戦士達の黄昏

 
――ドゴォッ!

あの、忌まわしい放送が終わった直後のことだった。
頭上を見上げていたアーシャ達の、近くにあった木が1本、轟音を立て揺れた。
揺らしたのは水色の髪の少女、川澄シノブだ。
彼女は無言で近くの木に拳を打ちつけていた。
アーシャ達は一斉にシノブの方へと顔を向ける。
しかし、誰も彼女の行動を言及しようとはしなかった。
その理由は2つ。
1つは彼女の行動理由は言及するまでもなく予想が付いたこと。
もう1つは、其々がその時、他人のことを気にする余裕がなくなっていたからだった・・・。

〜〜〜〜

「(シノブさん・・・。)」

そんな中、リトがシノブに話しかけた。
しかしシノブは答えようとしない。

「(・・・シノブさん。)」
「(・・・先輩と、ミサっちが殺られた。)」

リトの二度目の呼びかけに、シノブは静かに応える。

「(・・・二人とも、そう簡単に殺られるようなタマじゃない。)」
「(そうですよ。美咲さんはとても強い女性【ひと】ですし、カザネさんにはアリアさんがついてます。だから・・・)」
「(なのに、このイヤな胸騒ぎはいったいなんだっ!!)」

シノブはもう一度、木に拳を打ち付ける。
先ほどよりも大きな音が辺りに響き渡り、木が今にも折れそうな勢いでしなった。
シノブはその様子を歯を食いしばり見つめる。

「(で、ですが、彼の言うことが本当とは限りませんよ。私達を混乱に陥れるための出鱈目かも・・・)」
「(出鱈目だったら、こんな胸騒ぎはしないっ! アタシには分かるっ! あれは・・・あれは・・・!!)」

シノブはその先を言わず、崩れるようにへたり込む。
それからきつく握った拳を地面に叩きつけ、歯を食いしばり、全身を小刻みに震わせた。

「(・・・アクアリウムへ向かいましょう。)」
「(イヤだっ! 二人を殺った『悪』を探しだし倒すのが先だっ! 合流はその後でもっ・・・)」
「(彼女らが勝てなかった相手に、変身もできない今の貴女が闇雲に突っ込んで勝てると思っているのですかっ! 無策にも程がありますっ!!)」
「(なん・・・だと・・・っ!!)」

リトの悲鳴にも似た怒声に、シノブは思わずたじろいだ。

「(彼女らがこんなに早く倒されるなんて、相手がよほどの強さだったのか、なにか特殊な事情があったとしか考えられませんっ!!)」
「(リト・・・あんた・・・。)」
(そうか・・・。あんたもあれが・・・本当だって、感じてるんだな・・・。)

シノブは、リトの声から彼女の心情を悟りゆっくりと拳を開いた。

「(・・・すまない。)」
(そう・・・だよな・・・。自分で動くことができない、あんたの方が・・・もっと、悔しいんだよな・・・。)

シノブの言葉に、珍しく荒い息遣いを見せたリトは、大きく深呼吸をしてから応える。

「(・・・謝るのは私の方です。急に怒鳴ったりして、申し訳ありませんでした。)」
「(・・・早くエリねえと、合流しよう。エリねえなら、なにかいい知恵を持ってると思うしな・・・。)」
「(そうですね・・・。一刻も早くエリナさんとイリスさんに合流して、これからのことを相談しましょう。)」

シノブがゆっくりと立ち上がった、その時・・・。

〜〜〜〜

(そんな・・・ルー君が・・・。)

シノブが木に拳を打ちつけた様子を呆然と見ながら、アーシャは知り合いの訃報に驚きを隠せずにいた。
しかもその知り合いは、自分や恐らくは二人の親友も探そうと考えていた人物である。
アーシャは放送内容が偽の情報であることを信じたかった。
しかし、少しずつ蒸し暑くなってきている気候が先の放送に真実味を与え、簡単にはそれを許してくれなかった。

(・・・・・・エリー、大丈夫かな?)

アーシャはゆっくり空を見上げ、親友の一人、エリーことエリーシアの身を案じる。
死亡者として名前の挙がった知り合い、ルーファスは彼女の弟だ。
普段の彼女は自分よりもずっと冷静で頭の回転も良く、偽情報に簡単に翻弄されるような人物ではない。
しかし、弟のこととなると話は別である。
彼女にとって弟は、命に代えても守りたい大切な人であり、それ故に冷静さを欠きやすい。
先の放送できっと動揺しているに違いない。
もしかしたら、自責の念からトンでもない行動を考えているかもしれない。

(・・・私、信じてるからね! エリー!)

アーシャは大きく深呼吸して、脳裏を過ぎった最悪の展開を掻き消した。
そして、崩れるようにへたり込んだシノブの方へと一歩踏み出す。

(兎に角、今は彼女達を守りながら、二人と合流することを考えよう! これ以上、犠牲者を増やさないために!)

アーシャがそう心に誓い、ゆっくりと立ち上がったシノブの傍へ歩み寄ったその時・・・。
 
(嘘よ・・・あの娘【こ】が・・・美咲が・・・死んだなんて・・・!!)

エルフィーネは信じたくなかった。
しかし、急に上がってきた気温がそれを許してはくれなかった。
そもそも、あの男ほどの実力があるのならば、こんな回りくどい真似をしなくてもあの場で全員を思い通りに殺すことだってできたはずだ。
それに、これだけ強力なメンツが揃い踏んだ状況だって、やろうと思えば強制的に引き剥がすこともできるはずだ。
それなのに先のルール説明にあった定時放送だけを流して、傍観を決め込んでいる。
つまり、あの男は極力この”ゲーム”とやらに介入しないつもりなのだ。
その男が宣誓通りに”ゲーム”に介入してきたということは、あの放送内容が嘘とは断定できないことになる。

(そして、なにより・・・この胸騒ぎが・・・許してくれない!)

エルフィーネは崩れるようにへたり込んだシノブを脇目に、大きく溜め息をつく。

(・・・美咲は、頭に超がつくお人好しで、単純で、ぶっきらぼうで、ちょっとからかうとすぐ暴力を振るう、手の掛かる娘だった。)

エルフィーネは静かに握り拳を作る。

(・・・でも、私の強力な相棒でっ! 最愛の親友だったっ! それを・・・それを・・・!!)

エルフィーネは頭上を睨みつけ、歯を食いしばる。

(許さないっ!! 必ず殺したヤツを見つけ出して・・・蜂の巣にしてやるっっ!!)

エルフィーネはロザリオをきつく握り締め、視線を空から下ろした。
その先には、立ち上がったシノブに、アーシャがゆっくりと近づいている光景と、一人佇んでいるロシナンテの姿があった。

(――そういえば。)

エルフィーネは無意識の内に、ロシナンテに声を掛けていた。

「――ねぇっ! ロシナンテおねーちゃん! さっきの『鎖の呪具を持つ魔の眷属』の話の続き、聞かせてよ。」

本当に単なる直感だった。
しかし、今のエルフィーネにとって、この話にはとても大切な情報が隠されている気がしてならなかった。
エルフィーネの突然の呼びかけに、ロシナンテだけでなくシノブとアーシャも顔を向けた。

「・・・えっ、あ、ああ。それは、構わないが・・・。」

ロシナンテの返事を聞くなり、エルフィーネはロシナンテの傍まで走り寄った。
シノブとアーシャはロシナンテの覇気のない声と、エルフィーネの行動に一抹の不安を感じて近寄る。

「その鎖の呪具を持つ魔の眷属ってさ、どんな姿をしてたの?」
「・・・えっとだな。私より、一回りぐらい小さくて・・・、目付きの鋭い少女・・・だったな。」
「――っ!!」

その瞬間、エルフィーネの中で直感が確信めいた物へと変わった。
そして沸々と湧きあがる怒りと憎しみ。
エルフィーネは顔を俯かせ、渦巻く激情を抑えながらロシナンテへ問い掛ける。

「・・・その娘ってさ、もしかして黒いロングヘアで、鋭い眼は赤茶色じゃなかった?」
「えっ? ・・・あ、ああ。そうだったな・・・。」

エルフィーネの中ではもはや抑え切れないほどの激情が渦巻いていた。
ほぼ確信に近い物を感じながら、エルフィーネは最後の確認をするためロシナンテに問い掛ける。

「それで、なんか、女の子というよりは、男の子みたいな・・・服装じゃなかった・・・?」
「・・・うむ、確かそんな感じだった。」
「そう・・・。」

エルフィーネはそれだけ言うと黙って俯く。

「・・・しかし、お前。よく分か・・・ぐがっ!?」

ロシナンテがずばり言い当てられた理由を聞こうとした刹那、エルフィーネの傍で、白い光が煌く。
その直後、ロシナンテは叩きつけられるように地面に投げ出された。

「――ロシナンテッ!!」

シノブは地面に転がったロシナンテに駆け寄る。
しかしそれよりも早く、ロシナンテに金と白の流線が1つ近づく。

「ごふぅっ!!」

直後、ロシナンテが苦痛の呻きをあげ宙を舞った。
シノブは彼女を追いかけ、地面に叩きつけられたロシナンテに駆け寄った。
そして、先に見た流線の正体を探った。

「・・・だ、誰だよあんた!?」

シノブの目の前に居たのは、金色の奇麗な髪をして、白い大きな十字架を担いだ修道女だった。
しかし、この場に彼女のような人物が居た記憶はない。
シノブは目の前で十字架を構える女性の正体が分からず、ただ見つめるしかなかった。
女性はなにかを呟きながら、肩に担いだ十字架の先を二人へと向ける。

「突然、なにをするのですか! やめてください! エルフィーネさん!!」
「えっ? エル・・・フィーネ・・・?」

その時、アーシャが横から割って入り込み、修道女へと組み付いた。
エルフィーネと呼ばれた修道女は、アーシャを振り解こうと身を捩る。

「離しなさい! アーシャッ!!」
「いいえっ! その十字架を下げてもらうまで、離しません!!」
「ど、どういうこと・・・!? アーシャ、あんた、ソイツのこと、知ってるのか!?」
「ええいっ!! 死にたくなければどきなさいっ!! シノブもよっ!!」
「なっ!? なんで、アタシの名前を!?」

シノブの困惑した声に、振り解かれないよう必死にしがみつきながらアーシャが答える。

「彼女はエルの、本当の姿だよっ!!」
「なっ・・・!?(リ・・・リト!? どうなんだっ!?)」
「(信じがたいですが・・・本当です・・・!! 彼女から感じる魔力は・・・鬼龍院エルと同じ物です!!)」

シノブは慌てて周囲を見回し、鬼龍院エルと名乗った少女の姿を探した。
しかし、どうしても見つけることができず、目の前の女性があの少女と同一人物であることを信じるより他はなかった。

「いったい、どうしたというのです! 答えてください、エルフィーネさんっ!!」
「ソイツは!! 美咲をっ!! 鬼龍院美咲を殺したのよっ!!」
「――えっ!?」
 
エルフィーネの言葉に、シノブとアーシャは驚愕の声を漏らす。
その隙にエルフィーネはアーシャを弾き飛ばすと、担いだ十字架の先をロシナンテとシノブの方へと突き出した。

「殺したって・・・ま・・・まさか・・・!!」
「そうよ、シノブッ!! ソイツが戦った『鎖の呪具を持つ魔の眷属』ってのは、貴女の親友! 私の大切な女性【ひと】! 鬼龍院美咲よっ!!」
「そ・・・そんな・・・! ロシナンテ・・・あんた・・・ホントに・・・!」

シノブに抱き抱えられ、荒く息をしていたロシナンテはシノブの問い掛けに答える。

「た・・・確かに・・・私は鎖の呪具を持つ魔の眷属と戦いあれに痛手を負わせた・・・しかし、殺してはいない・・・。」
「そうね・・・戻ってきた貴女から、死臭はしなかったもの・・・!」
「・・・そ、そうだぜっ! 人を殺してきたかどうかぐらい、アタシでも分かるしなっ!」
(リトに聞けばだけど・・・。)

ロシナンテは美咲と戦ったが、彼女を殺したワケではない。
それに、彼女は悪戯に人の命を弄ぶような真似はしない。
つまり、彼女の見立てでは手傷を負った美咲でも十分対応できる状況だったのだろう。
あの美咲ほどの強さを持った相手ならば尚更だ。
下手に手傷を負わせた状態で放置すれば、彼女を自らの糧とする前に他人に掠め取られてしまう。
ロシナンテにとって、強者と戦い勝つことは生きていくことに近いはずなのだから、そんな計算違いは起こさないはずだ。
シノブはそう直感していた。
そしてなにより、今目の前で殺し合いなんてのを見せられ、正気で居られる自信がなかった。
シノブはなんとか事態を収めようと、ロシナンテを弁護することにした。

「アレほどの使い手ならば、あの程度の痛手でよもや死ぬようなことは・・・」
「そ、そうそう! ミサっちが、そう簡単に殺られるワケが・・・!」
「・・・傍に、誰か居なかったかしら?」
「そうだ! 傍に誰も居なければ尚更・・・って・・・ぁっ・・・。」

エルフィーネの質問に、シノブは美咲のお人好しな性格を思い出し言葉を詰まらせる。
彼女の性格ならば例え相手の本性が殺人狂でも、信じてしまいかねない。
もし、誰かが傍に居て、実はその者が彼女の命を狙っていた者だったとしたら・・・。
シノブは祈るようにロシナンテの回答を待った。
しかし、ロシナンテの答えはシノブの祈りを無残にも引き裂く物だった。

「傍に・・・そういえば・・・弱そうな男が一人・・・うぐぅっ!!」
「――ロシナンテッ!?」

突然、乾いた音が一回響いたかと思った直後、何かがシノブの目の前を過ぎり、ロシナンテの肩を掠めて地面を抉った。
シノブはエルフィーネの担いだ十字架から火薬の臭いを感じ、先の物の正体が、あの十字架から発射された銃弾だと悟った。

「な・・・なにも撃つことは・・・!!」
「そいつは、美咲を見殺しにしたっ!! 美咲は、ソイツに手傷を負わされなかったら、死ぬことはなかった!!」
「そ・・・それは・・・でも・・・だから・・って・・・!!」
「シノブッ!! 貴女、憎くないのっ!! ソイツは親友を見殺しにしたのよっ!!」
「うっ・・・そ・・・それ・・・は・・・!!」

当然、親友を見殺しにされて、シノブはなんとも思わないはずはなかった。
だからと言って、今彼女に当たっても、益して殺した所で解決するはずもない。
シノブはそう感じ、どう答えることもできず口篭ってしまった。

「・・・だからって! 彼女を殺してもいい理由にはなりませんよ! エルフィーネさんっ!!」

アーシャは二人のやり取りの間にファイアボールを撃つ体勢を整え、エルフィーネに制止を呼びかけた。
しかし、エルフィーネは彼女の言葉を鼻で嗤うと、彼女の方を向かずに問い掛ける。

「・・・貴女に、撃てるの?」
「・・・それが、貴女や皆を守るためならば。」
「そう。なら、撃ってみなさいよ・・・。・・・但し、チャンスは一度きり。一瞬でも躊躇えば・・・貴女は死ぬわ。」
「えっ・・・?」
「私の”マクベス”・・・あの蔓どもを一瞬で吹き飛ばしたアレが、貴女を確実に狙っているからよ。」
「そん・・・な・・・エルフィーネ・・・さん!!」

アーシャは自分も既に彼女にとって排除すべき候補になっていたことに、驚きと悲しみを感じずには居られなかった。
同時に、美咲という人の存在は彼女にとってよほど大きかったのだと、アーシャは悟った。

(・・・エリー、貴女は大丈夫・・・だよね・・・!?)

アーシャは今の彼女の姿に、同じく大きな存在を失った親友の姿を思わずダブらせてしまい、不安に駆られる。
その不安を中々払拭することができず、アーシャはその場から動くことができなくなってしまった。
アーシャの葛藤を確認したエルフィーネは、シノブへ声をかける。

「さて、いい加減、どきなさい。シノブ。貴女は美咲の親友だと言うから、できれば殺したくないの・・・。」
「・・・い・・・イヤだ・・・。」
「えっ?」
「イヤだっ! アタシは離れない!」

シノブはロシナンテを庇うようにきつく抱きしめながら叫んだ。

「確かに、ミサっちを見殺しにしたロシナンテは許せない! だけどっ! アタシにとってはロシナンテも、もう親友なんだっ! 親友を見殺しになんて、アタシにはできない!」
「お前・・・私を・・・親友・・・だと・・・。」
(親友か・・・初めて聞く・・・言葉だが・・・いい響きだな・・・。)

シノブは頬を伝う涙を拭うこともせず、エルフィーネを見据えた。
エルフィーネは一瞬思わずたじろぐが、すぐに気を取り直す。

「・・・甘ちゃんな所、流石は美咲の親友ね・・・。そっくりだわ・・・。」

エルフィーネは一度大きな溜め息をつき、それからすぐに歯を食いしばる。

(美咲といい、アーシャといい、シノブといい、どうしてこう・・・。私に関わる人は、妬ましいぐらいに・・・心優しく清らかな人ばかりなのよ・・・!)

そして、十字架の銃口を突き出し叫んだ。

「なら、一緒に死になさいっ!! あの世で美咲に会ったらよろしく伝えておいてっ!! 川澄シノブッ!!」
「――くっ!!」「――エルフィーネさんっ!!」
 
エルフィーネの怒声が響いた直後、辺りに響く発砲音。
シノブはきつく目を閉じ、すぐに来るであろう身を貫く衝撃に備えた。
しかし、来たのは予想していた衝撃とは別の衝撃だった。
直後、耳元で聞える聞きなれた親友の叫び声・・・。

「ぐああああああぁぁああっ!!」
「――ロシナンテッ!!」

ロシナンテは持てる力の全てを賭けて身体を捻り、シノブと体勢を入れ替えたのだ。
そして、シノブへ衝撃が伝わらないよう、自身の背中に炎の壁を作った。
炎の壁に当たったことにより速度が抑えられた銃弾は、ロシナンテを貫くことはなく、彼女のデイパックを貫き背中を抉った所で止まっていた。
ロシナンテは崩れるようにシノブへともたれかかる。
シノブは彼女の背中から感じる血の臭いに、居ても立っても居られず叫んだ。

「ロシナンテッ! しっかりしろっ!」
「・・・生きているようだな・・・シノブ・・・。」
「『生きているようだな』じゃないっ!! あんた、どうしてっ!!」

シノブは泣きながら、ロシナンテに問い掛ける。
ロシナンテは力のない笑顔で答えた。

「心配するな・・・死ぬのは・・・初めてじゃない・・・。」
「はっ!? ど、どういう、意味だよ・・・!!」

シノブの問い掛けにロシナンテは不敵な笑みを浮かべて答える。

「私は・・・既に一度・・・死んでいるんだ・・・。」
「なに・・・言ってんだよ・・・冗談は・・・よせって・・・!!」
「冗談ではない! 私はこの世界に来る前、勇者と名乗る者達と戦い、一度殺されているのだ・・・。」
「なん・・・だって・・・!?」

シノブは驚愕の表情でロシナンテを見つめる。
ロシナンテは軽く笑みを零して、口を開いた。

「だが・・・あの時と違って・・・何故か・・・心地良いな・・・。お前のために・・・死ねるから・・・だろうか・・・。」
「アタシの・・・ために・・・だと・・・。」

ロシナンテは真剣な表情で、シノブを見つめる。
シノブはロシナンテをきつく抱きしめ叫ぶ。

「ふざけるなっ!! アタシのために死んでもらっても、アタシは・・・」
「シノブっ!!」

ロシナンテの怒声に、シノブは思わず言葉を詰まらせた。
ロシナンテは再び笑顔に戻ると、今にも消えそうな声でシノブに話しかける。

「私は・・・親友という・・・単語は・・・初めて・・・聞いたぞ・・・。魔族には・・・そういう単語は・・・存在しなかった・・・からな・・・。」
「ロシ・・・ナンテ・・・。」

シノブは音がなるほど強く歯を食いしばり、ロシナンテをゆっくりと離して見据えた。

「いい響きだった・・・。強者と戦い・・・打ち滅ぼした時と同じか・・・それ以上に・・・甘美なる・・・響きだった・・・。」
「もう・・・喋るな・・・。お願いだ・・・お願い・・・だから・・・!!」
「感謝する・・・ぞ・・・我が生涯で・・・最強にして・・・最愛なる・・・人間・・・川澄・・・シノ・・・」

ロシナンテは彼女の名前を最後まで言い切ることなく、そのまま眠りに堕ちるように項垂れた。

「――――――――――――――っ!!」

シノブは動かなくなった親友をきつく抱きしめ、声にならない叫びを空へと上げた。
暫くして、シノブは傷だらけの親友を優しく横たわらせると、勢いよく涙を拭いエルフィーネを睨みつけた。

「・・・・・・これで・・・満足したか・・・エルフィーネッ!!」
「満足したか・・・ですって・・・?」
「あんたと、アタシの親友を見殺しにした・・・アタシの親友を殺って、満足したかと聞いているっ!! 答えろっ!!」
「っ!!?」

シノブの怒りと悲しみに満ちた真っ直ぐな視線に、エルフィーネは思わず言葉を詰まらせた。

(なんで・・・どうして・・・私を・・・憎んでいないの・・・!?)

エルフィーネにはシノブの視線が理解できなかった。
親友の訃報を聞いた直後、別の親友を目の前で殺されたら、普通は憎しみを抱くだろう。
それなのに、今自分を捉えている視線には憎しみを感じられない。
・・・否。
憎しみの感情は確かにある。
しかし、それは自分自身に向けられてる物ではなく、もっと別の”なにか”に向けられていた。
それがどうしてかが分からず、エルフィーネは苛立っていた。

「そうね・・・まだ、美咲を殺したヤツを殺してないから・・・まだ足りないわ・・・。」
(これなら・・・どう?)

これならば流石の彼女も、自分を憎まずには居られないだろう。
エルフィーネはそう考えていた。

「そう・・・か・・・。まだ・・・足りないのか・・・。」
「ふふふ♪ ・・・そう、まだ・・・足りないわ。」
(さあ・・・私を憎みなさい・・・!)
「――アタシには分かるっ! あんたは・・・”悪”だっ!!」
「えっ・・・?」

しかし、彼女の思惑とは違い、怒声を上げるシノブの視線に、エルフィーネに対する憎しみはなかった。
シノブの視線には更に深い悲しみと怒りの色が浮かんでいた。

(どうして・・・私を憎んでくれないの・・・?)

エルフィーネは彼女の視線から憎しみ自体が消えてしまったのかとも思った。
しかし、すぐに違うことを悟った。
彼女の視線に混じる”なにか”に対する憎しみの感情も、確かに膨らんでいたからだ。
エルフィーネにはそれが歯がゆくて仕方なく感じられた。

(お願いだから・・・私を憎んでよっ!! その方が、楽なのよっ!!)

忌み嫌われ、憎まれ続けてきた存在故に、退魔士であるエルフィーネは憎まれることに慣れすぎていた。
だからエルフィーネは、シノブの憎しみを感じない怒りの視線に、苛立ちと例えようのない恐れを募らせていた。

(――お願いよシノブッ!! ”なにか”ではなく私を憎んでっ!! 私っ・・・私っ・・・こんな時、憎まれないと・・・どうしたらいいのか、分からないのよっ!!)
「――っ!! うおぉぉぉぉぉーーっっ!!」
「――うわっ!!」「――きゃぁっ!!」

エルフィーネは遂に居た堪れなくなり、断末魔の叫びのような雄叫びをあげマクベスを自らの周囲に着弾させた。
爆風と供に巻き上げられた砂埃に、シノブとアーシャは視界を遮られる。
そして、二人が再び視界を取り戻した時、そこにエルフィーネの姿は無かった。
暫く呆然と立ち尽くしていたアーシャは、慌ててシノブの傍へと駆け寄る。

「大丈夫!? シノブちゃん!!」
「アタシのことはいい! それより、早くエルフィーネをとめないとっ!!」
「気持ちは分かるけど、そんな状態じゃあ無理だよ! 今は一旦、休んだ方がいい!」
「アタシなら大丈夫だって言ってるだろっ! 邪魔をしないでくれよっ!」

アーシャの制止を振り切ろうとするシノブの頬に、突然衝撃が走った。
アーシャがシノブを叩いたのだ。
シノブは叩かれた頬を軽く押さえ、アーシャを見据える。

「・・・叩いたのは謝るよ。でもね、そんな浮き足だった状態じゃあ、助けられるものも助けられないよっ!」
「・・・助けられる・・・ものも・・・。」
「私も手伝うよ。だから、今は一旦休んで、気持ちを落ち着けようよ。ねっ?」
(かく言う私も・・・少し、気持ちの整理をしたいしね・・・。)

アーシャの同意を求める声に、シノブは暫しの沈黙の後、ゆっくりと頷いた。

「・・・そう、だな。ありがとう・・・アーシャねえ。」
「ど、どういたしまして。」
(『アーシャねえ』・・・って。私、”あねさん”と呼ばれる運命なのかなぁ?)

それからすぐにシノブとアーシャは、ロシナンテを丁寧に埋葬した。
そして、近くの木陰で軽く休んでから、エルフィーネの捜索を開始することにした・・・。

【ロシナンテ、死亡】
【残り37名】



【D−2:X2Y4/森/1日目:真昼】

【川澄シノブ&スピリット=カーマイン@まじはーど】
[状態]:火傷の痕、魔力十分、精神疲労中
[装備]:無し
[道具]:デイパック、支給品一式(食料6食分)
    SMドリンクの空き瓶@怪盗少女
    あたりめ100gパックx4@現実世界(本人は未確認)
    財布(中身は日本円で3万7564円)@BlankBlood(本人は未確認)
    ソリッドシューター(残弾数1)@まじはーど(本人は未確認)
[基本]:対主催、”悪”は許さない、『罪を憎んで人を憎まず』精神全開中
[思考・状況]
1.アーシャ・リュコリスと協力してエルフィーネを捜索する
2.エルフィーネの復讐をやめさせる
3.アクアリウムへ向かい富永エリナと合流する
4.ロシナンテのためにも、なるべく大勢で元の世界へ帰る
5.鬼龍院美咲と神谷カザネを殺した”悪”は絶対に許さない

※アーシャを”アーシャねえ”と慕うことにしました。

【アーシャ・リュコリス@SILENT DESIRE】
[状態]:所々に擦り傷や切り傷の痕、精神疲労小
[装備]:なぞちゃんの小太刀@アストラガロマンシー
[道具]:デイパック、支給品一式(食料6食分)
    デッキブラシ@La fine di abisso
    ヨーグルトx3@生贄の腕輪
[基本]:対主催、できれば穏便に済ませたい
[思考・状況]
1.川澄シノブを守る
2.川澄シノブに協力してエルフィーネを捜索する
3.エリーが早まった行動をしていないか心配
4.どうにかしてエリーシアとクリステルに合流する

※彼女が案じていた女性の正体はミアですが、顔も名前も知りません
 但し、出会えれば気付ける可能性はあります
※銃=威力の高い大きな音のする弓矢のような物という認識をしました
※エルフィーネの要望に応え、彼女の変身については誰にも言わないことにしました

【エルフィーネ@まじはーど】
[状態]:所々に軽い擦り傷の痕、精神疲労大、魔力十分、現在変身中
[装備]:ロザリオ@まじはーど
[道具]:デイパック、支給品一式(食料6食分)
    モヒカンの替えパンツx2@リョナラークエスト(豹柄とクマのアップリケ付きの柄)
[基本]:対主催、鬼龍院美咲を殺した者と邪魔する者を殺す
[思考・状況]
1.鬼龍院美咲を殺した者を探し出し殺す
2.邪魔する者も殺す
3.川澄シノブとアーシャ・リュコリスには会いたくない

※とりあえず初めて出会う相手にはエルと名乗ることにしています
※向かった方向はE−2X4Y1方面です、ロシナンテが合流してきた方角を頼りに移動中です
※魔力温存のため、シノブとアーシャからある程度離れたら変身を解除して行動するつもりです

※ロシナンテのデイパックはボロボロになっていて、中身は恐らく使い物になりません。
 一応、埋葬された場所はD−2X4Y4です。デイパックも同じ場所に埋葬されました。

@後書き
頑張ってロワっぽいことやってみたけど・・・無理矢理過ぎた気がしないでもないです。><

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