≪相棒としての誇り 前編≫
持ち前の勘に従って西へと向かって走り続ける奈々。
その結果、りよなの妹であるなよりからは遠ざかってしまったが、
彼女の姉には近づいていた。
しかし、もちろん奈々にはそんなことなど分からない。
彼女に分かるのは、前方に二人の人影があるという事実だけ。
一人は神官服を着た自分と同じ歳くらいの少女。
その立ち居振る舞いから、奈々は少女がかなりの実力の持ち主だと見抜いた。
だが、そんなことより奈々にはもっと気になるところがあった。
(あの帽子、何…?目玉と羽付きとか…邪教…?)
奈々は本人が聞いたら激怒しそうな感想を抱きつつ、もう一人に視線を向ける。
もう一人は自分よりいくつか年下と思われる、学生服にヘアピンをした気弱そうな少女。
りよなもそうだったが、どう見てもこんな殺し合いの場にいるのは場違いであり、
放っておいたらすぐに殺されてしまうことは間違いないだろう。
というか、今にもなんか理不尽なことが起きてあっさり死にそうな気がする。
ただの勘だが、ものすごくそんな気がする。
二人を観察し終えた奈々は思う。
(探してる二人じゃないし…人と話すのメンドイ…無視しよ…。)
そう考えた奈々は二人に見つからないように横をすり抜けようとした。
「あっ!ちょっとそこのアナタ!」
が、どうやら見つかったようで神官服の少女に呼び止められてしまった。
うんざりした気分になるが、ここで逃げるのもどうかと考え、立ち止まって振り向く。
「…何?」
感情を交えない声で聞き返す。
「何?じゃないでしょ。こんな状況だから警戒するのも分かるけど、
だからって逃げ回っててもどうしようもないわよ?」
どうやらこの少女は、奈々が二人を警戒したためにそのまま通り過ぎようとしたと
思ったらしい。
別に訂正する必要もないので、それについては何も言わない。
奈々はそれよりも聞くべきことを聞くことにした。
「…一応聞いておくけど…乗ってる?」
おそらく殺し合いには乗ってないだろうとは思うが、それでも奈々は少女に確認する。
「こんな悪趣味な催しなんて乗るわけないじゃない!
まったく、あのへらへら男…目の前にいたら首を斬り飛ばしてやるところだわ!」
憤慨した面持ちで自分の考えと同じようなことを息巻く少女を見て、奈々は少し親近感を抱く。
「あっ、自己紹介がまだだったわね。
私はロカ・ルカ。見習い神官をやってるわ。」
「えっと…私は学生で…名前は那廻早栗です…。」
名前を名乗る二人に対して、奈々も自己紹介をする。
「私は奈々。職業は…学生でいいや。」
「…いいやって何よ?」
「何でもない。」
「…まあ、いいけど。」
一瞬トレジャーハンターとでも名乗ろうかと思ったが、説明が面倒くさいし、
そもそも姉に付き合っているだけのものなので、奈々は止めておくことにした。
(…そうだ、ついでにアイツと篭野なよりのことも聞いてみよう。)
「…天崎涼子と篭野なよりって人、知らない?」
「アマサキリョウコにカゴノナヨリ?
…それって、黄土色の皮を被った巨人だったりする?」
「…お前は何を言ってるんだ。」
意味不明なことをほざくルカに思わず突っ込みを入れてしまう奈々。
「一応、確認しただけよ。
私たちが会ったのは、お互い以外にはそいつだけだから。」
そう言って肩をすくめるルカに、奈々は一応は納得する。
「そうだ、そいつには気をつけなさいよ。
そいつ、サクリにいきなり襲い掛かってきたんだから。」
ルカは真剣な表情で奈々に忠告する。
その隣ではそのときのことを思い出したのか、早栗が怯えた表情を見せている。
その後、その黄土色の巨人の話を二人から聞いて、奈々はその巨人を要注意人物として
警戒することにした。
そして、次に奈々が篭野りよなと会ったことを話したが、それを聞いてルカが怒り出した。
「あんた、目の見えない人を放ってきたって言うの!?」
盲目であるりよなと出会っておきながら、それを保護しないなど、見習いとはいえ
人のために尽くすことを仕事とする神官であるルカには信じられなかった。
こんな殺し合いの場で目の見えない少女がうろついていて、もし危険な人物に
出会ってしまったらどうなるか。
そんなことは考えなくても分かるだろうに、なぜ一緒に付いていってやらなかったのか。
ルカは奈々の取った行動に怒りを感じていた。
「…別に助けてって頼まれなかったし…。」
一方の奈々にもなぜルカがそこまで怒るのか理解できなかった。
相手は自分の助けを求めているようには見えなかったし、こんな殺し合いの場で
目の見えない少女を保護するほどの余裕は自分にはない。
面倒だということもあるが、何よりもそんな身の丈に合わないことをして、自分まで
死んでしまっては笑えないではないか。
どれだけお人よしな人間でもそんなことは分かるだろうし、それで責められるような
いわれはないはずだ。
奈々はルカの理不尽な物言いに不満を感じていた。
二人の間に険悪な空気が流れる中で、早栗はあわあわとうろたえていた。
仲裁をしようかとも思うが、自分が仲裁したところで果たして効果があるだろうか?
というか、それ以前に自分とほとんど年が変わらない少女であるにもかかわらず、
やたらと迫力のあるこの二人の喧嘩に、自分は口を挟むような度胸があるのか?
(む…無理だよぉ…!)
早栗は泣きそうな面持ちで、ただこの重い空気に耐えるしかなかった。
そして幾ばくかの時間が流れた後、先に折れたのはルカだった。
大きく溜息を吐くと、
「…まあ、たしかに…よく考えてみればアンタの言うことも分かるわ。
こんな状況で他人の面倒まで見ろ、なんて私に強制できるわけないし、
それでアンタが危ない目に遭うかもって考えるとなおさらだわ。」
冷静になってみれば、ルカにも奈々の言い分は分かる。
自分の生存を優先したい、という考えは至極まっとうなものだし、
生き残りたくて殺し合いに乗る者に比べれば100倍マシである。
「…少し言いすぎたわ。悪かったわね、ナナ。」
「…別に、いい…。」
そっぽを向きながら答えた奈々がおかしくて、ルカはぷっと吹き出す。
それを見て憮然とする奈々、早栗は空気が軽くなったのを感じ取って安堵の息を漏らし、
そんな早栗を見て、ルカは少しバツが悪そうな顔をする。
(…サクリにも心配かけちゃったわね。)
そう思い、ルカは気を取り直して奈々に言葉を向ける。
「…とにかくそのリヨナって子のいた場所を教えてくれない?
放っておくわけにもいかないから、私はそっちへ向かってみることにするわ。」
「ん、分かった。」
その後、りよなの場所も含め、お互いの情報を交換して彼女たちは別れた。
ルカと早栗は奈々が東の森でりよなを見たという言葉に従って、東へ向かっていた。
元々はルシフェルから遠ざかるために北を目指すつもりだったが、盲目であるりよなの話を
聞いてしまってはそうもいかない。
守るべき弱者の身を案じて、ルカは足を速めていた。
早栗はそんなルカを見ながら、考えていた。
(目の見えない人まで連れていくなんて…危ない人に襲われたとき、大丈夫なのかな…。)
いくらルカが強いとはいえ、今は武器の一つも持っていないのだ。
不安を抱えつつも、ルカと離れるわけにはいかない早栗はルカの歩みに小走りでついていく
しかなかった。
【E−3:X3Y2/森/1日目:午前】
【ロカ・ルカ@ボーパルラビット】
[状態]:疲労小
[装備]:無し
[道具]:デイパック、支給品一式
(食料4/6、水3/6、地図無し、時計無し、コンパス無し)
[基本]:生存者の救出、保護、最小限の犠牲で脱出
[思考・状況]
1.篭野りよなを探して保護する
2.他の戦闘能力の無さそうな生存者を捜す
3.ルシフェルを警戒
4.天崎涼子、篭野なよりを探す
【邦廻早栗@デモノフォビア】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:無し
[基本]:自分の生存を最優先
[思考・状況]
1.とりあえずはルカに付いていく
2.ルカが自分を守りきれるのか少し不安
※奈々に地図と時計を見せてもらったことで現在地と時間を知りました。
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