やっと動いたか、お前ら

 
「あ゛ーあ゛ー、てすてす。・・・ふぅ、ようやく繋がった。
 ったく、そろそろコレ買い換えないといけないなぁ。」

ゴートはその声に、呻きつつ目を覚ます。

「な……何じゃ……?わしは一体……?」
「はぁーいみんなぁー♪ キング様の第1回、素敵な定時放送の時間だよぉー♪」
「な……!?放送じゃとっ!?」

ゴートは驚きつつも、放送の内容を聞き逃さぬように耳をそばだてる。
そして、同時に現在の状況を思い出そうとする。

(そうじゃ……!わしは確か、ホムンクルスの女に……!)

あの女はどこに行ったのか?
放送を聞き終わったゴートは、未だスイッチが入りっぱなしだった懐中電灯を
手に持ち、辺りを照らす。

すると、門番は先ほどの鉄の物体の上ですやすやと寝息を立てていた。

「……こやつ……あの後、ずっと寝ていたのか?」

呆れた声を漏らすゴート。
ともあれ、この様子ならこちらから手を出さなければ襲いかかってくることも
なさそうである。

門番の殺気を思い出し、身震いするゴート。
触らぬ神に何とやらだ。

ゴートは門番を無視することに決めた。

「……ん?」

ふと、ゴートは門番が寝ている鉄の物体の横にデイパックがあるのに気がついた。

(この女のものか……熟睡しておるようだし、頂いても問題あるまい)

ゴートは忍び足でデイパックの傍まで移動し、デイパックを持ち上げた後、再び忍び足で
門番の元から去る。

そして、安全な場所まで来ると、デイパックを開けて中身を確かめ始めた。

そして、まず出てきたのは……。

「ぬおっ!?」

何かが勢いよくデイパックから飛び出してきた。

「な……何じゃ、お前は!?」

デイパックから飛び出してきたのは紫の髪を持つ裸の少女だった。
ただし、大きさは普通の人間の10分の1程度で、羽根も無いのに宙に浮いている。
明らかに普通ではない。

「何じゃと聞いておるのだ!答えんか!」

ゴートの怒声に、少女は再びデイパックに入り込んだ。
そして、しばらくごそごそやっていたかと思うと、再び顔を出し、両手でゴートに
一枚の紙を差し出した。

「むむ……何々……?夢の精霊バク……相手を眠らせる特殊能力を持つ……?」

その説明書を見て、ゴートは理解した。

「なるほどのう……つまり、お前も支給品ということか……」

ゴートの言葉に頷くバク。

「支給品というからには、わしの言うことには絶対服従じゃな?」

その言葉にも、バクは頷く。

「ふむ……つまり、相手を眠らせる力を持つアイテムと思えばいいわけじゃな」

バクの扱いを理解したゴートは、他の支給品を確かめることにする。

次に出てきたのは、マクラ。
このデイパックの本来の持ち主なら喜んだかもしれないが、ゴートには不要である。
無視して、他に支給品が無いかを確かめる。

そして、出てきたのは分厚い本だった。

「何じゃ?魔道書か何かか?」

興味を持ったゴートは、中身を確かめてみる。
そして、そこに書かれていたのは魔術についてではなく、レボワーカーという乗り物の
動かし方だった。

そして、その本に書かれているレボワーカーの形状を見て、ゴートは声を上げる。

「これは……あの女の乗っていた鉄の物体ではないか!?
 では、この本に書かれている内容が理解できれば、
 わしがあれを扱うことも……!?」

興奮したゴートはレボワーカーのマニュアルを貪るように読み進めていった。

そして、2時間程度の時間が経過したところでゴートは一息つく。

「ふう……まあ、こんなところじゃろう……」

そう言って、水を口にしつつパンを齧るゴート。

優れた魔術師である彼でも、その膨大な量の情報を完全に理解することはできなかったが、
それでも簡単な扱い方は理解することができた。

「……さて、問題はあの女の退かし方じゃが……」

ゴートは千切ったパンをバクに与えながらも、考える。

「単純に力尽くで退かそうとすれば、また殴り飛ばされることじゃろうな……。
 どうするべきか……」

そこで、ゴートはパンの欠片を小さな口で頬張っているバクに目を向ける。

「……そうじゃ、お前がいたではないか!」

いきなり顔を近づけてきたゴートに、バクは目を白黒させている。

「よし、バクよ!ついてこい!」

ゴートはそう言って立ち上がると、デイパックを背負って歩き始める。
バクも急いでパンを食べ終えると、主人を追いかけていった。






そして、ゴートは門番の元へと戻って来たのだった。

「さあ、バクよ!お前の力であの女を簡単には目を覚まさないような
 深い眠りに落としてやるのだ!」

ゴートはバクに向かって命令する。
バクはその言葉に頷いて、門番に向かって眠りの魔法をかける。

門番はその魔法を受けて、より深い眠りへと誘われた……のだろう、多分。

正直なところ、ゴートには何が変わったのかよく分からなかったが、
バクの力を信じることにした。

「よし、今のうちじゃ……」

ゴートは門番を抱きかかえると、よろよろとふら付きながらも門番をレボワーカーから
降ろすことに成功する。

その間、門番は目を覚ます気配すら見せなかった。

「くくく……よしよし、これでこの乗り物はわしの物じゃ……!」

ゴートはいそいそとレボワーカーに乗り込むと、さっそくマニュアルから得た知識に
従って、レボワーカーを動かし始めた。

ウイン……ガシャンガシャン……。

「おおおおぉぉぉぉーーーーーー!!?」

レボワーカーが自分の思う通りに動いたことに、年甲斐も無く興奮するゴート。
横でバクが呆れた視線を向けているが、全く気が付いていない。

「素晴らしいっ!!素晴らしいぞ、これはぁぁぁ!!」

ゴートは洞窟全体に響き渡るほどの大声で叫ぶ。

「……んん〜……」

だが、その声を聞いた途端、ゴートは固まる。
視線を向けると、上体を起こした門番が寝呆け眼の不機嫌そうな視線をゴートに向けていた。


その瞳に、徐々に殺意が芽生え始め……。


「バクゥゥゥゥ!!そいつを眠らせろぉぉぉぉ!!」

ゴートの悲鳴にも似た叫びに頷き、バクは門番に再び眠りの魔法を放つ。

……こてん……。

バクの魔法を受けた門番は、あっさりと眠りの世界に舞い戻っていった。

「ふう……!危ないところじゃった……!」

額の汗を拭うゴートを、半目で見つめるバク。
ゴートはやはり気付かない。

「……いや待て……このレボワーカーなるものを手に入れた今のわしなら、
 この女にも勝てるのでは……?」

そう思ったゴートはしばし考えた後、ニヤリと笑ってレボワーカーの拳を振り上げ、
門番に振り下ろそうと……。

「……い……いや、待て……念のためにリョナ・カーズをかけておこう……」

そう言って、ゴートは門番にリョナ・カーズをかける。

「くくく……これで良し……では、今度こそ……」
「……んん〜……」
「はっ!?」

門番が身じろぎして、身体を起こし始めた。


そして、不機嫌そうな視線をゴートに……。


「バクゥゥゥゥ!!眠らせろぉぉぉぉ!!」

再び門番に眠りの魔法をかけつつ、バクは思う。

変な人に支給されてしまった、と。






結局、ゴートは門番を殺すことを諦めた。

「ふ……ふん……!まあ、放っておけばここは後1時間と少しで
 禁止エリアとなるからな……!
 わざわざ、わしが手を下すまでもなかろう……!」

言い訳のようにほざくゴートに、バクは適当にこくこくと頷いてやる。

ゴートはデイパックからマクラを取り出すと、門番に放る。

「……このマクラをくれてやろう、ホムンクルスの女よ。
 それで、文字通り死ぬまでここで寝ておるが良い……」

くく、とゴートは笑う。

「……では行くとするか」

ゴートはバクをレボワーカーに乗り込ませると、レボワーカーを走らせて洞窟を抜けていった。


そして、洞窟には寝こけた門番が残された。
彼女はもはや、禁止エリアによる爆死しか道は残されては……。

「……ん……んん……?」

なんと、門番が起きあがった。
その眠そうだった目は徐々に開いていき、ついには眠気など欠片も感じさせぬほどの
ぱっちりお目目となったのだ。

「……あれ〜……?なんか、眠くなくなっちゃった……?」

門番は首を傾げつつも、マクラを片手に立ち上がる。

「……まあ、眠くなくなっちゃったら仕方ないよね……。
 眠くなるまで散歩でもしよ……」

門番は大きく伸びをすると、洞窟を出て行った。

なぜ、あの門番が眠気を失うという異常事態に陥ったのか?

それは、彼女の手にしたマクラのせいである。
彼女が手にしたマクラは、眠りを防ぐ魔法のマクラ。

その名も、不眠マクラである。
その不眠マクラの効果により、門番は眠気を失ってしまったのだ。

門番は殺し合い開始から8時間以上の時を経て、ようやく動き出したのだった。

もっとも、放送を聞いていない上に禁止エリアに囲まれた現在の状況では
あっさり爆死するかもしれないのだが……。






【C−1:X4Y3/森/1日目:午後】

【ゴート@リョナマナ】
[状態]:残魔力中
[装備]:レボワーカー@まじはーど
(損傷度0%、主電源入)
バク@リョナラークエスト
[道具]:デイパック、支給品一式×2(食料11食分、水11食分)
猫じゃらしx3@現実世界
大福x10@現実世界
弓矢(25本)@ボーパルラビット
レボワーカーのマニュアル@まじはーど
[基本]:マーダー、キング・リョーナに復讐する
[思考・状況]
1.仲間のロアニーと合流する
2.キングへの報復方法を考える
3.ナビィ達を見つけたらキングの件とは別に報復する




【C−1:X4Y1/洞窟入口付近/1日目:午後】

【門番{かどの つがい}@創作少女】
[状態]:おでこにたんこぶが2つ、リョナ・カーズ状態
[装備]:不眠マクラ@創作少女
[道具]:無し
[基本]:眠くなるまで散歩
[思考・状況]
1.なんか眠くなくなったので、とりあえず散歩する
2.眠くなったら寝る

※第一回放送を聞いてません。
※不眠マクラの効果に気づいていません。
※自分が今何処にいるのか知りません。
※殺し合いに巻き込まれていることに気付いていません。
※ゴートを殴り倒した時の返り血が顔や服に付着したままです。なおこの件について全く覚えてません。





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