深紅の魔法剣士は苦労人

 

鬱蒼と生い茂る森の中……一人の少女が切り株に腰を下ろしていた。

艶やかな長い黒髪に紫のドレス、中二病っぽいオッドアイを
持つその少女は、ジトっとした不機嫌そうな表情をしていた。

しかし、少女は別に本当に不機嫌というわけではない。


単に眠いだけである。


「…………」

少女……ドロ・ベッシュは考えていた。

すなわち……『眠くてしょうがないので、このまま寝てしまおうか』と。


「……違う……」


そうではない。

確かに眠くて仕方が無いが、今考えるべきなのはそんなことではない。
誘惑してきた睡魔に珍しく抵抗しつつ、ドロは考える。

(……なんで、私はこんなところにいるんだっけ……?)

ようやく、今考えるべきことを思考の表側に引き上げたドロ。
そして、彼女はその疑問の答えを求めて、自分が覚えている限りの記憶を遡り始める。

(……確か、昨日は……いつものように、リタたちとブタ小屋に泊まったはず……)

そう、ドロは自分の雇い主であるリタ、ティム、キリエ、そして自分と同じように雇われた
傭兵であるブロンディとともにブタ小屋に泊まったはずだった。

しかし、いきなり聞こえてきた爆音と悲鳴に、ドロは目を覚ました。

目を覚ましたドロの目に飛び込んできたのは、血まみれの首無し死体。
それだけでも意味不明なのに、傍にいた変な男がワケの分からないゲームの
ルール説明を始め、それが終わったと思ったらこの森に転移させられたのだ。

「…………」

以上のことを思い出したドロは、ようやく現状を理解した。

(……夢だ、これ……)

理解してなかった。

「…………」

どうやら、眠りが浅いらしい。
夢を見るということは、眠りが浅い証拠である。

そう思ったドロは寝なおそうと考え、デイパックを枕にして、
こてんと横になる。

「……zzzz……」

そして、すやすやと寝息を立てて、寝始めたのだった。






森の中を枝を掻き分けながら進むのは、鎧に身を包んだ赤い髪の女性だった。

その女性……アーシャはその胸に怒りを抱いていた。

アーシャは、ゴッド・リョーナと名乗った男の行いが許せなかった。
何の罪も無い少女を殺し、大勢の人間を集めて殺し合いを強要する非道な行い。

(……殺し合いなんて……そんなこと、絶対に許さない!)

アーシャは今まで様々な事件を解決してきた。

その過程で、大勢のモンスターや悪人と出会い、それらを打ち倒してきた彼女だが、
あの男ほどの吐き気を催すような邪悪な存在に出会ったことなどなかった。

だが、怒りを抱きつつも、アーシャは冷静だった。

今回の事件を引き起こしたゴッド・リョーナ……あの男の力は底が知れない。

あの人数の参加者を一瞬であの場から転移させた正体不明の力から考えても、
いくらアーシャといえども、今回の事件を一人で解決することは不可能であろう。

まずは、仲間を探すべきだ。
幸い、ここには信頼できる仲間であるエリーシアとシルファの二人も来ているらしい。

彼女たちや他の参加者と力を合わせ、一刻も早くこの狂った殺し合いを止めさせる。

(ゴッド・リョーナ……貴方の思い通りにはさせないっ!)

打倒ゴッド・リョーナの決意を胸に森を進むアーシャ。
しかし、ふと自分が右手に持つ武器を見て、溜息を吐く。

彼女に支給された武器……それは、武器として使い物にならないほどに
ボロボロになった槍だった。

疑う余地も無く、大外れである。

(ついてないなぁ……まぁ、私には魔法もあるし、
 出会った人に武器を貸してもらえばいいかなぁ〜……)

アーシャは溜息を吐きつつも、茂みや枝を掻き分けて、森を進む。
そして、ようやく視界の開けたところに出ることができた。

ほっと一息ついたアーシャだが、目の前に広がる光景に顔を強張らせた。


アーシャの目にした光景……それは、倒れた少女に対して、
今にも襲い掛からんとしている巨大なコウモリの姿だった。


その巨大コウモリ……ライトバットは、大口を開けて少女に襲い掛かろうとする。

「……はあぁぁぁっ!!」

だが、ライトバットに向かってアーシャが槍を投擲したことで、
ライトバットは槍をかわし、少女から離れていった。

そして、標的をアーシャに変更したライトバットは口から電撃弾を吐き出した。
吐き出された電撃弾を、アーシャは前進しながら回避し、右手に魔力を集中させる。

再びライトバットの口から電撃弾が放たれるが、アーシャは今度は避けようとしない。

自分に向かって来る電撃弾に右手を向け、彼女は叫ぶ。

「フレイムバースト!!」

アーシャの手のひらから巨大な火球が放たれ、電撃弾を打ち破る。

そして、火球はそのままライトバットへと直撃し、大爆発を起こす。



ドゴオオォォォオオォォォォォンッ!!



「ギイィィィィィっ!!?」

ライトバットは哀れな悲鳴とともに、全身を焼かれて地に落ちた。






モンスターを倒したアーシャは戦闘態勢を解き、倒れている少女へと駆け寄った。

「大丈夫!?怪我は……って、アレ?」

良く見ると、その少女は眠っているだけだった。

長い黒髪に紫のドレスを着たその少女は、デイパックを枕にして、
とても気持ち良さそうに寝息を立てていた。

「……え……えーと……まぁ、無事だったんだし、いいか……」

アーシャは苦笑を浮かべつつも、このまま寝かせておくわけにもいかないと考えて、
少女を起こそうとする。

「ちょっと、君?こんなところで寝てたら危ないよ〜」

肩を揺すって起こそうとするが、少女はむずかるだけで一向に起きようとしない。
困り果てるアーシャだが、羽ばたく音が後ろから聞こえてきて、慌てて振り返る。

すると、先ほどの巨大コウモリが三匹、アーシャたちに向かって来ていた。

「……くっ……また……!」

アーシャは急いで魔力を集中させるが、一匹ならまだしも三匹を一度に倒すのは不可能だ。
そうすると敵の攻撃を避けながら戦うことになるが、それでは後ろで眠っている少女を
危険に晒してしまう。

(……武器さえあれば……!)

歯噛みしつつも必死で打開策を考えるアーシャ。

武器を持たない今のアーシャでは、あのモンスターたちを瞬殺することはできない。
ならば、後ろの少女を背負って逃げるか?

しかし、人一人を背負って、あのモンスターの放つ電撃弾を避けながら逃げられるとは思えない。

「ギイィィィアアアァァァッ!!」

焦るアーシャに向かって、巨大コウモリたちは一斉に電撃弾を放つ。

それを見て、仕方なくアーシャは電撃弾を相殺するために魔法を放とうとする。


だが、次の瞬間、三条の雷がアーシャの横合いを通過していった。



ビシャアアアァァァアアアァァァァンッ!!!



「ギャアアアァァァアアアァァァァッ!!!?」


強力な三条の雷は、電撃弾をかき消してモンスターたちを撃ち抜き、
彼らの息の根を止めた。






……シュウ、シュウ……。

黒焦げになった巨大コウモリたちを、アーシャは呆然と見つめていた。
だが、我に返り、視線を後ろに向ける。

すると、先ほどの少女……ドロが不機嫌そうな顔で巨大コウモリたちに手のひらを向けていた。

「……朝から、うるさすぎ……眠い……」

ドロはそう呟くと、くぁ……と欠伸をして目を擦る。
そして、アーシャに気が付くと、不機嫌そうな顔のまま首を傾げた。

「……誰……?」
「……えっ!?えーと、私は……」

いきなり問いかけられたアーシャは言葉に詰まりつつも、
自分の名前を名乗ろうとする。


「見ていたぞ、お前たちっ!!」


だが、いきなり聞こえてきた大声に、慌てて振り返るアーシャ。

すると、凄まじい勢いで空から何かが降ってくるのが見えた。



ずだんっ!!



振ってきたもの……それは、赤い帽子とマフラーをした少女だった。
少女は着地した態勢から身を起こし、アーシャとドロに向かって
びしっと指を突き出した。

「あの巨大コウモリを一瞬で倒すなんて、なかなかやるなっ!!
 でも、その程度であたしを倒せるなんて思うなよっ!!?
 この武道大会で優勝するのは……!!」

そこまで一気に捲し立てたところで、少女はアーシャとドロに向かって、
凄まじい速度で突っ込んできた。

「このあたしだぁぁぁぁーーーーーっ!!!」
「……なっ!?」

それを見たアーシャは慌ててドロを押し倒す。

間一髪、少女の蹴りはアーシャとドロの頭上を通過していった。

少女の外れた蹴りは近くの太い木にぶち当たり、凄まじい音を立てる。
その木の幹には、みしみしと深いヒビが入り、次の瞬間には音を立てて
ヘシ折れてしまった。

少女の蹴りの威力に驚愕しつつも、アーシャは少女に向かって、怒りの声をあげる。

「いきなり、何をするの!?まさか、貴女はあの男の言う通り、
 本当に殺し合いをするつもりなの!?」

アーシャの言葉に対して、少女は一瞬きょとんとした顔を浮かべたが、
すぐに不適な笑みを浮かべる。

「ふんっ!!ワケの分かんないこと言って、あたしを油断させようと
 したって無駄さっ!!お前たちは強いっ!!だけど、あたしはお前たちより、
 さらに強いっ!!それを今、証明してやるっ!!」

堂々と言い放った少女の言葉を聞いて、アーシャは絶句する。
数瞬の沈黙の後、アーシャは振り返ってドロに囁く。

「……えーと……この子、ひょっとして現状を理解してないんじゃ……?」

だが、ドロは首を傾げてぶつぶつ呟いている。

「……おかしい……ちゃんと寝たのに、まだ夢から覚めてない……」
「この子も理解してないっ!!?」

自分以外が現状を理解していなかったことに、アーシャは思わず絶望の悲鳴を上げていた。






【E−6/森/1日目 7:00〜】

【アーシャ・リュコリス@Silent Desire】
[状態]:健康、魔力消費(小)、精神疲労(小)
[装備]:無し
[道具]:アーシャのデイパック(支給品一式、
 おはぎ×10@まじ☆はーど外伝怪物傭兵物語
 500ml竹水筒(中身は水)@現実)
[基本]:主催者の打倒
[思考・状況]
1.アイを止める。
2.ドロとアイに現状を理解させる。

※「ボロボロの槍@ニエみこ」はアーシャたちの傍に落ちています。



【アイ・アンク・ロウ@ボーパルラビット】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:アイのデイパック(中身不明)
[基本]:武道大会(殺し合い)で優勝する
[思考・状況]
1.アーシャ、ドロと戦う。
2.強いヤツと戦いたい。

※殺し合いを武道大会だと勘違いしています。
※デイパックの中身を確認していません。
※アーシャ、ドロを強者と認識しました。



【ドロ・ベッシュ@Warlock!】
[状態]:健康、魔力消費(小)
[装備]:無し
[道具]:ドロのデイパック(中身不明)
[基本]:寝る
[思考・状況]
1.とりあえず、もう一度寝る。
2.こいつらうるさい。

※殺し合いを夢だと思っています。
※デイパックの中身を確認していません。









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