ガシャン、ガシャン、ガシャン・・・
巨大な鉄の塊が、昏い街を歩き回る。
八蜘蛛はそこの宿屋の二階に、身を潜めていた。
(あれも、あの人間の放った化け物かしら・・・だとしたら辛いわね。)
先程5人の人間を殺していった黄土色の巨人も、十分厄介な相手だ。
しかし目の前の化け物はそれ以上の大きさで、おそらく力も硬さも上。
デイパックにはハンマーと剣が入っているが、八蜘蛛の身体能力ではとても相手にならない。
糸による攻撃も、力があれば振りほどかれるし、生命力が全く感じられないので精力吸収も期待できない。
言葉が通じるのなら是非とも味方にしたい所だが・・・おそらく無理だろう。
(とりあえず、こっちに気付かずに行ってくれれば良いんだけど・・・)
「むぅ・・・ここも外れかのう・・・」
リザードマンの村で何も得られなかったゴート。
彼が次の目的地に選んだのは昏い街だった。
思えばバトルロワイアル開始から今まで、出会った参加者は1人だけ。
そろそろ他の参加者に、レボワーカーのパワーを見せ付けたくなったらしい。
そこで、「街というからには誰かおるじゃろ」という単純な考えで、ここまでやって来たのだが・・・
街のどこを見ても、人の姿は見当たらない。
どうやらこのじじい、そうとう運が無いようだ。
「誰もおらんのなら仕方あるまい。」
ゴーとはあきらめて次の施設に移動しようとした。
だがその時、コクピットに並ぶ計器の一つが、反応を示した。
「おおっ、これはっ!!! えーっと・・・」
ゴートは分厚いマニュアルを開き、その計器の説明を探し始めた。
(止まった・・・まさか、気付かれた!?)
化け物が立ち止まったのは、八蜘蛛の隠れている部屋の窓の、すぐ前だった。
八蜘蛛は敵の姿を確認する。
平たい頭に盛り上がった肩、突き出た胸、背中に背負った「何か」。
相手は見るからに鈍重だ。倒すのは不可能でも、攻撃を避けるぐらいなら出来るはず。
そう思った八蜘蛛は集中力を高め、敵の攻撃に備えた。
しかし、化け物は全く動こうとはしない。
何百ページもあるマニュアルから目的のページを探し出すのは、
優秀な頭脳を持つゴートにとっても、やはり困難なことなのだろう。
もっとも、八蜘蛛はそんな事情を知る由もないが。
数分後。
ウィーン・・・
不気味な機械音と共に、化け物の背中の「何か」が動いた。
そしてそれは、尖った部分を八蜘蛛の部屋の窓に向けて停止する。
(・・・来る!)
ガシャアアアン!!!
物凄いスピードで射出された「何か」は、窓ガラスを貫き、天井に突き刺さった。
(は、速い!!・・・逃げないと!)
予想外の速さに驚き、慌てて部屋を飛び出す八蜘蛛。
そのまま階段を駆け下り・・・ようとした所で、足を止めた。
(違う。今のは・・・囮。)
魔王三将軍の一人として、実戦経験豊富な八蜘蛛は、すぐさま敵の狙いを察知した。
さっきの飛び道具は、弾速は速いものの照準を合わせるのに時間がかかっていた。
しかも攻撃は直線的で回避は難しくない。
隠れている相手を狙うならともかく、通常の戦闘ではおそらく役に立たないだろう。
ならばあの化け物の主力武器は何か。
考えるまでも無く、巨体とパワーを活かした直接攻撃で間違いない。
(どうやら、建物から飛び出した所を狙おうって魂胆ね。)
あの巨体では、建物内に入るのは不可能だ。
壁も見たところかなり頑丈で、さすがにあの化け物でも壊せそうにない。
つまり、八蜘蛛が建物内にいる限り、化け物は回避しやすい飛び道具しか撃てないのだ。
そのことに気付いた八蜘蛛は、今度は別の部屋に入って、再び身を潜めた。
(さて・・・どう出るかしら。)
ガシャン、ガシャン、ガシャン・・・
化け物は宿屋の入口の前で、獲物が出てくるのを今か今かと待ち構えているらしい。
(ふふっ、この八蜘蛛様にはそんな姑息な手段、通用しないわ。)
その様子を思い浮かべて、八蜘蛛はふっと笑みを浮かべる。
しかし・・・
(う・・・あ・・・なに・・・こ・・・れ・・・)
全身の力が抜け、その場に倒れこむ八蜘蛛。
彼女の背後には、割れた窓から侵入した、夢の精霊バクの姿があった。
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