死亡者を読み上げる下品な声。
その名前を聞いたナビィの手から、
ショットガンが滑り落ちた・・・
「待てーっ!このエセメイドヲタ女ぁー!」
「待てと言われて待つ人がいるもんで
すか。」
店内をちょこまかと逃げ回るえびげんと、それを追いかける涼子。
既に5分近く経過しているが、どちらも諦める様子は無
い。
「あ痛っ!」
アフロヘアが棚の角に引っ掛かり、涼子は思うように動くことが出来ない。
一方のえびげんは余裕
の笑みを浮かべている。
「アハハッ!そんなんじゃいつまで経っても追いつけないわよ♪」
「うぐぅ〜っ、かくなる上は・・・」
涼
子が急に動きを止めた。
それを見たえびげんが、ついに観念したかと思った矢先、
ガシャン!
えびげんの頭上で鏡が
破裂した。
涼子の投げた商品の懐中時計が、鏡に命中したのだ。
「くっ、しまった!」
この店の天井には、所々に鏡
が設置されている。
つい先程は、えびげんがこれを利用して涼子を追い詰めたのだが、まさか逆に利用されるとは思っていなかった。
「ふっ、
防犯ミラーを笑う者、防犯ミラーに泣くのだっ!」
「うわ、それさっきの私のセリフ・・・なんて言ってる場合じゃないっ!」
頭上に
無数の鏡の破片が降り注ぐ。
えびげんは咄嗟に側にあった洗面器でガードした。
「ふう、何とかやり過ごしたか・・・」
「隙
ありーっ!」
「なっ!」
えびげんが鏡に気を取られている間に、涼子は数メートルの距離まで迫っていた。
しかもその手に
は、この店に置かれていた包丁が握られている。
このままでは殺られる、かと言って避けるにしても、鏡の破片が散乱していて足場が悪い。
絶
体絶命のピンチに陥ったえびげんが取った行動は、
「攻撃は最大の防御!」
忍ばせておいたスペツナズナイフを取り出し、わ
ずか0.1秒の早撃ちで刀身を射出した。
「その程度の攻撃、涼子さんには止まって見えるわっ!」
涼子が最小限の動きで攻
撃を回避する。
しかし、それこそがえびげんの狙いだった。
「ふふっ、アフロって邪魔よねー♪」
「のわあぁっ!」
普
段の髪型なら確実に回避できていただろう。しかし今の彼女はアフロヘア。
スペツナズナイフがアフロに突き刺さり、その衝撃で涼子はバランスを崩し
た。
「もう一度言うわ。防犯ミラーを笑う者、防犯ミラーに泣くのよ!」
涼子はそのまま、散乱した鏡の破片の上に倒れこん
だ。
露出の多い服装の彼女にとって、これはかなり痛い。
「あだっ、がっ、いぃいっ!!」
「よし、今のうちに・・・」
痛
がる涼子を尻目に、えびげんは落ちていたショットガンを拾い上げ、店の外に飛び出した。
「いつつっ、あのエセメイドヲタ
女ぁー!」
涼子はとりあえず傷口にツバをつけて、えびげんを追って店の外に出た。
そして大声で叫ぶ。
「どこ
だーっ! 出て来ーい!」
「そんな大声出さなくても、すぐ近くにいるわよ。」
意外な返答に驚きながら、涼子は周囲を見回した。
し
かし、えびげんの姿は見当たらない。
「という事は・・・上かっ!」
「ピンポーン。では正解者へのプレゼントでーす。」
ガ
ンッ
涼子が上を見上げると、巨大な『まんゲフゲフや。』の看板が落ちてきた。
もちろん、えびげんの仕業だ。
「う
わーっ! こんなのに潰されるのは嫌だあぁーっ!!」
ガシャーーン
大きな音を立てて看板が地面にぶつかる。普通の人間な
らば大怪我は免れないだろう。
だが、涼子の場合は別だった。
「見切ったーっ!」
彼女は看板を回避し、さらにはそ
れを踏み台にして、屋根の上にいるえびげんに飛び掛かった。
常人では考えられない身体能力である。
「そんなっ!?」
「ふ
ははははは! 涼子さんの底力、思い知ったか!!」
「・・・なーんちゃって♪」
「へ・・・?」
いつの間にか涼子に、
ショットガンの銃口が向けられていた。
えびげんは、その行動を完全に予測していたのだ。
空中にいる以上、回避行動は取れない。引き金を引
くよりも速く懐に飛び込むことも出来ない。
えびげんは自分の勝利を確信し、引き金を引いた。
ズドン!
ショットガ
ンが火を噴く。その時涼子の体は・・・
その場所には無かった。
「な・・・何故っ!」
「説明しようっ!
涼子さんは空中でジャンプをする事で、二段ジャンプが出来るのだぁっ!」
「なにーっ、・・・ていうかそのまんまじゃない!」
涼子
はえびげんの指の動きに全神経を集中させ、引き金を引くと同時に空高く飛び上がったのだ。
通常ならばその程度で銃撃が外れるわけがないのだが、え
びげんにも油断があったのだろう。
銃弾は涼子の体に触れることも無く、どこか遠くへ飛んでいった。
「さあ、エセメイドヲタ女、覚
悟しろー!」
「まさか避けられるとは思わなかったわ。でも・・・覚悟するのはあなたの方よ。」
「なっ・・・!」
「実は私も二段
ジャンプが使えるのよ。だから・・・弱点もよく分かってる。」
えびげんはショットガンの銃口を涼子の着地点に向けた。
「弱
点その1、高度が上がる分、無防備な落下時間が伸びる!」
さらに、引き金に指を掛けて狙いを定める。
「弱点その2、発動
すると、一度着地するまで再使用できない!」
涼子も何とか回避しようとするが、この状況ではもはや不可能だ。
「ふふっ、
今度こそ私の勝ちよ!!」
えびげんのショットガンが火を噴いた。
ガキイイイィン!!!
大
きな金属音。
涼子の包丁が、弾丸を切り裂いた音だった。
「ふっ、またつまらぬものを斬ってしまった・・・」
無
駄にポーズを決める涼子と、それを口をあんぐりとあけて見つめるえびげん。
暫しの静寂が訪れる。
しかし少し経って、えびげんがあ
る事に気付いた。
「これ、散弾銃だから斬っても意味ないんだけど。」
「へ・・・」
どうやら、涼子は無我夢中だっ
たために気付かなかったらしい。
「あべしっ!」
涼子はその場に倒れこんだ。あまりにも当然の結末であった。
【天
崎涼子@BlankBlood 死亡】
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