相棒としての誇り

 
≪相棒としての誇り 前編≫

持ち前の勘に従って西へと向かって走り続ける奈々。

その結果、りよなの妹であるなよりからは遠ざかってしまったが、
彼女の姉には近づいていた。
しかし、もちろん奈々にはそんなことなど分からない。

彼女に分かるのは、前方に二人の人影があるという事実だけ。

一人は神官服を着た自分と同じ歳くらいの少女。
その立ち居振る舞いから、奈々は少女がかなりの実力の持ち主だと見抜いた。
だが、そんなことより奈々にはもっと気になるところがあった。

(あの帽子、何…?目玉と羽付きとか…邪教…?)
奈々は本人が聞いたら激怒しそうな感想を抱きつつ、もう一人に視線を向ける。

もう一人は自分よりいくつか年下と思われる、学生服にヘアピンをした気弱そうな少女。
りよなもそうだったが、どう見てもこんな殺し合いの場にいるのは場違いであり、
放っておいたらすぐに殺されてしまうことは間違いないだろう。
というか、今にもなんか理不尽なことが起きてあっさり死にそうな気がする。
ただの勘だが、ものすごくそんな気がする。

二人を観察し終えた奈々は思う。

(探してる二人じゃないし…人と話すのメンドイ…無視しよ…。)

そう考えた奈々は二人に見つからないように横をすり抜けようとした。

「あっ!ちょっとそこのアナタ!」

が、どうやら見つかったようで神官服の少女に呼び止められてしまった。
うんざりした気分になるが、ここで逃げるのもどうかと考え、立ち止まって振り向く。

「…何?」

感情を交えない声で聞き返す。

「何?じゃないでしょ。こんな状況だから警戒するのも分かるけど、
 だからって逃げ回っててもどうしようもないわよ?」

どうやらこの少女は、奈々が二人を警戒したためにそのまま通り過ぎようとしたと
思ったらしい。
別に訂正する必要もないので、それについては何も言わない。
奈々はそれよりも聞くべきことを聞くことにした。

「…一応聞いておくけど…乗ってる?」

おそらく殺し合いには乗ってないだろうとは思うが、それでも奈々は少女に確認する。

「こんな悪趣味な催しなんて乗るわけないじゃない!
 まったく、あのへらへら男…目の前にいたら首を斬り飛ばしてやるところだわ!」

憤慨した面持ちで自分の考えと同じようなことを息巻く少女を見て、奈々は少し親近感を抱く。

「あっ、自己紹介がまだだったわね。
 私はロカ・ルカ。見習い神官をやってるわ。」
「えっと…私は学生で…名前は那廻早栗です…。」

名前を名乗る二人に対して、奈々も自己紹介をする。

「私は奈々。職業は…学生でいいや。」
「…いいやって何よ?」
「何でもない。」
「…まあ、いいけど。」

一瞬トレジャーハンターとでも名乗ろうかと思ったが、説明が面倒くさいし、
そもそも姉に付き合っているだけのものなので、奈々は止めておくことにした。

(…そうだ、ついでにアイツと篭野なよりのことも聞いてみよう。)

「…天崎涼子と篭野なよりって人、知らない?」
「アマサキリョウコにカゴノナヨリ?
 …それって、黄土色の皮を被った巨人だったりする?」
「…お前は何を言ってるんだ。」

意味不明なことをほざくルカに思わず突っ込みを入れてしまう奈々。

「一応、確認しただけよ。
 私たちが会ったのは、お互い以外にはそいつだけだから。」

そう言って肩をすくめるルカに、奈々は一応は納得する。

「そうだ、そいつには気をつけなさいよ。
 そいつ、サクリにいきなり襲い掛かってきたんだから。」

ルカは真剣な表情で奈々に忠告する。
その隣ではそのときのことを思い出したのか、早栗が怯えた表情を見せている。

その後、その黄土色の巨人の話を二人から聞いて、奈々はその巨人を要注意人物として
警戒することにした。
そして、次に奈々が篭野りよなと会ったことを話したが、それを聞いてルカが怒り出した。

「あんた、目の見えない人を放ってきたって言うの!?」

盲目であるりよなと出会っておきながら、それを保護しないなど、見習いとはいえ
人のために尽くすことを仕事とする神官であるルカには信じられなかった。

こんな殺し合いの場で目の見えない少女がうろついていて、もし危険な人物に
出会ってしまったらどうなるか。
そんなことは考えなくても分かるだろうに、なぜ一緒に付いていってやらなかったのか。

ルカは奈々の取った行動に怒りを感じていた。

「…別に助けてって頼まれなかったし…。」

一方の奈々にもなぜルカがそこまで怒るのか理解できなかった。

相手は自分の助けを求めているようには見えなかったし、こんな殺し合いの場で
目の見えない少女を保護するほどの余裕は自分にはない。
面倒だということもあるが、何よりもそんな身の丈に合わないことをして、自分まで
死んでしまっては笑えないではないか。
どれだけお人よしな人間でもそんなことは分かるだろうし、それで責められるような
いわれはないはずだ。

奈々はルカの理不尽な物言いに不満を感じていた。



二人の間に険悪な空気が流れる中で、早栗はあわあわとうろたえていた。

仲裁をしようかとも思うが、自分が仲裁したところで果たして効果があるだろうか?
というか、それ以前に自分とほとんど年が変わらない少女であるにもかかわらず、
やたらと迫力のあるこの二人の喧嘩に、自分は口を挟むような度胸があるのか?

(む…無理だよぉ…!)

早栗は泣きそうな面持ちで、ただこの重い空気に耐えるしかなかった。



そして幾ばくかの時間が流れた後、先に折れたのはルカだった。
大きく溜息を吐くと、

「…まあ、たしかに…よく考えてみればアンタの言うことも分かるわ。
 こんな状況で他人の面倒まで見ろ、なんて私に強制できるわけないし、
 それでアンタが危ない目に遭うかもって考えるとなおさらだわ。」

冷静になってみれば、ルカにも奈々の言い分は分かる。
自分の生存を優先したい、という考えは至極まっとうなものだし、
生き残りたくて殺し合いに乗る者に比べれば100倍マシである。

「…少し言いすぎたわ。悪かったわね、ナナ。」
「…別に、いい…。」

そっぽを向きながら答えた奈々がおかしくて、ルカはぷっと吹き出す。
それを見て憮然とする奈々、早栗は空気が軽くなったのを感じ取って安堵の息を漏らし、
そんな早栗を見て、ルカは少しバツが悪そうな顔をする。

(…サクリにも心配かけちゃったわね。)

そう思い、ルカは気を取り直して奈々に言葉を向ける。

「…とにかくそのリヨナって子のいた場所を教えてくれない?
 放っておくわけにもいかないから、私はそっちへ向かってみることにするわ。」
「ん、分かった。」

その後、りよなの場所も含め、お互いの情報を交換して彼女たちは別れた。



ルカと早栗は奈々が東の森でりよなを見たという言葉に従って、東へ向かっていた。
元々はルシフェルから遠ざかるために北を目指すつもりだったが、盲目であるりよなの話を
聞いてしまってはそうもいかない。
守るべき弱者の身を案じて、ルカは足を速めていた。
早栗はそんなルカを見ながら、考えていた。

(目の見えない人まで連れていくなんて…危ない人に襲われたとき、大丈夫なのかな…。)

いくらルカが強いとはいえ、今は武器の一つも持っていないのだ。
不安を抱えつつも、ルカと離れるわけにはいかない早栗はルカの歩みに小走りでついていく
しかなかった。




【E−3:X3Y2/森/1日目:午前】

【ロカ・ルカ@ボーパルラビット】
[状態]:疲労小
[装備]:無し
[道具]:デイパック、支給品一式
(食料4/6、水3/6、地図無し、時計無し、コンパス無し)
[基本]:生存者の救出、保護、最小限の犠牲で脱出
[思考・状況]
1.篭野りよなを探して保護する
2.他の戦闘能力の無さそうな生存者を捜す
3.ルシフェルを警戒
4.天崎涼子、篭野なよりを探す


【邦廻早栗@デモノフォビア】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:無し
[基本]:自分の生存を最優先
[思考・状況]
1.とりあえずはルカに付いていく
2.ルカが自分を守りきれるのか少し不安

※奈々に地図と時計を見せてもらったことで現在地と時間を知りました。




 
≪相棒としての誇り 中編≫

一方、早栗とルカの二人と別れた奈々はまだ森をうろついていた。

黄土色の巨人という警戒すべき存在がいる森の中でいったい何をしているのか?

その答えは、早栗のデイパックである。
奈々は二人が黄土色の巨人から逃げる際に置いて来てしまったという早栗のデイパックを
探していたのだ。

黄土色の巨人に対して警戒はしていたが、それと同時にそんな危険人物がいる中で
武器も持たずにいることに奈々は不安を感じていた。
そのため、奈々は早栗のランダム支給品に武器の類が入っていればと期待をしていたのだ。

(もしその巨人に出会っても、逃げるくらいはできるはず…。)

話によると、ルカは早栗を背負ったまま走っていたにも関わらずその巨人を振り切ることが
できたらしい。
その事実から考えると、その巨人は足はそれほど速くはないのだろう。
なら、問題はないはずだ。

そう考え、奈々はそれほど危機感を持たずに気楽にデイパックを探していた。


今思うとそれがいけなかったのだろう。


奈々はこの16年の人生の中でその多くを自身の予知能力めいた勘に頼って生きてきた。
しかし、ここでは殺し合いにおける参加者同士の実力差を埋めるためにキング・リョーナに
着けられた首輪によって、参加者の能力は制限されているのだ。

奈々の優れた危機察知能力は首輪のせいでその冴えを翳らせていた。
もちろん奈々はそんなことは知らず、いつも通りに自分の勘に従って行動していた。

(別に嫌な予感はしないし、たぶん大丈夫…。)

そうして油断した結果、気づくのが遅れてしまった。

背後に膨れ上がる殺意。

「!?」

奈々は咄嗟に前方に身を投げ出していた。

ドゴオォォォン!!

それと同時に、爆発したかのような轟音が響く。
いや、実際に地面が爆発していた。
叩きつけられた鉄塊のあまりの威力にか、周囲一帯の土が爆散したのだ。

奈々は膝を突いたまま後ろを振り返り、それを目の当たりにして息を呑む。
戦慄する奈々を前に、襲撃者は地面に叩き付けた斧を引き抜いて担ぎなおす。

奈々の前に佇むのは、話に聞いていた黄土色の皮を被った巨人。
そして、その肩に提げられているのは二つのデイパック。

それを見た奈々は内心で舌打ちをする。

早栗やルカの話から、奈々はこの巨人が知性の欠片も無い化け物であるという
認識を抱いていた。
そして、それなら早栗のデイパックも回収されずに放ってあるのではないかと
考えたのだが、そもそも話に出てきた巨人は武器を使っていたのだ。
つまり、少なくとも道具を使うくらいの知性は持っているわけで、それを考えると
デイパックを回収していてもおかしくはない。

(…むぅ…失敗したかも…。)

ともあれ、この巨人に早栗のデイパックを回収された以上はもはやここに留まる理由は無い。
奈々はこの巨人から逃げるために踵を返す。

がしっ。

「…は…?」

疑問の声を上げ、後ろを向く奈々。
そこにはいつの間に距離を詰めたのか、自分の襟首を掴み上げる怪物の姿。

ちょっと待て、話が違う。
こいつは足が遅いんじゃなかったのか?

予想外の事態に混乱する奈々。

ちなみに、早栗やルカはこの巨人の足が遅いとは一言も言っていない。
ただ、ルカが早栗を担いで巨人から逃げてきたと言っただけだ。

だが、ここで二人と奈々の間に認識の齟齬が生じた。

ルカが早栗を担いでいたにも関わらず巨人から逃げ切れたのは、事前に巨人の足を刀で
貫いて地面に縫いとめておいたことと、さらにルカという少女が人並み外れた体力と
足の速さを持っていたことが大きな要因となっていた。

奈々は刀のことなど知らず、さらにルカの身体能力についても考慮に入れていなかった。
単純に、自分と同じくらいの歳の少女が人を担いだ状態でその巨人から逃げ切れたという
事実をそのまま受け取ってしまったのだ。

早栗を担いでいないとはいえ、ルカほどの足の速さを持たず、黄土色の巨人に対して
誤った認識を抱いていた奈々。
そして、今回は足を刀で地面に縫いとめられることもなく、さらに時間が経ったことで
足の傷も再生していた黄土色の巨人。

奈々が捕まってしまったのは必然であったのだろう。



「んっ…!放せっ…!」

奈々は何とか巨人から逃れようともがくが、巨人の丸太のような腕はびくともしない。
巨人は奈々の襟首を左腕で掴み上げたまま、右手で近くの木に巻きついていた植物の蔓を
引きちぎって、手繰り寄せた。

巨人はその蔓を奈々の首にグルグルと巻きつける。

「あっ…ぐっ…!?」

首をきつく締め上げられ、奈々は苦しげに呻く。
そんな奈々を無視して、巨人は蔓を高く投げ上げて木の枝に引っ掛ける。

「…これって、まさか…。」

高めの木の枝に引っ掛けられた蔓の片方は自分の首に巻きつけられ、もう片方は巨人の手。
巨人の意図を察した奈々は焦る。

「っ!放せっ…!放せぇっ!」

奈々は巨人の企みを阻止しようと必死で暴れるが、巨人は全く意に介さない。
そして、巨人は奈々の首に巻きつけたほうとは逆の側の蔓を容赦なく思い切り下に引っ張った。

途端、奈々の小柄な身体が勢い良く引っ張り上げられ、奈々の細い首を引きちぎろうとするかの
ごとく、蔓が締め上げてくる。

「ぃぐっ…!?あ…がっ…!がぁっ…うぅ…!」

首が脱臼しそうな勢いで気道を圧迫され、あまりの激痛と苦しさに奈々の目に涙が滲む。
首吊り状態となった奈々は、首の蔓を外そうと顔を真っ赤にさせて両手で掻き毟るが、
蔓はほどける様子を見せない。

がむしゃらにばたつかせる足が何度も巨人を叩くが、巨人は微動だにすらしない。
そんな巨人は苦しむ奈々にさらに過酷な責めを与えるために、蔓を上下にゆすり始めた。

「がっ!?あっ…ぁぐっ!がっ!ぐっ…あがぅっ…!」

下に下ろされる一瞬の浮遊感から、上に引っ張られるときの重力による加重。
常に一定の負担を与えられるよりも、この責めはより相手に苦しみを与える。

奈々は今このとき、地獄の責め苦を味わっていた。

(苦しいっ…!痛い…痛いっ!死ぬっ…!やだっ…嫌だ…!)



もがく。暴れる。蹴り付ける。
しかし、巨人は微塵も揺るがない。

やがて、奈々の意識は闇の中に落ちていった。



奈々への拷問を数分ほど続けた後、巨人は手を緩めて奈々を地面に降ろした。
度重なる首への責めで、奈々が失神していることに気づいたのだ。

相手が失神していてはつまらない。
そう考えた巨人は奈々の意識を覚醒させるために刀を振り上げ、


ズバンッ!


「あっ…?」

自身の身体に与えられた衝撃で奈々は目を覚ました。

なぜ、自分は意識を失っていた?
今、自分はどんな状況に置かれている?

失神する前の状況を思い出そうとする奈々の耳にどさっと何かが落ちる音が聞こえる。
そちらに目をやると見覚えのあるものが写る。


切り落とされた、自分の右腕。

それを認識した直後、

「いぎっ…!?がっ…あ…がぁぁぁぁぁっ!!?」

激痛が遅れてやってきた。
今まで味わったことのないほどの凄まじい激痛に奈々は絶叫し、のた打ち回った。

「ひっ…!うっ…ひぅぐっ…!あっ…あああぁぁぁっ…!」

脳内は痛みに埋め尽くされ、奈々は涙を流して泣き叫ぶ。
到底耐えることのできない痛み。

それでも痛みを強引に意志の力でねじ伏せ、奈々は巨人から逃げようとする。

だが、奈々は先ほど首を絞められたせいで呼吸をするたびに喉に激痛が走り、右腕を
切り落とされたことによって血も大量に失っている。

喉と右腕の付け根から激痛、酸素と血液が足りずに意識も朦朧とした状態ではまともに
走ることすらできない。
それでも、奈々は逃げようとフラフラとしながら足を動かす。

だが、巨人は奈々を逃がさない。

巨人は逃げようとする奈々を掴み上げ、自分の側に引っ張って、引きずり戻す。

「!…嫌だ…!放せっ…!放してっ…!」

奈々は泣きながらイヤイヤと頭を振るう。

「嫌だ…!もう…もう痛いの、やだぁっ…!」

奈々は再び巨人に与えられるであろう新たな激痛を想像し、恐怖に狂いそうになる。
半狂乱になって手足をばたつかせ、巨人から逃れようとするが、巨人は奈々を放さない。

「あぁ…うあぁぁぁ…!」

すでに幾度目かになるやり取り。
奈々が抵抗し、それをものともしない巨人。


自分の抵抗が意味を成さず、巨人に良い様に嬲られ続けている現状に奈々は絶望する。

「…嫌だ…助けて…!お姉ちゃん、助けて…!」

そして、追い詰められた奈々はここにはいない姉へと助けを求めていた。

そんな自分を心のどこかで冷静に見つめている奈々がいた。

(…あいつが助けに来るわけない…あいつは私の心配なんか…。)

あの姉が自分の心配をするはずがない。
あんな、おちゃらけたチャランポランな馬鹿姉。

りよなみたいな、妹をちゃんと心配してくれるような優しい姉ではないのだ。

(この前の遺跡探索のときだって…。)

遺跡の罠にかかって、離れ離れになった後に合流したとき。
そのときも、あの姉は全く心配なんてしてなかった。

ただ一言、笑いながらこう言っただけだった。

『おおー、奈々!この恐ろしい遺跡の中でたった一人でも無傷とは、さすがは私の妹!
 さすがは我が相棒!』

(………。)

その言葉を思い出して、奈々は考える。

ちょっと待て。
確かにあいつは、私のことを心配はしていないだろう。

だが、しかし…。

(私のこと…相棒って…。)

大切には、思ってくれているのでは?
自分のことを心配しないのは、自分のことを信頼してくれているからでは?

…頼りにしてくれているからではないのか?


あの天崎涼子が自分を…妹としてではなく、天崎奈々として頼りに
してくれているからではないのか?


そう考えた後、再び今の自分に目を向ける。
巨人に良い様に嬲られ、泣きながら姉に助けを求める自分を。


これが、あの天崎涼子の相棒?こんな体たらくが?



 … ふ ざ け る な ! !


その瞬間、奈々の中で天崎涼子の相棒としての誇りが爆発した。




 
≪相棒としての誇り 後編≫

黄土色の巨人…ルシフェルは、すでに抗う気力を無くして泣き喚いていた少女が
身を翻して自分に向かってきたのを見て、驚いていた。

その目に宿るのは、強靭な意志と戦意。

あまりの変わりように、少女に対してのルシフェルの対応が遅れた。
ルシフェルに捕まれていたセーラー服を脱ぎ捨てる形で拘束から逃れた少女は
ルシフェルの持っていたデイパックのうちの一つに飛びつき、その中に手を伸ばす。

それを振りほどくために、ルシフェルは少女を思い切り殴り付けた。
少女はあっさりと吹っ飛んでいったが、すぐに身を起こしてルシフェルを睨み付けてくる。

その手には、ルシフェルのデイパックから取り出したのであろう、一つのランプが収まっていた。




逃げるのではなく、戦うことを選んだ奈々は真っ先に巨人のデイパックを狙った。

(素手じゃ、コイツには勝てない…!なら、武器を奪うまで…!)

そして、奈々はわき腹を殴られて吹っ飛ばされつつも、巨人のデイパックから見事に
支給品を奪うことに成功していた。

しかし、奪えたのは武器ではないランプだ。
そんなもので、どうやってこの恐るべき巨人に勝つつもりなのか?

だが、奈々は不敵な笑みを浮かべ、ランプの蓋を口で咥えて外す。
そして、蓋を外したランプをそのまま巨人に投げつけた。

ランプは巨人にぶつけられ、盛大に中の油をぶちまける。

巨人は油塗れとなったが、そんなことでは怯まない。
奈々にさらなる痛みと苦しみを与えるべく、突進してくる。

だが、奈々は冷静にスカートのポケットに入れておいたライターを取り出し、
点火して巨人に投げつけた。


ライターが巨人へとぶつかった瞬間、


ライターの火が油に燃え移り、巨人は火達磨になった。

身悶えつつも、奈々へと歩み寄ってくる巨人を見据えながら、奈々は言った。

「私の勝ちだ…化け物…。」

奈々の言葉と同時に、黄土色の巨人の巨体が倒れる。
奈々の誇りをかけた死闘は、奈々の勝利で終わったのだ。




数十分後、黄土色の巨人に勝利した奈々は北にあるはずの街へと向かっていた。
その目的は、巨人に痛めつけられた身体の治療である。
何とか巨人に勝利したとはいえ、奈々はぼろぼろだった。

巨人の首吊り拷問のせいで、息をするたびに喉に激痛が走り、ただでさえ消耗している
体力がさらに奪われていく。

切り落とされた右腕の付け根はスカートのポケットに入っていたハンカチを巻きつけて
一応の応急処置はしてあるが、早くまともな治療をしないとかなり危険だ。

さらに、ランプを奪おうとして殴り飛ばされたときにアバラを何本か骨折してしまって
わき腹にも耐え難い激痛が走っている。

おまけに、巨人が火達磨になったときにセーラー服も一緒に燃えてしまったせいで、
今の奈々は上半身は下着しかつけていない。
傷ついた身体に風が冷たく染み渡り、それが辛くて仕方が無い。

だが、それでも奈々の顔には笑みが浮かんでいた。

「…お姉ちゃん…私、頑張ったよ…。
 お姉ちゃんの…天崎涼子の相棒として、立派に戦えたよね…?」

もし姉に出会えたときは、姉の相棒として胸を張って会えるはずだ。
そして、同時に奈々は思う。

「…私、頑張ったよね…?立派だったよね…?だから、もしお姉ちゃんに会えたら…。」

そのときは。
そのときだけは、ほんの少しでいいから妹として姉に甘えさせてほしいと思う。


そんな妹としてのささやかな願いを胸に抱きながら、


限界を迎えたのか、奈々は倒れて意識を失った。




ルシフェルは炎に包まれた後、そのまま力を失って、その巨体を沈ませた。
それを見て、奈々はルシフェルが死んだと思っていた。

だが、しかしルシフェルは死んでなどいなかった。
というより、ほとんどまともにダメージを受けていなかったのだ。

人体が一瞬でスミと化すほどの火柱を受けても一度なら耐え抜くほどの強靭な身体を
持つルシフェルがあの程度の炎で死ぬなどありえなかった。

ならば、なぜルシフェルは意識を失ったのか?

それは、奈々の投げつけたランプが原因だった。

眠り香のランプ。
火を灯すと、眠りを誘う香りを発するという特殊なランプである。
その効果は強力で、室内で使った場合はその部屋にいる人間を一瞬で眠らせてしまうほどだ。

ルシフェルはその眠り香のランプの油をまともに被り、そのまま火を着けられたのだ。
当然、油を燃やした香りはルシフェルの嗅覚をもろに刺激することとなり、その結果として
ルシフェルは深い眠りへと誘われたのだ。


奈々は自分の勝利が偶然によってもたらされたとは知らない。
そして、奈々が味わった恐怖はルシフェルの底の知れない狂気のほんの一部でしかないのだ。

この恐るべき悪魔を倒し得る人物がこの殺し合いの場に存在するのか?
それは誰にも分からない。




【D−3:X1Y4/森/1日目:午前】

【天崎奈々{あまさき なな}@BlankBlood】
[状態]:気絶、ダメージ大、出血多量による貧血、呼吸をするたびに喉に激痛、
アバラ三本骨折、右腕損失(二の腕の半ばからばっさり、ハンカチで応急処置)
上半身は下着のみ
[装備]:無し
[道具]:デイパック、支給品一式
バッハの肖像画@La fine di abisso(音楽室に飾ってありそうなヤツ)
弾丸x10@現実世界(拳銃系アイテムに装填可能、内1発は不発弾、但し撃ってみるまで分からない)
[基本]:一人でいたい、我が身に降りかかる火の粉は払う、面倒くさがり、でも意外と気まぐれ
[思考・状況]
1.涼子に会いたい
2.武器を探す
3.キング・リョーナに一発蹴りを入れる方法を考える
4.何となく籠野なよりを探してみる

※籠野なよりにあったら姉が心配していたと伝えるつもりでいます。
※ルシフェルが死んだと思っています。


【E−3:X1Y2/森/1日目:午前】

【ルシフェル@デモノフォビア】
[状態]:軽い火傷、眠り
[装備]:ルシフェルの斧@デモノフォビア
ルシフェルの刀@デモノフォビア
[道具]:無し
[基本]:とりあえずめについたらころす
[思考・状況]
1. ころす
2.ころす
3.ころす

※ルシフェルがいつ目覚めるかは不明です。
※デイパックと中身の支給品は全て燃え尽きました。




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