対峙する四人。
緊張感が場を包み込み、今にも弾けそうな中、ルカは考える。
(……クリスさんや天崎涼子を巻き込むわけにはいかないわ)
特にクリスは首輪を解除する上で必須となる人物。
まかり間違っても、今から起こるであろう戦いに巻き込み、
命を散らせていい存在ではない。
「……門番、場所を変えるわよ。
戦いながらコイツらを上手く誘導するわ」
「おっけー」
頷く門番を尻目に、ルカはハグロの刀を構えて突っ込んでいく。
迎え撃つは、醜い笑いを浮かべるパンツ一丁の巨漢。
「いいねぇ……活きの良い獲物は大好物だぜぇっ!!」
モヒカンが操る風の槍が、ルカが振るう刀と交差する。
ルカを援護しようと距離を詰める門番を、ダージュが放った火球がけん制する。
戦いの火蓋は切って落とされた。
「……ん……」
幾ばくかの時間が経った後……涼子は、意識を取り戻した。
「……う……奈、々……」
呻きつつも身を起こす涼子。
意識を失う前に見た妹の姿を涼子は探すが、奈々の姿は見当たらない。
「……夢……?いや、違う……。
きっと、奈々はあの男たちと戦ってるんだ……」
涼子は考える。
おそらく、奈々は自分たちが戦いに巻き込まれないように上手くあの男たちを
この場から引き離してくれたのだ。
「……だったら、現状じゃ足手まといにしかならない私は、
とっととこの場を離れるべきだね」
涼子はそう判断し、傍で気絶していたクリスを背負うと南へ向かって歩き出す。
「……くっそ……身体が凍えて、足が動かん……」
遅々として進まない歩みにイラつきながら、冷え切った身体に活を入れて、涼子は歩く。
目指すは昏い街……そこまで行けば、休息が取れるだろうし、傷の手当てもできる。
他の参加者もいるかもしれないが、現状ではそこまで気を回す余裕も無い。
願わくば、昏い街にいる参加者が友好的な人物であることを祈るばかりだ。
涼子は後ろを振り返り、敵を引き付けているであろう妹のことを思う。
(……奈々……後でちゃんと追いついてきなよ……)
そして、再び前を向いて歩き出す。
妹がすでに死んでいるなどとは露ほども思わず、涼子は街へと歩みを進めていった。
(……上手く誘導されたか……)
ルカたちと戦っているうちに、いつの間にか涼子たちから引き離されていることに
気が付いたダージュは舌打ちする。
(……まあ、いい。コイツらを殺した後でも、あの死に損ないどもを殺すのは充分間に合うさ)
そして、ダージュはモヒカンを援護するべく、カッパの皿を飛ばす。
モヒカンを追い詰めていたルカは飛んできた円盤を、舌打ちしつつかわす。
その隙を突こうとモヒカンがトルネードを突き出すが、門番の刀によって弾かれる。
「ちっ……!!うざってぇんだよっ!!獲物は大人しく嬲り殺しにされやがれっ!!」
「お断りよっ!!」
モヒカンの怒声に、ルカは言葉と刀を返す。
その攻撃を槍で防ぎつつ、イリュージョンの分身をルカに襲わせる。
だが、分身は門番の刀の一閃によりあっさりと消え失せる。
「くそがっ!!」
怒り狂うモヒカン。
その様子を見ながら、ダージュは考えていた。
(……埒があかねぇな……)
先ほどから、戦いはずっとこの調子だ。
ルカと門番の猛攻にモヒカンが追い詰められたところを、ダージュの援護が飛ぶ。
ダージュの援護をルカ、もしくは門番が回避したところにモヒカンが追撃をかける。
だが、その追撃を手の空いたどちらかが防ぐ。
戦いは互角。
このままでは、いつまで経っても勝負がつかない。
(……いや、違うな。魔力を消耗する分、こちらのほうが不利だ。
長期戦は避けて、早々に勝負をつけるべきだが……)
ダージュはそう考えつつ、ふと背中のデイパックに入っていたあるものに思い当たる。
(……そうだ、ちょうと良いものがあるじゃねぇか。
おあつらえ向きに、周りは森……雪が降っているのがちと不安だが、
説明書に書いてあった威力なら、この程度は問題にならないはずだ)
それに、もし失敗したとしても、モヒカンをオトリにして逃げれば良い。
ダージュはほくそ笑み、さっそく作戦を開始することにした。
「このっ……!!いい加減、しつけぇんだよ、てめぇらっ!!」
「それはこっちのセリフよっ!!」
モヒカンの怒号に、ルカも怒りの声を返す。
ただのちんぴらかと思えば、予想外の実力を持ち、分身の魔法まで使ってくる
モヒカンにルカは辟易していた。
加えて、後ろの耳の長い男から飛んでくる的確な援護攻撃。
それは、はっきり言って、目の前の男以上にやっかいなものだった。
少しでも気を緩めると、すぐさま飛んでくる死角からの攻撃に、ルカたちは
常時警戒を持たざるを得ない。
そのせいで、ルカと門番の動きは自然と守勢に傾き、どうしてもモヒカンに
決定打を与えることができなくなる。
(……でも、こいつらはいつまでも魔法を使い続けることはできない……!
必ず限界が来るはず……!)
それまで粘り続け、力を使い果たしたところを叩けば良い。
ルカは気を引き締め、長期戦の構えでモヒカンたちの攻撃を防ぎ続ける。
「おい、変態っ!!下がれっ!!」
だが、突然聞こえてきた長耳男の声にルカは戸惑う。
それは目の前の変態も同じようで、後ろへと怒鳴り返す。
「はぁっ!?何言ってやがるっ!!
まさか、逃げるってんじゃ……!!」
「いいから、下がりやがれっ!
……まぁ、死にたいってんなら、話は別だがな」
その言葉に舌打ちしつつ、下がるモヒカン。
慌てて追いかけようとするルカと門番に、ダージュの魔法が飛ぶ。
紙一重で避けるルカと門番。
体勢を立て直したときには、すでにモヒカンはダージュの傍まで下がっており、
ダージュの手には見たことの無い道具が構えられていた。
(……あの道具は、一体……?)
ルカと門番は何が起きても対応できるように、警戒する。
だが、その警戒は無駄に終わる。
ダージュは嗤いながら、その道具……火炎放射器の引き金を引く。
「……ファイヤーっ!!」
その瞬間、凄まじい勢いの炎が火炎放射器から吐き出され、
ルカと門番は周りの木々ごと炎に包まれた。
|