「うむっ、流石私。」
涼子は窓から外の雨模様を脇目に、たこ焼きを頬張る。
「とりあえずっ、雨宿りだと思ってっ、テキトーに入ったトコがっ、定食屋だったっ、とかっ。」
涼子は小刻みに息を吐きつつ、呟く。
「日頃のっ、行いがっ、いい証拠っ、ですねっ。 わかりっ、ますっ。 おぁちちっ。」
涼子が雨宿りと称して飛び込んだ場所、そこは所謂定食屋と呼ばれるような内装の小さな建物であった。
涼子はそこで早速、電子レンジを拝借して、たこ焼きを暖めることにした。
電気が通っていることに多少驚きつつも、涼子は無事、熱々のたこ焼きを頬張ることに成功したのだった。
「ふぅー! やっぱ、たこ焼きは熱いのに限るねー♪ 外がカリカリじゃなかったのが心残りだったけど。」
たこ焼きを平らげた涼子は手元のお絞りで口の周りを吹きつつ、外を眺める。
その時だった。
「・・・むっ!?」
窓の外に人影を見た気がした涼子は、素早く壁に身を潜める。
そして、ゆっくりと首だけを出して窓の外を確認した。
(あ、あれは・・・。 いつぞやの、モンスターっぽいヤツ!?)
涼子の目に映った人物、それは数時間前にサーディと目撃したモンスター一団の筆頭とも言うべき少女の姿だった。
(むむむ・・・。 仲間の仇を討とうと私を追ってきたってトコかぁー?)
獣耳少女は酷く慌てた様子で数軒隣にある大きな建物に入っていった。
(片っ端から調べるつもりとは、余程・・・ってんおっ!?)
涼子は思わず身を乗り出してしまい、慌てて壁に隠れた。
(・・・涼子さん、初めて見たよ。)
涼子は獣耳少女の後に続いて建物に入った女性の姿を思い出す。
(メイド服なんて、ヲタが二次元彼女に着せるためにしかないような服を恥ずかしげも無く着てる女とか! 涼子さん初めて見た!)
涼子は込み上げる笑いを口元を押さえて必死に抑えつつ、座り込む。
(あんなイタい女、初めて見たー! ヤベェー! 笑うしか、笑うしかないー!)
涼子は声を上げて笑いたい気持ちを静めるため床を叩いた。
数回叩いた所でなんとか気持ちを静めることができた涼子は、小さく溜め息をついて立ち上がる。
「・・・先手必勝、よねー?」
涼子は荷物を背負い、1本だけとなった刀を握りしめてゆっくりと出口へと向かった。
〜〜〜〜
「・・・全くっ! 万屋『まんゲフゲフや。』って、ホント、あのハデ夫のセンスのなさには反吐が出るわねぇっ!!」
えびげんは近くにあった柱を叩きつつ怒鳴った。
「ま、まぁまぁ・・・。 とりあえず、此処は色々とありそうだから、手分けして使えそうな物を探そうよ?」
ナビィは両手でえびげんを宥める。
えびげんは大きく溜め息をついてから、軽く頷いた。
「・・・そうね。 じゃっ、私奥の方を見てくるから、ナビィは入口近くをお願いね。」
「うんっ、任せてよっ。」
えびげんは商品棚の合間を縫うように店の奥へと入っていく。
彼女の背中を暫し見送ったナビィは、近くの商品棚へと視線を移した。
(・・・そういえば、『まんゲフゲフや。』って、どういう意味だったんだろう?)
ナビィはふと、えびげんがセンスがないと激怒していた店名が気になった。
ナビィは少しだけ首を傾げるが、小さく頷くと傍にあった商品を手に取る。
(まぁ、今はそれどころじゃないよね。 後でえびげんに聞いてみることにしようっと。)
〜〜〜〜
「・・・えーと、ヤツらが入ってたのは確かあそこだったなぁ。」
涼子は向かい側の建物の影に身を潜め、獣耳少女達が入っていった建物の様子を伺う。
「なになに・・・。 万屋『まんゲフゲフや。』・・・プッ!」
建物の入口上に大きく描いてある店名を読むなり、涼子は吹き出してしまった。
その直後、涼子はあんぐりと口をあけて肩を落とす。
(りょ、涼子さん・・・。 一生の不覚ぅぅぅぅぅぅぅぅーーっ!!)
涼子は今の状況も忘れて地面に崩れ落ちると、悔し涙を流しながら何度も地面を叩いた。
「・・・格なる上はっ。」
涼子はフラりと立ち上がると刀の柄を強く握る。
「あのモンスターをズピャッと殺って気分爽快としゃれこみますかぁーっ!」
涼子は大きく頷くと建物に向かって走り出した。
〜〜〜〜
(おお、居た居た・・・。)
入口をそっと開けて忍び込んだ涼子は、近くの商品棚の影に隠れて通路を覗き込んでいた。
彼女の視線の先には、壁際の商品棚を見てなにやら探している標的の姿があった。
(なにを探してるかは知らないけど・・・。)
涼子は刀の柄を握り、商品棚の影伝いに標的との距離を詰める。
(涼子さんの験直し【げんなおし】のために、死んぢゃってくれっ!)
涼子は一度だけ大きく深呼吸すると刀を振り上げ一気に飛び出す。
「あっ、せぇのっ!!」
「――えっ!?」
〜〜〜〜
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