≪会いたい 前編≫
「くっ……」
炎を操る女との戦いに敗れ、重傷を負った美咲は全身を苛む痛みを意志の力で無理やりねじ伏せつつ、よろよろと立ちあがった。
(不覚を取った、この傷じゃ満足に歩くこともできない……)
少し身体を動かすだけで全身を針で刺されるような痛みが走り、顔を顰める美咲。
(このダメージはやばい……こんな状態でもし殺し合いに乗ったヤツに出会ったら……)
おそらく殺されるだろう。
全身に火傷を負って息も絶え絶えの今の美咲では、戦闘能力を持たない一般人にすらやられてしまうかもしれない。
こうなってしまっては、回復するまで殺人者と出会わないことを祈るしかないだろう。
今の思考に引っ掛かりを覚える。
待て。よく考えると、すぐ近くに殺し合いに乗った者がいたじゃないか。
そう、そいつは人間に化けているモンスターで……。
そこまで考えたところで、美咲はいきなり背後から何者かに抱きつかれて地面に押し倒された。
「っ……!」
火傷を負った身体が地面に強く叩きつけられ、激痛が走る。
「っ……っ……!」
何とか逃れようともがくが、怪我のせいで上手くいかない。
しかも相手は組み伏せるのに慣れているようで、力の入りにくい状態で拘束されている。
「よう、随分と派手にやられたなぁ?」
うつ伏せに押し倒されているせいで、相手の顔は分からない。
だが、聞き覚えのある声で嫌らしく耳元に囁かれれば、嫌でも相手の正体は分かる。
(……スライム……!)
火事に巻き込まれたり、やたら強気で自分勝手なガキに振り回されたり、
危険そうな発火能力者の女に出会ってしまったりと、どうなることかと思っていたが、
ようやく俺にも運が向いてきたようだ。
俺のことをスライム扱いし、生意気な態度がいちいち癇に障る鬼龍院美咲というガキ。
今そいつは全身に火傷を負い、焼けてボロボロになった服が申し訳程度に肌を隠しているといった状態で俺に押し倒されている。
美咲は何とか俺の拘束から逃れようと必死でもがいているが、さすがにダメージが大きいのだろう。
対して力を入れてもいない俺の拘束からすら、逃れることはできないようだ。
今までの態度が態度だっただけに、実に胸のすく思いだ。
美咲は未成熟ながらも均整の取れた肢体の持ち主のようだ。
幼いとはいえその身体にべったりと張りつかせている俺の股間がギンギンに滾り始める。
美咲のサラサラと綺麗なロングヘアから香る匂いと小さな背中から伝わってくる弱々しい抵抗が俺の興奮にさらに油を注いでくれる。
初対面であっさり俺を返り討ちにしてくれた少女は、今は俺に組み伏せられているのだ。
しかも、どうやらさっきの戦いで喉をやられたらしく声が出ないらしい。
ということは、コイツは悲鳴を上げて助けを呼ぶこともできない。
なすがままに犯されるしかないってわけだ。
まあ、女の悲痛な声を聞けないのは残念だが、そこは我慢するとしよう。
くくく……この生意気な顔が男に犯されたらどんな風に歪むのか楽しみだぜ……。
シノブたちは戻ってきたロシナンテに何があったのか話を聞いていた。
その結果、モモンガだけでなく偶然出会った参加者とも戦っていたことに驚いていた。
「鎖の呪具を持つ魔の眷属……それだけ聞くと、ロシナンテの仲間みたいだな」
「いや、あのようなヤツは私は見たことがない。おそらく、魔王軍とは関係の無い者なのだろう」
シノブの言葉をロシナンテは頭を振って否定する。
しかし、ロシナンテの言葉に三人は疑問の声を上げる。
「……魔王?」
「?……どうした?」
何が疑問なのか、とロシナンテは聞き返す。
「魔王って……何ですか?」
「……何を言っている?私は炎のロシナンテ。魔王軍三将軍の一人だ。」
ロシナンテからすれば、自分の名を名乗ったことで自分が魔王軍三将軍であることはすでに明かしたつもりだった。
まさか、今更自分の所属が魔王軍であるということについて突っ込まれるとは思っていなかったのだ。
(鈍い奴らだな……それとも、私の名すら届かぬ辺境の出身か?
どちらにせよ、私が魔王軍だということに気がついていなかったのならここで奴らが牙を剥いてくる可能性もあるが……)
そこまで考えたところで、ロシナンテはニィッと唇を釣り上げる。
(それならそれで望むところ……この赤髪の剣士と今すぐに戦えるのならば、それは望外の喜びというものだ。
あちらから襲ってくるのならば、シノブにも文句は言えまい。)
そして、ロシナンテは不敵な笑みを浮かべてアーシャへと期待の視線を向ける。
だが、三人から返ってきた反応は困惑だった。
「魔王と呼ばれるような存在が現れたっていう話は聞いたことないですけど……」
「まあ、人間じゃないとは思ってたけど……でも、魔王ってまさかアーク=サデストのことじゃないよな?」
「え?お姉ちゃん、人間じゃないの?」
アーシャ、シノブ、エルフィーネがそれぞれ疑問の声を上げる。
ロシナンテは三人の反応に戸惑った声を上げる。
「……魔王を知らないというのか?」
あれだけ、人間たちが被害を被っているというのに?
ロシナンテは彼女たちの言葉が信じられなかった。
「聞いたこと無いけど……(リト、知ってるか?)」
(いえ、魔王なんて私も聞いたことがないです。
彼女が別の惑星の人間という可能性も考えられますが……でも、それにしたって……)
スピリット=カーマインの言葉に、シノブもどういうことなのかと首を傾げて考える。
アーシャとエルフィーネも似たり寄ったりの反応である。
それを見て、ロシナンテは彼女たちが冗談を言ってるわけではなく、本当に魔王を知らないらしいことが分かった。
(……魔王の存在すら知らない?馬鹿な、それではまるで……)
まるで、別の世界の人間のようではないか。
(馬鹿な、そんなわけが……いや、待て!)
そうだ、思い出した。
かつて、自分と戦ったあの勇者ども。
ヤツらも別の世界から召喚された存在だったはずだ。
ヤツらが異界の者だというのなら、この三人もヤツらと同じように異界からこの世界に召喚された存在なのかもしれない。
だが、一体誰がこの三人を召喚したというのだ?
しかし、そこでロシナンテはこの三人を召喚した可能性の高い人物に思い当る。
(……そうか、あの男か!)
キング・リョーナと名乗っていた男。
自分たちを殺し合いに放りこんだ男が、殺し合いのためにこの三人を召喚したと考えるのが一番妥当な考えだろう。
いや、待て。
そうだとすると、異界の存在はこの三人だけではないのではないか?
もし……もし、あのキング・リョーナという男がここにいる全ての参加者を殺し合いのために召喚したのだとしたら?
そう、つまりはロシナンテ自身もここに殺し合いのために召喚されていたのだとしたら……。
ここは、ロシナンテの住む世界では無いことになる。
いきなり、足元の地面が消えたような錯覚に襲われる。
今まで自分が別の世界にいるなどとは微塵も思ってなかっただけに、ショックが大きかった。
(あの男、強者だとは思っていたが……まさか、ここまでの規格外とはな。
いや、まだそうと決まったわけではないな。シノブたちにも確認を取ってみるとしよう)
そう思い、ロシナンテは口を開こうとしたところで……。
ロシナンテはふと、今までの思考の中に引っ掛かりを覚えた。
待て。
勇者と戦った?
では、私は勇者を倒したのか?
いや、違う。
そんな記憶は無い。
では、決着が着かなかったのか?
いや、それも違う。
決着は着いた……はず……。
……そうだ、思い出した。
あの戦いの……私の最後の記憶にあるのは……。
勇者たちの剣に身体を貫かれ、倒れる自分の姿。
「……馬鹿なっ!!?」
いきなり叫び声を上げたロシナンテにシノブたちは驚く。
「どうしたんだよ、ロシナン……お、おい!?どうした、大丈夫か!?」
ロシナンテの蒼白な顔を見て、シノブは心配そうに声をかける。
だが、ロシナンテはそれに気付かずに身体を震わせて何事かを呟いている。
「馬鹿なっ……馬鹿なっ……!?私は……私は死んでいたというのか……!?
では、ここにいる私は何だっ!?何がどうなっているというんだっ!?」
それを聞いたシノブたちは、ロシナンテの様子が異常なことに気付く。
慌てて、シノブが駆け寄って声をかける。
「お……おいっ!落ち着け、ロシナンテ!本当にどうしたんだよっ!?」
シノブに続いて、アーシャも駆け寄って声をかける。
「ロシナンテさん、しっかりしてください!貴女は死んでなんていません!
ちゃんと生きています!正気に戻ってください!」
「私は……私は一体……」
ロシナンテの言葉を聞いて、幻惑の魔法でもかけられたのかと思ったアーシャは気付けのための言葉をかけるが、ロシナンテには届いている様子は無い。
その後、必死で呼び掛けるシノブやアーシャの声もロシナンテには届かなかった。
そのため、シノブたちはロシナンテを落ち着かせるためにこの場で休息を取るしかなかった。
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