薄暗い部屋の中、俺は目覚めた。 周りでは何人かの声がざわざわと聞こえることから、この部屋は比較的広いことと 数十人の人間がいることが分かる。
・・・で、ここはどこだ? たしか、俺はいつも通り女を殴って犯して拷問した後、自分の部屋で寝たはずだ。 そのとき、着替えるのが面倒だったから全裸で寝たが、なぜか今はパンツをはいている。
実に不可解だ。 俺は夢遊病者じゃないし、寝てる間にパンツをはくというわけの分からん特技はもってない。
・・・いや、そんなことはどうでもいい。 それよりも状況の把握だぜ。
少しずつ暗闇に目が慣れてきたので、知っているやつがいないか周りを見渡してみた。 そうして分かったことは、この部屋にいるのはほとんどが女ばかりで、しかもなかなかの 上物ぞろいだということだ。 残念ながら見知ったやつは見当たらなかったが、それを補って余りあるほどの素晴らしい 光景に俺は思わずほくそ笑んだ。 (何が起こったのかさっぱり分からねーが、そんなことは関係ねぇ。せっかく大勢の獲物が 俺様のそばにいやがるんだ、適当に何人か捕まえて拷問して犯してやる!) さっそく湧き上がる獣欲を満たそうと手近な少女に掴みかかろうとしたとき、いきなり前方に光が射した。
光が挿した先には、一人の優男が立っていた。 その男は頭が沸いたような派手でいかれた格好をしていた。 口元に厭味な笑みを浮かべていて、あいつとは違う意味で殴りたくなるような男だ。 その男は無意味に仰々しいポーズを取りながら、口を開いた。
「やあ、皆さん初めまして!僕はキング・リョーナ!君たちをここに招待した者だ!」
キング・・・リョーナだとぉ? よく分からんが、名前からしてこいつはリョナラーか? いや、名前で決まるってわけでもないだろうが、あいつの例もあるしな。 部屋にいる人間は突然現れた派手な馬鹿に対して、唖然とした目を向けている。 中には可哀想なものを見るような目を向けているやつもいるが、男はそんなことには 気づかないのかさらに喋り続ける。
「ふふふ、いきなりこんなところに連れてこられた驚いたかい?だが、僕の目的を叶えるためには どうしても君たちが必要だったんだよ。」
・・・目的だと?何をしたいのか知らねぇが、勝手に人を連れてきて好き勝手なことを言いやがるぜ。 だが、まあこんなアホのことはどうでもいい。それよりも女だ。 俺は気を取り直して、先ほど襲おうとした少女に掴みかかろうとする。 しかし、次の男の言葉にその動きを止めざるを得なかった。
「君たちを招待した目的はただ一つ!それは、ここにいる君たち全員でこれから殺し合いをしてもらうことだ!」
ざわめきが大きくなる。こいつは何を言ってやがる? 自慢じゃないが、俺は頭が悪い。俺の属している組織内では年に2回ある馬鹿ランキングで 腹立たしいことにぶっちぎりで堂々の一位を獲得していた。 (余談だが、現在の馬鹿ランキング一位は読み書きも計算もできない学無しの忌み子である。) だが、頭の悪い俺でなくとも、いきなりわけの分からん場所に連れてこられ、わけの分からん男が わけの分からんことをほざいてやがる、このワケワカラン三重奏な状況を理解することはできないだろう。
目の前のイカレ男に対して、部屋にいるやつらは戸惑いや不安の視線を向けている。 どうにもこうにもさっぱりな状況だが、この野朗が俺をこんなところに拉致った張本人なことは確からしい。 よし、決めた。こいつは殺す。 本当なら男なんて痛めつけても面白くも無いんだが、この俺様に対して舐めた真似をして くれた上にあんなムカツク顔をしてやがるんだ、散々苦しんで泣き喚いた挙句に惨たらしく 死んでくれないと怒りが収まらねーぜ。 俺がどうやってやつを殺すか考え始めたところで、男は再び喋り始めた。
「どうやら、君たちはいまいち状況を理解してないようだね。まあ、無理もないさ。 いきなり殺し合いをしろと言われても、悪い冗談にしか聞こえないだろうね。 そんなわけで、君たちに信じてもらえるように用意したのが今君たちの首に着けられている首輪さ。」
言われて自分の首まわりに触れてみると、いつの間にか首輪が着けられている。 その事実に、俺はさらに怒りを募らせる。 周りを見ると、他のやつらも俺と同じように首輪が着けられているようだった。 いつの間にか着けられていた首輪に驚きの表情を浮かべている。 (犬猫のように首輪なんぞ着けてくれやがって!奴隷にでもしたつもりか!?) もう我慢の限界だ。もっとも、1ミリたりとも我慢などしてなかったが。 俺は男を殺すため、男に近づこうと歩き出し、
「その首輪には爆弾が仕掛けられていてね。僕の好きなときに爆破できるのさ。 もちろん首輪が爆発したら、君たちは首が吹っ飛んで死んじゃうから気をつけてね。」
やつの言葉に再び足を止めさせられた。 ・・・こいつ、今なんて言いやがった?爆弾だと?首輪に? 爆発したら首が吹っ飛ぶ?
「ほら、こんな風にね。」 そう言って、男が指を弾いた瞬間。
ボンッ!
いまいち迫力の無い爆発音が響き、ドサッと何かが倒れるような音がした。 音がした方向に視線を向けると、さっき襲おうとした女が倒れていた。 しかも、女は首が無くなっていて辺りには血と肉片が飛び散っていた。
「ひっ・・・!?」 「いやぁぁぁァァァーーーーッ!?」 「し・・・しっ、死んで・・・!人がっ・・・!」
その女が死んだということを認識した瞬間、悲鳴と怒号が湧き上がった。 中には泣き出すやつもいて、怯えた泣き顔がそそりやがる。 だが、今は状況の把握が先だ。 (ちっ・・・首輪に爆弾が仕掛けられてるってのは、どうやらマジらしいな。面倒なことになりやがったぜ。) 俺は苦々しく表情を歪めて男を睨み付ける。 男は構わず喋り続ける。 「これで僕が本気ということが分かってもらえたかな?殺し合いを拒否して僕に逆らうなら、さっきの子みたいに 首を吹き飛ばしちゃうからね。死にたくなかったら・・・。」 「フレイムバースト!」 男の声を遮るように女の声が響き、それと同時に凄まじい速度で迫る火球が男を襲う。 誰かが魔法でも使いやがったか。目の前の殺戮に怒りを感じた偽善者か、もしくは恐怖に駆られた馬鹿か。 どちらにしろ、これであのいけ好かねぇ男が死んでくれるなら願ったり叶ったりだ。 見たところ戦えるようにも見えねぇし、あの速度の火球をかわせるとは思えねぇ。 これでやつが死ねば、俺は首輪から解放されるだろう。 (その後はここにいる女たちを痛めつけて楽しむとするか、へへへ・・・。) そして、俺の想像通りに火球は男に命中し大爆発を起こした。 それなりに離れているにも関わらず衝撃がここまで伝わってきやがる。 こりゃ確実に死んだな、あの野朗。 俺は男の死体を確認しようと、反射的に顔を庇っていた腕を下ろして男のいた前方に視線を向けた。
だが、男は無傷でそこに立っていた。 まるで、先ほど飛んできた火球のことなど気づいてすらいないかのようなその佇まいだ。 (・・・外れた?いや、たしかに当たったはずだ。) 火球が男にぶち当たる瞬間を俺の目はたしかに捕らえていた。 しかし、結果として男は傷一つないどころか、服に焦げ目すら作らずに悠然と立っている。 男は火球の飛んできた方向に顔を向ける。
そこには驚いた顔をした赤い髪の女が立っていた。 どうやら火球を放ったのはこの女らしい。 剣を提げて胸当てを着けているところを見ると、剣の腕にも覚えがあるようだ。 その女に向かって、男が禍々しく笑いながら口を開く。 「へぇ・・・そんな態度に出るってことは君も爆破されたいのかな?」 「!」 その言葉を聞いた瞬間、女はさせるかとばかりに剣を抜き放って一瞬で間合いを詰め、 男の首筋に剣を突きつける。 「・・・皆の首輪を外して。それから、ここにいる人たちを全員元の場所に帰して。」 「それはできないなぁ。せっかく僕が殺し合いのためにわざわざ集めてきたんだよ? ただで帰してあげるわけないじゃないか。」 その言葉に、女は剣先に僅かに力を込める。 「・・・言う通りにしてくれないかな?貴方みたいな人でもできれば殺したくないから。」 「へぇー?優しいんだねぇ、お姉さんは。でも、僕は皆を返すつもりはないよ? つまり、お姉さんは僕を殺さないと皆を助けられないってことさ。さあ、どうする?」 にやにやと笑いながら言う男に対して、女は躊躇うような表情を見せる。 しかし、すぐに表情を引き締めて剣を振るおうと力を込めようとした。
だが、剣は動かなかった。 「え・・・?アレ・・・?」 「ほら、どうしたの?僕を殺さないと皆を助けられないよ〜?」 男が挑発するように言う。 「くっ・・・。」 女は一度離れて間合いを取り、勢いをつけて再び男に切りかかる。 だが、女の剣が男を斬りつける直前、剣と男の間が薄皮一枚ほどまで縮まったところで 唐突に女の剣が止まってしまった。 弾かれるわけでも捕まれるわけでもなく、まるで慣性を無視したかのようにいきなり止まったのだ。 その現象に驚愕の表情を浮かべる女、そこに男の蹴りが飛ぶ。 「あぐっ!?」 それをまともに喰らい、女は砲弾のごとく吹っ飛んだ。 ・・・は?いやちょっと待て、こっちに来るな、オイコラ・・・!
ドガアァッ!!
俺は女に跳ね飛ばされて気を失った。
|