美奈、ヘタレる

 
≪美奈、ヘタレる≫

美奈は廃墟へ向かうために、橋を渡ることにした。

理由は簡単、橋なら海沿いに歩いて廃墟を目指すよりも
警戒する範囲が狭くて済むからである。

そして、時計が午前8時をいくらか過ぎた頃にようやく美奈は
橋を渡り終え、橋の反対側へと辿り着いた。

しかし、一息ついたのもつかの間、ここからなら廃墟が見えるのではないかと
目線を上げた美奈は、遠方にいくつかの人影を捉えた。

落ち着いた印象の青年にツインテールの少女、それとなんか浮いた布切れ。

それを確認した次の瞬間、怒号が聞こえた。

そちらに目を向けると、赤パン一丁のモヒカンの変態が雄叫びを上げて青年たちに襲い掛かる光景。
慌てて、こちらに矛先が向かわないように近くの岩の影に隠れてから様子を伺う美奈。

再び美奈が彼らに目を向けたとき、青年がいつの間にか倒れていた。
その近くには血まみれの剣を手にした和装の少女。
(ちなみにこのとき、布切れが風に飛ばされていったようだが、これはどうでもいいことだと美奈は判断した。)

そこからは一瞬の出来事だった。

和装の少女が信じられないほどの速度で動き、青年とモヒカンの男を殺害した。
その和装の少女に銃撃で応戦したツインテールの少女も、肩を深々と切りつけられて倒れた。

あの傷ではツインテールの少女はすぐに手当てをしなければ死ぬだろうし、手当てをしたとしても
最後まで生き残るのは難しい。
つまり、事実上リタイアと見ても間違いは無いだろう。

(一瞬で三人も…。)

ふと自分の手が震えているのに気づく。

(私はあんなに簡単には死なない…!)

そう思いながらも、目の前で人があっさり殺されるところを見せられて、美奈は衝撃を受けていた。
深呼吸をして、乱れた気持ちを落ち着ける。

大丈夫だ。自分は生き残れる。自分ならやれる。

そう言い聞かせて目線を上げると、奇妙な光景が目に映る。

「…?」

モヒカンの男が無傷で立っていたのだ。

なぜ彼が生きているのか?確かに和服の少女に殺されたはずでは?

美奈が混乱しているうちにモヒカンの男はツインテールの少女へと近づいていき、


ツインテールの少女を殴りつけた。

それだけに留まらず、モヒカン男は笑いながら少女の腕を折り、服を引き裂き、少女を陵辱しようとする。

それを見た美奈は悲鳴を上げそうになり、慌てて口を押さえる。

下品に笑いながら、心底楽しそうに少女を嬲る男の姿。
それを見た美奈の脳裏にある光景がフラッシュバックする。

引きちぎられる制服、嫌らしく笑う男たちの顔。
その顔が無理やり唇を奪おうと近づいてきて…。

「…っ!!」

目を見開いて涙を浮かべながら必死で悲鳴を噛み殺す。

(駄目…!今、悲鳴を上げたらアイツに気づかれる…!)

もし気づかれたら、あのツインテールの少女と同じ目に会わされるかもしれない。

イヤだ!!それだけは絶対にイヤだ!!

美奈は凄惨な光景から目を背け、岩陰に隠れて耳を塞ぐ。
それでも聞こえてくる少女の絶叫にただ震えていることしかできなかった。


しばらく時間が経ち、気が付くと少女の悲痛な声は聞こえなくなっていた。

恐る恐る岩陰からそちらに目を向けると、すでにモヒカン男はいなくなっていた。

「…もう、大丈夫よね…?」

何度も周りを見回して確認して、ようやく安全だと判断した美奈は青年と少女の死体に近づく。

青年の死体はまだ綺麗なものだったが、少女のほうはひどいものだった。
殴打の痕に、折られた腕、服が引き裂かれ、秘所は血だらけ、肩の傷は抉られて白濁がこびり付いている。

目を背けて口元を押さえる美奈。

(…やだ…もう……ここにいたくない…。)

そう思った美奈は手早く二人の荷物を改める。
青年のデイパックに入っていた拳銃と何らかの薬品だけ自分のデイパックに入替え、残りは岩陰に隠しておく。
あまり荷物が重くなるのも問題だし、必要になったら後で取りに来ればいいと考えた故の行動である。

(…これから、どうしよう…。)

廃墟に行くという選択肢は、もはや美奈の中に存在していなかった。

あの和服の少女は廃墟のほうに向かっていったのだ。
あんな危険人物が近くにいるのに、のんびりと隠れていられるほど美奈の神経は太くない。

美奈は先ほどまでは、自分は大丈夫だと、半ば自分に言い聞かせる形で繰り返してここまで歩いてきた。
だが、トラウマを思い出させられた今の美奈は、大丈夫などど欠片も思えないほどに精神的に弱ってしまった。

「…休みたい…。」

弱々しくポツリと呟く美奈。
二時間くらい歩き続けた後に、先ほどの出来事である。
美奈は肉体的にも精神的にも疲れていた。

「…ちょっとくらいなら、ここにいても大丈夫よね…?」

この岩陰に隠れていれば、北から西までは姿を隠してくれるし、東はフィールドの端、南は先ほど渡ってきた橋だ。
危険は少ないと見て問題無いだろう。

そう考えた美奈は、ふうと息を吐いて腰を落ち着ける。
抱えた膝に顔を埋めながら、美奈は呟く。

「…パパ……お願い…私を守って…。」

いつも自分に優しくしてくれた父を思い出しながら、すっかり弱気になってしまった美奈は
しばらく震え続けていた。




【B−5:X2Y4/岩陰/1日目:午前】
【加賀 美奈{かが みな}@こどく】
[状態]:疲労小、精神疲労中
[装備]:安全ヘルメット@現実世界
先の尖ってる石@バトロワ(ポケットの中にしまっている。)
[道具]:デイパック、支給品一式
木彫りのクマ@現実世界(一般的なサイズの物)
AM500@怪盗少女(残弾1発、安全装置未解除)
※美奈は残弾数について確認していません。
奈々の拳銃(?/8)@BlankBlood
エリクシル@SilentDesire
[基本]:絶対死にたくない、元の世界へ帰る
[思考・状況]
1.生き残る方法を考える
2.他の参加者に会わないよう警戒する

※なぞちゃん、モヒカンを危険人物と認識しました。
※岩陰に冥夜となよりのデイパック(二つとも中身は基本支給品のみ)を隠しました。
※リョナレスの望遠鏡@怪盗少女はそのままです。
※モヒカンは北か西の方面に向かいました。




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