仮オープニングその3

 
薄暗い部屋の中、俺は目覚めた。
周りでは何人かの声がざわざわと聞こえることから、この部屋は比較的広いことと
数十人の人間がいることが分かる。

・・・で、ここはどこだ?
たしか、俺はいつも通り女を殴って犯して拷問した後、自分の部屋で寝たはずだ。
そのとき、着替えるのが面倒だったから全裸で寝たが、なぜか今はパンツをはいている。

実に不可解だ。
俺は夢遊病者じゃないし、寝てる間にパンツをはくというわけの分からん特技はもってない。

・・・いや、そんなことはどうでもいい。
それよりも状況の把握だぜ。

少しずつ暗闇に目が慣れてきたので、知っているやつがいないか周りを見渡してみた。
そうして分かったことは、この部屋にいるのはほとんどが女ばかりで、しかもなかなかの
上物ぞろいだということだ。
残念ながら見知ったやつは見当たらなかったが、それを補って余りあるほどの素晴らしい
光景に俺は思わずほくそ笑んだ。
(何が起こったのかさっぱり分からねーが、そんなことは関係ねぇ。せっかく大勢の獲物が
俺様のそばにいやがるんだ、適当に何人か捕まえて拷問して犯してやる!)
さっそく湧き上がる獣欲を満たそうと手近な少女に掴みかかろうとしたとき、いきなり前方に光が射した。

光が挿した先には、一人の優男が立っていた。
その男は頭が沸いたような派手でいかれた格好をしていた。
口元に厭味な笑みを浮かべていて、あいつとは違う意味で殴りたくなるような男だ。
その男は無意味に仰々しいポーズを取りながら、口を開いた。

「やあ、皆さん初めまして!僕はキング・リョーナ!君たちをここに招待した者だ!」

キング・・・リョーナだとぉ?
よく分からんが、名前からしてこいつはリョナラーか?
いや、名前で決まるってわけでもないだろうが、あいつの例もあるしな。
部屋にいる人間は突然現れた派手な馬鹿に対して、唖然とした目を向けている。
中には可哀想なものを見るような目を向けているやつもいるが、男はそんなことには
気づかないのかさらに喋り続ける。

「ふふふ、いきなりこんなところに連れてこられた驚いたかい?だが、僕の目的を叶えるためには
どうしても君たちが必要だったんだよ。」

・・・目的だと?何をしたいのか知らねぇが、勝手に人を連れてきて好き勝手なことを言いやがるぜ。
だが、まあこんなアホのことはどうでもいい。それよりも女だ。
俺は気を取り直して、先ほど襲おうとした少女に掴みかかろうとする。
しかし、次の男の言葉にその動きを止めざるを得なかった。

「君たちを招待した目的はただ一つ!それは、ここにいる君たち全員でこれから殺し合いをしてもらうことだ!」

ざわめきが大きくなる。こいつは何を言ってやがる?
自慢じゃないが、俺は頭が悪い。俺の属している組織内では年に2回ある馬鹿ランキングで
腹立たしいことにぶっちぎりで堂々の一位を獲得していた。
(余談だが、現在の馬鹿ランキング一位は読み書きも計算もできない学無しの忌み子である。)
だが、頭の悪い俺でなくとも、いきなりわけの分からん場所に連れてこられ、わけの分からん男が
わけの分からんことをほざいてやがる、このワケワカラン三重奏な状況を理解することはできないだろう。

目の前のイカレ男に対して、部屋にいるやつらは戸惑いや不安の視線を向けている。
どうにもこうにもさっぱりな状況だが、この野朗が俺をこんなところに拉致った張本人なことは確からしい。
よし、決めた。こいつは殺す。
本当なら男なんて痛めつけても面白くも無いんだが、この俺様に対して舐めた真似をして
くれた上にあんなムカツク顔をしてやがるんだ、散々苦しんで泣き喚いた挙句に惨たらしく
死んでくれないと怒りが収まらねーぜ。
俺がどうやってやつを殺すか考え始めたところで、男は再び喋り始めた。

「どうやら、君たちはいまいち状況を理解してないようだね。まあ、無理もないさ。
いきなり殺し合いをしろと言われても、悪い冗談にしか聞こえないだろうね。
そんなわけで、君たちに信じてもらえるように用意したのが今君たちの首に着けられている首輪さ。」

言われて自分の首まわりに触れてみると、いつの間にか首輪が着けられている。
その事実に、俺はさらに怒りを募らせる。
周りを見ると、他のやつらも俺と同じように首輪が着けられているようだった。
いつの間にか着けられていた首輪に驚きの表情を浮かべている。
(犬猫のように首輪なんぞ着けてくれやがって!奴隷にでもしたつもりか!?)
もう我慢の限界だ。もっとも、1ミリたりとも我慢などしてなかったが。
俺は男を殺すため、男に近づこうと歩き出し、

「その首輪には爆弾が仕掛けられていてね。僕の好きなときに爆破できるのさ。
もちろん首輪が爆発したら、君たちは首が吹っ飛んで死んじゃうから気をつけてね。」

やつの言葉に再び足を止めさせられた。
・・・こいつ、今なんて言いやがった?爆弾だと?首輪に?
爆発したら首が吹っ飛ぶ?

「ほら、こんな風にね。」
そう言って、男が指を弾いた瞬間。

ボンッ!

いまいち迫力の無い爆発音が響き、ドサッと何かが倒れるような音がした。
音がした方向に視線を向けると、さっき襲おうとした女が倒れていた。
しかも、女は首が無くなっていて辺りには血と肉片が飛び散っていた。

「ひっ・・・!?」
「いやぁぁぁァァァーーーーッ!?」
「し・・・しっ、死んで・・・!人がっ・・・!」

その女が死んだということを認識した瞬間、悲鳴と怒号が湧き上がった。
中には泣き出すやつもいて、怯えた泣き顔がそそりやがる。
だが、今は状況の把握が先だ。
(ちっ・・・首輪に爆弾が仕掛けられてるってのは、どうやらマジらしいな。面倒なことになりやがったぜ。)
俺は苦々しく表情を歪めて男を睨み付ける。
男は構わず喋り続ける。
「これで僕が本気ということが分かってもらえたかな?殺し合いを拒否して僕に逆らうなら、さっきの子みたいに
首を吹き飛ばしちゃうからね。死にたくなかったら・・・。」
「フレイムバースト!」
男の声を遮るように女の声が響き、それと同時に凄まじい速度で迫る火球が男を襲う。
誰かが魔法でも使いやがったか。目の前の殺戮に怒りを感じた偽善者か、もしくは恐怖に駆られた馬鹿か。
どちらにしろ、これであのいけ好かねぇ男が死んでくれるなら願ったり叶ったりだ。
見たところ戦えるようにも見えねぇし、あの速度の火球をかわせるとは思えねぇ。
これでやつが死ねば、俺は首輪から解放されるだろう。
(その後はここにいる女たちを痛めつけて楽しむとするか、へへへ・・・。)
そして、俺の想像通りに火球は男に命中し大爆発を起こした。
それなりに離れているにも関わらず衝撃がここまで伝わってきやがる。
こりゃ確実に死んだな、あの野朗。
俺は男の死体を確認しようと、反射的に顔を庇っていた腕を下ろして男のいた前方に視線を向けた。

だが、男は無傷でそこに立っていた。
まるで、先ほど飛んできた火球のことなど気づいてすらいないかのようなその佇まいだ。
(・・・外れた?いや、たしかに当たったはずだ。)
火球が男にぶち当たる瞬間を俺の目はたしかに捕らえていた。
しかし、結果として男は傷一つないどころか、服に焦げ目すら作らずに悠然と立っている。
男は火球の飛んできた方向に顔を向ける。

そこには驚いた顔をした赤い髪の女が立っていた。
どうやら火球を放ったのはこの女らしい。
剣を提げて胸当てを着けているところを見ると、剣の腕にも覚えがあるようだ。
その女に向かって、男が禍々しく笑いながら口を開く。
「へぇ・・・そんな態度に出るってことは君も爆破されたいのかな?」
「!」
その言葉を聞いた瞬間、女はさせるかとばかりに剣を抜き放って一瞬で間合いを詰め、
男の首筋に剣を突きつける。
「・・・皆の首輪を外して。それから、ここにいる人たちを全員元の場所に帰して。」
「それはできないなぁ。せっかく僕が殺し合いのためにわざわざ集めてきたんだよ?
ただで帰してあげるわけないじゃないか。」
その言葉に、女は剣先に僅かに力を込める。
「・・・言う通りにしてくれないかな?貴方みたいな人でもできれば殺したくないから。」
「へぇー?優しいんだねぇ、お姉さんは。でも、僕は皆を返すつもりはないよ?
つまり、お姉さんは僕を殺さないと皆を助けられないってことさ。さあ、どうする?」
にやにやと笑いながら言う男に対して、女は躊躇うような表情を見せる。
しかし、すぐに表情を引き締めて剣を振るおうと力を込めようとした。

だが、剣は動かなかった。
「え・・・?アレ・・・?」
「ほら、どうしたの?僕を殺さないと皆を助けられないよ〜?」
男が挑発するように言う。
「くっ・・・。」
女は一度離れて間合いを取り、勢いをつけて再び男に切りかかる。
だが、女の剣が男を斬りつける直前、剣と男の間が薄皮一枚ほどまで縮まったところで
唐突に女の剣が止まってしまった。
弾かれるわけでも捕まれるわけでもなく、まるで慣性を無視したかのようにいきなり止まったのだ。
その現象に驚愕の表情を浮かべる女、そこに男の蹴りが飛ぶ。
「あぐっ!?」
それをまともに喰らい、女は砲弾のごとく吹っ飛んだ。
・・・は?いやちょっと待て、こっちに来るな、オイコラ・・・!

ドガアァッ!!

俺は女に跳ね飛ばされて気を失った。
 
運悪く吹っ飛んだ方向にいた人間(暗くてよく見えなかったが・・・)を弾き飛ばして、
女は壁にぶち当たって倒れた。
「アーシャ!?」
「アーシャさん!」
女の知り合いらしい何人かが女(アーシャというらしい)の名前を叫び、駆け寄ってきた。
しかし、やつらは途中で足を止めた。
男がいつの間にかアーシャと呼ばれた女の前に立っていたからだ。
それはありえねぇ光景だった。男がアーシャを蹴り飛ばした距離はこんな一瞬で詰められる距離じゃねぇ。
しかも、俺はアーシャが吹っ飛んでから今までアーシャから目を離さなかったはずだ。
それなのに、男がいつそこに移動したのか俺には分からなかった。
気が付いたら、そこに立っていたのだ。
魔法を使ったような痕跡はなかったし、そんな素振りもなかったはずだ。
だとすると、これはあの男特有の能力か何かなのか?
「そこをどきなさい!」
俺がやつの能力について考えているのをよそに、アーシャに駆け寄ったやつらの一人、金髪の女剣士が
男に切りかかる。
だが、やはりアーシャのときと同じように剣が急停止し、男を切り裂くことはなかった。
次に眼鏡をかけた魔術師の女が光線を放つ。
だが、光線は男に当たった瞬間に拡散して消滅した。
「あははは!無駄無駄!どんなすごい攻撃でも僕には傷一つ付けられないんだよ!」
愕然とする二人に対して男は嘲りの笑みと言葉を放つ。
「それにしても君たちも困ったものだよね。せっかく、首輪が爆発するところを見せてあげたって
いうのに怯えるどころか僕に向かってくるんだからさ。」
わざとらしくため息をつきながら男は言う。
「どうやら、まだ自分たちの状況を理解できてないみたいだねぇ。もう少し教育が必要かな。」
そう言って、男は指を弾く。
「ぐぅっ!?」
「うぁっ!?」
それと同時に、剣士と魔術師が床に叩きつけられた。
まるで上から凄まじい力で押さえつけられているかのようにミシミシと床が軋んでいる。
「ぐ・・・あ・・・ぁぁ・・・!」
「あ・・・がぁ・・・!」
「姉さん!?クリスさん!?」
理解できない力に押しつぶされて苦しんでいる二人に、一人だけ無事な男のガキが駆け寄る。
「ルー・・・ファス・・・逃げなさい・・・!」
剣士の女がガキに逃げるように言うが、ガキはそれを聞かずに男のほうをきっと睨み、
男に手の平を向けて何かしようとする素振りを見せたが、
「がふっ!?」
男がガキを蹴り飛ばし、ガキはいくらか床を転がった後に動かなくなった。
どうやら、気絶したようだ。
「君は邪魔だから寝てなよ。」
男は白けた顔で倒れたガキに言い放った。
「まったく・・・さあ、気を取り直して教育再開といこうか。」
そう言って、男がまた指を弾く。
途端、さらに圧力が増したのか床が軋み、女二人の身体からメキメキと骨の軋む音が聞こえてきた。
「いっ・・・がぁっ・・・!」
「あ・・・ぐっ・・・あがぁっ・・・!」
二人が目を見開いて苦鳴を漏らす。
床がひしゃげるほどに強い力で身体を押し潰されることに耐え切れるはずがなく、二人とも限界が近づいていた。
(もう、勝ち目はなさそうだな。)
やつらに見切りをつけた俺は、先ほど首を爆破された女の死体に歩み寄った。
男は二人に近づこうとするのが見えたが、すでに興味はなかった。それよりも食事だ。
他のやつらは向こうのやり取りに夢中で、俺のほうにはまったく注意を払っていない。
今こそが気づかれないように食事を取れる絶好の機会だ。
俺は目の前のご馳走にありつき始めた。




「や・・・やめて・・・。」
その声に男は少し意外そうに振り向いた。
見ると、アーシャがふらつきながらも立ち上がろうとしていた。
「へぇ・・・まだ立ち上がれたんだ?でも、大人しくしといたほうがいいんじゃない?
あちこち骨が折れてるはずだし、内臓にもかなりダメージいってるでしょ?」
男の言葉を肯定するかのように、アーシャが咳き込んで口から血を吐く。
男の言うとおりだ。アーシャ、もう無理はしないで。
そう口にしたくても、私は言葉を発することができなかった。
男の力で床に押さえつけられ、喋るどころか意識を保つのもやっとなのだ。
何とかクリスのほうに視線を向けると、彼女はすでに意識を失っていた。
私ほど身体を鍛えていない彼女にはこの責め苦は酷だったのだろう。
このままではクリスも危ない。
何とかこの力から逃れようとするが、どう足掻いても逃れられそうにないこの状況に
じりじりと焦燥感が募っていく。
「二人に・・・手を出さないで・・・!」
アーシャは男を睨み付けて言い放つ。
「ダーメ。どうしてもって言うんなら、僕を倒してみなよ。」
笑いながら男は言う。
「・・・・。」
アーシャはその言葉に答えず、魔法を使うために魔力を練り始める。
「・・・浄化の炎よ・・・全てを飲み込み・・・灰塵へと誘え・・・。」
たどたどしく詠唱を紡ぎ、魔法を発動させようとするアーシャに対し、男は何をするでもなく
口元に笑みを浮かべたまま立ち続けている。
「・・・メキドフレア!!」
アーシャの魔法が発動し、先ほどのの魔法をはるかに上回る威力の凄まじい炎が男に襲いかかる。
その炎は男を焼き尽くし骨まで残さず灰にするかと思えたが、炎が消えた後には火傷一つ無い男の姿が現れた。
アーシャはそれを見て愕然としている。
(そんな馬鹿な・・・!)
私も男が無傷で立っているのが信じられなかった。
さっきの魔法はアーシャの使える魔法の中で最強のものだったはず。
それが涼しい顔であっさり破られてしまったのだ。
しかも、アーシャはもう戦えるような状態ではないのだ。
すでに顔には絶望の表情が浮かび始めている。
それでも私たちを救わなければと思ったのか、悠然と歩いてくる男に向かって剣を構える。
その剣先は震えている。それは怪我のせいだけではなく、自分たちの攻撃が全く通じない目の前の男に
少なからず恐怖を感じているからだろう。
(お願いだから逃げて、アーシャ!その男は普通じゃないわ!たとえ貴女でも、その男には勝てない!)
私の思いが通じたのか、アーシャが私たちのほうに視線を向ける。
しかし、私たちを見て逆に決意を固めたのか、男に鋭い視線を向けて剣を構えなおした。
そんな親友の悲壮な姿を私は見守ることしかできなかった。
「あはは、いいなぁ!すごくいいよ!その絶望と恐怖を押さえ込んで仲間のために戦おうとするその表情!
弱い女の子を虐めるのも大好きだけど、お姉さんみたいな強い人を徹底的に打ち負かしてプライドをズタズタに
してあげるのも溜まらないんだよね!」
「くっ・・・この、外道・・・!」
はき捨てるように言って、アーシャが男に剣を振るう。
その剣筋は最初のものとは比べ物にならないほど遅く、弱々しかった。
当然、男には剣は届かず止まってしまう。
そして、さらに止まった剣を男はアーシャから取り上げてしまう。
「はい、没収〜。」
「あっ・・・!?」
剣を取り返そうとするアーシャに男は再び蹴り飛ばし、壁に叩きつける。
「ぐぅっ・・・!」
今度の蹴りはある程度は手加減されていたのか、前ほどのダメージは無いようだった。
それでも、剣を取られた上にもはや立ち上がる力もないアーシャには男に立ち向かう術は残されていない。
男はアーシャの前に屈み込んで耳元に口を寄せて囁く。
「さあ、おしおきの時間だよ、お姉さん。ちゃんと僕を楽しませてよ?」

ボキベキィィ!!

そう言うと、男はアーシャの右足を踏み砕いた。
「!!?・・・あっ・・うああぁぁぁぁっ!!?」
あまりの激痛にアーシャは目を見開いて絶叫する。
ただの骨折とはわけが違う。
男は足の裏でアーシャの右足のふくらはぎを思い切り踏み潰して、骨を粉々に砕いたのだ。
いったいどれほどの痛みが彼女を襲っているのか、歴戦の戦士たる彼女が無力なか弱い少女と同じように
痛みに耐えられずに悲鳴を上げているのを見れば想像に難くないだろう。
私は必死で自分を押さえつけている力から抜け出そうと死に物狂いで足掻いていた。
(早く!アーシャを、アーシャを助けないと!)
だが、私の痛切な思いとは裏腹に私の身体は全く言うことを聞いてくれない。
「あれあれ〜?まさか、これくらいでギブアップとかないよね〜?」
男は楽しそうに・・・本当に楽しそうに笑いながら、そのまま足をぐりぐりと捻る。
アーシャのふくらはぎから砕けた骨と骨がゴリゴリと擦れる嫌な音が響く。
「いっ・・・あ・・・ああアアァァァァァ!!」
聞いている者が耳を塞ぎたくなるような悲痛な絶叫をアーシャの喉から漏れる。
(アーシャ!?くっ・・・!動いてよ、私の身体!私にあの子を助けさせてよ!)
あんな声で叫ぶあの子は見たことはなかった。
もはや彼女の頭は痛みのみで満たされているのか、激痛から少しでも逃れようと
身をよじらせている。
「ああ・・・!ああぁ〜〜!いいっ!可愛いよ、お姉さん!
そんな声で鳴かれたら、僕はっ!僕はもうっ!」
男は興奮してきたのか、目をギンギンに見開いて口からよだれを垂らしながら
さらにゴリゴリとアーシャのふくらはぎを踏み捻る。
ほとばしるアーシャの絶叫。
泣き叫び、男から必死に逃れようとするが、男に肩を捕まれているせいで身じろぎすら満足にできない。
もはや、すり潰すといった表現のほうが相応しいほどにアーシャの足は紫色に変色し、形がグジョグジョになっている。
あまりにも凄惨な光景に部屋にいる人間の半分ほどは真っ青な顔をしており、中には気絶する者もいた。
私はいつの間にか涙を流していた。
あの子がなんであんなひどい目にあうのか、自分の身体はなんで動いてくれないのか、なんであの男は笑いながら
あんなひどいことができるのか。
そんな無念さ、情けなさを感じながら、私の身体も限界がきたのかだんだんと意識が薄れていった。
 
男の私への「おしおき」がしばらく続いた後、ようやく男は満足したのか、それとも飽きてしまったのか、
虐待の手を休めた。
私の右足のふくらはぎは筋肉まですり潰されて引き千切られたのか、まるで中の肉と骨を徹底的に砕いて
ミンチにしたようなひどい状態となっている。
私は男の拷問じみた残虐な行為に憔悴していた。
涙腺がおかしくなったのだろうか。まるで子供のように瞳から涙が流れ続けている。
口からはだらしなくよだれが垂れていて、顎に伝っていき、そのまま首周りを汚していた。
この男が怖かった。心底から楽しそうに私に痛みを与え続けるこの男が。
戦いの中でも味わったことの無いような凄まじい激痛を男に与えられ続けたせいで、私の心には
男に対する恐怖が深く根付いてしまっていた。
それでも僅かに残っていた反抗心を奮い立たせ、怯え混じりの視線ではあったが男を睨み付ける。
男はそんな私を愛おしそうに見つめながら、
「ふふふ、良かったよ、お姉さん。あんまり可愛く泣き叫んでくれるから、僕、お姉さんのファンになっちゃったよ。
本番でもさっきみたいに頑張ってね?」
そう言って、私の涙とよだれを舌で舐め取った。
「・・・っ!」
(いやっ・・・!)
あまりのおぞましさに鳥肌が立った。
私が嫌がって顔を背けようとするのを無理やり押さえつけて、男は私の頬や唇に舌を這わせてくる。
(い・・・いやぁ・・・!)
私の顔が嫌悪に歪み、さっきとは別の理由で涙を滲ませるのを面白そうに眺めながら、男はようやく立ち上がって
他の人たちに向き直る。
「さて遅くなっちゃったけど、それじゃ殺し合いのルールを説明するね。」
その言葉を聞き、私は仲間の三人が全員気絶していることを思い出す。
(ルールの説明・・・私が・・・聞いておかなきゃ・・・。)
男がルールを説明しているのを聞き逃すまいと意識を向けようとするが、男の拷問にすっかり体力を
使い果たしていたのか、私はルールの説明を聞く前に意識を失ってしまった。




赤い髪の女の人の凄惨な様子を見せられて、男に逆らおうという考えの人はいなくなったようだった。
そのことに男は満足そうに微笑むと、ルールの説明を始めた。

「まず、君たちは一人になるまで殺しあわなければいけない!
もし最後の一人になることができたら、一つだけ何でも願いを叶えてあげるからね!
それと、最後の一人になった人は元の世界に帰りたいなら僕が帰してあげるよ!
これは願いとは別だから安心してね。

それから、殺し合いのために君たちにそれぞれ素敵なアイテムをプレゼントしよう!
一人ひとりにこんな感じのデイパックを渡すから、中身を確認してね。
中には、食料、水、照明道具、殺し合うフィールドの地図、筆記道具とメモ用の紙、方位磁石、
時計、ここにいる参加者全員の名前が書かれた名簿が入ってるよ。
それと、これ以外にもランダムな支給品がいくつか配られている!
武器はこのランダム支給品に含まれているよ。
まあ、中身は当たり外れが激しいから外れを引いちゃった人はご愁傷様ってことで諦めてね。
ああ、もちろん今持ってる武器や道具は没収させてもらうからそのつもりでね。

それと、もし24時間の間に誰も死ななかった場合は全員の首輪を爆破しちゃうからそのつもりでね〜。
それと、殺し合い開始から6時間後に僕からのありがたい放送がフィールドに流れるから聞き逃さないようにね。
放送の内容は死亡者の名前と残り人数、それから禁止エリアの発表だよ。
禁止エリアっていうのは文字通りそこに入るのが禁止されたエリアのことだよ。
その場所に足を踏み入れた場合、首輪が爆発しちゃうから気をつけてね。
ちなみに、参加者同士で手を組んだり、支給品を交換したりするのは自由だからね。
せいぜいお互いを利用して上手く生き残りなよ?

おっと、そうそう。
忘れるところだったけど、さっき僕がおしおきしてあげた4人の傷はフィールドに送るのと
同時に治しておくからね。
怪我しているところを狙おうとしても無駄だよ?

説明は以上!それじゃ、殺し合いのゲームを開始するよ!
皆をフィールドにワープさせてあげるね!」

男がそう言うと、眩しい光が視界を包んだと思ったら部屋の中には私と男だけになっていた。
男はくっくっと笑っていたが、私に気づくと軽く手を振った。
すると、ポンという音と共に女の子が3人現れた。
「レミングス、あれを片付けておけ。」
男はそういうと、部屋から出て行った。
レミングスと呼ばれた女の子たちはせっせと私を片付けていく。
私はレミングスたちに片付けられながら、殺し合いのフィールドに送られた人たちのことを考える。
特に私が気になるのは、あの赤い髪の女の人だ。
たしか、アーシャさんって名前だったっけ。
あの人があの男に向かっていったのはきっと私のことに対して怒ってくれたところもあったんだと思う。
そのことは嬉しいと思うけど、同時に申し訳なくも思った。
だって、私のせいもあってアーシャさんはあんなひどい目にあったのだから。
アーシャさんには死なないでほしいと私は思った。
もちろん他の人にも死んでほしくない。
でも、あの人は私のために怒ってくれたんだから、私はあの人に生き残ってほしかった。
すでに死体となってしまった私には何もできないけど、そう願うくらいは許されるはずだ。


神様、どうかアーシャさんが生きて無事に帰れますように。



 


【鈴木さん(@左クリック押すな!!)死亡】
【残り?人】

【?/?/1日目 0:00】

【モヒカン(@リョナラークエスト)】
[状態]:気絶
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
 基本スタンス:女は痛めつけて犯す
 1.気絶中

【アーシャ(@SILENT DESIREシリーズ)】
[状態]:気絶、憔悴、右足が二度と動かないほどの大怪我(ただし、次には回復)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
 基本スタンス:対主催
 1.気絶中
 2.主催者に恐怖心

【エリーシア(@SILENT DESIREシリーズ)】
[状態]:気絶、全身の骨のところどころにヒビ(ただし、次には回復)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
 基本スタンス:対主催
 1.気絶中

【クリス(@SILENT DESIREシリーズ)】
[状態]:気絶、全身の骨のところどころにヒビ(ただし、次には回復)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
 基本スタンス:対主催
 1.気絶中

【ルーファス(@SILENT DESIREシリーズ)】
[状態]:気絶、肋骨二本骨折(ただし、次には回復)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
 基本スタンス:対主催
 1.気絶中

【オーガ(@リョナラークエスト)】
[状態]:健康、腹八分目
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
 基本スタンス:マーダー対主催
 1.食い足りねぇ・・・。
 2.食料(人肉)確保


【キング・リョーナ(@オリジナル)】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
 基本スタンス:ゲーム(殺し合い)を完結させる
 1.さあ、楽しいゲームの始まりだ!

【レミングスA,B,C(@Remmings)】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
 基本スタンス:主催者に服従
 1.お片づけ〜。

※モヒカン、アーシャ、エリーシア、クリス、ルーファスはルールの説明を聞いていません。
※アーシャ、エリーシア、クリス、ルーファスは次の話までには気絶も含めて全回復しますが、
 モヒカンは気絶したままです。



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