呪いと恐怖と血と金に狂え

 

早朝にも関わらず、どこか薄暗い不気味な場所……墓場に一人の青年が立っていた。
その青年は険しい表情で、つい先ほど目の前で起こったことを思い出していた。

(殺し合いだと……!?ふざけやがって……!)

青年……御朱 明澄(みあか あすみ)は激怒していた。

ゴッド・リョーナと名乗る男によって殺された名も知らぬ関西弁の少女。
彼女の最期は明澄の目に焼きついており、それは明澄のまっすぐな心に
怒りの炎を燃え上がらせていた。

(ゴッド・リョーナとかいったな……!アイツは必ずこの俺がぶっとばしてやるっ!)

明澄は拳を硬く握り締める。
外道の手によって散らされた尊い命を弔うため、そしてこの会場の参加者全てを
救うためにも、明澄はゴッド・リョーナの打倒を強く胸に誓った。

(……と、まずは支給品ってヤツを確認しないとな。
 殺し合いに乗るヤツなんていないって信じたいけど、
 さすがに武器も無しに歩き回るのは無用心だろ)

明澄はさっそく自分に支給されたデイパックの中身を確認する。


そして、中から出てきたのは……


「……これって……バール、だよな……?いや、違う……か……?」

明澄に支給された武器……それは、『バールのようなもの』だった。
もっと具体的に表現しろと言われても無理である。

それは『バールのようなもの』であって、『バールのようなもの』としか表現できない、
『バールのようなもの』以下でも、『バールのようなもの』以上でもない、
完全無欠に『バールのようなもの』でしかなかったのだから。

(……いや、しつこすぎだろ、その解説……)

地の文に突っ込みつつも、明澄はバールのようなものを構え、
二度三度と素振りをしてみた。

「……まぁ、刃物だと相手に怪我させちゃうしな。
 鈍器なら手加減も出来るし、ちょうどいいや」

明澄はそう思って納得すると、再びデイパックを漁る。

「他には……何だこりゃ?果物か?できれば、肉とか
 もっと食いでのあるものが良かったんだけどなぁ……」

食料は、五つのこけももだけだった。
飲料の類は、エリクシルと書かれた一本のドリンクしか見当たらず、
そのドリンクにしても『体力を完全に回復する』という説明書が
貼り付けられていたことを考えると、飲料としてではなく道具の
一種として支給されたものなのだろう。

武器の貧弱さを合わせて考えると、もしかしたら自分に支給された
デイパックは外れなのでは、と少しがっかりする明澄だが、
「まぁ別に殺し合いをするつもりじゃないしな」と気を取り直す。

……自分に支給されたバールのようなものが、ある世界では伝説の武具扱い
されている事実など、明澄は知る由もなかった。

数分後、デイパックの中身を確認し終えた明澄は立ち上がって歩き出した。

名簿を確認したところ、知り合いはいなかった。
ひょっとしたら、弟の桐夜も巻き込まれているのでは、と心配していたので、
いないのを確認して、内心ほっとしていた。

(こんなもんに巻き込まれるのは、俺一人で充分だ)

そして、明澄は地図を眺めながら自分の現在地を確認する。

(墓がたくさんあるってことは、俺の現在地はA−7か……。
 ここから近いのは首輪交換所か塔だけど……)

さてどちらにいくべきか、と考えていた明澄の後頭部にゴリッと硬い感触のものが
押し付けられた。

「……動かないで……」

突然の事態に硬直する明澄に対して、いつの間にか背後に忍び寄っていた何者かは
静かな声で警告した。






毒の沼が泡立つ物騒な場所……その傍の荒地に、三人の女性が腰を下ろしていた。

「……では、お互いに害意が無いことが分かったところで、
 支給品の確認をしましょうか」

そう言ったのは、三人の中で一番年長の女性……魔女のような帽子と服装を
身に纏った女性だった。

彼女の名は、イリア・アルベニス。
格好に違わぬ、強力な魔法の数々を操る魔法使いだ。

「はいです!イリアや美奈に何が支給されたのか、なぞは楽しみです!」

そう言って、目を輝かせているのはなぞちゃんと名乗った少女。
どことなく忍者を思わせる、露出の高い格好のその少女は、
天真爛漫で素直な性格の少女だった。
今でも、殺し合いの最中だということを理解してないかのごとく、
同行者である二人には何が支給されたのか、興味津々といった様子である。

「……ちょっとくらい緊張感ってものを持ってよね。
 今がどれだけ危険な状況か分かってるの?」

なぞちゃんの状況にそぐわぬ明るい様子に釘を刺すように言葉を向けたのは、
先ほど、なぞちゃんに美奈と呼ばれた少女。

彼女は、加賀 美奈(かが みな)。
清潔な白いインナーに若葉色の柔らかい上着とスカートを着た、
前述の二人に比べると至って普通の格好をした少女だった。

もっとも、格好については三人が三人とも、お互いの服装に
奇異の視線を向けていたのだが……。

「まぁまぁ、いいじゃないですか。
 それよりも、こんなに早いうちから殺し合いに
 乗っていない私たちが集まることができたのです。
 今はこの幸運を喜びましょう」

イリアはデイパックから自分の支給品を取り出しながら、笑う。

「……こんなことに巻き込まれてる時点で、
 幸運も何もないと思うんだけど……」

美奈は溜息を吐きつつも、イリアと同じように支給品を取り出し始める。
ちなみに、なぞちゃんは既に支給品を出し終えて、二人が支給品を取り出すのを
目を輝かせて眺めていた。






(……三人、か……厄介だな。殺し合い開始から
 まだほとんど時間も経っていないというのに……)

支給品を見せ合う三人の姿を岩影から監視するのは、黒いターバンを頭に巻き、
黒いローブを身に纏った女性。
黒ずくめの外見の中で、ターバンから僅かに覗く赤い髪が無機質な印象を
与える黒ずくめの容姿に、女性らしい華やかさを持たせていた。

黒ずくめの女性……エヌは、支給されたライフル銃を油断なく構えながら、
前方の三人の様子を伺う。

(……今なら不意を突ける。三人とも一気に殺してしまうか?)

エヌは一瞬そう考えるが、すぐに頭を振るう。

(……いや、相手は全員が女性だ。危険が大きすぎる。
 少なくとも、物腰からして帽子の女は相当の実力者だ。
 もうしばらくは様子を伺うべきだな)

焦ることはない、と自分に言い聞かせ、エヌは相手に見つからないように
気配を殺し続ける。




 

「……これで、全部ですか?」

イリアが二人に確認すると、二人は頷いた。

三人の前に並べられた支給品は、刀にナイフ、宝石に三つのカプセル。
他は全て、共通の支給品と食料、飲料のみだった。

「……信じ難いことですが、このカプセルを飲み込むと才能さえあれば、
 魔法が使えるようになるそうですよ。もっとも、本当かは分かりませんが……」

カプセルの説明書を読んでいたイリアは、疑わしそうに呟く。
努力して魔法を習得したイリアにとっては、こんなカプセルを飲み込んだだけで
魔法が使えるようになるとは信じられなかったのだ。

だが、それをあっさり信じた者がこの場にいた。

「魔法が使えるですか!?なぞ、魔法使いたいですっ!
 美奈、このカプセル、なぞに一つくださいですっ!」

そう言って、なぞちゃんは美奈の支給品であるカプセルを一つ手に取り、
そのまま飲み込んでしまった。

「あっ!?ちょっとっ!?もし毒だったらどうするのよっ!?」

慌てて、なぞちゃんの口を開かせてカプセルを吐き出させようとする美奈だが、
なぞちゃんは「むー、むー!」と抵抗する。

それを眺めながら、イリアはくすくすと笑う。

「大丈夫ですよ、美奈さん。殺し合いの主催者も、こんなつまらない嘘を
 ついて、命を落とすような事態は望まないはずです」
「で……でも、万が一ってことも……」
「もーっ!美奈は心配しすぎですっ!なぞを見るですっ!
 何とも無いですよっ!?」

胸を張るなぞちゃんは、確かにどこもおかしなところはなかった。
少なくとも、カプセルは毒ではないらしい。

美奈はほっとするが、何だか心配した自分が馬鹿みたいに思えて
憮然とした顔になる。

それを見て、さらにくすくすと笑うイリアを美奈は恨めしそうに睨む。
美奈は自分のデイパックに支給品を仕舞いつつ、イリアに尋ねる。

「……で、宝石のほうはどんな効果があるのよ?」
「えーとですね……」

説明書を読んでいたイリアの言葉を遮って、なぞちゃんのはしゃぐ声が響く。

「イリア!美奈!この宝石、すごいです!
 身に着けたら、すごい速さで動けるようになったです!」

はしゃぐなぞちゃんの声に二人が振り返ると、そこには鞘から抜いた刀を
凄まじい速度で振り回すなぞちゃんの姿があった。

「ちょ……ちょっと、危ないってばっ!?当たったらどうするのよ!?
 ていうか、アンタ、さっきから無用心すぎでしょっ!?」

怒る美奈を無視して、なぞちゃんはぶんぶんと楽しそうに刀を振り回している。
そんな二人を尻目に、イリアはなぞちゃんが身に着けている宝石の説明書を読んでいた。

(……魔性石……身に着けただけで、腕利きの戦士や魔術師と同等の能力を
 得ることができる……って、コレ、物凄い大当たりじゃないですか!?)

おそらく、今なぞちゃんが装備しているのは戦士系の魔性石だろう。
女性が振り回すにはいささか重量があるだろう刀を鞘つきにも関わらず、
あれだけの速度で振り回しているのだ。
魔性石の強力な効果に、イリアは舌を巻く思いだった。

「……ほら、危ないからもう刀は鞘に仕舞っときなさいよ」

美奈の言葉に、イリアはふと我に返り、顔を上げる。
見ると、なぞちゃんはまだ抜き身の刀を下げたまま、顔を俯かせている。

(……?)

その様子に、イリアは不審を覚える。

美奈に怒られたことで落ち込んでいるにしては、様子がおかしい。
今まで騒がしいほどにはしゃいでいたなぞちゃんが、いきなり水を打ったかのように
静かになってしまったのだ。

「……この刀……すごいです……」
「……え?」

なぞちゃんの呟きが聞き取れず、美奈は聞き返す。
美奈の言葉に、なぞちゃんは顔を上げた。

なぞちゃんは笑っていた。
だが、その顔は今までの天真爛漫な愛嬌のある笑顔と違って、
虚ろな瞳に狂気を宿した引き攣った笑顔だった。

美奈はそれを見て、悲鳴を上げる。

「ひっ!?ど……どうしたのよっ……!?」
「……この刀……すごく綺麗です……。
 なぞ……この刀がもっと綺麗になるところが見たいです……」

なぞちゃんの呟きを聞いて、イリアはようやくあることに思い当たり、はっとなる。

(まさか……あれは呪いの刀……!?)

イリアの推測を裏付けるかのように、なぞちゃんは刀を上段に掲げる。

「この刀を血で染め上げたら……もっと、綺麗になるですっ!!」

なぞちゃんはそう叫ぶと、なぞちゃんの変貌に驚いて棒立ちになっていた美奈に向かって
刀を振り下ろした。






「……ん?今、人の声が聞こえなかったか?」
「……聞こえた……あっちのほう……」
「んじゃ、そっちに行ってみようぜ」

明澄の言葉に、明澄の同行者……速水 レンカ(はやみ れんか)は頷く。




……数十分前、明澄の背後に忍び寄った人物はレンカだった。


レンカは、硬直した明澄に対して、拳銃を突きつけながら質問した。

「貴方は……殺し合いに乗ってるの?」
「……誰がこんなふざけたゲームなんかに乗るかよっ!
 俺はこんな殺し合いなんて、絶対に許さねぇっ!
 そして、あの女の子を殺したゴッド・リョーナの野郎を
 必ずぶっ飛ばしてやるっ!」

その言葉を聞いたレンカは銃を下ろして、明澄に謝罪をした。
そして、自分も殺し合いに乗っていないことを明澄に告げ、
明澄とともに行動することにしたのだ。




声が聞こえたほうへと向かっていた明澄とレンカだが、
レンカはぴくりと眉を動かし、そのまま立ち止まった。

「?……どうしたんだよ、レンカ?」
「……血……」
「……何だって?」
「……血の匂いがする……」
「っ!」

それを聞いた明澄は、駆け出そうとする。
だが、それをレンカが明澄の襟首を引っ掴んで止めた。

「ぐげっ!?」
「……あ……」

首を絞められて、潰れたカエルのような悲鳴を上げた明澄に、
レンカは申し訳無さそうな目を向けた。
明澄は当然の如く、レンカに対して怒りの声を上げる。

「何すんだよ、レンカっ!?」
「……ごめん……」
「こんなときに悪戯なんかしてんじゃねぇよっ!
 血の匂いがするってことは、怪我した人がいるってことだろっ!?
 急がないとっ……!」
「……あっ……!」

それを見て、レンカは慌てて、再び駆け出そうとする明澄に当身を喰らわした。

「がっ……!」

当身を喰らった明澄は低く呻いて、そのまま気絶してしまった。

「……あ」

それを見て、レンカは「しまった」という顔になる。

レンカは、明澄一人を先行させては危険だと思い、明澄を止めようとしただけなのだが、
口下手な性格が災いして、このような結果となってしまったのだ。

(……どうしよう……)

血の匂いのほうを放っておくわけにもいかないが、明澄をこのままにしておくのも危険だ。

(……うぅ〜……)

良い案が思いつかなかったレンカは仕方無く、気絶した明澄を背負って
現場へと向かうことにしたのだった。




 

「あははははっ!!すごいですっ!!すごく綺麗ですっ!!
 美奈の血で赤く染まった刀がすごく綺麗ですぅぅぅぅっ!!」
「……うっ……ああぁぁぁ……」

天に向かって高らかに笑い声を上げるなぞちゃん。
そして、その傍で血を流して倒れている美奈。

突然の惨劇にイリアは混乱しつつも、素早く美奈をなぞちゃんから引き離し、
魔法で美奈の傷を治療し始める。

「……痛いぃっ……!痛いよぉっ……パパァ……!」
「大丈夫です、美奈さん……!すぐに傷を治しますから……!」

痛みに泣きじゃくる美奈を励ましながら、イリアは美奈の傷の治療を続ける。
だが、イリアは違和感に気が付く。

傷の治りが異常に遅いのだ。
美奈の傷は重傷ではあるが、イリアの魔力ならこのくらいの傷はすぐに塞がるはずだった。

だが、血こそ止まったものの、美奈の傷は未だじくじくと痛々しい痕を残している。

(……これは一体……?)

しかし、イリアにはそれについて考える時間は与えられなかった。

「もっと、この刀を綺麗にするですぅぅぅぅっ!!」

刀を構えたなぞちゃんが狂気の笑いを浮かべて迫ってきたからだ。
イリアは一瞬迷ったが、仕方無く美奈の前に立つと魔力を集中させる。

殺すつもりは無い。
なぞちゃんは、刀の呪いに囚われているだけなのだから。

殺さない程度に威力を弱めた電撃魔法によって、なぞちゃんを痺れさせ、
その隙に刀を取り上げれば良い。

イリアはそう考え、なぞちゃんに向かって威力を弱めたスパークを放つ。
なぞちゃんはそれに対して、構わず突っ込んでいく。

そして、なぞちゃんに電撃が直撃する。



 
……ことはなく、電撃はなぞちゃんの体をすり抜けていった。




「なっ!?」

イリアはその光景に驚愕する。

だが、なぞちゃんの体が実体を失ったかのように透けているのを見て、理解する。

(……これは……魔法っ……!!)

おそらく、先ほどなぞちゃんが飲んだマジックカプセルが原因だろう。

魔性石によって身体能力を強化したなぞちゃんは、よりにもよって
あらゆる攻撃を無効化する魔法……ミラージュを習得してしまったのだ。

本来なら、それはイリアにとって頼もしい仲間の誕生を意味したはずだった。

しかし、刀の呪いによって暴走した今のなぞちゃんは、イリアにとって
最悪の相性の敵だった。

ミアやレアほど身のこなしに長けていないイリアにとって、自分の魔法を無効化しつつ、
攻撃を仕掛けてくる腕利きの戦士など、悪夢以外の何者でもなかった。


なぞちゃんが振り下ろした刀は、イリアの華奢な身体を深々と切り裂いた。






「……あ……ぐぅっ……あぁぁぁぁぁっ!!」

イリアは肩口から腰までを切り裂かれて、激痛のあまり絶叫した。
その光景に、イリアの魔法によってある程度回復した美奈は蒼白になる。

「イリアさんっ!!?」
「……美奈、さんっ……!逃げてっ……くださいっ……!
 私が……時間を、稼ぎますからっ……!」
「えっ……!?で……でも……!?」
「……早くしなさいっ!!」
「ひっ!?は……はいっ!」

イリアの怒声に、美奈は怯えた声を上げ、そのまま走って逃げていった。

「あーっ!!美奈、逃げちゃダメですっ!!
 もっと、なぞと遊ぶですっ!!」
「……待ち、なさい……!美奈さんと遊ぶ……前にっ……!
 私のっ、相手を……してもらいますっ……!」
「イリアが遊んでくれるですかっ!?
 えへへ、ありがとうですっ!!なぞ、嬉しいですっ!!」

なぞちゃんは笑顔でお礼を言いつつ、イリアの右腕を切り飛ばした。

「!?……あああぁぁぁぁぁっ!!!」
「あは、良い声です♪この刀もイリアの血をたくさん浴びて嬉しそうです♪」

凄まじい激痛、そして血を失いすぎたことによって、イリアの意識は朦朧としていた。

(……くっ……駄目っ……!もっと時間を稼がないとっ……!
 美奈さんが、なぞちゃんの手の届かないところまで逃げるまで……!)

「えい♪」

自分を叱咤するイリアを無視するかのごとく、なぞちゃんは残った左腕も斬り飛ばす。

「ぎぃっ!?……あぎぃぃぁぁぁあああぁぁぁぁぁっ!!?」
「あははははっ!!刀もイリアも、なぞも真っ赤ですっ!!
 すごく綺麗ですぅぅぅぅぅっ!!」

なぞちゃんは笑いながら、イリアの身体を切り刻んでいく。

耳を、肩を、両足を、鼻を、身体のあらゆる部位を切り取られながら、
イリアは激痛に泣き叫ぶ。

「いぎぃぃぃぃぃ!!あぎああぁぁぁぁあああぁぁぁっ!!いぃぃうぅぅぁあぁぁぁぁっ!!」

四肢を失い、身体のあらゆる場所から血を流し、朱に染まったダルマと化したイリアは
芋虫のように無様に這い蹲ってなぞちゃんから逃れようとしている。

だが、そんなイリアを血塗れの笑顔で見つめながら、なぞちゃんはイリアの心臓に刀を突き立てた。

ずぶぅっ……!!

「……っ、がひゅっ……!!」

ごぼごぼ、と口から血の泡を吹きながら、イリアはようやく激痛から解放され、絶命した。






(……随分と残酷なことだな。あの少女、最初からこのつもりで
 集団に紛れ込んでいたのか?)

様子を伺っていたエヌはいきなり凶行に及んだ忍者服の少女に、驚きを隠せなかった。
だが、これはこれで都合が良いと、仲間割れに乗じて一網打尽を狙おうとした。

だが、少女の幻影魔法を見て、思い止まった。

(……もし、あの幻影魔法で私の攻撃を避けられたら、
 ヤツは標的を私に変更するかもしれない。
 ヤツが攻撃を無効化する以上、距離を詰めて来るヤツを
 止める手段は私には無い。
 そうなると、接近戦が不得手な私は苦戦を強いられる。
 最悪、やられてしまうかもしれない)

そう考えたエヌは、そのまま様子見に徹することにしたのだ。

そして、帽子の女が切りつけられ、若草色の服の少女が逃げ出したのを見て、
エヌは逃げ出した少女を追うことにした。

(帽子の女は、あの傷では放っておいても死ぬ。
 忍者服の少女は殺し合いに乗っているようだし、
 泳がせておけば、参加者を大量に始末してくれるだろう。
 私が今殺すべきなのは、逃げた少女だ)

エヌはそう考え、逃げた少女を追って行った。




 

レンカはこちらへと向かって来る足音に、明澄を背から落とし、
拳銃を構えて、警戒する。

やがて、前方から切り裂かれた若草色の服を着た少女が現れた。
その少女の怯えた顔を確認して、恐らく殺し合いには乗っていないだろうと
レンカは警戒を緩める。

走ってきた少女はレンカを見ると、「ひっ」と悲鳴を上げる。

「あ……貴女、まさか、その男の人を……!?」
「……え……?……あ……」

少女の言葉を聞いたレンカは再び「しまった」という表情になる。
足元に男性が倒れていて、銃を持った人物がいたら、誰だって誤解するだろう。

「……い……いや……!殺さないで……!」
「えと……その……」

少女が怯えて後ずさりを始めたのを見て、レンカは誤解を解こうと口を開く。

だが、そのとき……

「……ん……んあ……?どこだ、ここ?
 ……おお、レンカじゃねぇか。お早う」
「……あ……お早う……」

気絶から目覚めた明澄はレンカに向かって挨拶し、レンカもそれに応える。

「……へ?」

それを見た美奈は呆気に取られる。

無理も無いだろう。
殺人者と死体だと思ったら、死体が起き上がってフレンドリーに
殺人者に挨拶をしたのだから。

「……って、そうだっ!レンカ、血の匂いはどうなったっ!?
 怪我人はいたのかっ!?ていうか、何で俺は気絶してたんだっ!?」

死体……もとい、明澄の言葉を聞いて、美奈は我に返る。

「そ……そうだっ!ねぇ、貴方たちっ!
 殺し合いに乗ってないなら、助けてよっ!
 イリアさんが、殺されそうなのよっ!」
「……っ!?」
「なっ……何だってっ!?」

美奈の言葉にレンカは表情を険しくし、明澄は驚愕した。






美奈を追っていたエヌは、美奈が他の参加者と合流したのを見て、
再び身を隠した。

(……ちっ……どうやら、ヤツらも殺し合いには乗っていないらしいな……)

エヌはなかなか思い通りに進まない事態に、舌打ちをする。

だが、まぁいい。
とりあえず、強敵と思われる帽子の女は死んだはずだ。
今はそれだけでも良しとしておこう。

エヌはそう考え、納得することにした。
そして、先ほどの現場へと走っていく三人を追いかけつつ、思う。

(私は、この殺し合いで優勝する……そして、大金を手に入れる……)

エヌの目的は優勝、そして優勝した願いによって大金を手に入れることだった。
そして、手に入れた金をいつも通り、ある人物へと渡す。

デイパックに入っていた大金、そしてゴッド・リョーナのものと思われるメモ書き。

『これは前金だ。優勝した暁には、さらに大量の金を用意しよう』

エヌはそれを見て、決意を固めた。
この殺し合いで優勝し、大金を手に入れることを。

(……傭兵のときと同じだ。人を殺して、金を手に入れる。
 大金を得られるなら、人の命を奪うことに躊躇など無い)

そう、大金を手に入れられるなら、同僚であるエイミィやオーグを殺すことも、
何とも思わない。


全ては、金のため。


大金を手に入れるためなら、エヌはいつでも鬼となるのだ。






【イリア・アルベニス@マジックロッド 死亡】
【残り60名】


【B−7/荒地/1日目 7:00〜】

【なぞちゃん@アストラガロマンシー】
[状態]:血塗れ、妖刀の呪い、身体能力・戦闘技術大幅上昇、
    魔力消費(小)、魔法ミラージュ習得
[装備]:呪われた妖刀@ニエみこ、
    魔性石(剣士)@魔性石
[道具]:なぞちゃんのデイパック
   (支給品一式、白米(500g)、日本酒(一升瓶) )
    イリアのデイパック
   (支給品一式、惨禍の魔女のナイフ@Rクエスト、
    乾パン(一食分)@現実、缶コーヒー×2@現実)
[基本]:妖刀を血で染める。
[思考・状況]
1.斬れる人を探す。



【イリア・アルベニス@マジックロッド】
[状態]:死亡、四肢・両耳・鼻切断、血まみれ
[装備]:無し(首輪あり)
[道具]:無し



【加賀 美奈@こどく】
[状態]:右肩口から腹部にかけて切り傷の痕、
    服が切り裂かれている
[装備]:無し
[道具]:美奈のデイパック
   (支給品一式、
    マジックカプセル×2(種類不明)@Rクエスト、
    干し肉×3、水入り皮袋(600ml/1000ml)
[基本]:死にたくない。
[思考・状況]
1.明澄とレンカに助けを求める。



【御朱 明澄@La fine di abisso】
[状態]:健康
[装備]:バールのようなもの@えびげん
[道具]:明澄のデイパック
   (支給品一式、エリクシル@SilentDesire、
    こけもも×5@えびげん)
[基本]:殺し合いには乗らない。主催者をぶっ飛ばす。
[思考・状況]
1.美奈の話を聞く。



【速水 レンカ@まじ☆はーど外伝 怪物傭兵物語】
[状態]:健康
[装備]:奈々の拳銃(8/8)@BlankBlood
    拳銃の弾(24)@現実
    パイナップル(手榴弾)×3@えびげん
[道具]:レンカのデイパック
   (支給品一式、カップ麺×5、
    やかん(空)、ロープ@ニエみこ)
[基本]:殺し合いには乗らない。困っている人は助ける。
[思考・状況]
1.美奈の話を聞く。



【エヌ@BASSARI】
[状態]:健康
[装備]:"セリス"(単発弾7/7)@まじ☆はーど外伝怪物傭兵物語、
    "セリス"用単発弾×20@まじ☆はーど外伝怪物傭兵物語、
    "セリス"用散弾×20@まじ☆はーど外伝怪物傭兵物語
[道具]:エヌのデイパック
   (支給品一式、コッペパン×5、水入りペットボトル(1000ml)、
    大金@BASSARI)
[基本]:優勝して、大金を手に入れる。
[思考・状況]
1.隙を見て、美奈、明澄、レンカを殺す。
2.なぞちゃんとはなるべく戦わない。









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