「……う……うぅ……」
頭に霞がかったような気分を感じつつ、クリスの意識は覚醒した。
「……こ……こ、は……? ……そうだ、ナビィとえびげんさんはっ!?」
目を覚ましたクリスは、自分が気絶する前の状況を思い出し、 真っ先に仲間の安否を確認しようと辺りを見回す。
だが、辺りの風景は街ではあっても、クリスが気絶する前の街の風景とは 似ても似つかなかった。
「……一体、何が……?」
と、そこでクリスは視界の端に写る見知った姿に気が付く。
「!?……ミアっ!?」
ミアが倒れていた。 それも、胸から夥しい血を流しながら。
「しっかりしてっ!!ミアっ!!」
クリスは必死で呼びかけるが、ミアからの返事は無い。 脈を確認するが、すでにミアの心臓の鼓動は止まっていた。
そして、近くには廃墟で別れた少女、伊予那が胸にナイフを生やした姿で倒れており、 その傍には見知らぬ青い髪の女性、さらには敵であるモヒカン男まで血塗れになって 倒れていた。
「……そんな……何が起こっているの……!?」 「……うわああぁぁぁぁああぁぁぁぁっ!!?」
悲嘆にくれていたクリスの耳に少女の悲鳴が響く。
「……っ!?」
警戒し、いつでも魔法を撃てる体勢を取るクリス。
悲鳴の主は、すぐに近くの民家からクリスの前に飛び出してきた。 そして、クリスがいるのにも気が付かず、クリスの横を必死の形相で走り抜けていく。
「なっ……初香ちゃんっ……!?」
少女の姿を見たクリスは驚愕する。
走り抜けていった少女は、初香の姿だった。
恐怖に歪んだ表情はあの冷静で聡明な少女とは思えないものだったが、 間違いなくクリスの仲間であり、首輪を外して共に主催者を打倒すると誓った 仲間の少女の一人だった。
「くっ……!初香ちゃん、待ってっ……!」
クリスは立ち上がり、初香を追いかけようと立ち上がる。 そして、そのときになって、クリスはやっと自分の怪我が完全とは言わないまでも 治療されていることに気が付いた。
(!…ミア……)
クリスはすぐに悟る。 自分の傷を治してくれたのは、自分の傍で力尽きているミアだということを。
(……ありがとう、ミア……それから、ごめんね……。 力を貸すこともできずに、貴女を死なせてしまって……)
クリスはミアに一瞬だけ黙祷を捧げると、ミアの傍に転がっていたマジックロッドを 拾い上げる。
(……ミア……貴女のロッド、使わせてもらうわね……。 安心して、貴女の遺志は私が継ぐわ……。 必ず、皆と一緒にこの殺し合いから脱出してみせるから……!)
クリスはミアに黙祷を捧げると、すぐに初香を追いかけようと走り出す。
……が、すぐにクリスは立ち止まることになった。
「……な……!?あれは……!?」
クリスが見たのは、殺し合い開始直後に見た、ゴーレムのような魔物の姿。 そして、その魔物に搭乗した初香の姿。
「……はは……あはは……!そうだよ……これがあったじゃないか……! これがあれば……!これさえあれば、僕は……誰にも殺されない……!」
レボワーカーに搭乗した初香は引きつった笑いを浮かべながら、 自分に言い聞かせるように呟いている。
そして、初香はクリスの姿に気が付くと、ひっと怯えた声をあげる。
その様子を見たクリスは、先ほどの初香の様子と合わせて、 初香が錯乱していることを確信する。 初香に対して聞きたいことは山ほどあったが、今は初香を落ち着かせるほうが先だと クリスは判断し、初香に話しかける。
「初香ちゃん、落ち着いて……大丈夫よ、私は……」 「……あ……あぁ……!来るな……来るなあぁぁぁっ!!」
ドゴオオオォォォッ!!
「くっ……!?」
クリスは初香を刺激しないように優しく話しかけたが、初香は絶叫して レボワーカーによる攻撃をクリスに仕掛けてきた。
クリスは初撃こそ何とかかわしたものの、続けて振るわれたレボワーカーの巨腕を くらって吹っ飛ばされる。
悲鳴を上げて地面に叩きつけられるクリス。 だが、彼女に大きなダメージは無い。
直前で、リフレクトによる防御が間に合ったからだ。 しかし、ミアの魔法で治療されたとはいえ、元々ダメージを負っているクリスは 身体に伝わった凄まじい衝撃に、呻く。
「……嫌だ……嫌だ……!死にたくない……! 殺したくない……!怖い……怖い……怖い……!」
初香は見開いた目に涙を浮かべ、歯をガチガチと鳴らしている。
(……可哀想に……よっぽど怖い目にあったのね……)
その怯えきった様子を見て、クリスは初香に憐憫の情を覚える。 だが、すぐに表情を引き締めると初香に対して真っ直ぐに視線を向ける。
「……大丈夫よ、初香ちゃん……貴女は必ず私が助けてあげるから……」
決意の言葉とともに、クリスはミアの形見であるマジックロッドを構える。
(……アーシャ、エリー……そして、ミア……力を貸して……!)
今は亡き仲間の遺志をその細い腕に抱き、クリスは初香を救うために初香と対峙する。
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