初香の脳裏には、何度も先ほどの光景が思い起こされていた。
クリスをかばうルカ、そしてルカの身体を粉々に吹き飛ばす、自分が放った弾丸……。
恐怖に駆られた自分がルカを殺した。
殺すのが嫌だったはずなのに。
これ以上、誰かが死ぬのを見るのが嫌だったはずなのに。
それなのに、再び自分の手で死人を出してしまった。
しかも、今度は仲間を。
仲間を、自分の手で殺した。
りよなに向けた言葉が思い返される。
『なぜ、仲間を殺したのにそんなに普通に振舞える?』
違う。そうじゃない。
今なら……仲間を自分の手で殺してしまった今なら、分かる。
りよなは、自分の罪と戦っていたのだ。
自分のエゴで、りよなは仲間を殺してしまった。
だが、それを間違いと認め、罪を償おうとしていた。
分かっていたはずではないか。
りよなが悩んでいたこと、後悔していたことを。
分かっていたのに。
分かっていたはずだったのに。
自分は、その思いを踏みにじってしまった。
りよなを、裏切ってしまった。
そして、自分の裏切りは留まるところを知らなかった。
恐怖に錯乱して、クリスを殺そうとした。
クリスをかばったルカを、殺した。
ルカを殺した流れ弾で、りよなを殺した。
何ということだろうか。
申し開きなどできないくらいに罪を重ねてしまった。
もはや、生き残りは自分とクリスだけだろう。
たった二人で首輪を解除して主催者を打倒するなど、不可能に決まっている。
それでなくても、自分はクリスを殺そうとした。
クリスは、もう自分のことを仲間とは思ってはいないだろう。
彼女が自分を信用してくれるなど、絶対にあり得ない。
なぜなら、自分自身が信用していないのだから。
ああ、これで終わりだ。
元々、無理な話だったのだ。
この殺し合いの場に連れてこられた時点で、自分たちの死はほぼ確定していたのだ。
なぜなら、ここに連れてこられた時点で参加者たちは『負けている』のだから。
誰一人、抗うこともできずに拉致された時点で、完全な『敗北者』の集まりでしかないのだから。
それなのに、自分たちは主催者に……キング・リョーナに勝とうとした。
すでに、完膚なきまでに敗北しているにも関わらず、勝者になろうとした。
そんなことは不可能なのに。
そう、不可能なのに。
最初から不可能だったのに。
勝とうとしたせいで、悲劇を生み出してしまった。
だから……。
もう、終わりにしよう。
悲しくて、怖くて、辛い話は、これで終わりにしよう。
(……ごめんね、お父さん……でも、僕はもう……)
……疲れたよ。
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