黄金色の喪失

「ひあぁ・・・もぉ・・・やめ・・・て・・・・・・あひぃっ!」

閑静な森の中、少女の悲鳴が木霊する。

「ギャハハハッ! バーカ! やめられっかよぉーっ!!」

嬌声と懇願が入り混じった悲鳴を掻き消すように、男の嘲笑う声が木霊する。

「あぅんっ! いや・・・っ! いやぁぁ・・・っ!!」
「これが本物の”オナホ妖精”ってかっ!! アヒャヒャッ!!」

悲鳴の主、カナリアの身体が激しく宙を舞う。
固定されている下半身を軸に、グニャグニャと糸の切れた人形のように舞う。
哂い声の主、強姦男は自分の目の前で披露される舞いを、大きな木の幹に寄りかかりながら嘲笑っていた。

「オラオラッ! もっと踊れっ!」

強姦男は大声で笑いながら、乱暴に腰を動かした。
その度にカナリアは激しく舞い、悲鳴をあげる。

「・・・しかし、お前。確かに休憩中、できる限り苦しめろとは言ったが、よくも飽きずに犯り【やり】続けられるな。」

その様子を見ていた少女、リネルが強姦男の隣で溜め息混じりに呟いた。
強姦男はびくりと小さく身体を撥ねさせ動きをとめるが、すぐに腰を激しく動かしながら答えた。

「ま、まぁ、絶倫は俺の長所だからなっ。」
「ふっ、絶倫か・・・。確かに人間にしてはよくやるよ、お前・・・。」

リネルは溜め息をついて、強姦男の様子を一瞥すると、再び休息の体勢を取ろうとした。
その時突然、リネルのデイパックから小さな電子音が鳴り、彼女は慌てて強姦男の様子を一瞥した。

(どうやら、精霊を犯るのに夢中で気付なかったようだな・・・。)

尤も、この男に気付かれたところでどうということもないが、万が一ということもある。
こんな便利な道具の存在は、できる限り秘密にしておく方がいいだろう。
リネルはそう考え、何気なく席を立つふりをして木の裏に回った。

「・・・反応は1つか。」

リネルはデイパックから取り出した、首輪発見器を覗き込んで呟いた。

「真っ直ぐ近づいてきている・・・。くそっ、あのクズ。精霊をギャァギャァ騒がせ過ぎなんだよ。」

光点の軌跡から見て、あの精霊の悲鳴を聞いて何事かと様子を見に来たとみて間違いない。
リネルはそう考え、悪態をついた。

(・・・それに、そこそこに強い魔力の反応も感じる。)

反応の大きさだけで判断するならば、決して勝てない相手ではない。
しかし、エンペラー1の効果も切れ、魔力も少しではあるが消耗している今、できれば消耗したくない。

「動きがとまった。・・・あの男を発見したか。」

光点の位置や魔力の反応から見て、どうやら相手は強姦男を発見しその場で様子をみることにしたらしい。
暫しリネルは考え込み、やがて小さく頷いた。

(あの男を囮にして、少し様子を見てからでも遅くはないな・・・。)

リネルは気配を殺し、首輪探知機の反応と相手の動向に集中することにした。
・・・しかし、その判断が思わぬ事態を招くことを、この時の彼女は知る由もなかった。


(見つけたわ・・・。)

今、私の目の前では薄気味悪い気配を発する男が、聞いてるだけで吐き気を催す哂い声をあげながら少女を弄んでいる。
もう何度も犯られて完全に抵抗する力を失ったのだろう。
少女は男の突き上げにあわせ、糸の切れた人形のように舞いながら喘いでいる。
無駄だと悟りつつも必死に懇願している。
そんな様子を、男は嘲笑っていた。

(悪趣味・・・だ・・・わっ!?)

その時突然、少女に良く見知った人物の影が重なった。
黒く美しい長髪を揺らし、赤茶色の瞳を屈辱と絶望の涙に滲ませ、ゴミクズのような男に必死に懇願する彼女。
世界で唯一、私を人として接してくれた。
私を、供に戦う仲間として信頼してくれた。
私が全身全霊を賭け、愛すべきだった、護るべきだった・・・鬼龍院美咲の姿が、重なった。

(・・・間違いない。間違い・・・ないわ・・・!)

シノブ達と別れた後、私はロシナンテがやってきた方向を頼りに犯人を捜すべく走っていたが、誰にも遭遇しなかった。
なので魔力温存のため、一度変身を解こうと思った矢先、少女の悲鳴が響いてきた。
その悲鳴に導かれるように走ってきた私は今、こうして草葉の陰であの男の様子を窺っている。
その道中も誰にも遭遇していない。
つまり、美咲を殺したのは間違いなくあの男だろう。

(なにより・・・私の勘が・・・そう告げているっ!!)

私は一旦、男の周囲に注意を傾けてみた。
いくらロシナンテとの戦いで消耗していたとはいえ、美咲があんなクズみたいな男にアッサリと殺られるはずがない。
きっと、なにか陰湿で狡猾な罠か特殊能力を使ったのだろう。
そんな男が、気付いてくれとばかりに少女を喘がせているのだ。
なにか仕掛けをしている可能性は否定できない。

(ふぅん。逆上して飛び出してきたヤツを、返り討ちにするための罠は・・・なさそうね。)

どうやら周囲には特に仕掛けはしていないようだった。
ということは、なにか特殊な力を持っているのだろう。

(・・・それなら、気付かれる前に。)

残った魔力を全て注ぎ込んで狙撃すれば、この距離からでもあの男を跡形も無く消滅させることはできる。
仮にどんな特殊能力を持っていようとも、突然の攻撃には対応しきれないはずだ。
私は小さく頷いた。
そしてロザリオをゆっくり反転させ、長い方を前方に突き出すようにして抱え込んだ。
すると中心に一筋の線が走り、そこから上下に割れて中から一本の砲身が顔を覗かせた。
その黒光りする圧倒的な重厚感に、私は思わず生唾を呑み込む。
私は小さく咳払いをして気を取り直すと、肩膝を突き、ロザリオをしっかり抱え込む。
そして、もう一度周囲を確認した。
もし、周囲に僅かでも怪しい気配があれば、全魔力を注ぐことができないからだ。
全魔力を注ぎ込んでしまえば、私は無力な子供の姿に戻ってしまう。
逃げることさえままならない、子供の姿に戻ってしまう。

(ふっ・・・ふふっ・・・ふふふっ!)

結果、周囲にはあの男と少女、それに私以外には居ないようだった。

(私・・・、ツイてるわ・・・!)

これで、心置きなく全魔力を注ぎ込むことができる。
子供の姿に戻った後はこの森の中で気配を殺し、魔力の回復を待つことができる。
同じ次元に存在していることすら吐き気を覚えるあの男を、跡形も無く消し飛ばすことができる。

(彼女の仇を討つことが・・・できるっ!)

私は念には念を入れるつもりで、ゆっくりと魔力を注ぎ込むことにした。
ロザリオの内部に少しずつ魔力が溢れ、渦巻いていくのが感じられる。

(・・・消えろ、ゴミが。)

私は深呼吸をして、あの男を見据える。
あの男は、これから自分の身に起こることにも気付かず、少女が泣き叫ぶ様子を見て低劣な哂い声を上げていた。
少女が泣き叫ぶ様子を・・・。
少女が・・・。

(――美咲っ!!)

再び、少女に彼女の影が重なった瞬間、私の中でなにかが音を立てて壊れた。

「今すぐ消し飛べっ!! 外道がぁぁぁぁぁっ!!」

私の全魔力を乗せ。
私の全感情を乗せ。
立ちはだかる全てを無に還す、最強の魔砲”キング・リア”が咆哮した。

・・・時は少し遡る。

(ゆっくりだが、魔力が高まっているな。あの男に、魔法で奇襲攻撃をするつもりか・・・。)

私は強姦男の様子を窺っているであろう相手の、魔力の高まりを感じていた。
恐らくは、あの男がなんらかの罠を張っていると踏んで、強力な魔法で一気にかたをつけるつもりだろう。

(ククク、バカなヤツめ。あんなゴミクズのような男に、そこまで魔力を注ぐ必要などないと言うのに。)

あの男を殺すには、それこそ下級中の下級魔法でも十分過ぎるぐらいである。
それなのに、あの相手はかなり上級な魔法でも発動させるつもりかと言うぐらいに魔力を高めていた。

(まっ、私としてはその方が好都合だけどなっ。)

あの男を倒して油断した隙を突くだけでも、十分消耗を抑えられる。
それに加えて、あれだけ大きな魔力を消耗した後ならば、相手を制するのは赤子の手を捻るより容易いだろう。
自然と私の口元が綻んだ。

(フフフ・・・もし女だったら、残った魔力ごと精気を全て吸い尽くしてやろう。)

もう勝ったも同然だ。
そう考えた私は、相手をどう処理するかということを考え始めていた。

(これほどの魔力の持ち主だ、さぞかし旨いだろうな・・・。)

私が生唾を呑んだ直後。

「今すぐ消し飛べっ!! 外道がぁぁぁぁぁっ!!」
「――なっ!?」

その瞬間、私は自身の誤算を悟った。

(アイツッ・・・! 最初っから【はなっから】、あのクズだけが狙いだったのか・・・っ!?)

今にして思えば、これほど魔力を高められる使い手が、あの男を殺すには下級魔法で十分なことに気付かないはずがない。
それなのに、態々魔力を高め、上級魔法を放てるよう準備をしていた。

(ゆっくりと魔力を高めていたのは、周囲の気配を探っていやがったからかっ!?)

今まで私は、ゆっくりと魔力を高めていた理由を、あの男に気付かれないためだと思っていた。
しかし、本当は上級魔法を放った後の、第三者の奇襲を警戒していたのだ。
そして私は今、自分でも自惚れてしまうぐらいに完全に気配を殺している。
つまり、相手にとって私は・・・。

(・・・居ないことになっているっ!!)

もしそうならば、一刻も早くこの場を立ち去るべきだ。
どんな上級魔法が飛び出すか分からないが、どんな上級魔法であれあの男の近くに居ては、巻き込まれる可能性は非常に高い。
とはいえ下手に飛び出せば、返って巻き添えを食う結果になりかねないのも事実である。

(ギリギリまで見極めてから・・・避けるっ!)

幸いにも今の私は、何故か以前よりもずっと素早く動くことができるようだ。
理由は知らないがこの能力を持ってすれば、ギリギリまで相手の魔法を見極めてから逃げることができるだろう。
私はそう思っていた。
・・・だが、しかし。

「なっ・・・がはっ・・・ぁ・・・!!」

如何に素早く動けようとも、この世に質量を持った物質として存在する以上、決して超えられない壁がある。
この非常時にそんな単純なことを、私はすっかり忘れていた。

(ひ・・・光を・・・放つ・・・魔法・・・だとぉ・・・!?)

私の右肩、右腕を飲み込み、顔を掠めて通過していった物。
それは世界最速の存在、光の奔流だった。
それもただの光ではなく、触れる物全てを蒸発させるに足る高温を伴う光だった。

(く・・・そ・・・この・・・私が・・・・・・たかが・・・光・・・・・・なぞにぃ・・・!)

自身の二度にわたる誤算を悔やみながら、私は真黒な闇の流れに飲み込まれていった・・・。


「ふ・・・ふふ・・・ふふふ・・・!」

笑いが込み上げてくる。

「ふふふっ・・・あはっ・・・あはははははっ!!」

堪えても堪えても、嬉しくて、おかしくて、笑いが込み上げてくる。
私はお腹を抱えて笑うことにした。

「あははははっ!! やったっ!! やったわっ!! あは、あはははっ!!」

お腹を抱えながら、私は目の前を一瞥した。
そこには先ほどまで居た男女の姿は無く、あるのは真黒に焼け焦げた大地と大木に空いた巨大な横穴だけだった。

「あはははっ・・・こんなっ・・・あははっ・・・こんな簡単にっ・・・あはははっ!!」

お腹を抱えるだけじゃ耐え切れず、私は地面に伏せ、何度も地面を叩いた。

「こんなっ・・・うふふふっ・・・簡単にっ・・・ふっはははっ・・・殺れたなんてっ!!」

嬉しくて、おかしくて仕方ないはずなのに、何故か私の視界が滲んでいく。
地面を叩く手に、怒りと悔しさが混ざっていく。

「こんなっ・・・こんな・・・ははは・・・簡単に・・・殺れるヤツに・・・あははっ・・・美咲はっ・・・美咲はぁっ!!」

気付けば私は歯を食いしばり、地面を思い切り叩いていた。

「美咲はっ!! 殺られたっ!! こんなにも簡単に殺れるっ!! ゴミクズみたいなヤツにっ!!」

地面を叩く手が痺れてきても、私は構わず地面を叩いた。

「悔しい・・・っ!! 悔しい・・・っ!! くやしいぃっっ!!」

どうしてモモンガの大群と出くわしたあの時、私は変身して戦わなかったのだろう。
どうして魔力を温存しようとなんか、考えたのだろう。

「あの時・・・戦っていれば・・・戦って・・・いればっ!!」

そうすれば、ロシナンテがモモンガを引き付けることもなかった。
そうすれば、美咲と出会い戦うこともなかった。
ロシナンテと戦い、痛手を追っていなかったら、美咲はあんな男に殺されなかった。
私でも簡単に殺せる、あんなゴミクズのような男に、美咲は・・・。

「・・・違う。」
(・・・違わない。)

私はゆっくり首を横へ振りながらポツリと呟く。

「・・・私の・・・せいじゃない。」
(・・・私の・・・せいよ。)

誰に聞かせているのか、自分でも分からない。
しかし、私は口に出したくて仕方が無い気持ちでいっぱいだった。

「私が・・・美咲を・・・。」
(私が・・・美咲を・・・。)

私は一度、大きく息を吸って叫んだ。

「殺したんじゃないっ!!」
(殺したんだっ!!)

私の叫びが虚しく響く。

「違うっ! 違う、違う、違う、ちがう、チガう、チガウ、ちがうぅぅっ!!」

私は只管叫び、何度も地面を叩いた。
まるで、そこに誰かが居るかのように、拳を叩き付けた。

「うぁああああああああぁぁあぁぁぁーーっ!!」

いくら拳に乗せ放出してもなお、マグマの如く噴き出す激情に、私は遂に耐え切れなくなり叫んだ。
身体を弓なりに反らせ、天を仰ぎ見て声の限り叫んだ。
流れ落ちる涙と供に、最愛の彼女と過ごした記憶が流れ落ちていく。
そんな気がした。

(美咲っ!! みさっ!! みさぁぁっ!!)

自分でも驚くほど長い間、叫び続けた後、私はゆっくりと顔を戻した。

「・・・貴女のせいよ。」

ぐらぐらと揺れる意識の中、私はポツリと呟いた。

「貴女が、こんな私に変えたから・・・。」

目の前に優しく、暖かく笑う彼女の姿が映る。

「こんな、私に変えたから・・・私は・・・もう・・・!」

彼女の笑顔を掻き消すように、私は自分の両肩をきつく抱きしめた。

「生きる目的も、目標も・・・なくなっちゃったじゃないのっ!!」

私は助けを求める子犬のように、叫んだ。

「どうしてくれるのっ!! 鬼龍院・・・美咲ぁぁぁっ!!」

私は両肩をきつく抱きしめたまま地に伏せ、震えながら呻く。

「どう・・・して・・・くれる・・・の・・・ねぇ・・・・・・!」

しかし、誰も答えてくれなかった。
誰も、答えてくれるはずがなかった。
・・・それも、そのはず。
答えてくれる女性【ひと】は、もういないのだから・・・。

(・・・答えてよ・・・・・・鬼龍院・・・美咲ぁっ!)

【カナリア@リョナマナ 死亡】
【強姦男@一日巫女 死亡】
【残り32名】


【D−3:X1Y4/森/1日目:午後】

【カナリア@リョナマナ】
[状態]:死亡(跡形無く消し飛んだ)

【強姦男@一日巫女】
[状態]:死亡(跡形無く消し飛んだ)

※カナリアと強姦男の荷物も跡形も無く消し飛びました

【リネル@リョナマナ】
[状態]:瀕死(右腕と右肩喪失、顔面右側半分に激しい火傷)、エンペラー1発動中
[装備]:血染めの布巻き(ボロボロ)、エルブンマント(通常服装、ボロボロ)
首輪探知機@バトロワ(衝撃により破損、近くに首輪の反応があるかないかしか分からなくなりました)
[道具]:デイパック(食料18/6、水18/6、支給品一式)
怪盗の心得@創作少女
弓@ボーパルラビット
聖天の矢×20@○○少女、
赤い札×9@一日巫女
弦の切れた精霊の竪琴@リョナマナ
レイザールビーのペンダント@現実世界
木人の槌@BB
サングラス@BB
ラブレター@BB
切れ目の入った杖(仕込み杖)@現実過去世界
ラウンドシールド@アストラガロマンシー
ファルシオン(曲刀)@現実過去世界
[基本]:リョナラー、ナビィ達か女性を探す
[思考・状況]
1.昏睡中

※無意識にエンペラー1を発動させたため、一度に身体の大部分を失ったことによるショック死だけは間逃れました
 しかし、ミラクルベルかそれに近い回復効果を得られない場合、あと1時間もすれば確実に絶命します
 なお、回復効果が得られたとしても、失った右腕は戻らないし、顔面右側には重度の後遺症が残る可能性が高いです
※エンペラー1は2日目の午後になるまで使用不可能になりました

【エルフィーネ@まじはーど】
[状態]:所々に軽い擦り傷の痕、放心中、精神疲労特大、残魔力皆無
[装備]:ロザリオ@まじはーど
[道具]:デイパック、支給品一式(食料6食分)
    モヒカンの替えパンツx2@リョナラークエスト(豹柄とクマのアップリケ付きの柄)
[基本]:なにもない
[思考・状況]
1.茫然自失中
2.当然、リネルには気付いてない

※とりあえず初めて出会う相手にはエルと名乗ることにしています
※キング・リアに全魔力をつぎ込んだため、なにかしらの魔力回復手段を講じない限り1日は変身することすらできません

@あとがき
あっさり、ばっさり、やりすぎました・・・。orz

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