目を覚ました時、 周りは多くの人の気配とそれ相応のザワザワとした音で埋まっていた。 辺りは薄暗かったが、ここが大きな部屋――というよりはホールのような場所であるということは分かった。
赤髪の女性は今の自分の状況を把握しようとキョロキョロと辺りを見回した。
薄暗いため、あまり遠くの人は見えない。 近くにいる人も自分の知らない人ばかりだったが、 誰もが自分と同じように辺りを見回している。 その中で、自分がよく見知った人――友人が2人、 これもまた困惑した表情で立ち尽くしているのを見つけることができた。 たまらず大声で呼びかけた。
「エリー!クリス!」
声に気づいた2人の女性は、表情を笑顔に変えながら駆け寄ってきた。 髪の長い眼鏡をかけた方の女性、クリステルが先に口を開く。 「アーシャ!あなたも来ていたのね!」 来た、というよりはいつのまにかいた、という方が正しいのかも。 そんなことを考えながら、赤髪の女性、アーシャは今疑問に思っていることをぶつけてみることにした。 「ねえ、どうなっているの?この状況は」 「うーん…それが私たちにも全然分からないの いつのまにかここにいて…」 この質問にはもう一人の女性、エリーシアが答えた。
アーシャはそれを聞いて、考えた。 周りの人の表情からして、ここにいる人全員が私たちと同じ状況なのかもしれない。 私はたしかギルドのマスターから受けた依頼を終えて、ちゃんと自分の家のベッドで寝たはず。 なのに、起きたらなぜかここにいた。
「他に知っている人はいないかな?」 「分からない…薄暗いし、こう部屋が大きくちゃ…」 周りを見渡してみるが、こう薄暗くてはどこかに知人がいたとしても見つけることは難しいだろう。 三人は一斉にため息をついた。
「いったい、私たちに何が起きたの?」 とアーシャが口にした直後、突然部屋全体に明かりがつけられた。 部屋にいた全員が驚きの表情で周りを見渡す。 そして、全員の視線が、周りより数段高くなった壇上にそそがれた。 とても目立つ格好をした青年が壇上に立っていた。 その男は赤や青などの目立つ色のマントを羽織っており、 いろいろな服装をした部屋にいる者の中でも、ひときわ異彩を放っていた。
男はざわめきたつ部屋を一通り見渡すと、 とても大きく、響く声で言った。 「気分はどうかな!?参加者のみなさん!」
おそらく、部屋にいる全員が「?」となっただろう。 「参加者とは、いったいどういうことだろう?」と。
「初めまして、みなさん。 僕は、キング・リョーナという者だ。以後よろしく。 さて、君たちはゲームの参加者だ! いきなりだけど、君たちには今から殺し合いをしてもらうよ!」
全員唖然とし、数秒の後ざわめき始めたが男はかまわず続けた。 「君たちは数多くある世界の、様々な時間から集められた参加者だ! これから君たちには殺し合いをしてもらい、 生き残った一人は元の世界に戻し、 さらにはなんでも願いを一つだけかなえてあげよう!」
「参加者」の人たちはどのような気持ちでこれを聞いているのだろう。 恐怖か戸惑いか、それとも怒りか歓喜か…。
「そう!これは生き残りをかけた『ゲーム』だ!!」 ひときわ大きな声で男は宣言した。 そのとき、突然男に向かって一人の少女が駆け出した。
アーシャも、クリスも、エリーシアも、 その少女と同じ気持ちだっただろう。 「こんなくだらないゲームなんて、絶対にさせない」という気持ち。 その少女の方が、それを行動に移すのが早かったというだけ。
しかし、駆け出した少女は男に掴み掛かることはできなかった。 なぜなら、少女が男に掴み掛かろうとした瞬間、男は突然宙に浮いたのだ。 その少女の背よりも高く、手が届かぬ程に。 掴み掛かる相手を見失った少女は、バランスを崩し床に無様に転んでしまった。 少女は転んだ状態のまま「なんで?」といった様子で男を見上げている。
「ふふ…驚いた? 僕だって、君のようなおバカさんが出てくることくらい予想しているんだよ」
少女の顔に、悔しさと怒りの表情が現れる。 「み、みんなを元の場所に戻しなさいよ!! 殺し合いなんてバカなこと、この鈴木さんが絶対にさせないんだから!!」
「君は鈴木さん、か…」 男は宙に浮いたまま懐から紙を取り出し確認する。
「○○番、鈴木さん。君にしようかな。 ちょうどよく、ゲームを円滑に行うために 『見せしめ』でもしようと思ってたところだし」
「他の参加者の人も聞いておいてねー。 君たち全員の首に、首輪がつけられているでしょ?」 全員が自分の首に付けられた首輪に触れる。 アーシャたち三人のように、たった今気付いた者もいるようだ。
「それには実は、爆弾が付けられているんだよ」 淡々とした口調での、絶望的な一言。
ピッ
不意に、鈴木さんと言われた少女の首輪から電子音が鳴り始めた。 少女の顔から一気に血の気が引いた。
「…こ、これ…まさか…!」
ピッ
「スイッチが入ってから、少しの時間の後爆発するよ」 男は淡々と言った。
ピッ
「い…嫌!!嘘でしょ!?」
ピッ
「嘘かどうかは、身を持って知ることだね」 男は笑っていた。
ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ
電子音の間隔が、段々と狭まってくる。
「嫌!嫌ぁ!!お願い、止めてよ!! やるから!!殺し合いでも、何でも、やるからぁ!! だから…止めてええぇぇ!!!!」
ボンッ
爆発音と同時に、少女の生首が宙を舞った。 落ちて転がった生首の目は偶然にも部屋にいた者たちの方を向いていた。
血溜まりの中に浮かぶように転がっている少女の生首。 その目は、虚ろでどこを見ているか分からなかった。 いや、もうどこも見てはいないのだろう。
「キャアアアアアアア!!!!」
部屋の至る所から悲鳴が上がる。 部屋は、どよめきに包まれた。 ――目の前で人が殺された。 しかも、理不尽に、それも呆気なく。 どよめきの中で「参加者」は何を思っただろう。 様々な感情が交錯する中で、共通して芽生える一つの確信。 ――殺し合いは、嘘でも冗談でもない。 自分たちはこれから、命を懸けて殺し合いをする。
男はそんな状況の中、地に降り、今は生首となった少女の虚ろな表情を見ながら 一人でしばらく興奮に身を任せていた。 ――ああ、この表情、最高だ。 僕はまさにこのためにゲームを開催した! 苦痛に歪む表情、悔しさに歪む表情、憎悪に歪む表情… もっともっと、見てみたい。 …他の参加者の奴らも僕を大いに楽しませてくれそうだ―― だが男の思考は、そこで一旦中断した。
「セイント!!」
自分に向けて放たれた、殺気と呪文を察知したからだ。 呪文によって作り出された神聖な光。 悪魔や魔物の類がくらえば怪我ではすまない、強力な光が男に直撃した
…が、それでも男は先ほどと何一つ変わらぬ姿で立っていた。 平然と、優雅に、何も起こらなかったかのごとく。
「…まぶしいなあ…誰?」
男の視線が呪文を放った者に向けられる。 「…く、効いてない!?」 そこにいたのは、杖を握り締めた少女だった。 自分の呪文が効いていないことに、驚きを隠せないようだ。
「これはこれはお嬢さん。 たしか君は…○○番、ミア…だね」 男がまた紙を見ながら言う。
「君、今の首輪が爆発したの見てなかったの? 君もああなりたい?」
男の手がミアと言われた少女に向けて伸ばされる。 少女はそれを、どう受け取ったか。
|