(まったく、何処でボサッと突っ立ってるのやら・・・。)
森へと向かう道中、エルフィーネは思案に暮れていた。
自分と同様、この事態に巻き込まれた知り合い、鬼龍院美咲の行方についてだ。
通常、こういった場合、普段の行動から’アタリ’をつけていく物だろう。
しかし、こと彼女に限っては、それは不可能である。
何故ならば彼女の普段の行動が、’テキトーな所でずっと腕を組んで突っ立っている’だからだ。
この、実に単純明快すぎる行動ゆえに、こういった状況では’アタリ’が付けにくい。
(ホント、世話の焼けるコね・・・。)
エルフィーネは小さく溜め息をつく。
地図はあの蔓どもに襲われる前に、簡単に確認していた。
詳細は不明であるが、どうやら此処は結構な広さがあるようだ。
そんな広い場所で、能動的に行動しようとしない人物を捜す。
その、床に落としたコンタクトレンズを探しているような感覚に、エルフィーネは愕然とする。
「・・・エル?
聞いてる?」
「・・・・・・えっ?」
エルフィーネは見上げるように首を横へ向ける。
そこには赤い髪の女性、アーシャの姿があった。
エルフィーネの反応に、アーシャは彼女が何も聞いていなかったのを悟った。
少しの間をおいて、再びアーシャが口を開く。
「もうじき、私が目覚めた辺りだけど・・・、エルはこれからどうするの?」
「んっとぉ、エルは、えぇっとねぇ・・・。」
美咲を捜しだす。
エルフィーネの心中は、既にそう決まっていた。
非常に面倒で困難な道であるが、エルフィーネにとって彼女はかけがえのない姉貴分であり、妹分である。
しかし、エルフィーネは口にするのを躊躇った。
運良くロザリオが手に入ったとはいえ、連続して戦える時間は限られている。
安定した防衛力として、エルフィーネは彼女に是非とも同道を願いたい。
彼女の今までの言動からして、頼めば確実に受け入れてくれるだろう。
(でも、彼女にも大切な人の一人や二人、居るはずだもの・・・。)
彼女は他ならぬ、命の恩人である。
そして当然、彼女も彼女にとってかけがえのない人物が巻き込まれている可能性がある。
もしそうだったのならば、彼女に同道を願うワケにはいかない。
自分がそうであるように、彼女もその人物を捜したいはずだからだ。
勿論、彼女の捜したい人物を探す道中に美咲と出会える可能性はある。
しかし戦闘力の安定しない自分は、戦闘力の安定している彼女にとっては負担でしかない。
この状況では、自己の負担になるような物は極力排除するのが定石のはずだ。
(恩を仇で返すような真似はしない。それが、私なんかを傍に置いてくれる、五代目に対しての私なりの感謝の表し方・・・。)
エルフィーネは退魔師である。
退魔師はその特異性から、人々から疎まれていた。
エルフィーネもその例に漏れず、ずっと独りぼっちだった。
だからこそ、エルフィーネにとって初めてできた仲間である美咲の存在は大きい。
エルフィーネは、どんな手段を用いてでも彼女を探し出したかった。
しかし美咲は、恩義を重んじる人物だ。
彼女にとって、命の恩人に迷惑をかけることは禁忌と言っても過言ではない。
美咲が是としないことは、できればしたくない。
エルフィーネは彼女と出会ってからいつしか、そう思うようになっていた。
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