仇と狂気と孤独

 

その場は暗澹とした空気に包まれていた。

原因は先ほどの放送である。

「……冥夜……何で……!?」
「……オルナ……嘘だよ……オルナが……!」

明空が呆然としながら弟の名前を呟き、ナビィが涙目で仲間の名前を
呼びながら声を詰まらせる。

「……カザネ……!」
(こんな……こんなことって……!)

エリナの悲痛な表情、アール=イリスの嘆く声。
放送により、和やかだった先ほどの空気が一変してしまった。

クリス、伊予那、なぞちゃんはそんな三人の様子に何も言うことができなかった。

(……ある程度は覚悟していたけど……まさか、こんなに一気に……)

クリスは胸中で苦い思いを噛みしめる。
予想以上の死者の数、そしてその死者に含まれていた自分たちの関係者の多さ。

クリス自身も、親友の弟の名前が呼ばれたのだ。
動揺はあるし、彼を守れなかったことに対しての悔恨は深い。

「……俺は信じない……」

やがて、明空がぽつりと呟いた。
怪訝な顔で、他の五人が明空のほうに視線を向ける。

「……あんなヤツの言うことなんか……冥夜が死んだなんてことなんか、俺は信じない!」

明空が視線を上げて、大声で放送を否定する。

「そ……そうです!きっと、あの人は嘘吐いてるです!
 明空の弟さんや、エリナたちのお友達が死んじゃうなんてこと、あるわけ無いです!」

なぞちゃんが明空に慌てて同意する。
それを聞いたナビィも呟く。

「そうだよ……そうだよね!オルナが死んだなんてあるわけないよ!
 あんな殺しても死ななさそうな毒舌エルフがこんな簡単に死んじゃうなんて
 絶対おかしいもん!」
「そうさ!アイツは俺たちを騙すために嘘を言ってるんだ!」

その会話の流れにクリスは眉を顰め、伊予那は不安そうな顔で明空たちを見ている。

「ちょっと貴方たち……」
「……待って……」

明空たちを嗜めようとしたクリスだが、エリナはそれを制止した。

「今はあのままでいいわ……いえ、今あの子たちに放送が正しいと
 認めさせてしまったら、どうなるか分からない……」
「……そうね。最悪、このパーティが崩壊してしまうかもしれないし、
 今は時間を置いて、冷静になってもらったほうがいいわね……」

そして、クリスは気遣うようにエリナに声をかける。

「……貴女は大丈夫なの?」
「……心配しないで。ショックはあるけど、立ち止まるつもりはないわ」

エリナは気丈に振舞っているつもりだろうが、クリスには無理をしているようにしか
見えなかった。

「……やっぱり、私たちも同行したほうがいいかもしれないわね。
 私の探し人も死亡してしまったし、国立研究所に行く意味も薄くなったわ。
 死亡者の多さから考えて、皆で固まっていたほうが安全かも……」

エリナの様子に不安を感じたクリスは皆で固まって動くことを提案する。
だが、エリナはそれに対して首を横に振る。

「……駄目よ。むしろ死亡者が多いことを考えたら、探索範囲を広げて
 一刻も早く仲間や情報を集めないと、私たちに勝ちの目は出てこない。
 もたもたしていたら、手遅れになるわ」
「…………」

クリスは黙って、エリナの目を見つめる。
だが、エリナは視線を逸らさなかった。

エリナの意志は固いようだ。
クリスは溜息を吐いて、折れる。

「……無理だけはしないでね。亡くなった人のことを忘れろとは言わないけど、
 そのことを引きずっては駄目よ」
「……分かっているわ」

クリスは他の四人に声をかける。
そして先ほど話した通り、元の組に分かれて、クリス組は国立魔法研究所、
エリナ組はアクアリウムに向かうことにした。

「冥夜を見つけたら俺のことを伝えてくれよ!」
「オルナもね!それから、エマとカナリアのこともお願い!」
「……ええ、安心しなさい」

何度も振り返りながら手を振っている明空とナビィをクリスがたしなめながら、
彼らは北のほうへ向かっていった。








【B−4:X2Y2/廃墟/1日目:真昼】

【クリステル・ジーメンス@SILENT DESIRE】
[状態]:健康、魔力残量十分
[装備]:無し
[道具]:デイパック、支給品一式(パン1食分消費)
モップ@La fine di abisso
白い三角巾@現実世界
雑巾@La fine di abisso
[基本]:対主催
[思考・状況]
1.国立魔法研究所に向かう
2.道中でアーシャ・リュコリスかエリーシア・モントールと会えたら合流する
3.首輪を外す方法を考える

※明空のことが何故か気になってます、もしかしたら惚れました



【御朱 明空(みあか あそら)@La fine di abisso】
[状態]:健康
[装備]:ブロードソード@アストラガロマンシー
(ナビィにもらった。鞘から抜くつもりは無い)
[道具]:デイパック、支給品一式
おにぎり×4@バトロワ
ランチパック×4@バトロワ
弁当×1@バトロワ
ジュース×3@バトロワ
包丁@バトロワ
ライター@バトロワ
傷薬@バトロワ
包帯@バトロワ
マタタビの匂い袋(鈴付き)@現実世界
ツルハシ@○○少女
[基本]:主催者の打倒
[思考・状況]
1.国立魔法研究所に向かう
2.冥夜の死は信じない
3.行き先はクリスの意見に従うつもり
4.殺し合いに乗る人なんていないと思ってる

※何かあったら自分が身体を張って仲間を守るつもりです



【ナビィ@リョナマナ】
[状態]:正常
[装備]:無し
[道具]:デイパック、支給品一式(パン1食分消費)
ノートパソコン&充電用コンセント(電池残量3時間分程度、主電源オフ、OSはWin2kっぽい物)@現実世界(本人は未確認)
[基本]:対主催
[思考・状況]
1.国立魔法研究所に向かう
2.オルナの死は信じない
3.明空についてマタタビの匂い袋が他人の手に渡らないようにするつもり
4.キング・リョーナの行いをやめさせる





 

明空たちが去った後、エリナも先を急ごうとする。

「……あれ……?」
「?……どうしたですか、伊予那?」
「あれって、デイパックじゃないかな?」

伊予那の言葉を聞いて、なぞちゃんとエリナは伊予那の指差しているほうを確認する。

すると、確かにデイパックらしきものが落ちていることが分かった。
近付いて中を確かめてみると、青いお札が数枚と果物ナイフが出てきた。

お札のほうは元々伊予那のもので、悪霊退散の強力なお札ということだった。
そして、果物ナイフのほうは調べた限りでは普通の果物ナイフらしいことが分かった。
なぞちゃんに渡そうかとも考えたが、また豹変したときに危険だと判断し、
ナイフを渡すのは止めておくことにした。

支給品の確認を終えたエリナたちは、廃墟から南下してアクアリウムを目指し始めた。






「……動き出したわね。どうする、涼子?」
「んー、そうだなー」

サーディの言葉に唸る涼子。
彼女たちの視線の先には、エリナたち3人の姿。

「……まぁ大分人数も減ったし、強そうなのは向こうに行ったみたいだから
 今なら接触しても危険は少ないんじゃない?」
「ふふ……なら決まりね。ヤツらを皆殺しにして首飾りを取り戻しましょう?」

サーディの言葉に涼子はうーんと唸る。

「そりゃまぁ、モンスターと一緒にいたってことは、アイツらもモンスターの
 仲間なのかもしれないけどさぁ……」

サーディと涼子は廃墟に大勢の人影が存在するのを確認し、さらにその中に
獣の耳を持つ少女がいるのを見て、彼女らは全員モンスター、もしくは
モンスターの仲間だと考えていたのだ。

「……はっきりしないのねぇ。じゃあ、私が確かめてきてあげるわ」

サーディはエリナたちが自分の首飾りを持っているのを遠目に確認していた。
そのこともあって、涼子の煮え切らない返事に焦れたらしい。
サーディは彼女を置いて、エリナたちのほうへと走って行ってしまった。

「せっかちだねぇ、サーディは。
 涼子さんは後からのんびり行かせてもらうよー」

先を行くサーディを、涼子は焦るでもなく後ろからのんびりと追いかけて行くことにした。






(……エリナ、後ろから人が近づいてくるよ)
「そう……分かったわ」

アール=イリスの言葉に後ろを振り返るエリナ。

振り返った先には刀を持った桃色の髪の少女。
その少女は表情に笑みを浮かべて、エリナの目の前まで歩いてきた。

「こんにちは、良い日和ね」
「こんにちはです!」
「あっ……えっと、こんにちは……」

少女に答えて挨拶するなぞちゃんに、つられて伊予那も挨拶する。
エリナはその様子に呆れつつも、その少女に問いかける。

「……それで、貴女……この殺し合いには乗っているのかしら?」
「うふふ……乗って無いと言えば貴女は信じるのかしら?」
「……」

サーディの笑顔に対し、エリナは無言。

(エリナ、この子……危険な感じがするよ……)
(……危険?)

どういうことなのかと、エリナはイリスに問う。

(この子の中に何か恐ろしいものを感じるんだ……。
 すごく禍々しい気配……牛乳に浸した雑巾を一か月放置したような……!)
(そこでボケないで)

思わずツッコミを入れるエリナ。
ふと、伊予那がエリナの袖をくいくいと引っ張っているのに気が付き、
視線を向ける。

(あの……あの人、とても危険な気配がします……。
 ひょっとしたら、何かに憑かれているのかも……)
(…………)

伊予那までアール=イリスと似たようなことを言いだした。
超常の感覚を持った二人にそこまで言わせる目の前の少女に、エリナは警戒を強める。

「……それで、何か用?」
「ふふ、つれないのね。
 まぁいいわ、本題に入りましょう]

サーディはそう言って、一呼吸置いた後に告げる。

「その首飾り、元々は私のものなのよ。
 それを返してもらえないかしら?」
「……これが、貴女の?」

エリナは首飾りを見つめて呟く。

「そう。だから、譲って欲しいのよ」
「……これが貴女のものだという証拠はあるの?
 この殺し合いの場で武器は貴重なことは分かるでしょう。
 貴女の言葉をあっさり信じて、簡単に渡すわけにはいかないわ。」

エリナはそう言って、サーディの提案を断る。
殺し合いの最中に、出会ったばかりの相手に武器を渡すほどエリナは馬鹿ではない。
加えて、この少女の言動・雰囲気を見ているとどうにも信用が置けるような相手とは思えないし、
そもそもイリスや伊予那の言葉によれば、この少女は内に禍々しい何かを秘めているという。

信用できる要素など欠片も無かった。

「そう……まぁ、最初から譲ってくれるとは思ってなかったけど……。
 ……いえ、違うわね。むしろ断られるのを望んでいた、かしら?」
「……どういうこと?」

眉を顰めるエリナに、サーディは唇に弧を描いて答える。

「簡単なことよ……これで貴女たちを殺す理由ができたでしょう?」
「なっ……!?」
(エリナ、危ない!)

逃げようとするエリナだったが、それより早くサーディの斬撃が飛んでくる。

(!?……速いっ!?)

そのあまりの斬撃の速さに、エリナは驚く。
エリナは刀を持っていたサーディを警戒して、攻撃されても回避する余裕がある
安全な間合いを取っていた。

だが、あまりにも速い攻撃……まるで刀が重さを持たないかのような鋭い斬撃に
計算を狂わされた。

そのせいで、エリナは逃げきれずに胸を切り裂かれる。

「がっ……!」
(エリナッ!?)

倒れるエリナ。
それを見て、なぞちゃんと伊予那が悲鳴を上げる。

「エリナッ!?」
「ひっ……イヤアァァァッ!?」
「ふふふ……あははははははっ!!」

哄笑するサーディ。
彼女はエリナの手から首飾りを奪い取る。

そして、倒れたエリナに刀を突きつける。

「ふふ、さようならエリナさん……」
「くっ……!」

エリナは何とか逃れようとするが、傷が深くて身体が思うように動かない。
サーディはもがくエリナを恍惚とした表情で見つめながら、刀を振りかぶり……

「ま……待って!」

だが、それを遮る声が響く。
サーディが視線を向けると、そこには銃を構えた伊予那の姿。

「う……動くと、撃ち……撃ちます!」
(……何かしら、あの武器?
 撃つって言ってるから、飛び道具なんだろうけど……)

一瞬疑問に思うが、すぐにどうでもいいことだと思いなおす。

あの様子では、どうせ撃つというのはハッタリだろう。
実際に撃つような度胸は無いとサーディは判断した。

サーディは首飾りからダイスを生成し、それをナイフへと変化させる。
そして、それを伊予那に向かって投げつけた。

「!?」

伊予那は慌てて回避しようとするが、間に合わない。
ナイフは伊予那の右手に突き刺さった。

「痛っ……あ……うああぁぁっ……!?」
「伊予那!?」

あまりの痛みに右手を抑えて蹲る伊予那。
それを見て、伊予那に駆け寄るなぞちゃん。

それを満足気に見つめた後、サーディは再びエリナに向き直る。

なぞちゃんはそれを見て、慌てる。

(エリナが……エリナが殺されてしまうですっ!)

エリナを助けなければならない。

動くのだ。
身体を動かして、あの少女とエリナのところまで近付いて、エリナを助けるのだ。
それも少女がエリナを殺す前に。

ならば、速く……普通の人間では不可能なほど速く動かねばならない。
そう、一瞬で。


ミアを風を操る少女から助けたときのように。


(……!?)

その瞬間、何かがなぞちゃんのうちから溢れだしてきた。

(な……何ですか、これ……!?)

それは恐ろしく冷たい、氷のような意志。
それはなぞちゃんの意志を凄まじい勢いで呑みこみ始めた。

(ひ……!?)

自分が呑みこまれていく感覚。
だが、なぞちゃんはその感覚を知っていた。

いや、思い出していた。

この意志に呑まれた後、ミアと離れ離れになっていたことを。
この意志に呑まれた後、ひどい怪我をして倒れていたことを。

この意志に呑まれた後、とても悲しい気持ちになっていたことを。

(い……嫌……!嫌です……!なぞは、また……!)

だが、なぞちゃんは自分のうちから溢れだす凶暴な意志に抗うことが
できなかった。

そのまま、なぞちゃんの意志はもう一つの意志に呑みこまれてしまった。




 

ぞくっ。



「!?」

突如、身の毛のよだつような殺気を感じて振り向くサーディ。

そこには、顔を伏せた緑髪の少女。
いや、先ほどまでの彼女とは何かが違う。
決定的に違う。

少女が顔を上げた。

「ひっ!?」

サーディは思わず悲鳴を上げた。
その少女の目を見てしまったから。

一切の感情を写さない、渇ききった表情。
ただ殺意のみを宿す、氷のような瞳。

それを見たサーディには、彼女が人間どころか生物にすら見えなかった。
目の前の少女の異様な恐ろしさは、サーディの内なる悪魔にすら怯えを抱かせていた。

「う……あ……あぁ……!」

歯がガチガチとなる。
膝が笑っている。

(!……そ……そうだわ!このエリナって女を人質に……!)

そう思って、エリナへと視線を向けるサーディだったが、そこにエリナの姿はない。

「!?」

慌てて周囲を見回すと、いつの間にか伊予那が必死でエリナを引きずって逃げようとしていた。

「エリナ、さん……!しっかり、して……!」
「……う……ぅ……」

伊予那はなぞちゃんが変貌したのを察すると、自分とエリナも危険だと判断して、この場から
離れようとしていたのだ。

(余計なことを……!)

怒りの表情を浮かべるサーディだが、なぞちゃんの発する気の弱い者ならそれだけで
殺せそうなほどの恐ろしい殺気の中、伊予那の行いを阻止するのは不可能だ。

なぞちゃんが一歩前へと踏み出す。
それだけでサーディは強烈なプレッシャーを感じてしまう。

「……何なのよ……!?何なのよ、アンタはぁぁぁ!?」

サーディは声を震わせて叫び、首飾りから大量のナイフを作り出して少女に投げつけた。

だが、少女がその視界を埋め尽くさんばかりに迫るナイフ全てを、右へ左と身体を捻るだけで
軽々と避けてみせた。しかも、前へと歩き続けながら。

「な……な……」

そんな馬鹿な。
サーディが目の前の光景を信じられない。
だが、目の前の化け物相手にその隙は致命的だった。

「!?」

凄まじい勢いでサーディに肉薄する少女。

その瞳が宿す意志は、ただ一つ。
純粋な、混じり気無しの強烈な殺意のみ。

「あ……ああぁぁぁぁっ!!」

顔を恐怖に引き攣らせたサーディは無様に悲鳴を上げて逃げようとする。

だが、間に合わず……。


「覚悟は良いか、愚か者めぇ!!」


ズドガアアアアアァァァァァァァァアァァァァン!!!!

とてつもない速度で、なぞちゃんに何かが降ってきた。

「!?……な……何が……!?」

混乱するサーディ。
それに答えるように降ってきた何かが言葉を紡ぐ。

「ちっ、避けたか。3ゲージが無駄になったじゃないのさ。
 怪我は無いかね、サーディ?」
「……り……涼子……?」
「おう、涼子さんですよ」

なぜか無駄に誇らしげな笑みをサーディに向ける涼子さん。
間一髪、涼子の不意打ちを回避したなぞちゃん。
彼女は目の前に現れた新たな敵を冷たく見据えた。

「なんか物凄い顔で悲鳴上げてたから乱入したんだけど……」

涼子はそう言って、なぞちゃんを見て目を細める。

「……思った以上にヤバそうだね、この子。
 さすが、モンスターの仲間ってところかな」

涼子は思う。こんな目をする人間はまともではない。
やはり、彼女たちはモンスターの仲間だったのだと改めて認識した。

涼子は油断なくアーシャの剣を構える。
対して、なぞちゃんは先ほどの騒動でサーディが落とした双刀の
一本を左手で拾い、構える。

「サーディはあっちの二人を頼むよ。
 銃持ってるみたいだし、ほっといたら涼子さんが撃たれて死ぬべさ」

見ると、すでにかなり離れた位置に伊予那とエリナは移動していた。

「……分かったわ。あの二人を殺したら、私も加勢する。
 それまで時間を稼いでちょうだい」

サーディの言葉に、涼子は笑みを浮かべて答える。

「ああ。時間を稼ぐのはいいが……
 別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう? 」
「……なぜかしら、今とてつもなく不安になったわ」

げんなりと呟くサーディに涼子はけらけらと笑った後、表情を引き締めて
なぞちゃんに突進していく。

それを見送ると、サーディもエリナたちを殺すために彼女たちの元へと向かう。

ずぴゃっ。

「どえええぇぇえぇぇぇっ!!?
 涼子さんの剣があっさり真っ二つにぃぃぃっ!!?」

涼子の素っ頓狂な声を耳にしたサーディは目を細めながら思う。

(……あの二人を殺したら、涼子は見捨てて逃げたほうがいいかもね……)

サーディは9割方本気でそう考えていた。




 

「エリナさん!しっかりして!エリナさん!」

伊予那はエリナを引きずりながら、必死で呼び掛けていた。

胸を切り裂かれたエリナは夥しいほどの血を流していた。
その顔はどんどん土気色に青ざめており、その様は嫌でも伊予那に死というものを連想させ、
不安にさせていくのだ。

「……う……伊予那……」
「!……良かった、エリナさん!気がついたんですね!?」

伊予那はエリナが自分の名前を呼んだのを聞き、安堵する。
だが、足音が聞こえてくるのに気がついて顔を強張らせる。
足音のする方向に視線を向けると、先ほどの桃色の髪の少女の姿。

「……伊予那……私のことは放って、逃げなさい……!
 アイツは私が何とかするわ……!」
「何いってるんですか!?そんな怪我で何とかできるわけないでしょ!?」
「いいから……行きなさい……!」

エリナはそう言うと、伊予那から乱暴に銃を奪い取る。

(この子は……カザネと同じ目には合わせない……!)

そして、こちらへと走ってくるサーディを見据えて、引き金を絞り込んだ。


パァンッ!


だが、サーディは首飾りのダイスから盾を生成し、それを防ぐ。
エリナは舌打ちするが、銃弾により盾にひびが入ったのを見て取ると、構わず連射した。


パァン、パァン、パァンッ!!
バリンッ!!


そして、撃ちこまれた銃弾がとうとうサーディの盾を壊すことに成功する。
だが、すでにサーディはエリナへと間合いを詰めており、エリナに対して
双刀を叩きこもうとしていた。

(エリナ、避けてっ!!)
「……っ!!」

アール=イリスの焦った声が頭に響くが、エリナは逆に踏み込んでいった。


ずぐぅっ……!!


そして、双刀はエリナの胸を再び切り裂いた。

「ぐ……はっ……!」
(エリナっ……!?)
「エリナさんっ!?」

だが、エリナは構わずに震える腕で銃口をサーディに向けようと……。


ずぴゃっ!


「……っ!!」
(エ……エリナっ……!)

エリナの右手首から先が斬り飛ばされた。
当然、右手に握りしめていた銃は手首とともに失われてしまう。
胸と右手の切断面から溢れ出る血液に塗れ、エリナは激痛と貧血で
耐えきれずに崩れ落ちた。

「……あはははっ!捨て身覚悟で自分から突っ込んでくるなんて馬鹿な女ねぇ!
 私相手にそんな戦法が上手くいくと思ったのかしら!?」
「あ……あぁ……!エリナさん……!」

サーディの嘲笑の声と伊予那の震える声がエリナの耳に響く。
だが、エリナにはそれに反応する力は残っていない。

サーディは刀を振って血を払うと、伊予那へと視線を向ける。

「ふふ……さあ、次は貴女の番よ?」
「ひっ……!?」

サーディは次の標的に歪んだ笑みを向ける。
その禍々しさに、伊予那は怯えて後ずさる。

「この女は嬲る前に壊れちゃったからねぇ……!
 貴女はじっくり苦しめて可愛がってあげるわ……!」
「い……いやっ……桜……!」

伊予那は目に涙を浮かべて、思わず親友の名前を呟く。
サーディは伊予那のその反応に舌舐めずりせんばかりの表情を浮かべる。

「ふふ……いいわよ、貴女……!カザネもなかなか良かったけど、
 貴女は貴女で嬲りがいがありそう……!」

サーディの言葉を聞いた伊予那は聞き覚えのある名前に反応する。

「え……か……カザネって、エリナさんが探してた人じゃ……!」
「あら、知り合いだったのかしら……?
 ふふ、ご愁傷さまね……あの子なら私が全身をズタズタに切り刻んで
 殺してあげたわ……!」
「……そんな……!?」

目を見開く伊予那。それを見て、嘲笑するサーディ。
そのとき、伊予那は再びサーディの内に潜む禍々しい気配を感じ取る。

(やっぱり……この人、憑かれてる!
 でも……それなら、さっき拾ったお札で何とかなるかも……!)

伊予那が今持っているお札は強力な悪霊退散のお札だ。
もし、この目の前の少女が悪霊に憑かれたがゆえにこのような蛮行を行っている
のだとしたら、悪霊さえ追い払えば問題は無くなるはずだ。

だが、問題はどうやってお札を使うかだ。
桜と違って運動神経がよろしくない伊予那では、戦い慣れているサーディの攻撃を
掻い潜ってお札を張り付けるなどできようはずもない。

伊予那が悩んでいるうちにも、サーディは一歩一歩近づいてくる。

「さぁ……貴女もカザネと同じ目に合わせてあげるわ……!」
「……させないわ……!」
「!?」

サーディは背後から聞こえてきた声に驚いて振り向こうとする。
だが、その前に両腕を羽交い絞めにされてしまった。

サーディを捕えたのは、エリナ。
右手首を失い、胸を深々と切り裂かれたエリナは全身血まみれになりながらも、
その瞳の力を失ってはいなかったのだ。

「ちっ……!しぶといじゃない、この死にぞこないが……!」

サーディは半死半生の身で後ろから組みついてきたエリナを振りほどこうとする。
だが、エリナは重傷を負い、右腕の手首から先を失っているとは思えない力で
サーディを抑え込んでいた。

「っ……!……どこにこんな力が……!」
「……話は聞いてたわよ……お前がカザネを……!」
「……だったら、どうだと言うの?仇を討つとでもいうのかしら?」

サーディは嗤う。

「あはは、笑わせてくれるわね!今にも死にそうな貴女に今更何が
 できるというのかしら!?無駄なことは止めて大人しく死んでしまえば
 楽になれるわよ!?」

サーディの嘲りの言葉を無視して、エリナは伊予那に視線を向ける。

「……伊予那、逃げなさい……!この女は私が……!」

何とかする、と言いかけてエリナは驚愕に目を見開く。

なぜなら、エリナの目に映ったのはお札片手に必死の形相で突っ込んでくる
伊予那の姿だったからだ。

「うああぁぁぁぁ−−−−−っ!!」
「なっ……!?」

サーディも伊予那に気がつき、驚きの表情を浮かべる。
慌てて避けようとするが、そうはさせじとエリナが阻止する。

「く……くそっ……!」

焦るサーディ。
だが、そんなサーディの焦りを無視して、伊予那は突っ込んでくる。
そして、伊予那は右手に持ったお札をサーディの額に思いっきり叩きつけた。

ジュアアアァァァァッ!!

その瞬間、凄まじい音を立ててお札が青く燃え上がった。

(ギアアアァァァァァァァァッ!!?)

そして、お札はサーディの内に潜む悪魔を神聖な力で焼き尽くした。






 

「ぐ……あ……あぎぃぃぃぁぁあぁぁァァァァァッ!!?」

そして、焼き尽くされた悪魔が感じる痛みは、悪魔と精神の大半を共有していた
サーディにもフィードバックした。

耐えがたい激痛を悪魔と共有してしまったサーディはあまりの痛みにのた打ち回る。
暴れるサーディを抑えきれず、エリナは振り払われて倒れてしまう。

「ぐっ……ぐぅぅぅっ……!このガキィィィ……!」

サーディは激痛に身を捩りつつも、伊予那を鬼の形相で睨みつける。

「ひっ……!あ……あぁ……!」

サーディの鬼気迫る迫力に、伊予那は恐怖に慄く。

サーディの内に棲む悪魔は強大だった。
いくら伊予那のお札の力が強力とはいえ、それだけで倒されてしまうほど
軟弱な存在ではなかったのだ。

「殺してやる……!!お前は四肢を引き千切って内臓を抉りだして目を繰り抜いて
 切り刻んで切り刻んで砕いて砕いて、ひたすら苦しめて殺してやるわ……!!」
「い……いやあぁぁぁぁっ!!」

伊予那は恐怖に耐えきれず、逃げだした。
だが、サーディには逃がすつもりなど微塵も無い。

決して足が速いとは言えない伊予那に、サーディはあっさりと追いついて伊予那の背中に
鋭い蹴りを叩き入れた。

「ああぅっ!!」
「ふふ……逃がさないわよ……!まずは左手の指から一本ずつ斬り落としてあげるわ……!」

狂笑を浮かべるサーディ。
伊予那は目に涙を浮かべて歯をガチガチと鳴らす。

「ほぅら……まずは小指から少しずつ切り取って……!」
「……やらせないと……言ったでしょう……!」
「……ふん、まだ動く力があったのね……!」

声のしたほうにサーディが視線をやると、そこには満身創痍でありながらも
眼光鋭くサーディを睨みつけるエリナの姿。
その左手には3枚のお札を握りしめ、サーディへ一歩、一歩と近付いてきている。

「くっ……!」

それを見て、サーディは顔を引き攣らせて後ずさる。

お札1枚ですら、あれほどの激痛だったのだ。
それなのに、もし3枚ものお札をこの身に受けたとしたら……

当然、悪魔は消滅。サーディも痛みに耐えきれずショック死するか、
もしくは激痛のあまり精神崩壊といったところだろう。

「……カザネの仇よ……!」

エリナは胸から夥しい量の血を未だ流し続けている。
右手首は斬り飛ばされており、出血多量のせいか顔色は青白い。

今にも倒れて死んでしまってもおかしくない様相。
だが、それにも関らずエリナはサーディを倒すために、サーディに向かって
走り出した。

「ちっ……いい加減しつこいのよ、アンタはっ!!」

サーディは首飾りからナイフを無数に生み出し、エリナに撃ち出した。
だが、エリナは怯まないどころか速度を上げた。

(今更、怖気づくわけにはいかない……!私はもう……!)

決意を固めるエリナ。そんなエリナに、ナイフは容赦なく襲いかかった。


ザクザクザクザクッ!!


身体に数え切れないほどのナイフが刺さるが、エリナは痛みを無視して走る。


ザクッ!!


足に刺さった。一瞬よろけたが、大丈夫だ。
この程度ならば、まだ我慢できる。

問題無い。まだ走れる。


ジュグッ!!


目に刺さった。凄まじい激痛に足が止まりそうになる。
だが、無理やり体勢を整えて走り続ける。

問題無い。まだ片方は見える。


ゴシュッ!!


喉に刺さった。
ゴボっと喉から血が溢れてきて、吐血する。

問題無い。まだ肺の酸素は残ってる。


ザシュッ!!


心臓に刺さった。
身体がびくりと痙攣し、血液を身体に送ることができなくなる。
これでは身体に酸素を供給できず、もうほとんど動くことができない。

問題無い。もう充分近付いた。


……後は左手をヤツに叩きつけるだけだ。






数え切れないほどのナイフを受けながら、死なないどころか怯みすらしないエリナが
サーディには信じられなかった。

あり得ない。絶対にあり得ない。
まるで不死身の化け物が迫ってきているように感じられ、サーディは恐怖で錯乱した。

「ひっ……!寄るな……寄るなあぁぁぁっ!!」

絶叫して刀を振り回すサーディ。

もう遅いわ、とエリナは言おうとしたが、喉がゴボゴボとなるだけだった。

構わず、エリナはサーディに左手に握ったお札を叩きつけた。


ゴジュアアアアアァァァァァァァァァァッ!!!


(ガアアアァアッァァァァアアーーーーー!!!)
「ひぎいぃぃぃぃあgぁdjgぁかあぽあああぁぁぁぁぁあぁぁぁぁ!!!!!」

サーディの喉から人間が出すとは思えないような絶叫が迸る。

先ほどとは比べ物にならない、まるで灼熱の業火に焼かれ続けるような激痛。
それは人間に、いや生物に耐えられるようなものでは無かった。

その瞬間、悪魔はその存在を消し去られ、サーディの精神はバラバラに破壊された。




 

エリナはサーディにお札を叩きつけたと同時に力尽き、倒れた。
エリナの傷は元々サーディの攻撃によって、ナイフの弾幕に突っ込む前から
致命傷となっていたのだ。

エリナもそれが分かっていたからこそ、せめてカザネの仇を討つため、また伊予那の
安全を得るために捨て身でサーディに特攻したのだ。

そして、エリナは見事サーディを倒すことに成功したのである。

(しかし……さっきのは本当にキツかったわ……もう二度とやりたくないわね……)

もっとも、やる機会など二度とないだろうけど……。

エリナはそんなことを考えながら、薄れゆく意識の中で自分の内のアール=イリスに
謝罪していた。

(……悪かったわね、こんなことに付き合わせて……)
(……何言ってるのさ、エリナ。私にとってもカザネちゃんは大事な子だったんだよ?
 もし私と君の立場が逆だったとしても、私も同じことをしたさ)
(……そう……そうよね……)
(……それに私たちはパートナーでしょ?水臭いこと言いっこなしさ、エリ姉!
 ここまで来たら、地獄の底まで付き合うさー!)
(……ふふ……最期まで貴女は貴女らしいわね……)

そろそろ意識を保つのが限界に近付いてきた。
死が近づいたことで気になったのは、もう一人の後輩のこと。

カザネと自分が死んでしまって、シノブは大丈夫だろうかと心配になる。
だが、すぐにシノブなら自分たちがいなくても大丈夫だと考え直した。

(シノブなら……この殺し合いも必ず叩きつぶしてくれるはずだわ……)
(マインちゃんもついてるしね、二人とも私たちの分まで頑張ってくれるよ!
 私たちはカザネちゃんやアリアちゃんとのんびり見物と洒落込もうぜぇ!)
(ええ……あの子たちなら……きっ……と……)
(……そうさ……何も心配することはないよ……だからゆっくりお休み、エリナ……)
(………………)

アール=イリスの声を聞きながら、エリナは安らかな表情で息を引き取った。






伊予那は呆然としていた。

目の前には、全身に大量のナイフが刺さったエリナの死体。
傍には、内の悪魔を祓われ、自らの精神も砕かれて倒れている桃色の髪の少女。

「何なの……?何なの、これ……?」

伊予那は恐怖に震えていた。

伊予那はこれまでなぞちゃんとの戦闘を経験した以外は、危険な目にはあっておらず、
死体の一つすら見ていなかった。

そんな伊予那には、この状況は刺激が強すぎた。

「いや……やだよ……!こんなの、嫌だよ……!」

目の前で仲間が殺された。
そして、その殺された仲間の死体が野ざらしにされている。

殺したのは狂人だった少女。
そして、その狂人も激痛で心が壊れてしまった。

これが、殺し合い。

一人は命を奪われ、一人は心を壊された。

現実的で生々しい、目の前の壊れた人間。

そんなものを許容できるほど、伊予那の心は強くなかった。

「……え……?」

しかも、伊予那の心をさらに責め立てることが起こった。

「……な……なんで……?」

桃色の髪の少女が、立っていた。

そして、力の抜けた無表情な顔を伊予那へと向けたかと思うと……。

笑った。
無邪気なほどの、滑稽なくらいの、顔をくしゃくしゃにした満面の笑み。

その笑みに、呆気に取られる伊予那。

しかし、次の瞬間サーディは伊予那に刀を叩きつけた。

「ひっ……!?」

間一髪、伊予那は避けることに成功する。

先ほどまでとは全く違う、切れも技術も無い大ぶりの一撃だった。
だからこそ、その攻撃は運動の苦手な伊予那でも避けることができた。

「ふふ……うふふ……あはは……!」

攻撃を避けられたサーディは、しかし悔しがるでも無く、
避けられたことがおかしいかのように笑っている。

伊予那はサーディのその様子に、ただ混乱するしかない。
だが、思考がまとまらない状況で伊予那は自然と悟っていた。

この少女の心は、やはり完全に壊れてしまったのだということを。

「ヒヒヒャハハハアハハハハハァァァーーーーー!!」
「っ!?」

いきなり奇声を上げて、大声で笑い出したサーディに伊予那は驚く。
天に向かって、吠えるように笑う。ただ笑う。
手に持っていた刀は放りだし、全神経を笑うことに集中させているかのように。
そして、サーディは笑いながら伊予那と逆の方向に物凄い勢いで走り出した。

あっという間に豆粒ほどの大きさになり、ついには見えなくなるサーディ。
それを呆然と見送るしかない伊予那。

あまりにも衝撃的な光景を立て続けに目にすることになった伊予那の疲労は限界に来ていた。
伊予那の脳は主人をその過酷な現実から守るために、一時的に機能を停止することにした。

とどのつまり……伊予那は精神的疲労の限界に達して、意識を失った。








【富永エリナ@まじはーど 死亡】
【残り29名】


【C−3:X3Y2/森/1日目:真昼】

【富永エリナ{とみなが えりな}&アール=イリス@まじはーど】
[状態]:死亡
[装備]:無し
[道具]:デイパック、支給品一式×2(食料は11食分)
ハロゲンライト(懐中電灯型)@現実世界(電池残量十分)
巫女服@一日巫女
アイスソード@創作少女
ハンドガン@なよりよ(残弾5)
果物ナイフ@こどく



【神代 伊予那{かみしろ いよな}@一日巫女】
[状態]:右手に中程度の切り傷、精神疲労大、気絶
[装備]:無し
[道具]:デイパック、支給品一式(パン1食分消費)
9ミリショート弾x30@現実世界
SMドリンク@怪盗少女
[基本]:桜と生きて帰る
[思考・状況]
1.気絶中
2.銃は見せて脅かすだけ、撃ち方は分かったけど発砲したくない

※伊予那のそばには、
  ルカの双刀(一本)@ボーパルラビット、
  ベレッタM1934@現実世界(残弾4、安全装置解除済み)
 が落ちています。






 

涼子となぞちゃんの戦いは熾烈を極め、戦闘を繰り広げるうちに、彼女たちは
エリナたちのいる場所から自然と離れ、どんどん森の奥へと入り込んでいった。

そして、十数分に及ぶ戦闘の結果……。

「う……あぁ……あぁぁぁ……」

なぞちゃんは倒れていた。
その身体には、深い切り傷が幾重にも刻まれており、苦しそうにぜいぜいと
息を乱していた。

なぞちゃんの傷のいくつかは明らかに重要な臓器を傷つけており、
全身から流れ出る血は失血死してもおかしくないほど大量に流れ出ていた。
なぞちゃんの負った傷は、誰がどう見ても致命傷だった。

対して、涼子は左腕を切り裂かれている以外は傷らしい傷を負っていない。
その傷の原因も、涼子が無茶をしたのが原因だった。
涼子はデイパックから武器を取り出す隙を見つけられなかったため、
危険を承知でなぞちゃんから刀を奪ったのだ。
だが、その代償は大きかった。

(やれやれ……ちょっとドジったかな……)

双刀を奪う際に切り裂かれた左腕。
腱こそ断たれていないようだが、自由に動かすことは難しい。

涼子はもっと上手くやるつもりだった。
だが、手負いとは思えぬほど鋭い動きを見せたなぞちゃんに、
油断していた涼子は遅れを取った。

それでも涼子は何とか武器を奪うことに成功し、ゲージ全開無双乱舞を
なぞちゃんに叩きこんで勝利を収めたのだった。
怪我をしている上に武器を持たない状態では、いかに冷酷な殺人機械とはいえ、
参加者の中でもトップクラスの実力を持つ涼子に叶うわけがなかった。

(この子が怪我してなかったら、ヤバかったかもなぁ。
 素の強さなら、若干この子のほうが上っぽかったし……)

「……痛……い……」
「ん?」

なぞちゃんが呟いた声に、涼子は反応する。

「……なん……で……?痛い……寒い……です……。
 ここ……どこ……?ミアちゃんは……?
 エリナ……伊予那は……?皆……どこですか……?」
「あー、死に際で意識が朦朧としてるのかな?」

なぞちゃんは力の入らない身体を必死で動かし、何かを掴もうとするかのように
のろのろと左腕を動かしている。

すでに、なぞちゃんの目は何も見えていなかった。
その腕は、はぐれてしまった仲間を掴もうとしているのだ。
だが、この場には彼女の仲間は一人もおらず、誰も彼女の手を握り返しては
くれない。

そんななぞちゃんが哀れに思ったのか、涼子は刀を構えて呟く。

「……ま、モンスターの仲間とは言え、さすがに不憫だからねぇ。
 ちゃんとトドメ刺して楽にしてやるか」
「寒い……嫌……誰か……助けて……」

涙を流して弱々しく助けを求めるなぞちゃん。
そんななぞちゃんに引導を渡してやるため、涼子は刀を振り上げ……。


「ヒヒヒャハハハハアァァァァーーーーー!!」

いきなり周囲に響いた奇声に、涼子さんビビる。

「なっ!?何ぞ!?」

慌てて周囲をキョロキョロと見回す涼子。
すると、笑いながら物凄い勢いで目の前を走り抜けて行くサーディの姿を
見つけることができた。

呆気に取られる涼子さん。

「サーディ……しばらく合わないうちに元気な子になって……」

とりあえず、ボケる涼子さん。
ほろりと涙を流し、ハンカチを目頭に当てる。

「……って、待て待て、ちょっと待てぇぇ!!?」

だが、サーディが向かった先がどこなのかに気付いた涼子は目を見開き、
慌ててサーディを追いかけ始めた。

「痛い……ミアちゃん……痛いよぉ……」

後には、傷の痛みと全身を襲う寒気に苦しみながら死を待つなぞちゃんが残された。






凄まじい速度で走るサーディを全速力で追いかける涼子。

「サーディちゃん、あーたってそんなに足速かったっけ!?
 あれか!?興奮状態で脳内に発生するアドレナリンとかのせいか!?
 ナチュラルドーピング効果か!?涼子さん、よく知らんけど!!
 って、それはともかく止まれって!!そっちはヤバいから!!」
「ケケケケキャハハハァァァーーーー!!」

だが、サーディは涼子の声が聞こえていないかのように、笑いながら走り続ける。
そして……。


ボンッ!!


禁止エリアに侵入したサーディの首輪が爆発し、サーディの首を吹き飛ばした。

「……っ!!」

涼子は慌てて急ブレーキをかける。
自分まで禁止エリアに侵入してしまっては、間抜けにもほどがある。

涼子の足元に、ごろごろとサーディの首が転がってきた。
その顔は狂気の笑顔を浮かべていた。

涼子さん、再びビビる。

「……何てこったい……さすがにハードすぎでしょ、これは……」

顔を引き攣らせて呻く涼子。

「……で、涼子さんはこれからどうするべきかな」

涼子は考える。
サーディの様子を見る限り、錯乱していたのは間違いない。
あの場にいたモンスターの仲間の二人……十中八九、彼女たちが何かしたせいだろう。

(どうやったら、こんな風に人間を狂わせることができるってのさ……。
 ひょっとして、残してきた二人のほうがあの子よりもヤバい相手だったってオチか?
 何にせよ、急いで離れたほうが良さそうだね……)

涼子は、危険な相手とは極力関わる気は無い。
モンスターの仲間は思った以上に手ごわい相手だった。
サーディも死んでしまったし、わざわざ危険な戦いを続ける必要もないだろう。

サーディの荷物を回収しようと思ったが、走っていた勢いもあって、
サーディの身体とデイパックは禁止エリアの奥のほうに倒れている。
ならば、首くらいは回収して埋めてやろうと涼子は考えたが、首も身体と同じく
禁止エリアの中だった。

「……しゃーない、諦めるか……」

溜息を吐く涼子だが、ふと足元に首飾りが落ちているのに気がつく。

「……サーディの首飾りか……まぁ、形見として持っていってもいいよね。
 高く売れるかもしれないし。……ごめん、嘘。化けて出ないで」

サーディに謝りつつ、涼子はしばらくサーディに黙祷を捧げた。
そして、踵を返してその場を離れる。






涼子がなぞちゃんのところへ戻ると、やはりなぞちゃんは死んでいた。
右腕を伸ばしたまま苦悶の表情を浮かべているところを見ると、
よほど苦しんだのだろう。
少しバツが悪くなる涼子だったが、自分を殺そうとしてきた相手だし、
まぁ自業自得だろうと思っておいた。

とりあえず、死者への礼儀として黙祷を捧げた後、目を閉じさせてやる。

「……来世は普通の女の子に生まれなよー?」

そう言って、なぞちゃんのデイパックを回収した涼子はその場から立ち去って行った。






こうして、彼女たちの邂逅は終わった。

異星の友を持つ女は、仲間の仇を討って果てた。
記憶を失った少女は、苦痛と孤独に苦しみ死んでいった。
悪魔を宿した少女は、狂気に溺れてその身を滅ぼした。

生き残ったのは、霊能力者と遺跡荒し。

殺し合いの地獄は、まだまだ続く。








【サーディ@アストラガロマンシー 死亡】
【なぞちゃん@アストラガロマンシー 死亡】
【残り27名】


【C−3:X1Y1/森/1日目:午後】

【天崎涼子@BlankBlood(仮)】
[状態]:中疲労、左腕に中程度の切り傷(水とハンカチで処置済み)
[装備]:ルカの双刀(一本)@ボーパルラビット
[道具]:デイパック、支給品一式×4(食料のみ23食分)
    エリーシアの剣@SILENTDESIREシリーズ
    防犯用カラーボール(赤)x1@現実世界
    ライトノベル@一日巫女
    怪しい本@怪盗少女
    カザネの髪留め@まじはーど
    銘酒「千夜一夜」@○○少女、
    眼力拡大目薬×3@リョナラークエスト
油性マジック『ドルバッキー(黒)』@現実世界(新品、ペン先は太い)
たこ焼きx2@まじはーど(冷えてる)
クマさんクッキーx4@リョナラークエスト
運命の首飾り@アストラガロマンシー
[基本]:一人で行動したい。我が身に降りかかる火の粉は払う。結構気まぐれ。
    でも目の前で人が死ぬと後味が悪いから守る。
[思考・状況]
1.お宝を探す
2.そろそろ奈々も探してみる
3.モンスターとその仲間を警戒

※運命の首飾りの用途に気づいていません。
※ナビィ、クリス、明空、伊予那、なぞちゃん、エリナをモンスター、
 もしくはモンスターの仲間だと思っています。
※アーシャの剣はルカの双刀に真っ二つにされて使い物にならなくなりました。



【サーディ@アストラガロマンシー】
[状態]:死亡
[装備]:無し
[道具]:競技用ボウガン@現実世界(正式名:MC-1、矢2本、射程30m程度)
デイパック、支給品一式(消耗品は略奪して多めに確保)



【なぞちゃん@アストラガロマンシー】
[状態]:死亡
[装備]:四葉のクローバー@現実世界(頭に装備)
[道具]:無し







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