デイパックの中からこんにちは

 
F−2エリアの山道。
そこに、一人の少女が座り込んでいた。

その少女……早栗は、がたがたと震えていた。

(殺し合いって何……!?なんで、こんなことになってるの……!?
 なんで、私がこんなことに巻き込まれてるの……!?)

早栗を恐怖させているのは、もちろん、先ほどゴッド・リョーナと
名乗る男によって告げられた殺し合いをしてもらうという言葉、
そしていきなり首を爆破された少女の姿だった。


殺し合い。


現代の日本で生活する早栗にとっては、その言葉は漫画や映画くらいでしか
聞いたことの無い言葉だった。

その殺し合いに、いきなり自分が参加することになったのだ。

普通の中学生に過ぎない早栗が怯えて震え続けているのも、無理も無いことだろう。
だが、そんな早栗に近づく影が一つ。

「おーい、大丈夫ー?」
「!?……い……いやああぁぁぁぁっ!!?」

いきなり背後から声を掛けられた早栗は、恐怖のあまりその場から逃げ出そうとした。
だが、慌てたせいで足をもつれさせ、転んでしまった。

早栗はすぐに起き上がろうとするが、腰が抜けてしまって立つことができない。

「ひっ……!ひぁっ……たすっ……!たすけっ……!」

目を見開いて涙を流しながら、必死で這って逃げようとする。

「こらこら、落ち着きなってばー。
 別に取って喰おうって考えてるわけじゃないからさー」
「あひっ!!?ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいぃぃっ!!」

呆れたような声に、なぜか謝罪を繰り返す早栗。

「ごめんなさい、ごめんなさ……え?」

だが、掛けられた言葉の意味にようやく気が付いたのか、
早栗は謝罪の言葉を繰り返すのを止めて、顔を上げる。

そこにいたのは、早栗と同じくらいの歳の、明るい色合いの魔女のような服を
着た少女だった。

少女は優しそうな笑顔を浮かべつつも、眉を八の字にして早栗の前に立っていた。






ゴッド・リョーナの居城から転移させられたミタリカーネは
すぐさま名簿を確認することにした。
モヒカンとグレートヌコスがあの場にいたということは、
他にも知り合いがいるかもしれないと考えたからだ。

(……おー、いるいる。ルキ君にオーガさん、ベドちゃんにカレンちゃんか。
 なんか、あの組織の人たちばっかりだねぇ)

魔女はいないのかなぁ、と名簿の名前をを上から下まで眺めていたミタリカーネだったが、
ある名前を確認した瞬間、彼女の笑顔が固まる。


ルインザナン。


ありえない名前を見つけたミタリカーネは、彼女にしては珍しく混乱する。

(なんでルインちゃんの名前が……?
 あの子は悪魔に喰われて死んだはずじゃ……?)

自分と同じ魔女であり、死んだはずのルインザナンの名前が名簿に書かれている。
同名の別人かとも考えたが、あんな奇抜な名前の人物が二人も存在するとは考えにくい。

とすると、考えられることは一つしかない。

(この名簿は嘘んこだね。たぶん、死んだ人の名前を名簿に載せて
 ボクたちを混乱させるのが目的ってとこかな?)

ミタリカーネは、この名簿に書かれている情報……少なくとも、ルインザナンの
名前については嘘だと判断した。

ルインザナンの死は、ミタリカーネにとっては確固とした事実なのだ。
こんな紙切れに名前が書かれていた程度のことでは、その認識は覆らない。

(ルインちゃんの名前が嘘だってことは、他にも実際にはいない人の
 名前が名簿に書かれているかもしれないねぇ)

こんな大掛かりなことをするくらいだから、自分で言ったルールくらいは守ってくれるだろうと
思っていたが、どうやら考えが甘かったようだ。

こうなると、地図や6時間後の放送についても疑ってかかるべきかもしれない。

と、そこでミタリカーネはまだ自分が名簿以外の支給品について
確認していないことに気が付いた。

(まずは支給品を確認しなきゃねー)

さっそく、デイパックをごそごそと探ってみる。

ゴッド・リョーナが言っていた通り、基本支給品一式に加えて、
巨大な斧と包丁が入っていたが、生憎とミタリカーネには扱えそうになかった。

他に何かないか、とごそごそ探っていると、ぶにゅっとした感触を掴んだ。

引き上げてみると、それは何とも形容しがたいグロテスクな肉塊だった。


その肉塊は、仮面のように白くなめらかな、無数の赤い斑点のある顔を持っていた。

その肉塊は、上半身と下半身は真っ二つに分かれており、辛うじて腸によって
繋がっているが、その下半身も股間から真っ二つになっていた。

その肉塊は、左腕が切り落とされたように存在せず、片方しか存在しない右腕を
弱々しくミタリカーネに伸ばしていた。


「……なんぞ、コレ?」

よく分からないが、とりあえず友好の証として握手をしてみる。
肉塊はそれに反応してか、ミタリカーネの手を握り返してきた。

何となく意思の疎通ができたような気がして、嬉しくなるミタリカーネ。
そして、彼女はそのとき肉塊にくっついている紙に気が付いた。

手に取ってみると、次のようなことが書かれていた。


『支給品:那廻 恵理(くにかい えり)

 参加者の一人である那廻早栗の妹。人を見つけたら近寄ってきますが、
 特に危険ではないので、可愛がってやってください』


それを見たミタリカーネはいろいろと突っ込みを入れたくなったが、
聞いてくれる人がいないので、保留にすることにした。

「……とりあえず、那廻早栗って人に会ったら返してあげよっと」

肉塊改め、那廻恵理をデイパックに仕舞ったミタリカーネは立ち上がって歩き出す。


そして、しばらく歩いた所で、座り込んで震えている一人の少女と出会ったのだった。






「……あ……あの……貴女は、本当に殺し合いをするつもりがないんですよね……?」
「しつこいね、君。ボクが人を殺すような酷いヤツに見えるのかね?」
「え……!?いえ、そんなこと……!」
(……まぁ、実際は何度か殺したことはあるんだけどねー)

怯えていた早栗を何とか落ち着かせることに成功したミタリカーネは、
さっそく早栗と情報交換をすることにした。

「……んじゃ、落ち着いたところで、とりあえず自己紹介から始めよっか?
 ボクはミタリカーネ、魔術師だよ。君は?」

魔女だということは伏せておく。人々から怖れられている魔女だということを
知られると、また目の前の少女を怖がらせてしまうし、他の参加者に伝わったら
面倒なことになるからだ。

「ま……魔術師……?えっと、私は……那廻 早栗です……」
「……那廻早栗?」
「え……?そ……そうですけど、私の名前が何か……?」
「あー……まぁ、これを見てもらえば分かると思うよ」

不安そうに尋ねる早栗に、百聞は一見に如かずとばかりに、
ミタリカーネはデイパックを開き、中から那廻恵理を取り出した。

「ほい、君の妹。なんか、ボクの支給品に混ざっててさー……」
「ひっ……!?いやああぁぁぁぁああぁぁぁぁぁっ!!?」

いきなりデイパックからグロテスクな肉塊を取り出したミタリカーネを見て、
早栗は再び恐怖に悲鳴を上げ、全速力で逃げ去ってしまった。






「……あれ、なんで逃げるの?妹じゃないの?」

脱兎の如く逃げ去っていった早栗を見て、ミタリカーネはワケが分からないと
首を傾げる。

確かに、那廻恵理は他人が見れば逃げ出すような外見だろう。
だが、血を分けた姉であるはずの那廻早栗が、見慣れているはずの
那廻恵理を見て、悲鳴を上げて逃げ出してしまうのはおかしな話である。

しかし、先ほどの自分の考察を思い出し、ぽんと手を打つ。

「あー、そっか!つまり、あの紙に書かれていたことも嘘で、
 恵理ちゃんは早栗ちゃんの妹でも何でもないってことか!」

それなら、早栗が逃げ出したことも納得がいく。
自分と何の関係も無い、グロテスクな肉塊がデイパックから出てくれば、
逃げ出しても不思議ではない。

なるほどなるほどー、と納得するミタリカーネ。

「……って、納得してる場合じゃないっての。
 確か、このフィールドにはモンスターが生息してるって言ってたし、
 早栗ちゃんを保護してあげないと」

ミタリカーネは早栗の置いていったデイパックを引っ掴むと、
急いで早栗を追いかけ始めた。






【F−2/山道/1日目 6:30〜】

【ミタリカーネ@リョナラークエスト】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:ミタリカーネのデイパック(支給品一式、
 カロリーメイト(フルーツ味)×3、牛乳(200ml瓶)×2、
 那廻恵理@DEMONOPHOBIA、デバスター@ボーパルラビット、
 巨斧ブローバー@Tezcatlipoca)、
早栗のデイパック(中身不明)
[基本]:殺し合いをするつもりはない
[思考・状況]
1.早栗を追う

※早栗のデイパックの中身を確認していません。
※名簿のルインザナンの名前は嘘だと思っています。
※恵理は早栗の妹ではないと思っています。
※主催者から与えられる情報には嘘が含まれていると考えています。



【那廻恵理@DEMONOPHOBIA】
[状態]:左腕損失、上半身と下半身が腸で辛うじて繋がっている、
    下半身が股間から真っ二つ、
[装備]:無し
[道具]:無し
[基本]:?
[思考・状況]
1.(ミタリカーネのデイパックの中)
2.?



【那廻早栗@DEMONOPHOBIA】
[状態]:健康、恐怖
[装備]:無し
[道具]:無し
[基本]:生き残りたい
[思考・状況]
1.恐怖で錯乱中

※那廻恵理が自分の妹だと気が付いていません。









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