死者の声

 

「伊予那は・・・いないみたいだね」

周囲を見渡し、誰に話しかけるでもなく独り言をこぼして彼女―
美空桜は平たい岩の椅子の上にどっしり腰掛けた。

「大丈夫かなーあの子、あんな光景見ちゃって・・・
 泣いてないといいんだけどなー」

ほんの数十分前、薄暗い一室で起きた惨劇
数秒前まで生きていた少女の顔面が炸裂し、飛散した光景
自分が好むホラー映画では見慣れたシーンではあった。
だが、それはあくまでも作り物であって、それもブラウン管の向こうの世界だ。
さっきのは本物の、それも目の前で人間が、グロテスクに死ぬ光景だった。衝撃のレベルが違う。
ホラー好きを称する自分でさえ、こみ上げてくるものがあったのだから・・・

「なんとか、伊予那と会って安心させてあげないと、それに―」

少女の首輪を爆破させたあの男、「リョーナ」というふざけた男が
もし伊予那を爆破させていたらと思うと、ただでさえ頭に血の上りやすい彼女の
血圧は一瞬にして跳ね上がってしまうだろう。
あの一室においては呆気にとられて行動を起こさなかったが
今になってやり場の無い憎しみに彼女は頭をカッカさせていた。
時折、手に持っている無骨なハンマーを振り回しては

「あの野郎おぉぉーっ!ぶっ○おおおぉぉぉす!」

と、ヘラヘラ笑う「キング・リョーナ」の顔が彼女の攻撃により、
苦悶に浮かぶ様を想像し、なんとか自我を保とうとしていたのだった。
あんな男の用意した武器を使うのは癪だったが、自分の用意した武器で
殺されるのもあんな外道にはお似合いだ、と彼女は少し微笑んだ。

「とにかく、伊予那を探さないと!」

・・・・・・・・・

「伊予那〜伊予那、伊予那、伊予那〜」

周囲から見れば楽しい雰囲気で鼻歌を歌っているようにも思えるかもしれない
しかし、彼女は必死であり、心配であった。
霊感こそあるが、臆病で弱気かつどんくさい友人がこんな<殺し合い>という
ゲームに参加して生き残れるはずが無いと直感的に感じていたからだ。
それと同時に、今でも、泣きながら、或いは泣きそうになりながら
自分を探しているに違いないとも感じていた。

その時であった。

突然の倦怠感、眩暈、嗚咽、震動、桜は一体何が起きたのか分からないままに
その場に突っ伏した。膝は痙攣し、嘔吐感が彼女を襲う。

目の前に何かの光景が広がってくる。少女が、一人、剣を巧みに操り
自分に襲い掛かってくる光景だ。咄嗟に回避しようと身体を動かそうとする。
が、身体は思うように動かず、そのまま少女の剣が自分を切り裂いた。
「あははハハハ!!!」
少女は倒れた自分の身体を無作法に扱い、井戸へと放り投げる
真っ暗な周囲、筒状の井戸から伸びる空の景色だけがぼんやりと目に映る

その光景が走馬灯の如く目前を通り過ぎると、桜の異常はすぐに治まった。
ふと、桜は立ち上がり、挙動不審なほどに周囲を見渡す。

「今のは何・・・?」

まるで数十分に渡り、アクションシーンと残虐な殺害の光景を見た気がした。
だが、腕にはめられた時計の短針は半周もしていなかった。

「夢・・・夢だったのかな、変なところに連れてこられて疲れてるから
 道端で寝ちゃったのよ!きっと!」

頭を二三度横に振るい、少し声量の大きい独り言で自分を律し、
桜は再び森を歩き出す。その丁度背後の生い茂った草むらの先に
古めかしい井戸があったことを彼女は知らない。


現在位置:C1 X4Y4
【美空桜@一日巫女】
[状態]:少し冷や汗
[装備]:モヒカンハンマー@リョナクエ
[道具]:支給品一式
首輪探知機@バトロワ(未使用)
[基本]:伊予那を探す・助ける・協力する(伊予那に害をなす奴を倒す)
[思考・状況]
1・心霊現象に遭遇
2・焦りつつも伊予那探索

※サーディの名前は知りませんが
 顔は脳裏に焼きつきました。出会えば「夢」の人物だと分かるでしょう
※伊予那がいるのを知っているのは最初に名簿を確認したから

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