アグリさん登場

 

エリーシアが転移させられたのは、見晴らしの良い平原だった。

(……まずは、支給品の確認ね)

エリーシアは傍に転がっていたデイパックを拾い上げて、中身の確認を始める。

そして、出てきたのは、二つのパンと水の入った皮袋、三つの兎の耳らしきものに
簡素な作りの剣が一振り、そしてアイアングリーブが一足だった。

(他に入っているのは、基本の支給品だけのようね……。
 まぁ、とりあえずは武器が確保できて一安心ね)

そう思って、エリーシアは支給品の剣を手に持つ。

すると、いきなりその剣は淡い光を放ち始める。

「!?」

驚くエリーシアを他所に、剣はその形状を変化させていき、
あっという間に頼りない作りだった粗末な剣は、作りのしっかりした、
思わずエリーシアも見惚れてしまうほどの強力な騎士剣へと変化したのだった。

「これは一体……?」

目の前でいきなり変化した剣に、エリーシアは戸惑った声を上げる。
そのとき、ふとエリーシアは傍に置いておいたアイアングリーブの中に
紙が入っているのに気が付いた。

手に取ってみると、それはエリーシアに支給されたこの剣の説明書だった。


『支給品:アテトナの剣

 持つ者の生命力と魂でその形状を変える剣。

 こう書くとなんかすごそうな武器に思えるが、
 よほど生命力と魂の双方が優れていないと
 銅製の剣以下の粗悪品にしかならない。

 ダンジョンを探索すれば腐るほど大量に見つかるので、
 武器屋ではおまけでもらえたりもする』


(…………)

その説明書を読んで、エリーシアは剣の形状がいきなり変化した理由を理解し、
同時にこの支給品がどちらかというとハズレの類の代物だということも理解した。

(……いえ……)

あながちそうともいえない、とエリーシアは考え直す。

幸いにも、エリーシアの生命力と魂はこの剣のお眼鏡に叶ったらしく、
強力な騎士剣に変化してくれた。
つまり、この剣はエリーシアにとってはアタリの支給品だったということになるだろう。

ともあれ、これなら武器については全く心配は無い。
次に、エリーシアは放置していたアイアングリーブを手に取り、足に履こうとする。

だが、なぜか足が入らなかった。

「……あら?……んっ……しょっ……!このっ……!」

エリーシアは何度もアイアングリーブに足を突っ込もうとするが、
何度やっても一向に足は入らない。

「……何よ、コレ?サイズ的には問題無いはずなのに、何で……?」

一向にアイアングリーブを装備できず、いい加減イラついてきたエリーシアだったが、
ふとデイパックの中を見ると、先ほどのアテトナの剣の説明書にもう一枚紙が重なっている
ことに気が付いた。

手に取って読んでみると、次のようなことが書かれていた。


『アイアングリーブ(盾)

 これは盾です。
 足に装備しないでください』


「……意味が分からないのだけど……」

半眼になって呟くエリーシアだったが、このアイアングリーブに足が入らない以上、
いろいろと納得できないことはあっても、疑問は棚上げしておくしかない。

溜息を吐いてエリーシアは立ち上がり、デイパックから名簿を取り出す。

知り合いは、アーシャとシルファの二人。
まずは彼女たちと合流しよう。

そう考え、エリーシアは歩き出した。




そして、歩き始めて数十分ほど経ったころ、不意に誰かの悲鳴が聞こえてきた。

「っ!」

悲鳴は近くから聞こえてきた。
おそらく少女……しかも、それは苦痛に泣き叫ぶ悲鳴だ。

エリーシアはそれを理解すると同時に、すぐに悲鳴の元に向かって走り出していた。








「げふぁっ!!ぎぃぃぃっ!!あぐぁあぁぁっ!!」

ガルーダはオーグの拳の雨を浴び、身体中をぐしゃぐしゃに潰され、
骨をバキバキにブチ折られていた。

「よし、回復しろ」
「う……あぁ……あぁぁぁ……!」

オーグはあっけらかんとした口調でガルーダに命令するが、
ガルーダは虚ろな目で身体を痙攣させるだけだった。

オーグの特訓という名の拷問はすでに30分以上続いており、
ガルーダの精神はすでに限界に近づいていたのだ。


だが、そんなガルーダの背をオーグは全力で踏みつけた。


ボキイイィィィイイイィィィッ!!


「!!?……がああぁぁぁぁあああぁぁぁぁっ!!?」
「早く回復しろっ!!もたもたしてたら死ぬぞっ!!」

叱咤するオーグに対し、背骨を踏み砕かれたガルーダは
『死にそうなのは貴女のせいです』と言ってやりたかったが、
すでに喋るだけの力も残っていないので、それは叶わなかった。

「……ちっ、甘ったれやがって……!根性のねぇヤツだな……!」

一向に回復する様子の無いガルーダを見て、オーグは苛立たしげに呟く。
そして、『ならば、もっと痛めつけて甘えを吹き飛ばしてやるまで』と
オーグはガルーダに向かって再び拳を振り上げる。

が、オーグのその拳はガルーダには振り下ろされなかった。


バキイィィイィィッ!!


「はっ!不意打ちなんかかましやがって……!
 堂々と正面から来いよ、臆病者がっ!!」

自分に向かって飛んできた鉄塊……アイアングリーブ(盾)を拳で
弾き飛ばし、オーグはアイアングリーブ(盾)を投げつけてきた相手に
向かって吼える。

「……生憎だけど、か弱い少女を痛めつけるような輩に
 戦いの礼を尽くしてやるつもりは無いわ」

オーグの凶暴な視線を真っ向から見据えて立つのは、騎士エリーシア。

「痛めつけるだぁっ!!?何言ってやがるっ!!?
 オレはコイツを鍛えてやってたんだぜっ!!?
 襲われて痛い目に遭っても冷静に対応できるようになぁっ!!」

この言葉は、オーグにとって嘘を一切含まない本気の発言だった。
しかし、オーグの言葉を聞いたエリーシアは不快そうに顔を歪め、吐き捨てる。

「……こんな非道なことをしておいて、
 よくもそんな下らない言い訳を口にできたものね……!」

エリーシアはオーグの足元に倒れている少女に視線を向ける。

少女は身体中が腫れ上がるほどに全身を殴られ、腕や足の関節が変な方向に曲がっていた。
さらに背骨まで真っ二つに砕かれており、どう見ても助かる傷ではなかった。

目の前の女はこれだけの非道な行いをしでかしたのだ。
オーグの言葉は、エリーシアには悪人の戯言にしか聞こえなかった。

エリーシアはアテトナの剣を構えると、オーグを鋭い目で見据える。

「……殺し合いに乗った輩に容赦はしないわ。貴女は私がここで止める」
「あぁ?オレが殺し合いに乗ってるだぁ?
 ワケ分かんねぇことばっか言う女だなぁ、オイ!?」

エリーシアの対応は至極当然のものだったが、
オーグには殺人者呼ばわりされる覚えなど無い。

「……まぁいいさ!!
 やるってんなら相手になるぜ、勘違い女っ!!
 オレが殺し合いになんて乗ってないことを
 オレの拳を通して教えてやるぜっ!!」

オーグはそう叫ぶと、右手にアイアングリーブ(武器)を、
そして左手にはエリーシアが先ほどオーグに投げつけた
アイアングリーブ(盾)を持ち、戦闘態勢を取る。

アイアングリーブ二足を両手に構える女という
世にも滑稽な姿を見て、エリーシアは呆気に取られるが、
ぶんぶんと首を振って、騎士剣を構えなおす。

「……馬鹿の相手をしているヒマは無いの。
 悪いけど、速攻で終わらせてもらうわよ」

脱力しそうになる身体に活を入れ、エリーシアはオーグと対峙する。

アレスティア王国軍4番隊副隊長と、帝国軍第二軍団軍団長の戦いが
今まさに始まろうとしていた。








「……ぐ……うぅっ……」

エリーシアとオーグが戦いを始めたまさにそのとき、
オーグにはるか遠くまで殴り飛ばされた強姦男は
目を覚ましていた。

「……何とか……生きてるみてぇだな……。
 っていうか、アレからどうなった……?」

身体中の痛みに顔を顰めつつ、強姦男は身を起こす。

そして、状況を理解するために辺りを見回そうとしたとき……。




「うおりゃあああぁぁぁああぁぁぁっ!!」

ずがあああぁぁああああぁぁぁぁああああぁぁぁんっ!!!




遠くのほうで凄まじい怒号と振動が響き渡った。

「な……何だっ!!?」

強姦男は驚いて、音の聞こえてきた方向に目を向けるが、
ここからでは遠すぎて、何が起こっているのか分からなかった。

「……何だかよく分からんが、ここからは離れたほうが良さそうだな」

そう呟くと、強姦男はデイパックを背負ってスタコラと逃げ出したのだった。








【D−3/道/1日目 7:00〜】

【エリーシア・モントール@SilentDesire】
[状態]:健康
[装備]:アテトナの剣@TRAP ART
[道具]:エリーシアのデイパック(支給品一式、
    コッペパン×2、皮袋(水 500ml/500ml)
    俊足兎の耳×3@Rクエスト)    
[基本]:ゴッド・リョーナの打倒
[思考・状況]
1.オーグを倒す

※エリーシアの持つアテトナの剣は『強力な騎士剣』に変形しています。
※オーグは殺し合いに乗っていると思っています。
※ガルーダはもう助からないと思っています。



【オーグ@BASSARI】
[状態]:健康
[装備]:アイアングリーブ(武器)@Warlock!
    アイアングリーブ(盾)@Warlock!
[道具]:オーグのデイパック
    支給品一式、食料、飲料(詳細不明)
    その他
[基本]:弱者を痛めつける奴は許さない。弱者は鍛えて強くする。
[思考・状況]
1.エリーシアを倒す
2.ガルーダを鍛える



【ガルーダ@よもまつ】
[状態]:気絶、全身打撲、全身骨折、背骨真っ二つ、
    タイツの股間部分に穴
[装備]:なし
[道具]:ガルーダのデイパック
    支給品一式、食料、飲料(詳細不明)
    ランダム支給品不明(本人は確認済み)
[基本]:自分もふくめ、敵味方誰も殺したくない。
[思考・状況]
1.(気絶中)
2.一刻も早く特訓から逃げ出したい。
3.でも逃げたら本当に殺されそう。
4.ぷれーやーの神様さん助けて!

※重傷ですが、生命力がゴキブリ並みなので命に別状はありません。



【強姦男@一日巫女】
[状態]:頭にたんこぶ、ダメージ(中)
[装備]:拳銃@XENOPHOBIA(残弾数7/9)
[道具]:強姦男のデイパック
    支給品一式、食料、飲料(詳細不明)
    その他
[基本]:殺る前に犯る、犯らんなら殺らん。
[思考・状況]
1.とりあえずここから離れる

※エリーシアたちの場所とは逆方向に向かいました。









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