空と天と時々川

 
(落ちたら、ひとたまりもなさそうだなこりゃ・・。)

明空は今、細い山道を歩いていた。ゴツゴツとした岩肌と切り立った崖に挟まれて彼是1時間ぐらいは歩いていた。
誰に会うこともなく、この細い道を延々と歩く。
もし足元が崩れでもしたらこの身が断崖絶壁へと投げ出されるのは必至だ。
周りの風景から察するに結構な高さであることが予想できる。
落ちたら最期、まず助からないだろう。
元々慎重さが要求される作業が苦手な明空は、何時終わるかも分からない精神労働に悲鳴を上げていた。

(うえ〜ん・・冥夜ぁ〜・・代わってくれぇ〜・・・。)


(落ちたら、ひとたまりもなさそうねー・・。)

―――ほぼ同刻。
涼子は今、細い山道を歩いていた。ゴツゴツとした岩肌と切り立った崖に挟まれて彼是1時間ぐらいは歩いていた。
誰に会うこともなく、この細い道を延々と歩く。
もし足元が崩れでもしたらこの身が断崖絶壁へと投げ出されるのは必至だ。
周りの風景から察するに結構な高さであることが予想できる。
落ちたら最期、まず助からないだろう。
元々慎重さが要求される作業が苦手な涼子は、何時終わるかも分からない精神労働に悲鳴を上げていた。

(うえーん・・奈々ぁー・・代わってー・・・。)

そして、曲がり角を曲がった時。

「・・・あっ。」

明空と涼子は同時に声を出した。
誰も居ないと思っていた曲がり角の先に同じ境遇の人間が居たのである。
驚くのも無理は無かった。

(うわっ・・。確かに似合ってるけど、着てて恥ずかしくないのかこの女・・?)
明空の涼子に対する印象は良くは無かった。
彼女は確かに完璧に近いまでに鍛えられたスレンダーなボディラインをしている。
そういう意味では露出度が高く体型を強調するような服装は似合うだろう。
しかし、明空の中で理想の女性像は守ってやりたくなるような女性だ。
そんな女性は例えスタイルが良くてもそれを強調する服装は敬遠する物だと明空は思っていた。
恥ずかしげも無くあんな服装をする彼女は一人で生きて行けるだろう。

(うわっ・・。弱そー。一緒に居ても足手まとい確定じゃん・・。)
涼子の明空に対する印象は良くは無かった。
確かに普通の男性よりは鍛えられているのは、彼の体型からして明らかだ。
しかし、あくまでも平均より上程度。
トレジャーハンターとして数多の危険を掻い潜って来た身からしてみれば、その程度では決して鍛えられているとは言わない。
彼もまた、他の人間と同様一緒に居ても足手まといになるだけだろう。
やはり、自分に付いて来れるのは奈々だけだと涼子は思った。

「・・・さて、どうしたものか。」「えっ?」「はっ?」

二人の呟きが偶然にも重なった。
これには二人とも驚き、互いの顔を見合う格好になってしまった。
そして、少しだけ辺りが静まる。

「・・・先に進みたいんだけどさ。」「・・あっ。」

その静寂を破って出た言葉がまた重なり、二人は驚く。

「なんだ、分かってるじゃん。じゃ、どいて。」
「はぁっ!?どうやって!?」
「それぐらい、ググれ。」

先に口を開いたのは涼子だった。
彼女の余りにも非現実的な要求に明空は噛み付く。
この道は人が一人、岩肌に沿ってやっと通れるぐらいの幅しかない。
どけと言われてどけるワケがない。
それに、今まで自分が来た道にはすれ違えそうな場所は無かった。
戻っても無駄である以上、明空は反論する。

「そっちこそ、少し戻れよ!すれ違える場所があるかもしれないだろ!?」
「無いから言ってんだ、JK!」
「こっちにだって無いんだよ!それから『JK』とか『ググれ』とか意味分かんねぇぞ!」
「・・ええぃ!死にたくなくばそこをどけぇい!!」
「うわっ!?何する気だバカ!危ね・・・」

涼子は痺れを切らし明空に組みかかったその時だった。

――ボロり。

「・・・あ゙っ。」

足元の地面が崩れ、二人は絡み合ったまま空へと投げ出されていた。
慌てて涼子は銀色の短剣を取り出し、一か八か岩肌へと突き刺す。
純銀では無かったのか、たまたま岩盤が柔らかかったのか。
銀色の短剣は岩肌に深々と突き刺さり、涼子は落下の危機から逃れることに成功した。
しかし、それは同時に涼子にとって別の受難の幕開けとなった。

「あだだだっ!!あーた!何処掴んでる!!」
「態と掴んだワケじゃねぇよ!俺だって落ちたくないんだ!」
「いいからHA☆NA☆SE!!」
「だから、俺だって落ちたくねぇって!」

空に投げ出された時、明空は掴まる物を探して必死に手をばたつかせていた。
そして、偶然手に触れた握りやすい太さの綱のような物に、文字通り藁を掴むつもりで掴まっていた。
それが涼子が自慢しているアンダーテイルであったことに明空が気付くのは、彼女が岩肌に銀の短剣を突き刺した後だった。

「だいたい、こーいう時男キャラは『俺の分まで生きろ』とか言って自ら手を離すもんだぞ!」
「はぁっ!?そうして助けるのは最愛の親友か女性だろ!?何言ってんだよ!!」
「なんと!?オヌシ、この涼子さんに助けるだけの魅力を感じないと・・」
「少なくとも、あんたのために今犠牲になるつもりはないっ!」
「もー何でもいいからHA☆NA☆SE!」
「いでっ!バ、バカ!暴れるな!蹴るなぁ!!」

何としても振り落とそうと両足をバタつかせる涼子と、必死に掴まる明空だった。

「ってちょっおまっ何処触って!!」
「はぁっ!?あんたが勝手にぶつかってきて・・」
「アンタら。何やってんの・・?」
「・・・・・・・えっ?」

突然聞こえた第3者の声に、二人は驚いて声がした方へと視線を向ける。
そこには、水色のショートカットの女性が呆れたような顔で佇んでいた。
一瞬、幽霊か化物かと思ったがどうやら違うらしい。
彼女にはちゃんと足があるし、その足にはしっかりと地面が踏みしめられていた。
更に驚くことにその地面はこちらに向かって伸びてきている。
二人はゆっくりと地面を辿って視線を足元へと落としていく。

「・・・あっ、あった。」
二人は開いた口が塞がらなかった。
そして次第に訪れた感情は、あの必死な様を第3者に見られた気まずさと恥ずかしさだった。

「アハ、アハハハ・・な、何やってたんだろーな!?俺達!」
「そ、そうだなー!あ、ああ、離せなんて言って、スマンカッタ!ははは・・・」
「こ、こっちこそ掴んでごめんな!アハハハ・・!」

二人は態とらしい笑顔を浮かべ地面に降りた。

「なんか・・仲良さそうだけど、兄弟なのか?」
「はぁっ!?これがぁ!?」

ショートカットの女性の一言に二人は同時に反論した。
その様子に彼女は少しだけ驚いていた。

「じゃあ、双子なのか?」
「もっと、ちがぁーう!」

岩山に二人の息の合った大声が木霊した。
その様は双子と間違われても仕方ないほどにぴったりだった。

「・・・ふーん、そうだったのか。」
彼女にこれまでの経緯を必死に説明する二人は、やはり双子としか思えないほどに息が合っていた。
彼女は納得の行かない顔をしながらも無関係であることを信用してくれたようだった。

「っと、まだ名前聞いてなかったな!アタシ、川澄シノブ!」
「んっ!?あ、ああ。俺、御朱明空。よろしく。」
(ああ、そっか。名前教えれば良かったんだな・・。)
「へっ!?・・ああ、私、天崎涼子。」
(そうでした。名前教えれば良かったんでした・・・。)

シノブに突然名乗られ、二人は今まで必死に説明していたのが馬鹿馬鹿しく思えていた。
名前を教えれば、後はあの男が言っていた参加者名簿と照らし合わせるだけで無関係なことを簡単に説明できたのだ。
それに気付かないほどに慌てていた自分が恥ずかしくて二人は少しだけ俯いていた。

「で、明空と涼子はどうすんの?アタシは、先輩を探そうと思ってるんだけど。」
「ん?そうだなぁ。俺も冥夜、・・弟を探そうかな。」
「あら?奇遇ねー。私も一応妹でも探そうかと思ってたわ。」

どうやら三人とも其々探し人が居るようだ。
それなら、この場でやるべきことは決まってくる。

「そっか。一緒に行こうって誘うつもりだったんだけど、探してる人が居るんじゃ仕方ないな・・。」
「そうねー。じゃ、私はこれで。」

涼子はそう言ってそそくさと立ち去ろうとした。

「あっ!ちょっと待って!・・・って、何やってんの?」
「フゥーッ!フゥーッ!!・・お、俺の後ろに立つな!命が惜しくばー!!」

シノブが立ち去ろうとした涼子に後ろから声をかけた時だった。
涼子は素早く振り返り、アンダーテイルを庇いながら泣きそうな目でシノブを睨みつけていた。
彼女の反応にシノブは驚くしかなかったが、明空は痛いほどに理由が分かっていたので笑いそうになるのを我慢していた。

「どっかでもし、先輩に出会ったら・・」
「だが断る!」
「はっ?アタシまだ全部言ってな・・」
「兎に角断る!とぉっ!」
「あっ!ちょっと待て・・行っちまった。」

涼子は全速力で細い道を走り去っていった。
その様子にシノブはただ唖然とするだけだった。

「・・・で、先輩とやらに会ったらどうすりゃいいんだ?」
「あ、ああ。アタシが廃墟に向かったことを伝えといて欲しいんだ。」
「おう、それぐらいなら任せとけ!代わりと言っちゃ何だが、弟に出会ったら俺が町に向かってたこと言っといてくれ。」
「ああ、分かった。伝えとくよ。じゃあ、どっかでまた生きて会おうな。」
「おう、シノブも死ぬんじゃねーぞ!」

残された二人は其々の目的のため道を歩みだした。
その先に何が待ち受けているのか、それは誰も知らない。

【B−3:X1Y2/山/1日目:朝】

【御朱明空{みあか あそら}@La fine di abisso】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:デイパック、支給品一式、ランダム支給品0〜3個
[基本]:対主催、なるべく大勢で脱出
[思考・状況]
1.御朱冥夜を探す
2.とりあえず町に向かってみる

【天崎涼子{あまさき りょうこ}@Blank Blood】
[状態]:健康
[装備]:銀の短剣@リョナラークエスト
[道具]:デイパック、支給品一式、ランダム支給品0〜2個
[基本]:一人で行動したい、我が身に降りかかる火の粉は払う、結構気まぐれ
[思考・状況]
1.お宝を探す
2.脱出方法を探す
3.一応気が向いたら天崎奈々を探してみる

【川澄シノブ{かわすみ しのぶ}@まじはーど】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:デイパック、支給品一式、ランダム支給品0〜3個
[基本]:対主催、悪人には容赦しない、罪を憎んで人を憎まず
[思考・状況]
1.神谷カザネを探す
2.富永エリナを探す
3.一旦廃墟に向かいそれから合流予定地点へ向かう

@後書き
涼子さんの第2話が書かれるそうなので、応援の意味も込めて。
後、サキさんの体調が早く良くなりますようにという願いも込めて。
後、双子の兄で妄想したくなってしまったので。


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