反撃の狼煙は立つのか?

 

「すぴー……すぴー……」

門番は民家のベッドで寝息を立てて寝ていた。

「……ん〜……」

門番は一瞬むずかったかと思うと、寝返りを打つ。

ドシィィィンッ!!

そして、そのままベッドから落っこちて、シノブとの戦いでできた傷を
激しく打ち付けてしまった。

「あんぎゃああぁぁぁぁっ!!?」

門番、できそこないの恐竜のような悲鳴を上げながら飛び起きる。

「い……いったあぁ〜……!」

涙目になりながら傷口をさする門番。

門番がシノブから受けたダメージは損傷が内臓にまで至っている。
本来なら激痛で睡眠を取ることもままならないはずなのだが、そこは我らが門番である。

魔物としての生命力と、そして何より眠ることに関してはの○太にも負けない、
数秒で眠りに落ちる特殊技能により、彼女はあっさりと眠りに落ちた。

しかし、いくら門番とはいえ、寝てる間に激痛を与えられて寝ていられるわけもなかった。

この激痛が他者から与えられたものならば、門番はその身の程知らずを八つ裂きにするだけの話だが、
今回はただの自業自得である。

怒りをぶつける相手のいなかった門番は不機嫌そうに唸りながら、辺りを見回す。

「……って、あれ?やくもんは?」

八蜘蛛の姿が見えないことに首をかしげる門番。

シノブとの戦いの後、すぐに気絶してしまい、八蜘蛛によってこの民家のベッドまで運ばれた門番には
八蜘蛛が初香たちを探しに行ったということなど分かるはずもない。

「……も〜……どこ行っちゃったんだよ、やくもん……」

門番は顔を顰めながらも、身を起こす。

「……まだ眠いけど……さっきみたいなことがあったら困るし、しょうがないか……」

この殺し合いの場所において、八蜘蛛を一人にすることは危険だ。
いくら彼女が魔王軍三将軍の一人とはいえ、この場には彼女に匹敵する猛者が大勢いるのだ。

魔族を守護する者として、八蜘蛛を危険に晒すことは門番にはできなかった。

「近くにいれば良いんだけど……とりあえず、町の中を探してみようかな……」

門番はそう呟き、八蜘蛛に当てた書置きを残して、眠気と痛みを堪えながら
民家から足を踏み出した。




外に出た門番を迎えたのは、シノブの死体と八蜘蛛が作り出したであろう繭だった。
シノブの死体を複雑な思いで見やりながら、門番は繭のほうに視線を向ける。

「これって、やくもんの繭だよね……ってことは中に人間が入ってるのかな?」

門番は繭を少し裂いて中身を確かめてみる。
すると、中には神官の格好をした満身創痍の小柄な少女が入っていた。

「あーらら……死にかけじゃん……これじゃ、大して養分にならないんじゃないの?」

門番はそう呟きながら、裂いた繭を閉じる。
そして、辺りに散らばっていた支給品をデイパックにかき集めて、デイパックを背負った。

「さて……ん?」

そこで、門番は気づく。
どこかから何かを叩く音がすることに。

きょろきょろと辺りを見回す門番。
すると、その音は放置されたレボスレイブの中から聞こえてくることに気がついた。

近づいて確かめてみると、手のひらに乗るくらいの小さな少女がレボスレイブのキャノピーを
叩いていることが分かった。

何かを訴えるようにキャノピーを叩く少女……バクを見ながら、門番は考える。

(……ひょっとして、出してほしいのかな?)

そう思い、リザードマンの剣をキャノピーのガラスに思いっきり叩き付けた。


バリィィィンッ!!


盛大な音と共に、レボスレイブのキャノピーのガラスが粉々に砕かれた。

「……っ!!?」

門番のいきなりの凶行に、バクは引きつった顔で全速力で後ずさる。
そんなバクに対して、門番は言う。

「ほら、これで出られるっしょ?
 私に感謝するんだぞ、妖精さん」

門番は脱力系の笑顔でにへらと笑いながら、恩を売りつける。
もちろん、涙目でがたがた震えているバクの様子には微塵も気づかない。

「……あ、そうだ。妖精さん、君、やくもん知らない?
 ちっちゃな女の子の格好してるんだけど……」

門番の問いかけに、バクは必死でぶんぶんと首を横に振るう。
門番は残念そうな顔をしながら呟く。

「そっかー……まぁ、しょうがないか。
 んじゃ、出してあげたお礼にやくもんを一緒に探してくれない?」

門番の言葉に、バクはしばし考えた後、首を縦に振る。
バクはキング・リョーナによって支給品として動くように命令されており、
基本的に持主の言葉には絶対服従である。

ゴートが死亡した以上、その後にバクを最初に見つけた門番がバクの所有者となるのが妥当なはずだ。

バクはそう判断し、門番の命令に従うことを決めた。
(……というか、バクは元々は門番の支給品なのだが……)




「いないねー、やくもん」

門番がだるそうに呟きながら、いくつめになるか分からない民家の扉を閉めた。

「それにしても、この町って死体ばっかりだねぇ……どんだけ、皆ここで戦ってんのさ?」

門番は周りに転がっている少年少女と化け物の死体に呆れた目を向けながら言う。

ちなみに、門番、彼らの支給品は回収済みである。
さらにラーニングの極意を読んで、ちゃっかりとラーニングも習得していた。
意外にも抜け目の無い門番だった。

「……もう探す場所もこの屋敷だけだし……この町にはもういないのかもしれないねー」

門番はそう言いつつ、だとすると探すのは骨が折れそうだとげんなりする。

この屋敷にいてくれ、やくもん!と願いながら、門番は屋敷の扉を開けた。




「……おらん……ホントどこ行ったの、やくもん……」

門番はくたびれた身体を壁に預けて、ため息を吐く。

「こりゃ冗談抜きに、外に出て行ったっぽいなぁ……。
 あんまり行きたくないけど、外まで探しに行ったほうがいいかなぁ……」

しかし、そこで門番はふと気づく。

「……って待てよ?普通、どっか行くんだったら書置きくらい残すよね?
 それが無かったってことは、すぐに帰ってくるつもりだったってことじゃ……」

そして、それにも関わらず八蜘蛛が帰っていないということは、八蜘蛛に何かあったということになる。
強敵と出会って戦闘中、怪我をして動けない、拉致もしくは監禁されている、あるいは……。

「……やべぇ……」

最悪の事態を想像して、青くなる門番。

シノブとのやり取りからして、八蜘蛛は他の参加者たちに恨みを買っている可能性が高い。
だとすると、八蜘蛛に恨みを持つ参加者、もしくはその参加者から八蜘蛛のことを聞いた参加者に
八蜘蛛がやられてしまったということは充分にあり得る話だった。

「い……急がないと……!」

焦る門番だが、ふとその門番の袖をバクがくいくいと引っ張っていた。

「……?」

門番が疑問の目を向けると、バクが棚に向かって指を向けた。

「何……って、ん……?風……?」

バクの示す棚の裏側から風が吹き込んでいるのだ。
それに気づいた門番は、棚を動かしてみた。

すると、そこには先へと続く通路が現れた。

「!……これって、隠し通路!?」

門番の言葉に、バクは頷く。

「よくやった、妖精さん!
 もしかしたら、ここにやくもんがいるかも……!」

門番はさっそく隠し通路の奥へと進んでいった。


 

「暗いなー……妖精さん、ちょっと光ってくれない?」

門番の言葉に『無茶言うな』という目を向けるバク。

「だって、暗いんだもん……まったく、殺し合いさせるヤツらも
 明かり付ける道具くらい持たせてくれたっていいのにさぁ……」

ぶつぶつと文句を呟く門番。
『いや、懐中電灯はどうした』と心の中で突っ込むバクだが、
伝える手段が無いのでとりあえず冷めた目を門番に向けておく。

「あ、明かりが見えてきたよ、妖精さん」

明かりを見つけた門番はほっとした様子で、明かりの元へと駆けていく。
その門番の後ろにバクも続いていった。




「……なんか広いところに出たねぇ……どこだろ、ここ?」

門番は呟きつつ、きょろきょろと辺りを見回す。
だが、バクはその場所を見て、驚きで固まっていた。

なぜなら、バクはこの場所に見覚えがあったからだ。
この場所は、あの殺し合いの場所から決してたどり着くことができるはずのない場所だった。

『……なぜ、ここに……?』

バクはあり得ない出来事に混乱する。

「……ん?何、あれ?」

しかし、門番の言葉でバクは我に返った。
視線を向けると、そこには無機質な視線を向ける小さな少女たちの姿があった。

彼女たちの名は『レミングス』……この殺し合いの主催者であるキングが作り出した
人造生命体であり、キングの忠実な下僕だった。




門番とバクが見つけた隠し通路……そこは、驚いたことに参加者たちが最初に集められた
部屋へと続いていたのだ。

キング・リョーナが何を思って、わざわざ殺し合いのフィールドと自分の居城を繋ぐ通路を
作ったのかは分からない。

もしかしたら、彼は参加者の誰かがその隠し通路を見つけて、自分の元へとたどり着いたら
面白いと考えたのかもしれない。

もしくは、ただの偶然……彼が次元に干渉し、様々な世界を繋げて殺し合いのフィールドを
作ったときに、たまたま自分の居城へと繋がる通路ができてしまっただけなのかもしれない。

だが、確実に言えることは……。


これは殺し合いの参加者たちにとって、千載一遇のチャンスだった。




「ぐがー……むにゃむにゃ……」

だらしないいびきを上げて、グースカと眠っている男がいた。

彼の名はキング・リョーナ……この殺し合いの主催者である。

彼は第二回放送の後、放送で参加者たちに告げた通り、惰眠を貪っていた。
パジャマ姿でだらしなく眠りこけているキング・リョーナの傍には一人のレミングスの姿があり、
彼女の前には、門番とバクが立っていた。

「こんな小さな子に見張りを任せて寝てるなんて余裕だねぇ、この人……。
 殺し合いに巻き込まれてるって自覚ないのかねぇ、全く……」

困ったもんだと言わんばかりにやれやれと頭を振る門番。
突っ込みどころしかない門番の言葉に冷たい目を向けつつも、バクはさてどうするかと考えていた。

門番にキングのことを教えるか、それとも黙っておくべきか。

バクは好きでこの殺し合いの手助けをしているわけではなく、キングに脅される形で
嫌々手助けをさせられているだけである。

そんなバクとしては、殺し合いの参加者たちと同じようにキングに一矢報いたいという思いも
もちろんある。
この殺し合いゲームを破綻させ、キングを倒すことができるのなら、それはバクとしても
望むところだった。

だが、現時点ではキングの居場所を見つけただけである。
殺し合いの打破を目指すためには、まだまだ問題は山積みだった。

具体的には、以下。

【1】眠っているとはいえ、門番一人でキングが倒せるとは思えない。
   (しかも、今の門番は負傷中&ノーマル状態である)

【2】門番はキングが殺し合いの主催者だということを知らない。
   (そして、喋れないバクにそれを伝える手段は無い)

【3】キングの傍仕えのレミングスが監視している。

【4】そもそも、首輪の問題が解決していない。


結論、現時点ではキングを倒すのは無理。
大人しくここから去るべきだと、バクは判断した。

幸い、レミングスたちは門番やバクに対して何らかの行動を起こすつもりは無いらしい。
こちらから何もしなければ、キングを起こしたり襲ってきたりはしないようだ。

バクはさっさと門番にここから出るように促そうと、門番のほうに視線を向け……。

門番がいなくなっていることにようやく気がついた。

「……!?」

まずい。
バクは思った。

門番が何か問題を起こした場合、レミングスたちがどう動くか分からない。

慌ててバクはキングの寝室を飛び出し、門番を探しに行く。
だが、部屋を出たところですぐに門番の姿を見つけることができた。

「あ、妖精さんゴメンね、追いてっちゃって。一人で寂しかった?」

門番の的外れなセリフに脱力しつつも、バクはほっとする。
だが、門番が腕いっぱいに抱えている武器や道具、そして門番の後ろで
ジト目を向けているレミングスを見て、青ざめる。

「いやー、参ったよ、妖精さん。どうやらここにも、やくもんいないみたいなんだよねぇ。
 でも役立ちそうな道具たくさん見つけたし、とりあえず良しとしとこっか!
 なんか『支給品予備』とかよく分かんないこと書いてあったけど、別に問題無いよね?」

笑いながら言う門番に、バクは頭を抱えたくなった。
いくら何でも、キングの私物を盗んでタダで済むはずがない。

バクは懇願するような視線をレミングスに向ける。
レミングスはしばらくジト目を向け続けていたが、やがて溜息をつくとその場から
立ち去っていく。

そんなレミングスに、バクは困惑する。
だが、レミングスが立ち去り際に振り向き、バクに向けてぐっと親指を立てた。

それを見て、バクは理解する。
どうやら、見なかったことにしてくれるらしい。

バクはレミングスに感謝の視線を向けると同時に、キングはレミングスたちに
あまり敬われていないらしいことを悟った。

とりあえず、忠実な下僕という言葉は訂正しておこうとバクは思った。



一方、地上のほうでは、ようやく昏い街に辿り着いた
伊予那、りよな、初香の姿があった。

「さて……まずはルカさんを探さないとね」
「……ルカさん……無事なのかな……」
「大丈夫、きっとルカさんは無事だよ、りよなちゃん」

不安そうなりよなを伊予那が肩を抱いて元気付ける。
そのとき、初香が疑問の声を上げる。

「……?あれ、何だろ?」
「どうしたの、初香ちゃん?」
「ほら、あれ……ロボットみたいだけど……」

初香の指差す咆哮に目を向けた伊予那は、キャノピーのガラスが砕けたレボワーカーを見つける。

「……確かに、ロボットだね……」
「……ロボットまであるなんてね……魔法や化け物に比べれば
 まだ現実的かもしれないけど……」

そう言いつつも、初香は考えていた。

(あれを動かすことができれば、あの化け物を倒すことができるかも……)

美奈を殺したスライム状の化け物。
銃弾の効かなかったあの化け物も、あのロボットならば倒せるかもしれない。

(あの化け物を倒せたなら、少しでもボクの失ったものを取り戻せるかもしれない……)

そう思った初香は、伊予那たちに言う。

「……悪いけど、ルカさんを探すのは伊予那とりよなに任せてもいいかな?
 ボクはあのロボットが使えないか確かめてみるよ」
「うん、分かった」
「気をつけてね、初香ちゃん……」

伊予那とりよなは初香の言葉に頷いて、ルカを探しに行く。

それを見送ると、初香はさっそくレボワーカーへと歩み寄る。

(いきなり動き出すことはなさそうだね……罠では無さそうだけど……)

考えこむ初香だが、近くに少女の死体があるのを見つけて警戒心を強める。
それと同時に、まさかこの少女がルカなのでは、と最悪の想像が初香の頭に浮かぶ。

「……ん?何やってんの、君?」

だが、いきなり聞こえた声に初香の身体がぎくりと強張る。
ゆっくりと振り向くと、そこには締りの無い顔の少女が宙に浮いた妖精のような少女を
従えて立っていた。

「……貴女は……?」
「私?私は門番(かどの つがい)って言うの。
 気軽に門番って読んでくれていーよー」
「……門番さん、ね。ボクは初香。登和多 初香だよ」
「初香だね。よろしくー」

門番はにへらと初香に笑いかける。
殺し合いの場だというのに緊張感の欠片も持たない様子の門番に、
初香は呆れた目を向けつつも、気づかれないように懐の銃に手を伸ばす。

「……それで、門番さんとその妖精さんはこの殺し合いについてどう思ってるのかな?」
「ん?そうだなー、とりあえず二度寝の邪魔をしてくれたキングってヤツは
 ボコろうと思ってるけど?……あと、妖精さんはよく分かんないや」
「……分からない?」
「……そういや、妖精さんって何者なの?よく見ると首輪もしてないし、
 殺し合いの参加者じゃないよね?」

今更な質問にバクは呆れつつも、門番のデイパックから自身の説明書を取り出して、
門番に渡す。

門番は説明書を読みながら「ふむふむ」と頷き、読み終わった説明書を初香に渡す。

「……ふーん……夢の精霊バク、ね……。
 なるほど、その子も支給品ってことか……」

初香は納得する。

「……ともかく、貴女たちは殺し合いをする気は無いってことだよね?」
「んー、襲われたならともかく、自分から殺すつもりは無いねぇ」

門番の言葉を聞いても、初香はしばらく疑うように門番を見ていたが、
やがて軽く息を吐いて銃から手を離した。

「……分かった、信じるよ。もしボクを殺すつもりなら、
 声をかけずに不意打ちしてくるはずだしね」
「……疑り深い子だなー。そんなんじゃロクな大人にならないよ?」
「大きなお世話だよ……そうだ、門番さん。いくつか聞きたいことがあるんだけど?」
「んー?何?」
「まず……この人を殺したのは誰か、知ってたら教えて欲しいんだけど……」
「……あー……」

その言葉に、門番は気まずそうに視線を泳がせる。
それを見た初香は訝しげな視線を門番に向ける。

「……どうしたのさ?何か知ってるの?」
「あ、いや……知らないよ?私、何も知らないよ?」

門番はあさっての方向を向きながら言う。
その様子に、初香は門番に対する信用度を下げる。

(……何か隠してるね……まぁ、見た目通りの分かりやすい性格みたいだし、
 騙される危険は少ないかな……)

初香はそう思い、今は無理に聞き出す必要は無いと結論付ける。

「……まぁいいや。もう一つ質問なんだけど、この近くで女の子を見なかった?
 神官って言ってたから、それっぽい格好をしてると思うんだけど……」

初香の言葉を聞いた門番の表情が固まる。
それを見た初香は門番に問いかける。

「……何か知ってるんだね?」
「……あー……その女の子って、君の仲間……?」
「……ボクの仲間っていうか、ボクの仲間の仲間かな」
「……んー、そっか……」

門番が気まずそうにぼりぼりと頭を掻くのを見て、初香はジト目で門番を見る。

「な……何よぉ、その目は……?」
「……何か知ってるんだよね?話してくれるかな?」
「……え……えーと、その……」
「…………」
「そ……そんな目で見ないでよぉ……あの神官の子はシノブと違って、
 私が殺したわけじゃ……って、あ……!」

その言葉を聞いた初香は、素早く門番に向かって銃を構える。
反射的に武器を構える門番だが、

バンッ!

「うひゃっ!?」

初香の威嚇射撃を受けて、あっさり武器を捨てて両手を上げる。

「……詳しく話してもらうよ?」
「……いや、その……えっと……」
「言っておくけど、拒否権は無いから。……それと、バク。動いたら撃つよ」

初香の警告に、眠りの魔法をかけようとしていたバクは固まる。
そのとき、銃声を聞きつけたのか、慌てて伊予那とりよながやってくるのが見えた。

「初香ちゃん、大丈夫っ!?」
「何があったのっ!?」
「大丈夫だよ、二人とも……それよりも、この人に気をつけて。
 どうやら、シノブって人を殺してるみたいだから」
「!?……シノブって、エリナさんの……!?」

伊予那は初香の言葉を聞いて、門番をきっと睨みつける。
門番はその視線にたじろぐ。
そんな門番を冷たく見据えながら、初香は門番に言い放つ。

「さあ、門番さん?知ってることを全部話してもらうよ?」
「……うぅぅ……は……話すから、撃たないでね……?」

そして、門番は初香たちに自分が知っている限りの情報を包み隠さず全て話すことになったのだった。


門番のもたらした情報は初香たちを驚愕させるものばかりだった。


門番が殺し合い開始から第一放送が終了するまで眠り続けていたこと。

門番はエリーシアやクリスの仲間であるアーシャやエリナの仲間であるシノブと
僅かな時間とはいえ、一緒に行動していたこと。

門番の仲間であり魔王軍三将軍の一人である八蜘蛛がシノブと敵対し、
門番は八蜘蛛の側に付いてシノブと戦い、シノブを殺したこと。

門番の仲間の八蜘蛛とは、初香たちを襲ったあの蜘蛛を操る少女と
同一人物らしいということ。

りよなの仲間のルカは、満身創痍の状態で八蜘蛛の繭の中に捕らえられているということ。

門番が殺し合いの主催者であるキングの居場所を見つけており、しかもそのことに
本人は気づいていないらしいということ。


「……嘘は言ってないんだろうね?」
「ぜ……全部、本当だってばっ!?信じてよぉっ!?」

必死に訴える門番に、初香は疑惑に満ちた目を向けていたが、
内心ではおそらく嘘ではないだろうと思っていた。

嘘ならもっとマシなことを言うだろうし、何より思ったことがすぐ顔に出る門番が
自分を騙して筋道の立った嘘をつけるとは思えなかったからだ。

「……とりあえず、門番さん。荷物を全部こっちに渡してもらおうか?」
「えっ!?そんな殺生な……!」
「撃たれたいの?」
「渡します」

門番はあっさり持っていたデイパックを初香たちのほうに放る。

「……この中に傷を回復できるものは?」

初香の言葉に、門番は必死に記憶を探りながら答える。

「え……えーと……たしか、さっきの部屋で拾ったエリクシルって薬と
 ラクリマって宝石が怪我を回復できるって説明書に……」
「伊予那。中身を確かめて」
「う……うん……!」

伊予那がデイパックから一つ一つ支給品を取り出していく。
門番の言葉通り、今までに門番が集めた大量の支給品が出てくる。

そして、初香はその中に確かにエリクシルが混ざっていることを確認する。
美奈が持っていたものと同じものだし、疑う必要も無いだろう。
クリスから教えてもらったエリクシルの効果なら、満身創痍のルカを回復させることも
可能なはずだ。

だが、念のために初香は伊予那に空のペットボトルを一つ取り出させる。
そして、初香はペットボトルにエリクシルを一口分入れて門番に投げるように
伊予那に指示する。

ペットボトルを渡された門番は疑問符を浮かべつつ、初香に聞く。

「えーと……どゆこと、これ?」
「飲んで見せて」
「?……う……うん……」

初香に言われたとおり、門番はペットボトルに入ったエリクシルを飲み干す。
すると門番の傷が僅かに回復したのが見て取れた。

その結果に初香は満足げに頷く。

「大丈夫そうだね……伊予那、繭を開いてルカさんにエリクシルを飲ませてあげて」
「うんっ!」

初香の言葉に頷き、伊予那は繭を開いて中にいるルカの口にエリクシルを流し込んだ。
すると、ルカの傷がみるみる塞がり、青白かった肌に血色が戻っていく。

「良かった……もう大丈夫そうだよ……」

伊予那の言葉に、りよなは安堵した表情を浮かべる。
初香はそれを見届けると、改めて門番に向き直る。

「さて……それで、貴女をどうするかだけど……」
「こ……殺さないでね……?」
「それは安心してくれていいよ。……バク」

いきなり呼びかけられて、バクはびくりと身体を硬直させる。

「門番さんを眠らせてくれるかな?
 その間に、門番さんを拘束させてもらうからさ」

初香の言葉に、バクは迷うような目を門番に向ける。
門番は諦めたように笑って、

「……いいよ。やっちゃって、バクちゃん。
 断ったらロクなことにならないだろうし……」

一応の主人の許しを得たバクは、ならばと門番に眠りの魔法をかける。
すると、門番はあっさりと眠りに落ちてしまった。

初香たちは民家からロープを見つけてきて、手早く門番とバクを拘束した。

そして、門番のデイパックの中にレボワーカーのマニュアルを見つけた初香は
それを十数分で読破し、レボワーカーの扱い方をあっさりマスターした。

(予定外に時間がかかっちゃったけど、このレボワーカーがあれば
 まだ豪華客船を探索する時間は作れるはず……)

初香は伊予那とりよなにここで待っているように告げる。
伊予那とりよなは最初は反対したが、初香にレボワーカーが一人乗りなことと、
レボワーカー無しでは豪華客船に辿り着いたとしても探索の時間が取れないことを
説明されて、渋々納得した。

初香はレボワーカーの試運転を数分で終えると、心配そうな伊予那とりよなを
安心させるように笑う。

「ボクなら大丈夫だよ、二人とも。
 それよりも、門番さんとバクをちゃんと見張っててよ?
 それからルカさんが起きたら、ちゃんと事情を説明しといてね」
「うん……気をつけてね、初香ちゃん……」

伊予那とりよなに見送られて、初香はレボワーカーを操り、豪華客船へと向かった。




【D-3:X3Y1/昏い街/1日目/夜中】

【門番{かどの つがい}@創作少女】
[状態]:ロープで拘束、ラーニング習得、熟睡中、疲労 中、負傷 小、
冷気による内臓損傷 小
[装備]:バク(ロープで門番と一緒に拘束)
[道具]:無し
[基本]:キングを泣きながら土下座させる、そのための協力者を集める
[思考・状況]
1.熟睡中
2.八蜘蛛を守る
3.キングを泣かすのに協力してくれる人を探す

※支給品予備置き場から以下のアイテムを入手しました。
 ・エリクシル@SilentDesire ※ルカに使用しました。
 ・ミラクルベル@リョナラークエスト
 ・魔力の薬×5@創作少女
 ・ラクリマ(青)×5@リョナマナ
 ・ラクリマ(水)×5@リョナマナ ※初香に3つ使用しました
 ・銘刀「大文字」@怪盗少女
 ・ハグロの刀×2@過ぎた玩具は必要ない
※『ラーニング』を習得しました。
※食事を済ませました。
※不眠マクラの効果に気づいていません。
※ロシナンテが死んだらしい事を知りました。
※一回目の放送は聞いていません。



【登和多 初香{とわだ はつか}@XENOPHOBIA】
[状態]:疲労 中、精神疲労 小、
[装備]:レボワーカー@まじはーど
(キャノピーのガラス損傷、本体の損傷度0%、ソリッドシューター[弾数1]装備)
ベレッタM1934@現実世界(残弾6+1、安全装置解除済み)
クマさんティーシャツ&サスペンダースカート(赤)@現実世界
[道具]:オーガの首輪@バトロワ
9ミリショート弾×24@現実世界
レボワーカーのマニュアル@まじはーど
[基本]:殺し合いからの脱出
[思考・状況]
1.豪華客船に向かう
2.オーガの首輪を解除する
3.仲間と情報を集める

※キングが昏い街の屋敷の地下(隠し通路経由)にいることを知りました。
※靴は新しいものを街で手に入れました。
※ラクリマ(水)×3によって、傷を回復しました。



【神代 伊予那{かみしろ いよな}@一日巫女】
[状態]:右手に小程度の切り傷
[装備]:トカレフTT-33@現実世界(弾数8+1発)
赤いお札×3@一日巫女
[道具]:デイパック、支給品一式(パン1食分消費)
SMドリンク@怪盗少女
門番のデイパック
(支給品一式×2、食料12、水10、
 ミラクルベル@リョナラークエスト
 魔力の薬×5@創作少女
 ラクリマ(青)×5@リョナマナ
 ラクリマ(水)×2@リョナマナ
 銘刀「大文字」@怪盗少女
 ハグロの刀×2@過ぎた玩具は必要ない
 リザードマンの剣@ボーパルラビット
 霊樹の杖@リョナラークエスト
 青銅の大剣@バトロワ、南部@まじはーど
 弓@バトロワ
 弓矢(25本)@ボーパルラビット
 不眠マクラ@創作少女
 ラーニングの極意@リョナラークエスト
 大福x8@現実世界
 あたりめ100gパックx4@現実世界
 財布(中身は日本円で3万7564円)@BlankBlood
 猫じゃらしx3@現実世界)
[基本]:桜を信じて生きる
[思考・状況]
1.初香が戻るのを待つ
2.門番とバクを見張る
3.カザネの他にもエリナの知り合いが居たら全てを話すつもり

※キングが昏い街の屋敷の地下(隠し通路経由)にいることを知りました。
※お札を操る程度の能力に目覚めました
※ひょっとすると無念の思いを抱えた死者の魂と会話できるかもしれません
※初香から靴を返してもらいました。



【篭野りよな@なよりよ】
[状態]:疲労 小
[装備]:サラマンダー@デモノフォビア
    木の枝@バトロワ
[道具]:デイパック、支給品一式(食料9、水9)
[基本]:殺し合いからの脱出、罪を償う
[思考・状況]
1.初香が戻るのを待つ
2.門番とバクを見張る
3.ルカに謝る

※キングが昏い街の屋敷の地下(隠し通路経由)にいることを知りました。
※初香から靴を返してもらいました。



【ロカ・ルカ@ボーパルラビット】
[状態]:気絶中
[装備]:なし
[道具]:なし
[基本]:生存者の救出、保護、最小限の犠牲で脱出
[思考・状況]
1.気絶中

※エリクシルによって、怪我と体力が完全に回復しました。




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