涼子さん、騎士役{ナイト}をするの巻

 
森の中に少女の明るい声が響く。

「・・でねー。それでねー。・・・」

少女は最近身の回りで起きたという面白い話とやらを延々と話していた。
少女の会話相手は、それをとてもやつれた表情で聞いていた。

「まだ、続くんすか?・・・続くんですね。はぁっ・・。」

被害者とも言うべきその人が呟く。
彼女にとって、少女の話など付き合う価値を見出せなかったのだ。
少女はそんな彼女の様子も気にせず一人ではしゃいでいた。

「あのさー。キミは、『KY』って知ってるかね?」
「えっ?ケェワイ?涼子さんの髪型ってそういう名前なんですか?」
「ちっがーう!涼子さんをバカにしとるのかチミはぁー!」
「わわっ!?冗談ですよー!そんなに怒ることないじゃないですかー!空気読んでくださいよー!」
「・・・・。」
(この女、絶対知ってる!絶対知ってて態と言ってる!)

被害者、天崎涼子は彼女の切り返しにポカンと口を開けたまま黙り込んだ。
加害者、神代伊織は自分の切り返しに彼女が黙り込んだ真意を気にかけることもなく話を戻す。
天崎涼子は今、数時間前の気紛れで彼女と行動を供にする羽目になっていた。
自分で蒔いた種であるとはいえ、トンでもない芽が出たと涼子は肩を落としていた。

「涼子さんってば、元気出してくださいよー。二人ならきっと、無事に帰れますって♪」
「あの、元気がない理由が言わないで欲しいんですが。・・って聞いてませんね、この娘。」

どう見ても年下な伊織に肩をバンバンと叩かれ、涼子はガクガクと身体を揺らしていた。

( 求)身代わり 与)涼子さんの愛の篭った声援 って感じだわー・・。)

涼子の願いが天に届いたのだろうか。人が近づいてくる気配を感じた。

(身代わりハケ――――――(゚∀゚)――――――ン!!)
「あっ!涼子さん!待ってくださーい!」

突然走り出した涼子を慌てて伊織が追いかける。
そして、鬱蒼とした草むらを掻き分けた先に二人は少女の姿を見つけていた。

(良かったー!これで解放されるー!)
(わーい!男の人じゃなくて良かったー!)

ピンク色の髪とフリルの付いたドレスが可愛い少女に、二人は喜びのあまり手を取り合って飛び跳ねていた。
少女は突然現れ涙を見せながらはしゃぐ二人に呆気に取られ、言葉を失っていた。

「・・・と言うワケよ。OK?」
「ふーん。それは、災難だったわね。」

一頻り喜びを表した後、呆気に取られていた少女に涼子がこれまでの経緯を説明していた。
少女は素っ気無く返事を返す。

「つーワケで、変わってくれる?」
「構わないわよ。」
「おおー!話の分かる人に巡り合えて、涼子さんは嬉しいぞー!サーディー!」

サーディと名乗った少女が意外にも快く応じてくれたので、涼子は思わず彼女に抱きついていた。
彼女は特に抵抗する様子もなく受け止めた。

「じゃっ!私はこれで。」
「あっ!涼子さん!待ってください!」

片手を上げて挨拶をし、走り去ろうとする涼子を伊織が引き止めていた。

「・・・あーた、私のテイル{髪}を何だと思って・・」
「えっ!?えっと・・・引っ張るところ・・・かな?」
「・・・・ふーん。」
「ほ、ほらっ、長さとか・・太さとか・・丁度いいかなーって思ったりそうでもなかったり・・。」
「ちがぁぁぁーう!!」

一度ならずニ度も自慢のアンダーテイルを握られ、涼子は激怒した。
伊織はテイルを握ったまま、泣きながら何度も謝る。

「・・・で、何か用?」
「ふぇっ!?」

涼子は学習していた。
伊織が自分のアンダーテイルを掴んで離そうとしない時は、自分に用事があるのだ。
涼子は内容は分かりきっていていたが、一応聞いてやることにした。

「ゆ、許してくれるんですかぁー!?」
「許す!許すからさっさと話せ!そして、離せ!」
「うえーん!涼子さーん!ありがとぉー!!」
「わーた!わーたからもう泣くな!」
「ひっぐ!ひっぐ!・・・ぐしゅ・・。」

テイルを掴んだまま泣いている伊織を涼子が慌てて慰める。
落ち着いた伊織はようやく口を開いた。

「えっと・・はい、これ・・。」
「・・・あっ。」

伊織に手渡された物を見て、涼子はハッとしていた。
そういえば、元々この短剣が欲しくて同行していたのだ。

(危なかったわー。報酬受け取らずに立ち去ろうとしていたなんて・・。でも、意外だわー。)

涼子は貰う物も忘れて立ち去ろうとしていた自分に呆れつつも、意外とあっさり渡してきた伊織に驚いていた。

「・・・何で、意外そうな顔してるんですか?」
「へっ!?」
「私、そんな嘘つきに見えましたか!?私、約束は守りますよ!」
「・・・ごめんなさい。」
(てっきり一緒に来いと言われるかと思ってたもので・・。)

涼子は何故か激怒する伊織にとりあえず謝った。
伊織は涼子の様子に機嫌を直し笑顔を見せた。
そして、伊織は手を振って涼子を見送った。

(さて、邪魔者は居なくなったわね・・うふふ・・。)

サーディは徐にバッグの中から双刀を取り出していた。
そして、ゆっくりと伊織に近づきそれから――。


「・・・うーん、何だ!この気持ち!」

涼子は立ち止まって考え込んでいた。
貰う物は貰ったし、ちゃんと約束は果たした。
正直さっさと別れたくて仕方なかった。
それなのに、何故か伊織のことが気になっていた。

「・・・まさか!わ、私はノーマルだー!!いやぁぁー!!」

涼子は脳裏に一瞬過ぎった’恋’や’愛’と言った単語を必死に否定していた。
そして、別の理由を躍起になって探しだす。

「・・・やっぱ、あのサーディって娘、怪しいわねー。」

そして、涼子はようやく別の理由を探し当てた。
彼女は人を殺し慣れている。
涼子は彼女の気配を見つけた時から何となくそんな感じがしていたが、抱きついてみてそう確信していた。

「きゃあー!!」

その矢先、涼子は聞き覚えのある叫び声が聞こえた気がした。
涼子は慌てて周りを見回すが、付近には誰の気配も居ない。
つまり、さっき別れた二人以外の声である可能性は限りなく零だ。

「気、気のせいよねー!幻聴が聞こえるなんて、トンだお笑い種だわー・・。」

結構走ってきたはずだ、此処まで叫び声が聞こえるワケがない。
涼子は空耳と言うことで済まそうと考えた。

「た、助けてー!涼子さーん!!」
「げ、幻聴、げんちょぉ・・だってばー!」
「涼子さーん!いやぁぁー!!」
「・・・・げんちょぉ・・げんちょぉぉ・・・。」

必死に否定するが、どう考えても幻聴に思えない。
今、この付近にいそうな人間で自分のことを呼ぶ人間なんて、どう考えても一人しかいない。

「・・・だぁぁぁー!!もぉー!!五月蝿いわねー!!」

涼子は一人悪態をつき来た道を走って引き返した。


「うふふっ♪ほらっ、もっとしっかり避けないと斬っちゃうよ?」
「ひぃぃっ!ど、どうして!?私、何も悪いことしてないのに!」

サーディは態と双刀を掠らせ、伊織を甚振っていた。
その度に別れたばかりの女の名前を叫んで助けを求める彼女の反応が楽しくて仕方が無かったのだ。
そうとは知らない伊織は必死にかわしては泣き叫ぶ。
それがまた、サーディの加虐心を加速させていた。
そうしている内に、伊織が足をもつれさせて無様に転げる。
サーディの兇刃が容赦なくその背中に迫ったその時だった。

「うほっ、やっぱイイ短剣♪」
「・・・あら?」

伊織を切り裂くはずだった刃が突然割り込んだ何かに遮られた。
よく見るとそれは、先ほど別れたはずの女でその手には短剣が握られていた。

「・・・さて、此処で問題。何故涼子さんは此処に居るでしょーか!?」
「・・・・。」
「1.そこの巫女服女が心配で戻ってきた2.ついでだから身包み剥そうと戻ってきた。」
「・・・そうね、2.かしら?」

突然の二択問題にサーディはニヤりと笑いながら答える。
刃を交えたまま、出題者は正解を告げた。

「ブー!正解は・・3.短剣の切れ味をあんたで試したくて戻ってきた。よっ!」
「何よそれ。酷い問題ね、笑わせるわっ!!」

刃をなぎ払って蹴りを繰り出す涼子から、サーディは一度バックステップで距離を取った。

「わぁーい!涼子さん!助けに来てくれたんですねっ!」
「だから、違うと言って!って、あーた。何時の間に・・。」

涼子は伊織の言葉に反論しようとして振り返るが、そこにあるはずの伊織の姿はなかった。
涼子が辺りを見ると、十数メートルほど先の木の陰に隠れている彼女の姿があった。

「じゃあ、私!誰か助けてくれそうな人探してきますから、待っててくださいねー!」
「ちょっ!おまっ!!待てってコラー!!」

そう叫んで走り去る伊織を引き止めようと涼子は叫ぶ。
しかし、背後から殺気を感じて間一髪それを受け止めていた。

「ほら、余所見は禁物よ?」
「ちぃっ!」
「フラれちゃった者同士、仲良くしましょう。ねっ?うふふふっ♪」
「五月蝿い!私はノーマルだぁー!」

涼子が怒りとも悲しみとも付かない叫びを上げつつ切りかかった。
サーディはその様子をとても嬉しそうな笑顔で受け止めていた。
二人の剣戟は暫く続きそうだった・・。

@後書き
麺さん頑張れー!という意味を込めつつ、密かに自分が考えていた涼子、伊織、サーディのお話を投下しみました。


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