カッパが戦車(タンク)でやってくる!

 
不毛な砂漠に少女が一人。短く切った緑色のぼさぼさ髪に、背中には自分の身体と同じぐらいの大きさの巨大なデイパックを背負っている。
ブラとショーツという出で立ちは、とても砂漠を旅する人間の格好とは思えない。
「なんで、わたしが、こんなこと……」
荒い砂が裸足に痛い。彼女は怨嗟の言葉を吐きながら重い足取りで砂漠を歩く。
考えてみればまだ朝の6時だというのに、太陽は高く昇り、じりじりと砂を焦がす。
彼女のその無防備な格好と砂漠の過酷な環境は、底なしの体力を消耗させるのに十分なものであった。
デイパックの中身は重く、肩紐が白い肌に食い込む。
だがこのデイパックの中身を捨てることはできない。彼女にとっては命を繋ぐデイパックなのだ。
椰子の木の陰が近くなる。見渡すとあちらこちらに生えている椰子の木。彼女は影から影へ、ひたすら南へと進んでいた。
もらった地図に間違いがなければ、このまま南に進み続ければ海にたどり着く。
やっと椰子の木の根元にたどり着いた。地下水でもあるのか、周囲には草が生え、砂からの照り返しも幾分か弱い。
椰子の木にもたれかかり、影の中に座り込むと、ほっと息が漏れる。
「殺し合いかぁ……」
漏れてきたのは息だけではなかった。

彼女の名前は石椛司(いしなぎ・つかさ)という。例に漏れず、このゲームの参加者である。
自分がどのようにしてこの世界に連れてこられたのかは、全く記憶にない。
気がついたらこの世界にいて、いきなり殺し合いをしろと命令され、そしてこの砂漠に放り出された。
立て続けに起こった理解できない出来事。砂漠の暑さも手伝って、頭の中がぐるぐる回る。
「どうしたらいいの……パパ、ママ……」
人殺しをするほどの覚悟も力も彼女は持っていない。かといって、甘んじて殺されるのも嫌だ。
両親の顔が浮かんでも消えていった。
「……悩んでても仕方ないか」
どうにかなるさと思考の黒雲を振り払う。この切り替えの速さと楽観的な思考は司の取り柄である。思考停止ともいう。
もう少し休憩したら、移動しよう。そう思ったときだった。
ガサッ
近くの茂みが動いた。

「えっ……」
茂みに視線を向けた彼女が見たものは、凄まじい勢いで飛び出してくる黒い影だった。
かわす暇もない。黒い影の体当たりを司はまともに食らってしまった。
「げほっ、げほっ……! ひゅーっ、ひゅーっ……」
みぞおちに衝撃が走り、肺の中の息が一気に押し出される。黒い影はそのまま彼女を地面に組み敷いた。
「あ……何……こいつ……化け物?」
やっとの事で息を吸い込んだ司は、片目を開けて黒い影を見る。
逆光になっていて顔はよく見えない。だがその輪郭は、明らかに人外のそれであった。
「ひっ?!」
ヌルヌルとした手が司の顔を撫でる。生臭い臭いが鼻を突いた。
風が吹き、椰子の木が揺れる。光が陰影のベールをはぎ取っていく。
それは砂漠には似つかわしくない、粘液で輝く緑色の肌をした生物だった。
「え……? か、カッパ……?」
頭に載った皿、緑色の肌、水かき、くちばし。それは昔聞いたおとぎ話に出てきた怪物の姿をしていた。
「げっげっげっげ」
奇妙な鳴き声を上げるカッパ。青臭い吐息に司は顔をしかめた。
「やだ、放して! 放してってば!」
両手を突き出してカッパを引き離そうとするが、粘液で手が滑って上手くいかない。
カッパの手は司の股へと伸び、彼女の大切な部分を覆っている布に手をかける。
「ひっ、やっ、やだーっ!!」
犯される。こんな化け物に。司は渾身の力を込めて全身をばたつかせる。
「やめて! おねがっ、がはっ?!」
カッパの拳がみぞおちにめり込む。先ほどの体当たりのダメージも完全には回復していない。司の目がうつろになって宙を泳ぐ。
「がっ、ぁっ……ゃ……」
カッパは司のショーツをはぎ取り、感触を確かめるように彼女の股間をまさぐる。
粘液にまみれた手がぴったりと閉じた割れ目をなで回す度、司の身体が硬直する。
大好きな両親のために大切に取っておいた貞操。こんな化け物にそれを奪われたと知ったら、両親はどんな顔をするだろう。
そう思うと、目頭が熱くなり、視界がかすむ。
「うえぇ……やだ、やだぁぁぁ……ぐすっ、やめてよぉ……」
カッパの手は彼女の秘裂をなぞり、そして……。
「ひゃうっ?! やだ、そこ、お尻……」
排泄にしか使ったことのない器官を触られ、素っ頓狂な声を出す司。
カッパは彼女の身体をひっくり返すと、軟らかな尻肉を手でかき分け、司のそこに口づけをする。
「んっ、やっ、やぁ……やめてよぉ……」
べちゃべちゃと音を立て、味見をするように司の肛門を舐め回す。
尻小玉。司の脳裏にそんな言葉がよぎった。
曰く、カッパは人の尻小玉を抜き取って食べるのだという。
それがどういう行為を意味するのかは、彼女にも容易に想像が付く。
「やだっ、やめっ、ひうっ?!」
カッパの舌がゆっくりと腸内に侵入すると、凄まじい異物感がこみ上げてくる。
括約筋に力を込め、舌の侵入を阻もうとするが、ぬめる細長い舌は難なく司の腸内に侵入した。
腸液と唾液が混じり合い、ぐちゅぐちゅと湿った音を響かせる。
「やめてぇ……ひろげないでぇ……」
自分の身体に尻小玉などというものが入っているかどうかは知らないが、おそらくこの化け物は司の腸内に腕を突き入れ、
容赦なくかき回すだろう。そんなことをされては無事では済まない。
「ぐっ、んっひ……なんとか、何とかしなくちゃ……」
情けない吐息を漏らしながら辺りを見回すと、自分のデイパックが目に入る。そうだ、これがあれば。
カッパが口を離し、じゅるり、と舌なめずりをする。チャンスは今しかない。
司はデイパックに手を伸ばす。幸い簡単にデイパックの紐を掴むことができた。片手で引き寄せ、中身を探る。
探しているのは武器ではない。だがこのカッパが自分の知っているようなカッパであれば、デイパックの中身は
彼に対しての有効な武器になるはずだ。
探しているものの手応えがあった。
「ま、待って! これ!!」
「げっ?」
司は肩をひねってカッパに中身を差し出した。


 

むしゃむしゃ、ぼりぼり。
小気味いい音を立ててカッパは最後のキュウリを胃の中に納めると、
膨れあがった腹を平手でぽんぽんと叩いた。
司のデイパックの中に入っていたのは、おびただしい量の夏野菜であった。
キュウリ、トマト、ナスといった野菜類だけが10キロである。
武器も何もなしに野菜だけ10キロ支給するという主催者の神経がよく分からないが、とにかくカッパ相手には役に立った。
司はカッパの方を見やる。心なしか先ほどより肌のつやが出て、目にも力がみなぎっているようだ。
(そっか、砂漠だから……)
水辺に住むカッパがいきなり砂漠の真ん中に放り出されたのだ。司が来なかったら、彼は一時間と持たなかったかも知れない。
彼も生き延びるのに必死だったのだ。だがそうとは言え、この緑色の化け物に同情するほど彼女は優しくはない。
「満足した?」
「げふー」
どうやら満足したようで、カッパの表情は緩みきっている。よく見ると少し愛嬌があるな、と司は思った。
その首には、彼女と同じように金属製の首輪がはまっている。おそらく彼は、主催者に「殺す側」を想定して
連れてこられたのだろう。だが、とりあえず今は襲ってくる気配はない。
「ねぇ、カッパ?」
「げ?」
間が持たない。そう判断した司は、自分から話題を切り出すことにした。
内心少し寂しかったというのもある。
「あなたも参加者なんだよね?」
「げっ」
カッパは頷く。何を言っているのかはよく分からないが、こちらの言葉は通じるようだ。
「じゃあさ、デイパック、カバン、持ってるでしょ? 中身見せてよ」
単純な好奇心からの要望。他意はなかった。
「げー?」
「げーじゃない! わたしだってキュウリあげたでしょ?」
「げ……げー」
仕方ない、といった調子で、カッパはデイパックを司に手渡す。大きなものは入っていないようだが、ずっしりと重い。
司はデイパックに手を突っ込み、中身を確かめる。ごつごつとした金属の触感。取り出そうとするが、何かに引っかかっているのか、
出てくる気配もない。中を覗こうとしても、デイパックの中は闇に満たされ、何も見えない。
「なんだろ、これ……」
「げー……」
カッパは肩をすくめた。カッパも中身が取り出せなかったようだ。
「こーいうときは、こーやって……」
司はデイパックを逆さまにして振り始めた。その時だった。
轟音が鳴り響いた。

「げほっ、げほっ……、な、何……?」
二人の視界を完全に奪うほどの、もうもうと上がる砂煙。その砂煙が収まると、二人は揃って目を丸くした。
「げーっ?!」
「こ、これって……」
それは巨大な金属の塊だった。両脇に幅広のキャタピラー、上部には巨大な砲塔が鎮座している。
今までテレビでしか見たことのない、いわゆる戦車という乗り物であった。
ふと気づいて手に持っているデイパックを見ると、デイパックは小さく萎み、もう中身は何も入っていない。
つまり、デイパックの中に、戦車がまるまる一両入っていたということになる。
「す……」
先に言葉を発したのは司の方だった。
「すごーい! すごいじゃないカッパ、あなたこんなもの貰ったの!! 私なんて野菜ばっかりなのに、
 いいないいなー!!」
ものすごいテンションでまくし立てる司。初めて生で見る戦車に興味津々といった様子だ。
「げー……?」
状況をやっと飲み込めたカッパが返事をしたころには、司は砲塔のてっぺんで四つん這いになり、入り口となるハッチを探していた。
この戦車がカッパの支給品であるということ考えはどこかに行ってしまったようだ。
「うっわー……本物の戦車だぁ……」
「げーっ!! げげーっ!!」
その戦車は自分のものだぞとでも言いたげな、カッパの抗議の声が聞こえる。
「何よー! ちょっとぐらい触っても良いでしょ?! 減るもんじゃなし!!」
その時だった。戦車を取り囲むように、無数の砂柱が立ち上がった。
「え……?」

突然轟音にたたき起こされ、甲高い声でギャーギャー騒がれたのでは溜まったものではない。
眠りを妨げられた彼らは、あちらこちらで砂から這い出してきた。
固い甲殻に覆われた身体、鋭いハサミ、高く天を突く尻尾。
サソリ。その生き物を人はこう呼ぶ。だがそのサソリは、靴で踏みつければ潰れてしまうような小さなものではなく、
逆に人間を踏み殺すこともできそうな、巨大なものであった。
それが合わせて5体。司とカッパを取り囲むように現れたのだ。
「「げげげーっ?!」」
二人の声が重なる。呆然とするカッパの耳に、司の声が響く。
「何やってんの! 早く! これに乗るのよ!」
「げ?」
戦車というものを初めて見るカッパにとっては、これが戦うための乗り物であると言うことは分からない。
そうであったとしても、頭の皿以外の武器を使う気にはなれなかったのだが。
二の足を踏むカッパに、司は更にまくし立てる。
「あんなのに一人で勝てるわけないでしょ!! これで何とかするから、早く!!」
「げー……」
カッパは渋々砲塔の上に飛び乗る。司はカッパを抱え上げると、強引に彼を砲塔の中に押し込む。
自分もすぐさまそれに続き、急いでハッチを閉める。サソリの尻尾が横なぎに彼女のいた空間をなぎ払ったのは、その直後のことだった。
「げー?」
操縦席に座る司の膝の上で、どうするのさ? とでも言うようにカッパが司を見る。当然、彼女も戦車の動かし方など知るよしもない。
知るよしもないが、どうにかするしかない。
彼女は操縦席をぐるりと見回す。車を運転する父親を助手席から見たことは何度もある。
戦車も車なんだから、似たような操作で動くだろう。というのが彼女が直感で導き出した答えだった。
視界の右端にキーが見えた。とりあえずこれだ。

ドドドッ
激しい振動が二人を揺さぶる。二人を取り囲むパネルに次々と灯がともり始めた。エンジンは掛かったようだ。
正面に表示されたディスプレイが鈍く光り、外の映像を映し始めた。サソリの姿は見えない。
驚いて逃げてしまったのか? そう思ったとき。
「げげーっ?!!!」
「いやあああぁぁぁぁ!!」
正面のディスプレイに大写しになるサソリの影。驚いた司が手元のレバーを思い切り引いた。
ディスプレイに映る景色がものすごい勢いで左に流れはじめ、横方向のGが二人を座席に押しつける。
旋回レバーを全開にしてしまった戦車の砲塔は、凄まじい勢いで右に旋回する。砲塔に今まさに飛びかかろうとしていた巨大サソリの内の一匹が、
強化合金製の砲身に頭を砕かれ、逆さまになって地面に転がる。
「うえぇぇ……ぎぼぢわるい゛……」
止めなければ。凄まじい横加速に顔を引きつらせながら、手探りで先ほどのレバーを探す。これだ。
「でっ?!」
急停止する砲塔。司は側頭部をパネルにしたたか打ち付けてしまい、司の視界に星が散る。
「うぅー、痛い……」
「げっげっげっ」
司の膝の上でカッパが笑う。
「笑うなー!」
司の叫び声も、エンジン音にかき消されてよく聞こえない。とりあえず、砲塔を旋回させるレバーは分かった。
まだくらくらする頭を抑えながら、司は再び操縦席を見回した。

1匹減って4匹になった巨大サソリは一旦距離を取り、おおよそ20メートルほどの位置で四方から戦車を取り囲んでいた。
次の攻撃のタイミングを見計らっているようだった。その時、戦車が土煙を上げ前進を始めた。
避けきれない。キチン質の甲殻がギシギシときしみを上げ、正面に陣取っていたサソリはキャタピラの下へと消えていく。
後に残ったのは肉片と体液と砂の混じり合った死体だけであった。
残った3匹のサソリはその巨体に似合わぬ猛スピードで戦車を追撃する。
サソリの方がわずかに速い。じりじりと距離が縮まっていく。
砲塔が180度旋回し、砲身がサソリを睨む。
だが、その砲身が火を噴くことはなかった。

「げっげっげっ!!」
「分かってる! 分かってるからちょっと黙ってて!」
司は操作パネルのボタンを手当たり次第に弄っていた。ワイパーが作動し、前照灯が点滅し、消化剤が車内を白く染める。
プラスチックのカバーが付いたスイッチを上げると、ディスプレイに映ったサソリに四角いマークが重なり、電子音が鳴り始める。
照準機のスイッチが入ったのだろう、ということを司の直感が告げた。
「あとは発射ボタン……えーと、えーと……」
迷っている暇はない。サソリは今にも車体に飛びかかろうという距離まで近づいている。
「げーっ!!」
カッパが目の前にあるボタンを叩く。凄まじい爆音が車内に鳴り響いた。

閃光、爆音、土煙。砲身から発射されたミサイルは弧を描きながらサソリの一団に命中し、粉々に吹き飛ばした。
破片と体液がそこら中に飛び散り、戦車を濡らす。
発進したときと同じように金属音を響かせ、車体が前につんのめると、キャタピラが砂を噛み、長いキャタピラ跡を残して戦車が急停止した。
「はは……はは……」
緊張の糸が切れた司の口から乾いた笑いが漏れる。
「勝っちゃった……わたし……あんな化け物相手に……」
ほんの数分前まで、彼女は何の力も持たない少女だった。今や彼女は常人には太刀打ちできない戦闘力を手にしている。
これなら、あるいはこの殺し合いの勝者になれるかもしれない。こみ上げる万能感。気持ちが浮き立ち、鼓動が速くなる。
「ねぇ、カッパ?」
「げ?」
「私たち、いいコンビになれると思わない?」
カッパは少しの間黙り込んだ。正直この乗り物はカッパの手には余る。彼女がいれば、この乗り物を武器として有効活用できるだろう。
生身で戦えば彼女を倒すのはたやすい。主導権はこちらにある。
「げっ!」
膝の上でカッパが頷く。
「そうと決まれば、出発しんこー!!」
司はアクセルを一気に踏み込み、エンジンが甲高いうなりを上げる。
急加速がカッパを座席に押しつけた。
「ぐえーっ?!」
果たして、主導権はどちらに渡るのか。戦車はもうもうと砂を巻き上げ、不毛の砂漠を南へと疾走していった。

「カッパが戦車(タンク)でやってくる!」


【C-2/砂漠/1日目 7:00〜】

【石椛 司@Nightmarish】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:司のデイパック(支給品一式、
夏野菜5kg)
[基本]:勝者として生き残る
[思考・状況]
1.砂漠を脱出する
2.強力な武器を入手してイケイケ状態。カッパの思惑には気づいていない


【カッパ@ボーパルラビット】
[状態]:健康
[装備]:戦車[TGシリーズ](損傷無し、燃料残り95%、誘導ミサイル×5、機関銃弾×400)
[道具]:カッパのデイパック(空)
[基本]:(゚Θ゚)
[思考・状況]
1.水場に行きたい(海水はダメ)
2.戦車を司より上手に扱える人間がいたら、司は切り捨てよう
3.司の尻小玉美味しそう(゚Θ゚)









次へ
前へ

目次に戻る (投稿順)
目次に戻る (参加者別)






inserted by FC2 system