「ぐ……う……!」
リョナたろうは呻きつつ身を起こした。
「……ここは……?」
リョナたろうは気絶する前の状況を思い出そうとしたとき、
横合いから声が掛けられた。
「……起きたんだ」
その声に振り向くリョナたろう。
そこには……。
「……よう、生きてたか」
「そっちもね……ていうか、ここにいるなんて思ってなかったけど……」
頭部に一対の小さな角が生えた少女……見慣れた忌み子の姿があった。
リゼとエマが出会ってから情報交換をした後、
二人はリゼが言うお姉ちゃん ―― 萩の狐を殺した青い髪の女性を
放っておくわけにはいかないという結論に至った。
そして、現在二人はその女性を追って、東へと森を進んでいる最中だった。
「殺し合いに乗った人を放っておくわけにはいかないからね!
大丈夫だよ、リゼ!今度は私もついてるし、大船に乗った気でいてよ!」
「う……うん……ありがと……」
正確には先に手を出したのは伊織を殺したリゼであり、青い髪の女性 ―― 涼子は
あくまで正当防衛だったのだが、涼子への憎しみがかっていたリゼは心の中でエマに
謝りながらもそれについては黙っておくことにした。
(それに……最初は殺すつもりがなかったみたいだったのに、
私が忌み子だって知ったらあの女は私を殺そうとした……)
それはつまり……涼子に出会ったら、エマも危ないということなのだ。
ならば、どちらにせよリゼとエマにとっては涼子は敵ということである。
特に訂正する必要も無いだろう、とリゼは心中で自分の行いを正当化していた。
人間を無闇に殺しまわるつもりはもうない。
だが、あの女だけは許すつもりなど微塵もなかった。
(……絶対に殺してやるから……)
胸中を冷たい殺意に満たしながらも、リゼは考える。
(……でも、本当に私たちであの女に勝てるのかな?)
エマは強い。
少なくとも先ほどの戦闘から考えて、萩の狐よりずっと強いのは確かだろう。
だが、それでも……その力は萩の狐を殺したあの女に太刀打ちできるほどのものだろうか?
(……ううん、そんなこと考えても仕方ない……)
リゼは考える。
この殺し合いが最後の一人になるまで続くものである限り、
あの女はいつか必ず壁となって立ちはだかる。
エマたちは、最後には回生光のラクリマによってこの殺し合い自体を
無かったことにするつもりだ。
だが、それもリゼかエマ、もしくはエマの仲間が生き残ってこそのことだ。
それを考えるなら、障害となるあの女はできるだけ早いうちに殺しておくべきだ。
もしエマの仲間が殺されるようなことがあったら、ただでさえ少ない自分たち忌み子の
仲間がさらに少なくなってしまう。
それだけは避けなければならない。
「……リゼ?聞いてる?」
「……え?な、何?」
エマから呼びかけられていることに気づき、リゼは慌てて聞き返す。
「もー、ちゃんと聞いてなよ?
このまま進むともうすぐ湖が見えてくるみたいだからさ、
ちょっと水浴びしていかないって言ったんだよ」
「あ……うん、そうだね。私たち、けっこう汚れてるし……」
そう言って、改めて自分とエマの姿を確認する。
リゼは今までの戦闘から、エマは狩りやリゼとの諍いから
あちこちに傷や血の跡がついていた。
曲がりなりにも、二人とも女の子である。
そういったものは気になるし、せっかく湖の近くに来たのだから、
身体の汚れを洗い流しておきたいと思うのも当然だろう。
そんなわけで、リゼとエマは湖へと向かうことにした。
だが、そう決めた直後……。
ぴきぴきぺきぱきぃっ!!!
いきなり前方から何かが凍りつく音が響いてきた。
それと同時に、強大な魔力の奔流が二人を襲った。
「ひっ……!?」
その魔力のあまりの凄まじさにリゼは怯えてぺたんと尻もちをついてしまう。
「これは……まさか、リネルの……!?」
一方、エマはその魔力に覚えがあり、驚愕の表情で呟いていた。
それは宿敵である、ロアニーの幹部リネルが放つ魔力と同じもの。
以前にナビィ、オルナとともに闘い、なんとか撃退はできたものの、
リネルのその恐ろしい強さはエマの心に刻みつけられていた。
(どうしよう……今はナビィもオルナもいないのに……!)
怯えたリゼの様子を見る限り、満足に戦えるとは思えない。
この状態でリネルと出会った場合、実質エマ一人で戦うことになるだろう。
その場合の勝率など考えるまでも無い……ゼロだ。
(早く逃げないと……!)
そう思ったエマ。
だが、ふとあることに思い至った。
今リネルと戦っているのは、誰なのか?
リネルがあれだけ大規模の魔法を放つということは、
よほどの強敵か、もしくは憎き仇敵のどちらかだろう。
だとすると……今、リネルと戦っているのはナビィやオルナかもしれない。
そう考えたら、逃げるわけにはいかなくなった。
「……聞いて、リゼ。今の魔力の持ち主は私の敵かもしれない。
そして、今その敵と戦っているのは私の仲間かもしれないの……」
エマが語る言葉を、リゼは驚いた表情で聞いている。
「……私、今からそれを確かめてくる。
だから、リゼはここで待ってて……」
「……わ……私も行く!」
リゼに待っているように言おうとしたエマだが、リゼの言葉を聞いて
驚いた顔を見せる。
「で……でも、危険だよ?
それに、本当に私の敵や仲間がいるとは限らないし……」
だが、エマの言葉にリゼは首を横に振る。
「危険、なんでしょ……?
だったら、エマ一人に行かせられないよ……。
私……せっかく自分と同じ境遇の人を見つけられたのに、
またいなくなっちゃうのはやだよ……!」
萩の狐は死んでしまった。
この上、エマまで失ってしまうのはリゼには耐えられないのだ。
「……うん……分かった……」
リゼの気持ちが理解できたエマは、もうリゼを止める気などなかった。
「……一緒に行こう、リゼ!」
「……うん!」
そして、二人の少女は共に戦いの現場へと向かった。
だが、その後すぐに……。
「あ゛ーあ゛ー、てすてす。・・・ふぅ、ようやく繋がった。
ったく、そろそろコレ買い換えないといけないなぁ。」
少女たちの勢いを砕くかのように放送が響いてきた。
足を止めて聞き入る二人。
そして……。
「……嘘……オルナ……!」
残酷な事実がエマに伸しかかった。
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