまった!」
涼子の一撃で、萩の剣が吹き飛ばされた。

(ならば魔法で!)
萩は咄嗟に魔法を詠唱しようとする。
「甘ーい!」
「があああぁぁぁぁっっ!!」
だが間に合わず、腹を串刺しにされてしまった。
「ぐ・・・くぅ・・・リゼ・・・に、逃げろ・・・」
「他人の心配なんてしてる場合!?」
涼子が萩の腹に刺さった剣を引き抜く。
「ぐぅあああああぁあっぁぁ!」
萩の腹から血が噴水のように噴き出し、彼女はそのまま地面に倒れこんだ。

「かっ、は・・・ま、負けぬ・・・私は、魔王軍三将軍の、一人・・・」
萩が地面についた手に力を入れると、その場の土が固まり、みるみるうちに小刀の形となった。
それを握り締めて、最後の反撃に望みを繋ぐ。
が、時既に遅し。
「とどめっ!」
涼子の剣が、萩の心臓を貫いた。


その剣を引き抜いて、涼子が呟く。
「・・・一匹、逃がしちゃったか。」



その後涼子は、萩の死を念入りに確認した後、近くに生えていた草をサーディに食べさせた。
毒沼の側に生えているだけあって、毒に抗う成分が多く含まれているだろうという、
トレジャーハンターとしての勘に頼ったわけだが、どうやら上手くいったようだ。

「・・・涼子、一つお願いしてもいい?」
少し体力が回復したサーディが、涼子に話しかける。
「探し物は得意?」
「そりゃもう、涼子さんにかかれば、たとえ火の中水の中胃袋の中。」
「それじゃあ・・・」
サーディは、薄く笑みを浮かべて涼子に頼んだ。

「私の首飾り、一緒に探してくれる?」


”ナゼダ・・・ナゼ、コロサナイ・・・”
――そんな、助けてもらった恩があるじゃない。
”・・・ウソヲツクナ!”
――あら、お見通しってわけね。恩なんてもちろん冗談よ。
”ナラバ、コロセ・・・アイツヲ、コロセ・・・”
――フフ、それは無理。残念だけど今の私では、彼女に敵わないわ。
”・・・・・・”
――だから、運命の首飾りを取り戻すの。・・・それまで、待っててくれる?
”イイダロウ。タダシ・・・”
――分かってる。殺すのを止めたりはしないわ。だって、あれだけの力を持つ彼女ならば・・・

――きっと、私ノ渇キを癒シテクレル・・・



「はぁっ・・・はぁっ・・・」
リゼはあの場から逃げ、少し離れた森の中で休んでいた。
「お姉ちゃん・・・」
逃げながら振り返ると、萩の背中から心臓へと、剣が貫いているのが見えた。
「えぐっ・・・ぐすっ・・・」
不意に涙が溢れ出す。せっかく見つけたと思った居場所は、一瞬にして奪われた。
「うぇ・・・ひっく・・・死ねば・・・死ねば、いいのに・・・人間なんて、みんな・・・」

出来ることなら、すぐにでも敵を討ちたい。しかし・・・それは不可能だ。
今はただ、涙を流して耐える以外に、選択肢はない。
でもいつか・・・力が、戻ったら・・・
これまでは無かった心、”殺意”が、彼女の中に芽生えようとしていた。




【神代 伊織@こどく  死亡】
【萩の狐@創作少女  死亡】
【残り46名】




【C-1:X3Y3/森/1日目:午前】

【リゼ@リョナラークエスト】
[状態]:体力消耗、気力(SP)消耗
[装備]:ボロボロに切り刻まれた服(犯人は涼子)
[道具]:デイパック、支給品一式(食料6食分)
    メイド3点セット@○○少女
[基本]:生き残る。人間は殺せるなら殺す。
[思考・状況]
1.体力と気力を回復
2.余裕があれば着替える・・・か?
3.人間は死ねばいいのに、と思うが自分の安全が最優先
4.と思いきや、感情的になれば後先考えずにカラミティ

※リョナたろう、オーガ、モヒカンが参加していることに気づいていません。



【C-2:X1Y3/森/1日目:午前】

【天崎涼子@BlankBlood(仮)】
[状態]:健康
[装備]:アーシャの剣@SILENTDESIREシリーズ
[道具]:デイパック、支給品一式(伊織、萩の分も)
    エリーシアの剣@SILENTDESIREシリーズ(リゼ→萩→涼子)
    防犯用カラーボール(赤)x1@現実世界(1個使用)
    ライトノベル@一日巫女
    怪しい本@怪盗少女
    カザネの髪留め@まじはーど
    銘酒「千夜一夜」@○○少女、
    眼力拡大目薬×3@リョナラークエスト
[基本]:一人で行動したい。我が身に降りかかる火の粉は払う。結構気まぐれ。
    でも目の前で人が死ぬと後味が悪いから守る。
[思考・状況]
1.サーディの首飾りを探す、ついでにお宝も探す
2.サーディはたぶん守る
3.とりあえず、奈々を探してみる

※魔法の存在をほぼ確信しました。
※伊織を殺された怒りで、戦闘力は50倍の800に・・・なってません。
※というかぶっちゃけ激しい怒りってのもノリで言ってみただけです。


【サーディ@アストラガロマンシー】
[状態]:体力消耗、毒(ほぼ回復)
[装備]:ルカの双刀@ボーパルラビット
    競技用ボウガン@現実世界(正式名:MC-1、矢2本、射程30m程度)
[道具]:デイパック、支給品一式(消耗品は略奪して多めに確保)
[基本]:嗜虐心を満たすために殺す(マーダー)
[思考・状況]
1.運命の首飾りを探す、持ち主を殺してでも奪い取る
2.入手後、涼子を殺す
3.その後は考えてない


【萩の狐@創作少女】
[状態]:死亡(涼子に心臓を貫かれて)

※所持品は全て涼子に回収されました。
※カラーボール+血で真っ赤になってます。



【C-2:X3Y3/森/1日目:午前】

【神代伊織@こどく】
[状態]:死亡(リゼのカラミティ一発)
[装備]:なぞちゃんのお面@アストラガロマンシー

※所持していた鉄の短剣は、使い物にならなくなって近くに放置されています。
※その他所持品は涼子がちゃっかり持っていきました。

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