「そんな……!なぞちゃん……美奈ちゃん……!」
「アーシャ……エリー……!」
ミアとクリスは先ほどの放送による死者の発表を聞いて、放心していた。
ミアは、この殺し合い開始直後に出会ったパートナーであったなぞちゃんと、
先ほどまで脱出を共にすると誓った仲間である美奈までが死亡しており、
クリスはこの殺し合い以前からの親友であり、もっとも信頼を置いていた二人の
仲間が死亡してしまったのだから……。
(……なぞちゃん……!美奈ちゃん……!)
自分がもっとしっかりしていれば、とミアは思わずにはいられなかった。
なぞちゃんも美奈も、自分の行動次第では救うことができたかもしれないのだ。
それを思うと、ミアは後悔で胸がいっぱいになった。
(アーシャ……エリー……まさか、貴女たちが死ぬなんて……!)
クリスには信じられなかった。
今まであらゆる事件や困難をあの二人は解決してきたのだ。
時には自分も二人を助け、支えてきただけに、クリスはあの二人の力は充分理解していた。
その二人がいくらこの恐ろしい殺し合いの中とはいえ、こんなにもあっさりと……。
クリスの瞳に涙が滲む。
あの二人はもういないのだ。
それを思うと、クリスの胸が張り裂けそうだった。
(……いけない……!今は感傷に浸ってる場合じゃ……!)
クリスは萎えそうになる意志に渇を入れ、俯いているミアに声をかける。
「……ミア……さっきの放送を聞いたでしょ……?
もう……一刻の猶予も無いわ……」
その言葉にミアはハッとクリスのほうに顔を向ける。
「美奈ちゃんが……死んでしまった……!
それは……初香ちゃんにも……危機が迫っていると……いうこと……!
早く、あの子を……助けに……行って……あげて……!」
クリスは必死の思いで、ミアへ懇願する。
そう、ここでクリスと初香が死亡してしまえば、全ての希望は絶たれてしまうのだ。
魔術知識と機械知識……首輪には両方のトラップが仕掛けられている。
そのトラップを解除するためには、クリスと初香、二人は欠かせない存在なのだ。
もはや、生存者はわずか14名。
その内、味方と呼べる存在はクリス、ミア、初香、えびげん、ナビィ、
後は廃墟で出会った伊予那の6人。
そして、殺し合いに乗った者がモヒカン男とエルフ男。
殺し合いに乗った者は最低でも2人。
つまり、14人の内8人は既知の人物であり、そのうち2人は殺し合いに乗っている。
まだ出会っていない者で殺し合いに乗っていない可能性のある人物は
6人しか存在しないのだ。
その6人の中に魔術知識、もしくは機械知識を持ち、さらに殺し合いに
乗っていない者が存在する確率など皆無に等しい。
参加者全員の命が助かるかどうかは、クリスと初香の生存にかかっているといっても
過言ではないのだ。
「……分かった……!すぐに帰ってくるから……!」
ミアの言葉に、クリスは微笑んで頷く。
そして、ミアは迷いを振り切るように全速力で国立魔法研究所へと走っていった。
それを見送ったクリスは「ふぅ……」と息を吐き、背中を木に寄りかからせる。
そろそろ限界だった。
全身から血が流れ、骨折した左腕は熱を持って痛み出している。
頭を打ったせいで意識も朦朧としており、もはや意識を保つのも限界だった。
(……ごめん……皆……。少しだけ……眠らせてもらうわね……)
クリスは心の中で仲間たちに謝罪しつつ、意識を失った。
雪の降る道中を寒さに耐えながら、ミアは必死で国立魔法研究所を目指して走った。
そして、研究所に辿り着いたミアは休む間も惜しんで初香を探し始めた。
「初香ちゃんっ!!初香ちゃん、どこなのっ!!?」
ミアは大声で初香に呼びかけ続ける。
だが、いくら探し続け、呼びかけても返事は無い。
そのことに、ミアは焦りを覚える。
まさか、初香はすでに殺人者の手に……?
(……落ち着いて……!冷静になるのよ……!)
そうだ、ここで冷静にならなくてどうする。
今、初香を助けることができるのは自分だけなのだ。
そう思い、深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
そこで、はたと気がつく。
そうだ。
考えてみれば、ここには初香以外にもあのモヒカン男とエルフ男がいる
可能性もあるのだ。
彼らがここにいるのなら、あれだけミアが大声で初香の名を叫び続けていて、
気がつかないはずがない。
考えてみれば、迂闊だった。
もし、彼らが初香を捕まえていて、彼女を人質にしてミアの前へ現れたとしたら?
そのとき、ミアはオーガが初香を人質にしたときと同じように
彼らに手出しできなくなるだろう。
どうやら、思った以上に動揺していたらしい。
モヒカンたちの襲撃と放送、ほぼ同時に起こった衝撃的な出来事のせいで
ミアは完全に冷静さを失っていたようだ。
そのことに気がついたミアはいくらか冷静になることができた。
そして、続けてミアは思考する。
モヒカン男とエルフ男、彼らはまだこの研究所内にいるのか?
(……いや、それはないわね……。
すでに、私が初香ちゃんを探し始めてから、それなりの時間が経過している……。
彼らがここにいるなら、今までに何か仕掛けてきたはず……)
ということは、モヒカン男とエルフ男はこの研究所から移動したことになる。
そして、モヒカンとエルフがこの場にいないということは、彼らはクリスの元へと
向かっているか、もしくはここから移動した初香を追っていった可能性が高い。
と、そこでミアはもう一つ大事なことを思い出した。
(……そうだ……禁止エリア……!)
先ほどの放送で、このA−4エリアは次の禁止エリアに指定されていた。
モヒカン男とエルフ男は、このエリアが禁止エリアに指定されたことも
理由の一つとして、この場から移動したのだろう。
だとすると、初香がここにいないのも頷ける。
このエリアが禁止エリアに指定されたにもかかわらず、あの聡明な少女が
この場に留まるはずがないからだ。
ならば、初香は外に逃げたに違いない。
急がなければならない。
ミアは、ここで無駄に時間を費やしてしまった。
早く初香を見つけなければ、取り返しのつかないことになるかもしれない。
一瞬、もしモヒカン男たちがクリスのほうへと向かっていたら、と考えると
ミアは不安になったが、結局は初香を追うことにした。
クリスならきっと大丈夫だ。
彼女は自分よりずっとしっかりしているし、怪我をしていても殺人者から
身を隠すくらいはできるはずだ。
それに、向こう側には商店街があり、商店街にはえびげんとナビィがいる。
放送で明空と美奈が死亡したことを知れば、必ず助けに来てくれる。
そのときに、クリスのことも見つけてくれると信じるしかない。
(今、一番危険なのは初香ちゃんだ……!早く初香ちゃんを見つけないと……!)
ミアはそう判断し、研究所から移動することにした。
しかし、先ほどより冷静になったとはいえ、やはりミアにはまだ焦りがあったのだろう。
普段なら気づくはずの気配……自分を狙う殺気に気づくことができなかったのだから。
ミアが研究所の出口から外へと出た瞬間、
ヒュバッ!!
「!!」
風を切る音。
咄嗟にブロードソードを掲げて防御の体制を取ろうとするが、間に合わない。
バキィィッ!!
「ああぁぁぁっ!!?」
わき腹に鋭く加えられた衝撃に、ミアは吹き飛ばされて地面に叩きつけられる。
「ぐっ……うぅっ……!」
ミアは呻きながらも身を起こし、自分に攻撃してきた相手を睨み付ける。
そこにいたのは、巨大な目玉を持つ粘液状の不定形生物……スライムだった。
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