牢獄の中で

 
オルナは目を疑った。
目の前に現れた光景に・・・



彼女が目を覚ました場所は、広い部屋の中。
周囲は石の壁に囲まれており、床にはいくつかの魔方陣が描かれている。
出口は二箇所。扉が一つと、隣の部屋に続くであろう通路。

(どこだろう・・・ここ・・・)

何気なく辺りを見渡す。すると、一つの鞄が目に留まった。

(デイパック・・・あいつの言っていた通りね。)

「君たちを招待した目的はただ一つ!それは、ここにいる君たち全員でこれから殺し合いをしてもらうことだ!」
ロアニーの悪巧みを追っていると、突然、意識が遠のいた。
気が付いた時には薄暗い部屋に入れられ、その言葉を聞かされた。
オルナはその状況から、彼もロアニーの一員だと推測していた。
ただし、ゴートやリネルとは格が違う、組織でも最上位に位置する人物であると。

(とりあえず・・・開けてみましょうか。)

彼の「殺し合いをしてもらう」という言葉が本当なら、デイパック自体に罠がある可能性は低い。
やはりその鞄は何の問題も無く開き、中身も彼の言った通りの物が入っていた。
オルナはまず、その中の参加者一覧を手に取った。

(ナビィ、エマ、それにカナリア・・・やっぱり巻き込まれてるのね。)

最初に目についたのは仲間の名前。
気を失ったとき一緒にいたのだから、この場にいても不思議ではない。
次に彼女は、その後に続く名前に目をやった。

(ゴートに・・・リネルか・・・)

この二人とは戦った事がある。二人ともロアニーの一員だ。
おそらくは他の参加者を痛めつけるために、ゲームに参加しているのだろう。
以前は人数で優位に立てたから勝てたものの、1対1では厳しい。
そして最後にもう一人、彼女の知っている名前が現れた。

(ダージュ・・・!!)

彼とは・・・浅からぬ因縁がある。



参加者の確認を済ませた彼女は、他の荷物を確認した。

(食料と、水、ランプ、地図・・・あいつの言ってた物は、これで全部ね。あとは・・・)

デイパックの中には、あと2つの物が残っていた。
オルナはそのうちの1つ、杖のようなものを手に取る。

(これは・・・魔法の触媒のようね。)

見た目は単純で呪印の類も見られないが、材料自体に力があるらしい。
戦闘のほぼ全てを魔法に頼る彼女にとっては、これ以上ない支給品である。

(こっちは・・・何だろ。)

もう一つの支給品は、見たことも無い形をした鉄の塊だった。
側面に彫られた星のマークが目を引く。
その正体は分からなかったが、何となく嫌な感じがして、それを再びデイパックに戻した。



(さて、と・・・)

地図を見る限り、こんな広い部屋のありそうな建物は三箇所。
A4エリアの国立魔法研究所、A5エリアのリョナラー連合東支部、そしてD4エリアの螺旋の塔だ。

(この中だと、魔法研究所の可能性が高いかな。)

床一面の魔方陣と関係がありそうな所は、そこしかない。

(何にせよ、まずはこの部屋を調べてみましょう。)

オルナは最初に、すぐ近くにあった扉を調べることにした。
鉄でできた枠に木がはまっている、頑丈そうな扉だ。
その隣には石版がある。そこには、こう書かれていた。

『この先「昏い街」』

オルナは違和感を感じ、地図を見直す。

(D3エリアに、そんな名前の場所があるけど・・・)

確かに地図には街の絵が描かれており、「昏い街」という地名も入っている。
だが、そこに直接つながるような建物は無い。

(だとすると、転移の魔方陣があるのかな。)

彼女にとって、転移装置は珍しいものではない。
というより自宅にさえあって頻繁に利用する、ごく身近なものだ。
だが、転移先がハッキリしない場合、安易に使うべきではない。このような状況なら尚更だ。
彼女はひとまずこの場を離れ、他の場所を調べることにした。



(この図形は炎、こっちは氷、雷・・・風と光もあるわね。)

オルナは床に描かれている魔方陣を調べていく。
素人目には差異が分からないが、彼女はそれぞれの図形の意味を、正確に見抜いていった。

(でも・・・既に魔力が失われて久しい。)

描かれてからかなりの年数が経っているらしく、もう力を発揮することは無いだろう。
少なくとも、これからの役に立ちそうにはない。



最後に彼女は、隣の部屋を調べに行くことにした。
通路にはまた石版があった。

『この先「進化の祭壇」』

地図にはそのような名前の場所は無い。おそらくはこの建物内の施設なのだろう。
程なくして、小さめの部屋にたどり着いた。
「祭壇」の名が示す通りの赤い絨毯に彩られた階段が目に入る。

(・・・行ってみましょう。)

オルナは意を決して階段を上り、その最上段にたどり着いた。
そしてそこで、この場所がどこであるか、知る事になる・・・

(ここは・・・!!!)

視界が一気に開ける。彼女は今、塔の最上階に立っていた。



どうやら彼女達が連れてこられた場所は、地図の通りどこかの孤島のようだ。
その地図によると、ここからそのほぼ半分を見渡せていることになる。
海岸線の先は、霧がかかっていて見えない。
ロアニーの連中が他者の干渉を防ぐために島の周囲を霧で囲んでいるのだろうか。
いずれにせよ、彼らを何とかしない限り、この島からの脱出は不可能だろう。

(これはまた・・・用意周到ね・・・)

彼女は溜息をついて、その場を後にした。



(さて・・・残るはここだけね。)

彼女は再び、最初に調べた扉の前に戻ってきた。
ここ以外に脱出口は見当たらなかった。ならば、危険を承知で「昏い街」に行くしかない。
ドアのノブを捻り、引っ張る。幸いにも、鍵はかかっていなかった。
しかし・・・



オルナは目を疑った。
目の前に現れた光景に・・・



(壁・・・・・・)

そこには、周りと何一つ変わらない、石の壁が聳え立っていた。



これぐらい、十分に予想できた事だ。
この先にたとえ転移陣があったとしても、作られた時期は床の魔方陣と変わらないだろう。
床の魔方陣が発動しない以上、同様に力を失っている可能性が高い。
案の定、転移することは出来なくなっている。その結果がこれだ。

オルナは、この程度の予測が出来なかった自分の愚かさと、期待を裏切られたショックで、言葉を失った。



(さて・・・と・・・)

ここから出るルートがあるとすれば、それはここしかない。
オルナは、進化の祭壇の最上段から、遥か遠くの地面を見下ろしていた。

(地面につくまで、4秒・・・)

ここから落ちれば間違いなく死ぬ。多少地面が柔らかくても、その結果は変わらない。
だが彼女は逆に、その高さを味方につけようとしていた。

(・・・大丈夫、間に合う。)

彼女が考えた方法はこうだ。
まず、祭壇から飛び出した直後に、魔法の詠唱を始める。
そして出来るだけ早いタイミングで、真下に向かって『ウェーブ』を放つ。
ただでさえ強力な魔法で、しかも杖によりさらに威力が上がる。
その反動で身体に上向きの力が加わり、落下速度を落とせるはずだ。
もちろん無傷というわけにはいかなくても、ヒールで回復すれば済む程度にはなるだろう。

(・・・よし!)

右手に杖を握りしめ、背中にデイパックを背負う。
彼女は床を蹴って、空中に飛び出した。



しかしその直後、彼女の計画はもろくも崩れ去る。

ズドン!

背中から脇腹にかけて、鋭い痛みが走る。

(ぐ・・・な、何が・・・)

彼女には分からなかったが、無造作にデイパックの中に入れた黒い塊が、火を噴いたのだ。
その正体は拳銃。しかも安全装置が無く、暴発の危険性が極めて高い物だ。
慎重に扱ってさえ事故が起こるのに、銃の存在すら知らない彼女が持てば、こうなるのは当然の事だ。

しかし、それにしてもタイミングが悪すぎた。

(しまった・・・間に合わない!!)

最早、魔法を使うだけの猶予は残されていない。
彼女の身体はどんどん加速し、地面に近付いていく。


「いやあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!」

グシャッ




【オルナ@リョナマナ 死亡】
【残り41名】




【D-4:X3Y4/螺旋の塔/1日目:朝】

【オルナ@リョナマナ】
[状態]:死亡(転落事故死)
[道具]:デイパック、支給品一式
    霊樹の杖@リョナラークエスト
    トカレフTT-33@現実世界(弾数 7+1発)

※死体と支給品は、螺旋の塔の側に落ちてます。
※たぶんエリーシア達の裏側です。

※参考資料
トカレフTT-33
ttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%82%AB%E3%83%AC%E3%83%95TT-33
ttp://www.securico.co.jp/report/tokarev.html
(要するに、安全装置が無く貫通力の高い銃と思ってもらえれば)


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