マジックロッド

 

マジックロッドは考える。

「ぐっ……うぅぅっ……!あぁぁっ……!」

八蜘蛛の糸に絡められ、もがいているミアを眺めながら考える。

『自分が力を貸すべきか、否か』

マジックロッドは考え続ける。




マジックロッドには意思がある。

マジックロッドは遺跡でミアと出会ったときから、ミアを自身の所有者と認めて
力を貸し与えていた。
ある洞窟で、ミアがドラゴンとの戦闘で危機に陥ったときに
ミアを転移させて命を救ったのも、他ならぬマジックロッドだった。
(もっとも、それは未来の……しかもミアが殺し合いに
 巻き込まれなかった場合の話なのだが……)

しかし、マジックロッドは全面的にミアを助けるつもりはなかった。
マジックロッドは、ミアには出来る限り自身の力のみで危機を乗り越えてもらおうと
考えていたのだ。

『自分が過剰に力を貸し与えてしまうと、この少女の成長を妨げてしまう』

マジックロッドはそう考え、静観していた。

……だが、ここに至ってはさすがにそうも言っていられなくなってきた。


ミアが八蜘蛛の糸に捕えられてから、すでにかなりの時間が経っている。

ミアは必死で糸の拘束から抜け出そうとしているが、おそらくこの場が禁止エリアに
なる前に抜け出すことは不可能だろう。

「あぁぁぁっ……!ぐぅぅっ……!あぁぁっ……!」

焦燥に満たされたミアの顔を眺めながら、マジックロッドは『仕方が無い』と判断する。

せっかくの逸材をこのまま見殺しにするわけにいかない。

マジックロッドは、ミアを助けることに決めた。
そして、マジックロッドは淡く輝きだす。




「……え……?マジックロッドが……?」

八蜘蛛の糸から抜け出そうと必死でもがいていたミアは、
マジックロッドが光りだしていることに気が付く。

「……な……何……?一体……?」

ミアは困惑するが、マジックロッドは輝き続ける。
……ただ、輝き続けるだけだった。

「……マ……マジックロッド……?」

ミアはマジックロッドに対して、戸惑った声を向ける。

だが、マジックロッドは答えない。
……マジックロッドは輝き続けるだけだった。




ミアが困惑しているのと同様に、マジックロッドも困惑していた。

『なぜ、転移できない?』

そう、マジックロッドは先ほどからミアを転移させようとしていた。
……だが、何度試みてもミアを転移させることができないのだ。

そして、幾度か転移を失敗した後、マジックロッドは失敗の原因に思い当たる。

制限だ。
それしか考えられなかった。

何ということか。
力の制限は参加者だけでなく、支給品にまで及んでいたのだ。

自分の力が及ばないと理解したマジックロッドは、初めて焦りを覚える。

まずい。これではミアを助けることができない。
このままでは、ミアが爆死してしまう。

マジックロッドはもはや出し惜しみすることなく、全力で力を発揮する。
だが、それでも転移は発動しない。

ミアの転移を必死で試みながら、マジックロッドは後悔していた。

あの男……キング・リョーナを甘く見すぎていた。

この殺し合いに巻き込まれてからも、マジックロッドは特に危機感を感じていなかった。
自分の力があれば、ミアをこの殺し合いから生還させることは造作も無いと考えていたのだ。

すぐにミアと再会できたことも、マジックロッドを油断させていた。
ミアの手を離れていたときは若干の不安もあったが、ミアの手に自分が戻った以上は、
万が一にもミアが殺されることは無いだろう。

マジックロッドはそう考え、楽観視していたのだ。
そして……ここに至って、マジックロッドの楽観はミアを致命的な危機に追い込んでしまった。

マジックロッドは必死で考える。

どうすれば、この状況を打開できるか?
どうすれば、ミアを助けることができるのか?

マジックロッドは焦燥に駆られつつも、考え続けていた。

だが、そんなマジックロッドの頭を冷やす声がかけられる。




「……大丈夫だよ、マジックロッド……」

ミアはマジックロッドの輝く様子を見て、自然とマジックロッドにそう話しかけていた。

マジックロッドの輝きがどこか不安そうに見えたから。
……マジックロッドが、自分を心配してくれているように思えたから。

「……私は、こんなところでは死なないから……。
 必ず……初香ちゃんやクリス、それに他の殺し合いに
 巻き込まれた人たちを助けるから……」

そして、ミアはマジックロッドを……自分の相棒を鼓舞するように宣言する。

「……私は必ず……貴方と一緒に、キングを倒すんだから……!」

ミアはそう言って、マジックロッドに笑いかける。
その顔には、すでに焦りは見えなかった。

なぜなら、ミアは思い出したからだ。
いつもミアに力を貸してくれて、ミアと一緒に戦ってきた相棒が
すぐ傍にいてくれたことに……。

ミアの言葉に、マジックロッドの輝きが収まる。

だが、次の瞬間にはマジックロッドは先ほどとは比較にならないほどの
強烈な光を放ち始めた。

「えっ……!?マ……マジックロッド……!?」

突然、強烈な光を放ち始めたマジックロッドに、ミアは驚きの声を上げる。

しかし、その声を無視するようにマジックロッドの光はさらに強くなっていった。




『死なせるものか』

マジックロッドはかつて無いほどに強く、そう思った。

ミアは死なせない。
必ず、この場から救い出してみせる。

もう、余裕綽々の高みの見物は終わりだ。
自分の持つ全ての力を、ミアに貸してやろう。

この殺し合いを、叩き潰してやる。
それがミアの……自分の相棒の望みなのだから。

『見せてやる、真の力を』

マジックロッドは自身の全ての力を解放する。
それは先ほどとは違い、強い思いを伴った力だった。

マジックロッドの掛け値無しの全力の力は、彼に掛けられた制限を打ち破った。


そして……次の瞬間には、ミアの姿はその場から消え去っていた。




気が付くと、ミアは見覚えのある場所にいた。

そこは、ミアのこの殺し合いのスタート地点……廃墟だった。
ミアは状況が理解できず、座り込んで呆然としていた。

だが、傍で明滅するマジックロッドに気が付き、全てを理解する。

「……また助けてもらっちゃったね、マジックロッド」

ミアのその言葉に答えるように、一際強く光るマジックロッド。

「……ありがとう、マジックロッド」

ミアはそう言って笑うが、すぐに気を引き締めて立ち上がる。

「……行こう、マジックロッド。初香ちゃんを探さなきゃ」

ミアは再び歩き出す。
八蜘蛛の糸に拘束され、遅れた時間を取り戻すように。

そして、ミアの手には力強く輝くマジックロッドが握られていた。




【B−4:X2Y3/廃墟/1日目:夜中】

【ミア@マジックロッド】
[状態]:魔力残量(小)、疲労(大)
[装備]:マジックロッド@マジックロッド(制限解除、ミアを全力で援護)
    四葉のクローバー@現実世界(頭に装備)
[道具]:なし
[基本]:対主催、できれば誰も殺したくない
[思考・状況]
1.初香を探す
2.できるだけ早くクリスの元へ戻る
3.バトルロワイヤルを止めさせる方法を探す

※マジックロッドの制限が解除されました。
※マジックロッドは以降、ミアを全力で援護します。
※東支部で襲ってきたモヒカンが今回遭遇したモヒカンと同一人物だとは認識していません。
※オーガの持っていた肉が人肉だと気づいていません。
※参加者がそれぞれ別の世界から集められていることに気付きました。





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