→驚く女る見夢←

 
鬱蒼とした森の中、明るく元気な声が高らかに響く。

「イ〜ザす〜す〜め〜や〜・・何だっけ?・・・まっいっか♪」

彼は手に持ったツルハシを指揮棒のようにブンブン振り回しながら陽気に歌を歌う。

「あした〜を〜かたれ〜ず〜・・・んー♪今日はすこぶる喉の調子が良いぜっ!」

彼は歌い続ける。
キーが外れてようが、古い曲だろうが、アニメソングだろうが、うろ覚えだろうが、知っている曲を片っ端から歌う。
彼の歌声は暗く薄気味悪い森の中を、明るく暖かい色に染めていった。

「ほ〜し〜ぞら〜の〜し〜た〜の〜ディー・・・あっ!!」

突然、彼の歌声が止まる。
今まで以上に勢いよく振り回したツルハシが手元を離れ、宙に舞ったからだった。
ツルハシは彼自身でも想像していなかったぐらいの速度で森の奥深くへと飛んでいく。

「うわっ!やっべぇー!!待ってくれぇー!ツルハシやーい!」

オンボロとは言えあのツルハシは立派な凶器である。
鉄製の尖っている部分がもし誰かに当たったら、きっと大怪我をしてしまうだろう。

(もし誰かに当たっちまったら・・・土下座じゃすまねぇ〜よぉ〜・・・!!)

彼は少し涙目になりながら必死に追いかける。
全力で走っているのにも関わらず、足場が悪いせいかツルハシとの距離はどんどん離れ遂には見失ってしまった。

(うわぁ〜ん・・・何とかしてくれぇ〜・・・冥夜ぁ〜!)


 
・・・どれぐらいこうしているだろうか?
一時間のようにも、一分のようにも思える。

(くっ・・迂闊に動くワケには行かないけど・・このままじゃジリ貧だわ・・!!)

何せ、今私が対峙している相手は今までに見たことがない魔物だ。
この後どんな攻撃を仕掛けてくるか考えるとキリがないが、かと言って我武者羅に突っ込むのは流石に無謀過ぎる。

(洞窟じゃなかったら、一気に吹き飛ばしてしまうのも手なんだけど・・・。)

高威力魔法を使って相手を倒せたとしても、その衝撃で出口が塞がり生き埋め状態になってしまったら元も子もない。

(と言っても、相手の種族すら特定できないんじゃ弱点も推測できないし・・・。)

中程度の威力の魔法ならば倒壊の危険は薄いが、もしそれで相手に致命傷を与えられなかったら再詠唱中の隙を突かれるのが目に見えている。

(・・・うぅん、弱気になっちゃダメ!必ず何か突破口があるはずよ!しっかりしなさい、私!)

私は自身に喝を入れて不気味なぐらいに身じろぎ一つしない未知の魔物を睨みつける。
魔物はそんな私を嘲るかのように小さく低い呻き声を上げ、そして――。

「きゃあっ!?」

突然、魔物が凄い速度で突進を敢行してきた。
私は横へ飛び込んで間一髪の所で突進を回避し、素早く向き直る。

(くっ!こうなったら、とりあえず一旦牽制して距離を・・・)
「・・・へっ?」

私は目の前の光景が信じられず、その場で呆然と立ち尽くしてしまった。
突進を敢行してきた魔物は転進するどころか、更にその速度を増して洞窟の奥深くへと滑るように消えて行ってしまったからだった。
そしてしばらくして、壁に何か硬い物が激突したような音が響いてくる。
私はその音で我に返り、無様に口を開けっ放しにしていることに気付き慌てて口を閉じる。
そしてあるはずのない視線を気にして周りを見回してしまった。

(いったい何だったの?・・・兎に角、今の内に出口に向かおう・・・。)

私は服に付いた汚れを払い落とし、足早に出口へと向かった。

(・・・さてと。ルーファス君ならどう動くかな。)

私は洞窟を出た所で地図を広げ、彼がどう動くかを考えてみることにした。
彼の身に何も無ければ、今頃は私やあの二人の存在を知って行動を合流を考えているだろう。
どの辺りに転送されたのかは分からないが、恐らくは北に向かっているはずである。
地図を見る限りでは、合流の目印になりそうな施設や建物は北側に比較的多く存在しているからだ。
それに、建物が多いと言うことは中にそれだけ役に立ちそうな道具が落ちている可能性も高いと言うことだ。
彼は賢い子だから、建物を散策して役に立ちそうな道具を集めようと考えてもおかしくはない。

(それに、国立魔法研究所って名前の施設もあるしね・・。)

勿論、コレが私の知っている国立魔法研究所であるかどうかは実際に行ってみないと分からない。
もし私が知っている施設であれば、彼にとってもかなり有益な道具が拾えるだろうし、何より見知った場所であるという安心感がある。
素直な彼のことだから案外、直接この施設を目指している可能性もある。

(・・・よし、商店街経由で国立魔法研究所に行ってみよう。)

現在位置から見ると国立魔法研究所は最も建物の数が多いと予想される商店街を通過できるような場所に位置している。
よって此処から北東へ森を抜ければ、道中の建物をなるべく多く調べつつ向かうことができる。
それに国立魔法図書館は北側にある施設の中心部に位置している。
此処を拠点にして北側施設を一通り巡回すれば、彼と必ずや合流できるだろう。
私は早速行動を開始した。

(・・・にしても、さっきの魔物。本当になんだったのかしら?)

道中、私はあの魔物について考えていた。
何とかあの場は切り抜けられたとは言え、いずれまた遭う可能性がある。
あの男がこのふざけた”ゲーム”のために用意した魔物であるのならば尚更だ。
今の内に何かしらの対策を考えて置かなくては、次も運良く切り抜けられるとは限らない。

(そう言えば、名簿に幾つか人の名前とは思えない名前があったような・・・。)

私は記憶の糸を手繰り寄せあの二人や彼の名前を名簿で調べた時のことを思い出す。
あの時、私は何かの参考になるかもしれないと一通り目を通した。
そして、幾つか人の名前とは思えないような名前を発見していた。

(・・・スライム、ルシフェル、オーガ、リザードマン、萩の狐、八蜘蛛、それにモヒカンね。)

これらが全てあの男が用意した魔物の名前だとした場合、名前から推測して、オーガ、リザードマン、萩の狐は亜人間系の魔物だろう。
八蜘蛛は昆虫系で、ルシフェルは不死系か悪魔系、スライムはあのスライム以外に考えられない。

(・・・となると、アレはモヒカン?)

そもそも、モヒカンと言えば鶏冠のような髪型を指す単語であって決して名前ではない。
怪鳥の類ならばそう言う名前の魔物も居るかもしれないが、他にも鶏冠のような物がある怪鳥は探せば沢山居るだろう。
モヒカンだけでその個を特定するには説得力に欠けていると言わざるを得ない。
それでも参加者名簿に載っているのだから、一応は名前なのだろう。
もしかしたら、私が知っている意味とは違う意味の単語として宛がわれているのかもしれない。
種族も行動パターンもよく分からないあの魔物にはお似合いの名前だ。

(って、これじゃあ全然ヒントにならないじゃない・・・。)

縦しんばあの魔物の名前がモヒカンだったとしても、私の知らない意味の単語として宛がわれているのならば何のヒントにもならない。
私が心の中で悪態をつきつつ大きな溜め息をついた時であった。

「―――っ!!」

突然、何か大きくて黒い物体が凄い速度で私の顔を掠めた。
それからすぐ後ろの木に何かが突き刺さったような音がする。
私は後ろを振り返って正体を探る。

(・・なっ!?ツルハシ!?)

ボロボロであったがそれは確かにツルハシだった。
ツルハシは鉄製の掘削部を木の幹に半分ほど減り込ませて宙に浮いている。
偶然外れたから良かった物の、もし当たっていたら致命傷だったに違いない。
私は背筋が凍り付くような感覚を覚えた。

「・・・おーい!何処まで行ったんだよぉ〜!ツルハシや〜い!!」
「!?」

恐らくはこのツルハシを投げた人物の声だろう。
声質や気配から若い男性であることは分かった。だが、どうして彼が私に向かってツルハシを投げてきたのかは想像できなかった。
私は若い男性からツルハシを投げられるような心当たりは無いし、あの様子では彼が”ゲーム”に乗った人間だとは思えないからだ。

(でも、こんな状況で人にツルハシを投げといて、あの警戒心の欠片も無い態度は怪しいわね・・。)

もしかしたら、彼は”ゲーム”に乗ってないフリをしているだけかもしれない。
本当はあのツルハシで仕留めるつもりだったが、外してしまったので急遽手を変えたとも考えられる。

(堂々と近づいてくるなんて益々怪しい・・・。)

私にツルハシを投げてきた彼のことだから、私が警戒していることにはとうに気付いているはずだ。
それでも彼に動きが無いということは、彼に飛び道具が無いか、確実に当てられる距離まで接近するつもりかのどちらかだろう。
私は彼が再び飛び道具を使ってきても対応できるよう詠唱準備をして彼の反応を待つ。しかし、彼は依然として無警戒に接近してきた。

(・・どうやら、飛び道具は持って無いみたいね。それなら。)

私は茂みの影から彼が登場するまで待つことにした。
彼が私の姿を発見した所で此方から声を掛けて立ち止まらせ、有無を言わさず接近戦に持ち込まれないようにするためである。
それに、相手の姿が見えていた方が力加減がしやすい。
いくら殺し合いに乗った非情な人間とは言え、死んでしまったら必ず誰かが悲しむだろう。
できることなら無力化させるだけに留めたい。
ついでに白状するならば、ツルハシなんかで私を殺そうとした人間の顔を一度見てみたいという魂胆もあった。

(さて、そろそろね。いったい、どんな凶悪な面構えをしてるのかしらねっ!?)

「ちくしょー!返事ぐらいしろよぉ〜・・・あっ。」
「・・・えっ。」

茂みの影から現れたのは、私より少し若いぐらいの青年だった。
淡い赤色に染まった頬に、少し潤んでいる赤い目、少しボサボサの黒い髪の彼は私の想像していた犯人のイメージとは大きくかけ離れていた。

(と言うか・・・寧ろちょっと・・・可愛いかも?)
「・・・あ、あのさ。」
「・・・ダメ!ダメよクリス!惑わされちゃダメ!!」
「へっ?」
「・・あっ。」

私は思わず顔を赤らめて彼から目を逸らしてしまう。
そして、一度大きく深呼吸をしてから仁王立ちで彼を見据えた。

「あ、貴方ね!危ないじゃないの!もしあた・・」
「すまん!このとーりだ!態とじゃねーんだ!ほんっっっっとすまん!!」

私が全てを言い切るよりも先に、彼は物凄い速度で地に伏せ土下座を繰り返した。
その顔は後もう一言キツい言葉を投げかけたら、涙と鼻水でグチャグチャになりそうな感じだった。

(うっ、こ、これじゃあ私の方が悪者っぽいじゃないの・・・もぉ・・・。)

私は態と彼にも聞こえるぐらいに大げさに溜め息を一つつき、それから・・・。


 
「う〜ん・・・もう、おなかいっぱいだよぉ〜・・・。」

私は今、大好物を鱈腹平らげ幸せの絶頂に居た。
少し食べ過ぎたせいかお腹が苦しい。お腹を軽く摩っていると今度は目の前に飲み物が出てきた。

「おお〜・・・気が利くねぇ〜・・・おいひっ♪」

私は一気に飲み干して、四肢を思い切り床へと投げ出す。

「うん・・?」

私は足に何か硬い物に当たった気がしたので、上半身を少し起こして確認してみる。
しかし、何も当たってるような様子は無かった。

「ふぁぁ〜・・・ん?・・・なんか、涼しぃ〜・・・♪」

すると、少し暑かった空間が突然快適な温度に変わった。
私は何故変わったのか疑問に思ったが、眠いので後で考えることにした。
私はもう一回大きく伸びをしてからゴロりと身体を横向きにする。

「Zzz・・・何か、ちょっとうるさいけど・・・いいや、おやすみぃ〜・・・・zzZ」

眠りに堕ちる間際、遠くの方で何かが高速で回転する音と耳元で砂利が巻き上がる音が聞こえた気がした。

「Zzz・・・痛っ。」

私が気持ちよく寝ていた時である。
突然おでこがズキズキと痛み出し、同時に何か凄い大きな音がした。

「ふぇ〜・・・イタぁ〜い・・・それに・・・うるさぁ〜い・・・」

しかし、うるさかったのは最初の数秒程度で、その後は寝る前のあの静かな空間に戻っていた。
私は原因を探って排除しようかとも思ったが、おでこの痛みも引いてきているし何だか面倒なので水に流すことにした。

「・・・床・・・ちょっと硬い・・・ふわぁ〜・・」

此処はとても居心地の良い空間なのだが、床がちょっと硬い。
私はもう少し寝やすい場所を探すことにした。

「でも・・あと・・・4分だけ・・・zzZ」

私はもう一回寝返りを打って仰向けになると、夢の中の桃源郷へと旅立っていった・・・。




【B−2:X2Y2/森/1日目:午前】

【クリステル・ジーメンス@SILENT DESIRE】
[状態]:健康、魔力残量十分
[装備]:無し(懐中電灯はデイパックに仕舞った)
[道具]:デイパック、支給品一式
モップ@La fine di abisso
白い三角巾@現実世界
雑巾@La fine di abisso
[基本]:対主催
[思考・状況]
1.ツルハシを投げてきた人物をどうするか考える
2.ルーファス・モントールを探すため商店街経由で国立魔法研究所へと向かう
3.その道中でアーシャ・リュコリスかエリーシア・モントールと会えたら合流する
4.首輪を外す方法を考える

【御朱 明空(みあか あそら)@La fine di abisso】
[状態]:正常
[装備]:無し
[道具]:デイパック、支給品一式(食料6/6・水6/6)
おにぎり×4、ランチパック×4、弁当×2、ジュース×3
包丁、ライター、傷薬、包帯
[基本]:主催者の打倒
[思考・状況]
1.兎に角土下座して謝ってみる
2.古い木造校舎へ向かう
3.冥夜を捜す
4.殺し合いに乗る人なんているわけがない

【B−1:X4Y3/洞窟内部/1日目:午前】

【門番{かどの つがい}@創作少女】
[状態]:健康(おでこにたんこぶが1つできました)、熟睡中(食後の睡眠中)
[装備]:レボワーカー@まじはーど
(損傷度0%、主電源入、外部スピーカー入、壁に正面衝突してそのまま待機中)
[道具]:無し
[基本]:寝る!邪魔されたり襲われたら戦う、場合によっては殺す
[思考・状況]
1.夢の中で床がちょっと硬いからもう少し寝たら別の寝場所を探す
2.おでこ、少しだけ痛いなぁ・・・

※門番は自分が今何処にいるのか知りません
※そればかりか、このゲームに巻き込まれていることにすら気付いていません
※門番のデイパックはレボワーカーが鎮座していた後ろに置いてあるままです

@後書き
クリスさんが可愛くて少しやりすぎた感も否めませんが、こんなクリスさんもアリかなぁとか思ってみたり・・。(^^;
企画が盛り上がること願ってますよー!



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