〔Ep1 純心と赤い煌めき(カナリア視点)〕
「は……はひぃ〜〜……
やっとまっすぐ飛べるようになってきました……」
ふらつきながら、地上より少し高めに浮遊している
羽衣を纏った少女、カナリアは街道を斜め方向に進んでいた。
すでに日は高く、ゲーム開始時刻からかなり経っている。
彼女はこのゲームが開催されてから丸々2時間ほど
目を回しながら辺りを飛び回っていた。
「もぉ〜……急にあんな閃光が広がるんですもの……
避けれる訳ないじゃないですか……」
彼女は光を操る下位の精霊の一種だが、
逆に光に弱い一面も持つ。
先程、ゲーム開始時にキング・リョーナが転移魔法を使用した時に
放った閃光に目を眩ませてしまい、
まるで目印となる光を失った虫の様に
右往左往上下と平衡感覚を取り戻すために飛ぶことになってしまった
彼女は自身で使用するなら光の屈折レベルを変化させて
幻影投射をしたり、目くらましすることも可能だが、
自分以外からの強烈な光を受けると感覚器官が弛緩して
手足や飛行まで動作がままならなくなってしまう。
「まぁ……ロアニーにもその他の悪い人達にも
見つからずに済んだだけ、不幸中の幸いとしましょうか……」
無作為に飛び回っていて、体力に不安が残るが
動けないということはなさそうだ。
「それでしたら……ナビィ様達をお探ししますか、
それか一緒に来てくれる方をお探ししましょう」
なるべく多くの生存者……それも、
このゲームへの参加を良しとしていない人達を探して
生還の道を探すためにカナリアは前もってナビィ達と打ち合わせをしていた。
もし、ナビィ達と最初からはぐれてしまう状況だとしても
惑わされずに目的を果たそうと……主人の望みを叶えようと
カナリアには強く決意していた。
「とは言っても……戦闘は避けたいところですね……
愛用の竪琴も手元にないことですし……」
精霊である彼女は物理的な攻撃手段に乏しく、
魔力を帯びた竪琴の音色を物質化して攻撃するものや
神聖系統の魔術を扱うため、大事な時意外での体力やマナの消耗は
避けたいところだった。
「あ、そういえば支給品があるんでしたっけ……」
ゲーム参加者に配られたデイパックという荷物入れを
肩から降ろし、何か使えそうなものはないかと調べ始めた。
「あ、この中に入ってたんですね。私の竪琴」
デイパックの形が変形していなかったから気付かなかったが
没収されたと思っていた『精霊の竪琴』が入っていたことに
安堵の言葉が出てきた。
「後は……食料と地図と……宝石?」
精霊だから普通の食事は体力の代わりにはならないが、
マナに転換することで魔力はごくわずかなら回復できるが、
後者の支給品には疑問だけしかなかった。
竪琴と同様に、デイパックの中にあることがとても違和感のある
赤く煌めくルビーのペンダントが入っていた。
「……使い道、あるんですかね?」
全く意図の読めない支給品に頭を捻らせながら、
まんざらでもないようにカナリアはペンダントを首に掛け、
また街道を斜めに渡っていく。
すると、何やら大きな門が構えている町の様なものが視界に入ってくる。
「えーと……地図によると、ここは昏い街……」
街とは言ってはみたものの、人の気配どころか
もう人がいたという雰囲気にはまるで見えないほど寂れていて
昏い街という名前は、言い得て妙な街だった。
「あれ? でも、門は半開きになっていますね」
門に掛けられた扉は人一人分くらいの隙間を空けて、
風の通り道になっていた。
長い間このまま放置されていたのか、それとも
誰かが空けたままにしたのだろうか。
「……行ってみましょうか」
もう、私には選択肢がある。
ナビィ様のためにも、私は自分自身で
私に出来ることを私の意志で進めていかなくてはならない。
そう思うと、例え待ち受けているものがこのゲームに乗っている
凶悪な人物だとしても、足取りは淀むことが無い。
私は臆することなく、その街の一角にある
武具の看板の記された店へと向かっていった。
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