「すぴー……すぴー……」
門番は民家のベッドで寝息を立てて寝ていた。
「……ん〜……」
門番は一瞬むずかったかと思うと、寝返りを打つ。
ドシィィィンッ!!
そして、そのままベッドから落っこちて、シノブとの戦いでできた傷を 激しく打ち付けてしまった。
「あんぎゃああぁぁぁぁっ!!?」
門番、できそこないの恐竜のような悲鳴を上げながら飛び起きる。
「い……いったあぁ〜……!」
涙目になりながら傷口をさする門番。
門番がシノブから受けたダメージは損傷が内臓にまで至っている。 本来なら激痛で睡眠を取ることもままならないはずなのだが、そこは我らが門番である。
魔物としての生命力と、そして何より眠ることに関してはの○太にも負けない、 数秒で眠りに落ちる特殊技能により、彼女はあっさりと眠りに落ちた。
しかし、いくら門番とはいえ、寝てる間に激痛を与えられて寝ていられるわけもなかった。
この激痛が他者から与えられたものならば、門番はその身の程知らずを八つ裂きにするだけの話だが、 今回はただの自業自得である。
怒りをぶつける相手のいなかった門番は不機嫌そうに唸りながら、辺りを見回す。
「……って、あれ?やくもんは?」
八蜘蛛の姿が見えないことに首をかしげる門番。
シノブとの戦いの後、すぐに気絶してしまい、八蜘蛛によってこの民家のベッドまで運ばれた門番には 八蜘蛛が初香たちを探しに行ったということなど分かるはずもない。
「……も〜……どこ行っちゃったんだよ、やくもん……」
門番は顔を顰めながらも、身を起こす。
「……まだ眠いけど……さっきみたいなことがあったら困るし、しょうがないか……」
この殺し合いの場所において、八蜘蛛を一人にすることは危険だ。 いくら彼女が魔王軍三将軍の一人とはいえ、この場には彼女に匹敵する猛者が大勢いるのだ。
魔族を守護する者として、八蜘蛛を危険に晒すことは門番にはできなかった。
「近くにいれば良いんだけど……とりあえず、町の中を探してみようかな……」
門番はそう呟き、八蜘蛛に当てた書置きを残して、眠気と痛みを堪えながら 民家から足を踏み出した。
外に出た門番を迎えたのは、シノブの死体と八蜘蛛が作り出したであろう繭だった。 シノブの死体を複雑な思いで見やりながら、門番は繭のほうに視線を向ける。
「これって、やくもんの繭だよね……ってことは中に人間が入ってるのかな?」
門番は繭を少し裂いて中身を確かめてみる。 すると、中には神官の格好をした満身創痍の小柄な少女が入っていた。
「あーらら……死にかけじゃん……これじゃ、大して養分にならないんじゃないの?」
門番はそう呟きながら、裂いた繭を閉じる。 そして、辺りに散らばっていた支給品をデイパックにかき集めて、デイパックを背負った。
「さて……ん?」
そこで、門番は気づく。 どこかから何かを叩く音がすることに。
きょろきょろと辺りを見回す門番。 すると、その音は放置されたレボスレイブの中から聞こえてくることに気がついた。
近づいて確かめてみると、手のひらに乗るくらいの小さな少女がレボスレイブのキャノピーを 叩いていることが分かった。
何かを訴えるようにキャノピーを叩く少女……バクを見ながら、門番は考える。
(……ひょっとして、出してほしいのかな?)
そう思い、リザードマンの剣をキャノピーのガラスに思いっきり叩き付けた。
バリィィィンッ!!
盛大な音と共に、レボスレイブのキャノピーのガラスが粉々に砕かれた。
「……っ!!?」
門番のいきなりの凶行に、バクは引きつった顔で全速力で後ずさる。 そんなバクに対して、門番は言う。
「ほら、これで出られるっしょ? 私に感謝するんだぞ、妖精さん」
門番は脱力系の笑顔でにへらと笑いながら、恩を売りつける。 もちろん、涙目でがたがた震えているバクの様子には微塵も気づかない。
「……あ、そうだ。妖精さん、君、やくもん知らない? ちっちゃな女の子の格好してるんだけど……」
門番の問いかけに、バクは必死でぶんぶんと首を横に振るう。 門番は残念そうな顔をしながら呟く。
「そっかー……まぁ、しょうがないか。 んじゃ、出してあげたお礼にやくもんを一緒に探してくれない?」
門番の言葉に、バクはしばし考えた後、首を縦に振る。 バクはキング・リョーナによって支給品として動くように命令されており、 基本的に持主の言葉には絶対服従である。
ゴートが死亡した以上、その後にバクを最初に見つけた門番がバクの所有者となるのが妥当なはずだ。
バクはそう判断し、門番の命令に従うことを決めた。 (……というか、バクは元々は門番の支給品なのだが……)
「いないねー、やくもん」
門番がだるそうに呟きながら、いくつめになるか分からない民家の扉を閉めた。
「それにしても、この町って死体ばっかりだねぇ……どんだけ、皆ここで戦ってんのさ?」
門番は周りに転がっている少年少女と化け物の死体に呆れた目を向けながら言う。
ちなみに、門番、彼らの支給品は回収済みである。 さらにラーニングの極意を読んで、ちゃっかりとラーニングも習得していた。 意外にも抜け目の無い門番だった。
「……もう探す場所もこの屋敷だけだし……この町にはもういないのかもしれないねー」
門番はそう言いつつ、だとすると探すのは骨が折れそうだとげんなりする。
この屋敷にいてくれ、やくもん!と願いながら、門番は屋敷の扉を開けた。
「……おらん……ホントどこ行ったの、やくもん……」
門番はくたびれた身体を壁に預けて、ため息を吐く。
「こりゃ冗談抜きに、外に出て行ったっぽいなぁ……。 あんまり行きたくないけど、外まで探しに行ったほうがいいかなぁ……」
しかし、そこで門番はふと気づく。
「……って待てよ?普通、どっか行くんだったら書置きくらい残すよね? それが無かったってことは、すぐに帰ってくるつもりだったってことじゃ……」
そして、それにも関わらず八蜘蛛が帰っていないということは、八蜘蛛に何かあったということになる。 強敵と出会って戦闘中、怪我をして動けない、拉致もしくは監禁されている、あるいは……。
「……やべぇ……」
最悪の事態を想像して、青くなる門番。
シノブとのやり取りからして、八蜘蛛は他の参加者たちに恨みを買っている可能性が高い。 だとすると、八蜘蛛に恨みを持つ参加者、もしくはその参加者から八蜘蛛のことを聞いた参加者に 八蜘蛛がやられてしまったということは充分にあり得る話だった。
「い……急がないと……!」
焦る門番だが、ふとその門番の袖をバクがくいくいと引っ張っていた。
「……?」
門番が疑問の目を向けると、バクが棚に向かって指を向けた。
「何……って、ん……?風……?」
バクの示す棚の裏側から風が吹き込んでいるのだ。 それに気づいた門番は、棚を動かしてみた。
すると、そこには先へと続く通路が現れた。
「!……これって、隠し通路!?」
門番の言葉に、バクは頷く。
「よくやった、妖精さん! もしかしたら、ここにやくもんがいるかも……!」
門番はさっそく隠し通路の奥へと進んでいった。
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