「・・・来るか。」
ロシナンテが前方に意識を向ける。
「さっきの仕返し、ってとこかな。」
アーシャが小太刀を手に後方を警戒する。
「(リト、敵の数は?)」
「(20・・・いえ、30はいますね。)」
シノブは二人の間で戦闘力の劣るエルを庇う姿勢を取る。
(出来れば、魔力は温存したいのだけど・・・)
エルは首から提げたロザリオを握りしめた。
「遅いっ!」
ロシナンテは炎の鞭を振るった。二匹のモモンガの亡骸が、彼女の足元に落ちる。
その直後、明確な敵意を持ったモモンガの大群が、四方八方から彼女達に襲い掛かった。
「浄化の炎よ、全てを飲み込み、灰塵へと誘え―――メキドフレア!」
アーシャの特大魔法が炸裂し、数体のモモンガを焼き払う。
「・・・引かない、か。」
通常、野生動物は火を恐れる。
アーシャの行動もそれを考えての事だったが、どうやら彼らには通用しないらしい。
それどころか、発動直後の僅かな隙を突いて、一匹のモモンガがアーシャの懐に飛び込んだ。
「甘い!」
アーシャはそれを難なく小太刀で払い落とす。
そして即座に、次の一撃を放った。
「サンダーストーム!」
彼女の手から放たれた電撃の嵐が、目の前のモモンガ達を巻き込んだ。
「そこだっ!」
シノブの裏拳が、モモンガの顔面にクリーンヒットする。
変身していないと威力は落ちるが、シノブの我流拳法はプロの格闘家にも引けを取らない。
アーシャやロシナンテが討ちもらした相手を掃除するには十分だ。
(この分だと、何とかなりそうね。)
そんな三人の活躍を見て、エルは胸のロザリオから手を離した。
しかし、彼女は気付いていなかった。真上から迫る刺客に・・・
「んんんんんんんんんんーーーーーーっっっっ!!!!」
一匹のモモンガが、エルの顔面に取り付き、尻尾を口の中に押し込んだ。
彼女の小さな口にはモモンガの尻尾はあまりにも太すぎて、空気の漏れる隙間も無い。
それどころか、その小さな空間を顎が外れそうなぐらいまで押し広げている。
(ん・・・息が・・・剥がさないと・・・!!)
しかし、このモモンガの力はアーシャでさえ苦戦するほどだ。
エルの小さな体で敵うはずも無く、全くの無駄な抵抗に終わる。
「エルっ!」
そんなエルの状況を察して真っ先に動いたのは、最も近くにいたシノブだった。
しかし彼女にも、別のモモンガが襲い掛かる。
「くぅっ!!」
そのモモンガは、シノブの尻を捕らえ、尻尾をミニスカートの中に入れた。
「え・・・きゃああぁっ!」
そしてその尻尾を器用に使って下着をずらし、彼女の秘部を攻め始める。
「ちょっ、や、やめろ・・・ひあぁっ!!」
振り解こうとしても、未だ受けたことの無い刺激に、シノブは全く力が出せない。
一方のアーシャも、八匹のモモンガに捉まれて、身動きが取れないでいた。
「ぐっ・・・離れ・・・いあっ、ぎいっ!!」
少しでも身体を動かすたびに、モモンガの爪が彼女の肌に食い込む。
「くうぅっ・・・みんな・・・ゴメン・・・」
もしかすると、草むらで蔓に襲われた時の疲労も残っていたのかもしれない。
アーシャは立っていることさえ出来ず、その場に倒れこんだ。
(所詮、人間の力ではこの程度か・・・)
三人が苦戦する中で、ロシナンテは唯一人、黙々とモモンガ達を狩り続けていた。
周りに被害が出るため、大技は使えない。それでも、自分の身を守る分には十分だ。
しかし彼女の戦闘スタイルは、あくまで広範囲の技で焼き尽くすのが主体だ。
この状況で他者の援護に回るだけの余裕は無い。
(・・・場所を変えるか。)
寄ってきたモモンガ達を振り払い、封じていた大魔法を放つ。
ドゴオオオォォン!!
森の奥で起こったその爆音に、アーシャ達だけでなくモモンガさえも動きを止めた。
何が起きたのか理解できていない彼らを尻目に、ロシナンテは二発目を放つ。
ドゴオオオォォン!!
「ロ、ロシナンテ、一体何を・・・」
シノブが慌ててロシナンテに声をかける。
しかし彼女はそれには答えず、モモンガ達に向かって叫んだ。
「お前達が如何に命知らずであろうとも、住処を焼かれれば黙ってはおられまい。」
その声にモモンガ達が反応し、三発目の魔法を放とうとしているロシナンテに目を向ける。
(そうだ、それでいい・・・)
ドゴオオオォォン!!
三度目の爆音を合図に、全てのモモンガが一斉にロシナンテに襲い掛かった。
「こっちだ、さあ来い!!」
するとロシナンテは、モモンガ達の包囲を抜け、森の奥へと走っていった。
その後をモモンガ達が追いかける。
後に残された三人は、それをただ呆然と見送るだけだった。
「海が・・・綺麗だ・・・」
一人の少女が、岸壁の上からその先に広がる世界に思いを馳せる。
その傍らには一人の男。
彼はその少女を真っ直ぐ見つめて、口を開く。
「その台詞もう10回目だろうがっ!!!」
「違うな・・・13回目だ。」
「余計悪いわっ!!」
俺は強姦男。プロの強姦魔だ。
紆余曲折あって、今はこの鬼龍院美咲という女と行動を共にしている。
というか、連れ回されてる。
確か俺達は、リザードマンの村とかいう所に向かってたはずだ。
最初、当ても無く歩き始めた俺達は、すぐに海にぶち当たった。
そこで、俺が時刻と太陽の位置と海岸線の形から、現在地を島南部の森林の西側だと割り出し、
まずは一番近くの施設に移動しようという事で、当初の目的地をそこに定めた。
と、そこまでは良かったのだが、その後が問題だった。
美咲は俺が持っていた地図を奪い取って、勝手にどんどん歩き始めた。
しかし方向が明らかにおかしい。どうやら地図の見方を知らんようだ。
しかも、俺がどれだけ指摘しても、間違いを認めようとはしない。
彼女いわく、「地図が間違ってる」そうだ。
だが、俺は断言する。間違ってるのはこいつの方向感覚だ。
その証拠に、海に出たのは10回・・・いや、13回目だ。
熟睡してる黄土色の化け物も5回は見た。そういえばここ1時間ほどは見てないが、起きたのかな。
「よし、次はこっちだ。」
美咲はそういって、俺の反応も確かめずに歩き出した。
俺は、無駄だと知りながらも、彼女に意見する。
「明らかに逆だろ! こっからだとリザードマンの村は西だ!」
普通なら、どんなにひねくれた奴でも、これだけ指摘されれば直さざるを得ないだろう。
だが、こいつが俺の言葉を受け入れようとしないのには訳がある。
「スライムなんかの指図は受けん!」
これが、その理由だ。
こいつと会ったとき、俺は素性を隠すために、本名・・・じゃなくて通り名を名乗らなかった。
するとこいつは、あろう事か俺をスライムと呼びやがった。
一瞬でこれが本名を言わせるための罠だと見抜いた俺は、仕方なくその呼び名を受け入れた。
そしたら何と、俺を本当にスライム扱いし始めたんだ。
服の中はどうなってるんだとか、動き続ければ無敵じゃないのかとか、仲間を呼んで合体しないのかとか・・・
かなりの屈辱だが、正体を隠すためには耐えるしかない。
その分、時が来たら・・・絶対犯す。ひたすら犯す。泣いても犯す。
「おい、どうした。早く行くぞ。」
奴が呼んでいる。今は・・・とにかく我慢だ。
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