トカゲと神子と無職

 
リザードマンは興奮していた。

いきなりワケの分からない部屋に連れて来られた彼だが、
そんなことはどうでもいい。

彼の周りには、たくさんの美少女たちがいたのだ。
この状況で、彼のやることはただ一つである。

「満願全席!(いただきマッスル!)」

リザードマンは手近な一人の少女に襲い掛かった。

「……説明は以上だ!これよりゲームを開始する!」

しかし、男の声が響き渡り、その瞬間リザードマンの視界がぼやけた。




そして、リザードマンはこんこんと雪の降る町の中にいた。

お約束である。

「…………」

目の前からいきなりご馳走を取り上げられた彼は心底がっかりした。
だが、彼はこの近辺から若い女性の匂いがすることに気づいた。

「満願全席!(いただきマッスル!)」

一転して元気になったリザードマンは、匂いの元に全速力で向かっていった。






ところ変わって、こちらは雪町の外れ。
うつ伏せになって冷たい雪の上に突っ伏した女性……リタ・フォードは
呻き続けていた。

「……あうぅぅ〜……」

リタは後悔していた。

一体、彼女は何を後悔しているのか?
それは、彼女がこの殺し合いに巻き込まれる前の出来事を回想する必要がある。

というわけで、彼女の頭の中を少しだけ覗いてみるとしよう。


〜〜〜〜リタっちの回想〜〜〜〜

酔っ払い「うぃー、姉ちゃん知ってるかい!?
     無職にゃ上級職が存在するらしいぞ!?」
リタっち「えっ!?マジでっ!?」
酔っ払い「おう、マジマジ、大マジよ!
     いっちょ無職を極めて、その上級職とやらを
     目指してみねぇかい!?」
リタっち「おう、目指す目指す!ありがとね、おっちゃん!
     言いこと教えてくれたお礼に、ここの御代は全部
     おっちゃんに払わせてあげるね!」
酔っ払い「おお、悪いねぇ、姉ちゃん!
     ……って、ちょっと待て、おかしいだろ、コラぁっ!?
     つか、もういねぇしっ!?」


数日後……


リタっち「無職極めたどー!!さぁ、上級職に転職だー!!
     ……って、アレ?ここどこ?」

ゴッド・リョーナ「お前たちには殺し合いをしてもらう!!」


〜〜〜〜回想終わり〜〜〜〜


「……あうぅぅ〜……」

……そう、つまり今のリタの職業は「無職」なのだ。

「Warlock!」における無職は、他の職業とは比べ物にならないほど
基本スペックが低い。

他の職業で習得したスキルが使えるとはいえ、今のリタの戦闘力は
せいぜい「ちょっと強くて多芸な一般人」程度のものなのだ。

その程度の力で、この殺し合いを生き抜くことなどできるわけがない。


……と、リタがいきなり、がばっと起き上がった。


「やっちまったー!!あのおっちゃん、今度会ったら覚えてろよー!!」

天に向かって吼えるリタ。

ちなみに、おっちゃんは悪くない。
むしろ、被害者である。

「……んじゃ、気を取り直して支給品でも確認しよっか。
 何事も気持ちの切り替えが大切ってお父さんも言ってたしねぇ」

叫んだことですっきりしたのか、一転して笑顔になったリタは
デイパックの中身を確認し始めた。


まず出てきたのは、数珠。
退魔の力があるらしく、巫(かんなぎ)の職業なら使えたかもしれないが、
リタは無職なので、不要である。

次に出てきたのは、罠を作り出すという石。
それなりに使い方が難しいらしく、野伏の職業なら使えたかもしれないが、
リタは(ry

三番目に出てきたのは、十枚の手裏剣。
オーソドックスな十字手裏剣で、NINJAの職業なら(ry


「嫌がらせかーーーーーーーー!!」

リタはビターンッ!!とデイパックを地面に叩きつける。
その拍子に、デイパックから最後の支給品が飛び出した。

「……ん?」

リタはそれに気づき、最後の支給品を摘み上げる。

「!……これって……!?」


リタの最後の支給品……それは……。




スクール水着だった。




「…………」


リタ・フォード。20歳。
まだまだ若い彼女だが、その水着を着るにはいささか遅い年齢だった。

清々しいほどに、人を馬鹿にした支給品ばかりであった。


とうとう、リタも本気でキレるかと思いきや……。


「……持って帰って、誰かに着せよう!!」

どっこい、リタはスクール水着を手に満面の笑顔を浮かべたのだ。

さすが無職をKIWAMEし者。
上級職でなくとも、リタは駄目人間の中の駄目人間であった。

誰に着せようかなー?とウキウキしながら考えるリタだったが、
そこでようやく自分以外の仲間がここに来ている可能性に思い当たった。

デイパックから名簿を取り出して確認すると、ティム、ブロンディ、ドロの
三人もここに連れて来られていることが分かった。

「良かったー!私一人じゃないなら何とかなるかも!」

ほっとしたリタは、まずは三人と合流しよう、と元気良く歩き始めたのだった。






レア・クラスティアが転移した先はある民家の中だった。
窓の外を見ると、雪が降っている。

「……殺し合い、ね。どれだけ頭がおかしかったら
 こんなこと考え付くのかしら?」

レアはゴッド・リョーナと名乗った男に怒りと憤りを抱きながらも、
支給品の確認を始めた。

「……って、何よコレ?かびたパンに、ドロドロの変な色の水……
 まさか、これが食料なの?」

レアに与えられた食料は、レアの言う通り、かびたパンだった。
そして、飲料……レアのいう「ドロドロの変な色の水」は青汁である。

店で売っているような飲みやすく加工したものではなく、直接葉をすり潰し、
それを絞って作った、本場物だ。

とても身体に良い健康品である。

説明書を見て、それを知ったレアは試しに一口飲んでみた。

「…………」

苦味の強い、何ともいえない味が口に広がった。

無言で青汁の入ったペットボトルに蓋をすると、
レアは支給品の確認を続けることにした。

「……あら?これは……」

レアはデイパックの中から出てきた双刀に興味を引かれた。

聖なる力を感じるその双刀は羽のように軽かった。

試しに、近くの椅子に双刀を振るってみると、まるで紙のように
あっさりと真っ二つにしてしまった。

「へぇ……素晴らしい業物じゃない……」

食料はハズレだったが、武器のほうは大当たりらしい。

その後、地図と名簿を確認したレアは、自分のいる場所が
F−6かF−7であること、そして親友であるイリアと
弟子のミアが殺し合いに参加していることを知った。

(まずは二人との合流を目指すべきね……。
 その過程で、戦う力の無い一般人に出会ったら保護……と、
 とりあえずはこんなところかしら?)

当面の行動方針を定めたレアは、デイパックを背負って民家を出る。


……そして、すぐに自分に向かって走ってくる影に気がついた。


それは、二本の足で走るトカゲのモンスターだった。

人間と同じくらいの大きさで鎧を着込んでいるところから、
それなりの知能は持っているのだろう。

(そういえば、あの男は殺し合いのフィールドに
 モンスターを配置したと言っていたわね……)

さっそくお出ましというわけだ。

上等だ、とレアは双刀を構え、トカゲのモンスター……リザードマンを
迎え撃つ姿勢を取った。






リザードマンは金髪の女性……レアを見つけ、喜んで飛び掛ろうとした。
だが、リザードマンはレアの構える双刀を見た途端、顔色を変える。

彼の脳裏に、忌まわしい記憶が蘇った。


数日前のことである。
リザードマンの棲みかにやってきた可愛い神官の少女。

一目でその少女を気に入った彼と仲間たちは、その少女に一斉に襲い掛かった。
だが、次の瞬間には仲間たちはバラバラになっていた。

唯一生き残った彼は、その神官少女から一目散に逃げ出した。
神官の少女のことは名残惜しかったが、全ては命あってのモノダネなのだ。
そう自分に言い聞かせ、彼はその場を逃げ去ったのだ。


……レアの持つ双刀は、そのときの神官の少女が持っていた双刀と
全く同じものだった。

リザードマンの本能が警告を鳴らす。


駄目だ、あれに逆らってはいけない!


そして、彼はその本能に従い、レアの前で急停止した。

「……?」

そんなリザードマンに訝しげな目を向けるレア。
だが、リザードマンはそんなことはおかまいなしに、

「友好条約!」
「……?」

リザードマンが両手をあげ、足を交互に上げ下ろしをしてステップを刻む。
まるで踊っているかのようだが、実に滑稽である。

「……何のつもり?」
「親愛朋友!」

レアが訝しげな反応を示すと、なんとかコミュニケーションを
取ろうと理解不能な言語で喋りながら腕を大きく広げて見せたり、
バタバタ動かしたりし始めた。

「…………」

レアはそれを見て、少なくともこのモンスターが
敵対的でないことだけは理解できた。

と、そこでようやくレアはリザードマンの首にも
自分と同じ首輪が着いていることに気がついた。

「……まさか、貴方はモンスターじゃなくて殺し合いの参加者なの?」
「同意肯定!」

レアの言葉に、こくこくと頷くリザードマン。
しばし考えたレアだったが、溜息を吐いてリザードマンに告げる。

「……たとえモンスターといえど、害意の無い者を傷つけることは
 できないわ。見逃してあげるから、この場を去りなさい」

レアの言葉に、リザードマンはこくこくと頷き、その場から立ち去ろうとする。

だが、そのとき、レアはふと思った。

(……ちょっと待ってよ?もし、このモンスターが
 実は猫を被っているだけで、本性は凶悪な魔物だったら?)

もし、そうだとしたら。
レアは他の参加者を襲うかもしれないモンスターを
野放しにしてしまうことになる。

「……待ちなさい」
「っ!?」

レアの呼び止める声にびくっと肩を震わせ、リザードマンは恐る恐る振り返る。

「貴方、やっぱり私と一緒に行動しなさい」
「!?……意味不明!?」
「悪いけど、モンスターである貴方を簡単には信用できないの。
 もし貴方が私の目の届かないところで、他の人を襲うようなことが
 あったら、私は後悔してもしきれないわ」

レアのその言葉にリザードマンは表面上は悲しそうな目を向けつつも、
内心では舌打ちをしていた。

そして、リザードマンは誓った。
必ず隙を見てこの女を酷い目に遭わせてやる、と。






「……お?」

町の中へと足を踏み入れたリタは、すぐに視線の先に
金髪の女性と鎧を着たトカゲを見つけた。

トカゲの首にも首輪がはまっていることから考えて、
あのトカゲも参加者なのだろう。

そして、女性とトカゲの間に不穏な空気を感じないことから
双方とも殺し合いには乗っていないのだろうとリタは推測する。

「よし、まずは声をかけてみようか!」

そして、リタは元気良く一人と一匹に声をかけるのだった。


「こんにちはー!」






【F−7/雪町/1日目 6:30〜】

【リザードマン@ボーパルラビット】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:リザードマンのデイパック(中身不明)
[基本]:女の子を襲う
[思考・状況]
1.セイバースオブセイバース@ボーパルラビットが
  怖いので、しばらく大人しくしておく
2.隙を見てレアを襲う



【レア・クラスティア】
[状態]:健康
[装備]:セイバースオブセイバース@ボーパルラビット
[道具]:レアのデイパック(支給品一式、
    かびたパン×5、青汁(1000mlペットボトル) )
[基本]:主催者の打倒
[思考・状況]
1.リザードマンと行動
2.リザードマンを警戒



【リタ・フォード@Warlock!】
[状態]:健康、職業「無職」
[装備]:無し
[道具]:リタのデイパック(支給品一式、
    「倒壊の柱」の石@TRAP ART、
    「落とし穴」の石@TRAP ART、
    「人間攪拌機」の石@TRAP ART、
    手裏剣×10@過ぎた玩具は必要ない、
    退魔の数珠@ニエみこ、スクール水着@r-wiz、
    おにぎり×3、お茶(300mlペットボトル)×3)
[基本]:ティム、ブロンディ、ドロを探す
[思考・状況]
1.リザードマン、レアと接触する。








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