仮オープニングその2

 
〜〜〜〜
気づいたら薄暗い部屋に閉じ込められていた。
部屋を調べていると急に部屋に光が差し込んできたので、
そこから光の差し込んできた方を見てみたら主催者が居たという所から。
〜〜〜〜

窓らしき場所から覗き込んだわたしの視線の先には、男がいた。
見た目は軟弱そうな、どこにでも居そうな男だった。
しかし、わたしは直感した。あの男がわたしを此処に閉じ込めたのだと。
どんな方法でかは分からないし、目的も皆目見当がつかない。
だが、わたしをこんな所に閉じ込めた天罰【落とし前】はつける。
(ビンタ100回かな?いや、でも弱そうだし、50回で許してあげようかな?うーん、)
わたしが頭の中でヤツに与える天罰の内容を考えていると、ヤツが何やら話し始めた。
「レディースアーン・・・ヤロウはいいか。」
「君達に集まって貰ったのは他でもない、僕の”暇潰し”に付き合ってほしいんだ。」
(”暇潰し”?)
天罰の内容を考える事に夢中だったわたしは、ヤツの話など殆ど聞いていなかった。
加えて言うならば聞くつもりもなかった。
だが、偶然にも耳に飛び込んできた『暇潰し』という単語に、何故か反応してしまった。
「・・・僕はね、女の子が大好きだ。」
(はっ?)
男の子が女の子が好きというのは分かる。実に当前だ。
わたしだって、いい男性【ひと】が居たら付き合ってもいいかなとか考えた事もある。
尤も、そんな話を教会の目が届く所でしたら『なんて、穢らわしい。聖職者たるもの云々・・』と、
ぶっ倒れるまでお説教をされるに違いないので口に出した事はない。
だが、それと”暇潰し”の関係がいまいち理解できない。
ハーレムをつくる・・にしてはこの仕打ちはあんまりだ。
「特に、可愛い女の子が無残にも壊され、泣き叫び、犯され、恐怖と絶望に顔を歪めながら事切れる様を見るのが大好きだ。」
「なんですとぉっ!?」
わたしはヤツの言葉に思わず声を荒げてしまった。
何が『恐怖と絶望に顔を歪めながら事切れる様を見るのが好き』だ。
そんな事言う輩は大抵根性のひん曲がったロクでもないヘタレで、誰かがガツンと正義の鉄槌を食らわせてやらないと目が醒めない。
「・・・よし!グーパンチ1万回!わたしがあんたのヘタレ根性叩き直してあげるっ!」
わたしはヤツへの天罰をそう決めると、何とかヤツの元へ行けないかと思考を巡らせた。
ヤツは無邪気な明るい声で言葉を続ける。
「というわけで、今日集まってもらった僕のお嬢さん、お姉さん方。」
「殺しあってよ。」
「はいぃ??」
何を言い出すのかと思ったら、『殺しあえ』だって?
破綻している。そんな事頼まれたって誰もするわけがない。
少なくとも、わたしはしない。
「あ、みんな『誰がそんな馬鹿げた事するか。』とか思ってるでしょ?」
当たり前だ。いいからさっさと此処から出せ、あたしが天罰を与えてやる。
「そうだよねー、うんうん。わかーるわかるよー君の気持ちー♪」
「・・というわけで、こんなの付けさせてもらいマスタ!(キラーン☆)」
そう言って突き出されたヤツの右手には、首輪のような物が1つあった。
言われるまで気づかなかったが、確認してみると確かにわたしの首に何か巻かれている。
「これはねぇ、僕が1日徹夜して考えた素敵アイテムなんだよ。」
ヤツが持っていた首輪を前に投げ捨てた。わたしの視線は自然とその首輪を追っていた。
「僕がこうして、ちょっと意識を集中させると・・。」
ヤツの言葉がそこで一旦止まった。そして・・・破裂音。
「ボンッ!ってなるんだよ。どう?凄いでしょ?」
窓越しであったせいか音はそれほどでもなかったが、確かに威力は凄そうだ。
わたしの首元で爆発したら・・と思わず想像してしまった。

「僕としては、今のでみんな分かってくれたと思うんだけど。」
「『どうせ見た目だけ』と高をくくってる子のために、もっと分かりやすくしてあげるよ。」
わたしが自身の悲惨な光景を想像して戦慄【わななか】せていた事を知ってか知らずか、ヤツはそう言って指を鳴らした。
すると、突然ヤツの隣に一人の女性が現れた。
ショートカットの活発そうな女の子で、歳はわたしと同じぐらいだろう。
首にはあの首輪が巻かれている。
女の子は何か言いながら激しく何かを叩いている。
恐らく、透明な壁のような物があるのだろう。
「分かりやすくって・・まさか!?」
わたしは今し方忘れ去ったばかりの悲惨な光景を再び思い出した。
ヤツは彼女を使い、それを現実の物としてわたしに見せようとしている。
「やめなさい!ちょっと!コラッ!聞けって!聞こえてるんじゃないの!?おーい!」
あんな光景は現実にしちゃいけない。そんな気持ちも確かにあった。
それ以上に、彼女があのヘンタイ男の歪んだ性癖のために、
その尊い命を奪われようとしているという事がわたしには堪えられない。
彼女を救わないと。わたしは必死に声をあげ、窓を叩き、ヤツを睨み続けた。
ピッ。
言葉にするとそんな感じの音が、突然鳴り始めた。わたしは驚いて一瞬動きを止める。
「さっきはすぐに爆発させちゃったけど、本当はこうやってタイマーが働くんだよ。」
ヤツはにやけながら鳴り始めた音について説明を始める。
「この音が段々早くなって行って、そうだね。今の設定だと5分後ぐらいかな?」
「まぁ時間が来たらさっきみたくボン!ってなるのさ。素晴らしいでしょ?」
ヤツは一人でケタケタ笑い始めた。なんてヤツなんだろうか!あたしが早く天罰を与えなくては!
わたしはヤツを睨み付けながら一段と強く、大きく、声を荒げ窓を叩き続けた。
「やめなさいってば!このヘンタ・・へっ!?」
突然、目の前にあった硬く冷たい感覚が無くなった。
「!っ、痛たぁー・・。」
一瞬の事のように思えた。何が起こったのかまったく分からない。
気が付くとわたしは尻餅を付いていた。今分かっているのはそれだけだった。
何が起きたのか今一度整理したい気持ちを抑え、わたしは素早く立ち上がり周りに注意を向けた。
戦士としてのわたしがそうさせた。
普通の聖職者にはない思考。わたしが周りから時に白い目で見られる原因の思考。
この時ほど、わたしは戦士としてのわたしが在る事を感謝した事はないだろう。
「・・・ちょうどよかった。あたし、あんたに用事があったの。」
視線の先にはヤツが居た。
そして、わたしとヤツの間にはつい先ほどまで在った分厚い障害物はない。
これは願ってもないチャンス。わたしは今、ヤツと同じ場所にいる。
あの甲高い無機質な音がさっきよりもちょっとだけ早くなった気がする。
ショートカットの彼女は顔をぐちゃぐちゃにしながら透明な壁を叩き続け何かを叫んでいる。
このままでは彼女の精神が参ってしまうだろう。あまり悠長な事をやっている余裕はない。
「うん、僕も用事があったんだ。いや、もしかしたら無かったかも。」
「はぁ?ハッキリしない男って大っ嫌い。」
「まぁ、ちょっとだけお話きいてよ、ルカお嬢ちゃん。」
「!」
わたしはヤツに名前を名乗った記憶はない。なのに、ヤツはわたしの名前を知っている。
今目の前でニヤけている男は、単なる気紛れでわたしを此処に連れて来たわけではない。
直感的にわたしはそう悟り、身構えた。
「君を含めて、何人かやっぱり同じように力づくでも止めさせようとしている子が居るんだけどね。」
「ちょっとうるさいから、その子らを黙らせるために代表して君を使おうかなって思ったわけですよ。」
「これから始まる楽しい”ゲーム”の余興も兼ねてね。」
ヤツは相変わらずニヤニヤと下衆なニヤケ顔を浮かべながらそう言った。
「『ゲームの余興』ですって?」
わたしはもう我慢の限界だった。
名前を言い当てられた事で警戒して今まで様子を見ていたが、もうだめだ。
この男を神様に誓ってぶちのめさないと気が済まない。
そして、彼女を救って此処から出る。ヤツの”ゲーム”とやらを開始前にゲームオーバーにしてやるんだ。
「うん。余興。ルールは簡単だよ。時間内にお嬢ちゃんが僕を倒せたらあの娘【こ】は助かるの。」
「へぇー・・。」
「というわけで、あの娘、助けたかったら僕を倒してよ。お・じ・ょ・う・ち・ゃ・ん。」
態と『お嬢ちゃん』を強調したヤツの言葉に、わたしは完全に緒が切れた。
「もう許さない!神様が許しても、あたしが許さない!」
わたしは素早く腰の愛刀を抜き、ヤツに向かって飛び掛った。
 
あの甲高い無機質な音は少しずつではあるが確実にその間隔を早めていた。
「くっ!このっ!ちょこまかとぉ!」
「ほーら、僕はこっちだよー。ルーカちゃーん♪」
ヤツは見た目に似合わず素早く、わたしの放つ高速乱撃をいとも簡単に掻い潜っていた。
「あんたみたいな最低野郎でも一応お祈りしといてあげるから、安心してあたしに殺されなさい!」
わたしは焦り始めていた。わたしの戦法は素早さを生かしたヒットアンドアウェイだ。
ゆえに、身のこなしに関しては絶対の自信を持っていたし、今まで誰にも引けをとった事はなかった。
それが今、揺らぎ始めている。それもあんな最低野郎相手に。
(そんな事、許せるわけがない!)
ちらりとあの娘の方を見る。
彼女はぐちゃぐちゃになった顔のまま、不安そうな目でこっちをずっと見て何か言っている。
(早く、助けないと!)
わたしは愛刀を持つ手に自然と力を込めていた。
「僕、飽きてきたよ、お嬢ちゃん。」
「じゃあ、さっさと倒されなさい!」
ヤツはあのにやけ顔のまま、つまらなそうに言った。
それがわたしの神経をさらに逆撫でする。
流されてはいけないと思い必死に堪えるが、それでもやはり抗いがたい。
「よし、分かった。こうしよう。僕に一撃でも当てられたらでいいよ。」
「一撃?十分だわ!あんたをぶちのめすのにそれ以上いらない!」
「その代わり、そろそろ反撃してもいいかな?」
「好きにしなさいよ!」
「あー、でも反撃しちゃうとどーせ僕に勝てないと思うけど、それでもいいの?お嬢ちゃん。」
「五月蝿い!いいから、あたしが引導を渡してあげるっ!」
「じゃ、決まりだね!」
ヤツを取り巻く空気が変わった。普段のわたしならその変化に絶対に気付いていただろう。
しかし、わたしは気付けなかった。それほどまでに焦りと怒りがわたしを支配していたのだった。
それが命取りだと気付いた頃には遅かった。
「せいぜい、いい声で啼いてね?」
わたしの目の前に、ヤツは居てそう呟いた。一瞬、本当に一瞬だった。
何が起きたのか考えるよりも早く、わたしの戦士としての意識が次に起こりうる事態に備えわたしを身構えさせた。
「がはっ!」
腹部に鈍痛が走る。咄嗟に身構えたおかげでいくらか軽減できたが、肺の空気が一気に外に押し出されわたしは思わず前によろけた。
ヤツがこの隙を逃すはずがない。予想通り、立て続けに連続攻撃を仕掛けてきた。
この状況ではわたしはただ、身を固めて衝撃に耐える事しかできない。
「くっ!・・・このっ!・・・痛っ!」
格闘戦の心得は殆どないとはいえ、わたしなりにしっかりと受けているはずだが、痛い。
この男、見た目以上に力もあるようだ。
(ちょっと・・ピンチかも。でも!)
「ほらほらどうしたの?攻めてこないの?お嬢ちゃん!」
ヤツはケタケタと薄汚く笑いながら連打を続けてくる。
先の腹部へのダメージがだいぶ薄れてきたわたしは、
ヤツの挑発には耳を貸さずヤツの連打を見極め始める。
こうしている間にもあの非情な音はどんどん間隔を早めている。
何とか反撃の糸口を見つけなくては、このままでは彼女を救えない。
そう考えていた刹那、一瞬だけヤツの攻撃が大振りになる。
(今だ!)
 
千載一遇のチャンス、わたしはその隙を衝き必殺の一撃を当てようと攻勢に出た。
「アハハハ!残念賞♪引っかかっちゃったネ、ルカお・じ・ょ・う・ち・ゃ・ん!」
ヤツの言っている事が一瞬まったく理解できなかった。
それが分かったのは、事が実際に起こってからだった。
「がっ!」
ヤツの見せた隙はいわば撒き餌だった。わたしのガードを崩し、無防備にさせるための囮。
まんまとヤツの策にのせられたわたしは、胸部に凄まじい鈍痛を受け、その衝撃で凄い速度で吹き飛ばされた。
「ぐはぁっ!」
恐らく壁だろう。わたしは硬い物に背中から激しく叩きつけられ、その反動で前に倒れこむ形になった。
(えっ?なんで・・居るの!?)
わたしは一瞬目を疑った。わたしは今、結構な距離をかなりの速度で飛ばされたはずだ。
背中からわたしの全身を貫いた激痛が確かな証拠だ。
壁に激突した瞬間は意識が飛んだ事も認めるが、そんな短時間で迫れる距離でもない。
それなのに、どういうわけか目の前にヤツが居る。この状況、誰でもいいから、ウソだと言ってほしい。
そしてわたしは今、壁に打ち付けられ反動で前へと倒れこもうとしている所をヤツに狙われているのだ。
身構えようとも、ショックで体がうまく動かせない。あまりに無防備だ。
(ヤバ・・)
ヤツのにやけた顔が、悪魔の嗤い顔に見えた。
「ぐっ!ふぎゃっ!がはっ!やめっ!ごっ!げえっ!痛ぁ!」
ヤツの鉛のように重くて硬い拳や蹴りがわたしの身体に容赦なく降り注ぐ。
「げふぁっ!」
再び吹き飛ばされる。今度は地面に打ち付けられ、殺しきれなかった勢いがわたしに激しく地を滑らす。
「げほっげほっ!・・・痛ぁっ!」
内臓がやられたのだろう。口の中が鉄の味でいっぱいになり、地面に赤黒い水溜まりを作る。
息がかなり苦しい、肺に穴でも空いたのかもしれない。
全身が重い。視界が揺らいできている。ヤバい、このままじゃ・・死ぬ。
(わたしが・・死ぬ?)
急にわたしを取り巻く空気が急に冷たくなった気がした。寒い。凍えそうだ。
歯の根が合わなくなってきた。どうしよう。
「ルーカちゃん♪どうしちゃったの?さっきまでの元気は?ねえねえ。」
「!!」
横たわるわたしの頭上にいつの間にか居た悪魔がわたしを見下ろし蔑んだ嗤い顔を浮かべている。
(殺される!くそっ!早く!早く離れないと!)
何とか起き上がろうとうつ伏せになり、四肢に力を入れた。
「!!くあっ!」
急に視界が浮き上がり、わたしは驚いた。
わたしはヤツに片手で上から頭を掴まれ、宙に持ち上げられたのだ。
目の前に見たくもない悪魔の顔がいっぱいに映る。
「・・・このっ!・・・はなし・・なさい・・・!」
歯の根が合わないせいか、うまく喋れない。しかし、精一杯強く噛み付いた。
この状況でもわたしはまだ、愛刀をしっかりと手に握っている。
わたしにとって、これだけがもう最後の頼りだった。
「うーん、やっぱり君みたいな可愛い子がそんな物騒な物、何時までも持ってちゃいけないね。」
「というわけで・・・棄てて貰うよ!」
わたしが最後の力を振り絞って両手を動かすよりも早く、ヤツの一撃が私の手首を貫いた。
「痛!」
ヤツは片手であっという間に私の両手を撃ち抜き、わたしは最後の頼りを落としてしまった。
「しまっ・・・ひぎぃっ!」
頭が痛い。ヤツがわたしの頭を掴んでいる手に力を入れ始めたのだ。
このままでは頭が潰されてしまう。
わたしは両足をばたつかせ、全身を揺らしながら何とかヤツの手から逃れようと、両手でヤツの手を掴み引き剥がそうとした。
「アハハハ!イイよ!お嬢ちゃん!その苦痛に歪みながらも必死な顔、最高に萌え!勃ってきたヨ!!」
悪魔が嗤う、ゲラゲラと汚く嗤う。そして、その手にどんどん力を入れてくる。
「ぐっ・・・ぎゃぁ・・・!」
(痛い!痛い!痛い!死ぬ!死ぬ!死ぬ!)
わたしは残った力を全て使い、ヤツの手から逃れるための抵抗を続ける。
「イイね!イイね!実に楽しい!!おにーさん全然シコってないのにもうイキそうだよぉ!」
突然視界が淀む、いつの間にかわたしは泣いていた。
泣きながら、必死に抵抗を続ける。だが、まったく利かない。
悪魔は肩でハアハアと荒く息をしながら、快楽に満ちたような顔でわたしを見ている。
「ひいっ!・・・はなしっ!・・・いたぁっ!!・・ひっぎぃぃぃ!・・・がぁぁぁぁ!!」
ギリギリとわたしの頭を襲う痛みがどんどん増してくる。
そして、ビキッという乾いた大きな音がした気がした。
「!?・・やだっ!・・今の音・・何!?・・・何なのっ!?」
「さぁなんだろうねぇ!?骨でも折れたんじゃないのぉ!?ハハハ!」
(あたまの・・ほね・・・おれ・・・たっ!?)
わたしにはもう何もかも分からなくなっていた。
頭を襲う激痛、最後の頼りを失った喪失感、身のこなしで完全に敗北し崩壊した絶対の自信。
それらだけで頭がいっぱいだった。
「いっだぁぁぁ!!・・・しっ死んじゃ・・うぅぅ!!」
(ウソ・・でしょ?・・・わたし・・死ぬの・・?)
涙が止まらない。身体の震えが止まらない。歯の根が合わない。
「イ・・ヤ・・・!!」
死にたくない。死にたくない。このままじゃ、死んでしまう。
「イヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤァァァ!」
(寒い!怖い!痛い!嫌だ!助けて!誰か!わたし!わたし!!)
わたしは今、完全にただの’16歳の少女’になった。

「・・・いいよ。助けてあげる。」
「・・えっ!?」
声の主は他ならぬ目の前の悪魔。
今にもわたしを殺そうとしている者らしからぬ発言にわたしは呆気にとられた。
「『私の負けです。キング様のために全身全霊を掛けて御奉仕させて頂きます。ですので、憐れな女の子を助けてください。』」
「・・って言ったら助けてあげるヨ♪」
「なっ!・・そんなっ・・!」
(そんな事・・・言えるわけが・・・!)
そうだ。そんな事言えるわけがない。わたしは腐っても、聖職者だ。
平和を乱す悪に屈する事など、あってはならない。平和を守るためならば死ぬ事も厭わない存在であるべき者なのだ。
「あーそうだった。ルカちゃんは一応”せーしょくしゃ”ってヤツなんだっけ?僕みたいな悪人には、死んでも屈しちゃいけないんだよねぇ?」
(そうよ!分かっているなら、さっさと・・・)
「・・わ・・わたしの・・。」
(・・えっ!?ちょっと!まさか!)
わたしの身体が、わたしの意思とは無関係に動いている。まさにそういう状況だった。
「・・わたしの・・・まけ・・です。」
(ウソ!?・・・どうして!・・・そんな・・・!!)
認めたくない。わたしは今、”わたし”よりも”生物”を優先させている。
「んんー?聞こえないなぁ?」
ヤツが更に力を入れる。ミシミシという音が頭の中で響いた気がした。
「うぎぃぃぃ!!わっ、私の負けですぅ!!」
(ダメ!そんなこと・・・言っちゃダメ!)
もう完全に”わたし”がわたしを抑えられなくなっていた。こうなったら行き着く先はただ一つ。
「キング様の暇潰しのため!全身全霊を掛けて御奉仕させて頂きますぅ!」
(ダメよ!それ以上は!絶対ダメ!)
分かっている、でも諦めるわけにはいかない。
「ですから・・ですから・・・」
(ダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメぇぇ!!)
それ以上言えば、確実にわたしが”わたし”ではなくなってしまう。
わたしは”わたし”を守るため、必死にわたしに懇願した。しかし、非情にもそれは叶う事はなかった。
「ですから!憐れな女の子を助けてくださいぃ!!」
(うわああああああ!!・・・あ・・・ああ・・。)
身体が物凄く重い。視界がぐにゃりと歪み色を失う。もう何も考えられない。”わたし”は・・・死んだ。

「アハハハ!これは傑作!!”せーしょくしゃ”が死ぬの怖くて悪に屈しちゃうとか、素敵すぎておにーさんついイッちゃったよ!!」
微かに生臭い臭いがしている。しかし、わたしにはもうどうでも良い事だった。
ようやく開放されたわたしはそのまま糸の切れた操り人形のように地面に崩れ落ちた。
「おっ、後5秒。」
「えっ・・?あっ・・。」
ヤツのその一言でわたしは大切な事を思い出した。わたしは彼女を助けなくてはならない。
「・・もう、十分・・・でしょ?」
「ん?何が?」
「あ、あんたの・・余興は・・十分・・・あの娘は・・もう・・」
ヤツの言っていた”ゲーム”の余興なら、わたしにとって最悪の形ではあるがもう終わったはずだ。
「え?何言ってんの、お嬢ちゃん。」
ヤツはあの嗤い顔で答えた。
「アレは、『どうせ見た目だけ。』と高をくくってる子へのプレゼン。で、君との余興は『力づくでも止めさせる』と息巻いてる子へのプレゼン。OK?」
「そ、そんな!でも!・・わたし・・・!」
そうだ、わたしは不本意ながらも負けを認め、助けを求めた。
当然、彼女も憐れな女の子だ。助けられるはず、そう思っていた。
「おいおい、約束したじゃん。『僕に一撃当てられたら』ってさ。」
「というわけで、さーん。」
「ウソ・・そんなのって・・・!」
「にーぃ。」
「いや・・・やめて・・・」
ふと彼女の方に視線を移す。彼女は両手を真っ赤に染めながらも壁を叩き何かを叫び続けている。
「いーち。」
「!!」
わたしは顔を背けようとしたが、ヤツの手によって阻まれる。そして、あの破裂音。
わたしの目の前で今、人が死んだ。
首輪の威力は紛れも無く本物で、彼女の首と胴を一撃で切り離した。
彼女を殺したのは、間違いなく・・このわたしだ。
(わたしが・・殺した・・。)
わたしがもっと強ければ、彼女は死ななかった。
わたしがもっとしっかりしていれば、彼女は死ななかった。
わたしがもっと”わたし”ならば、彼女は・・。
「わたしは・・・わたしは・・・うあ・・」
泣くしかなかった。わたしにできるのは、その場で力無く泣き続ける事だけだった。
「あー、面白かった♪これほど楽しい余興は初めてだったなぁ♪」
目の前で男がゲタゲタと嗤っている。怖い。この男にはどう転んでも絶対に勝てそうにない。
この男は・・悪魔だ。全てを壊し、犯し、喰らい尽くしても決して満足する事のない狂気の化身。
「さて、約束通り、お嬢ちゃんは助けてあ・げ・る。」
「そうそう、肝心の”ゲーム”の説明。どんな手を使ってもいいから、最後に生き残った一人だけは元の世界に返してあげるよ。」
「それと、禁止エリアってのをテキトーに決めていくよ。入って5秒以内に出なかったら首輪が爆発するから気をつけてネ!」
「首輪は全員の居場所と発言を僕に知らせてくれるから、下手な行動は謹んだ方がいいよ。」
「勘のイイ子なら薄々感じてるだろうけど、無理矢理外そうとすれば爆発するように作ってあるんでよろしく。」
「じゃあ、僕のお嬢さんとお姉さんたち、頑張って僕を楽しませてネ!ルカお嬢ちゃんもだよ♪」
薄れ行く意識の中でわたしが最後に聞いたのは、ヤツの狂気に満ちたゲームの説明だった。
 
状況説明
●キャラクター名
ロカ・ルカ

●現在位置
不明

●健康状態
・全身打撲(ただし、主催者の計らいでゲーム開始時に今回に限り全快する)
・内臓損傷(ただし、主催者の計らいでゲーム開始時に今回に限り全快する)
・激しい自責の念
・抗いがたい敗北感
・主催者やそれに似た”狂気”への激しい恐怖心

●装備武具と詳細
不明

●道具と詳細
不明

●今後の行動予定と優先順位
未定


●キャラクター名
鈴木さん

●現在位置
不明

●健康状態
・死亡(首輪爆発による爆死)

●後書きという名の言い訳。
スレ汚し申し訳ありませんでした。しかも3レスも・・。(´・ω・`;)
この程度の文章力しかない自分ですが、どうか本番もよろしくです。

うーん、思ってるよりも行間がつまり過ぎてて読みにくい・・。(ただでさえ読みにくいのにw
本番で投下するときはもっと行を空けよう。_〆(。。;)メモメモ・・・


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