ルキが転移した先は列車の中だった。
先頭車両の座席の一つに、いつの間にか腰を下ろしていたことに
気が付くと、すぐに先ほどの出来事を思い出す。
(……殺し合い……とか言ってやがったな……)
あの部屋にいた大勢の人物を拉致した張本人である
ゴッド・リョーナと名乗った男。
彼は、ルキの目の前で炎のような髪をした少女の首を吹き飛ばし、
殺害した。
あの残虐な行為によって、ルキはこの殺し合いが冗談ではないことを
嫌でも理解せざるを得なかった。
少女の首が吹き飛び、血が飛び散る光景。
昔のルキならば、少女の無惨な死に様に喜びと快感を抱いたかもしれない。
だが、今のルキには少女の死は不快と悲しみしかもたらさなかった。
女性の苦しむ姿にリゼの死に様を重ねてしまうようになって以来、
彼はリョナラーではなくなってしまったのだから。
ルキは犠牲となった少女に黙祷を捧げると、傍らに置かれていたデイパックを
開いて中身を確かめた。
(……くそ……!やっぱり、魔剣も角も入ってないか……!)
リゼの形見である、魔剣ネフェリーゼとリゼの角。
参加者を集めたあの部屋で気が付いた時点で、
ルキはその二つが奪われていることに気が付いていた。
そして、一縷の望みにかけて開いたデイパックの中には
魔剣も角も見当たらなかった。
つまり、魔剣ネフェリーゼとリゼの角は今、あのゴッド・リョーナと
名乗るいけ好かない男の手の中にあることになる。
(……ヤツを殺す理由が一つ増えたな)
理由その1。
自分をこんなふざけた殺し合いに巻き込んだこと。
理由その2。
自分の目の前で、あの少女を無惨に殺害したこと。
そして何より、理由その3。
大切なリゼの形見を、自分から奪い取ったこと。
「一つでも殺される理由としては充分だってのに、
三つも同時に揃えやがるとは、よっぽど俺に殺されたいらしいな。
自殺願望でもあるんですか、コノヤロー」
ルキはくっくっくっと低い笑い声を漏らす。
ルキの胸中はゴッド・リョーナに対する怒りで満ちていた。
あの男をこのまま生かしておくつもりなど、毛頭無い。
ルキはゴッド・リョーナをあの少女とは比べ物にならないほど、
情け容赦無しに惨たらしく殺害してやることを誓った。
(無様に泣き叫んで後悔しながら死んでいくがいいぜ、下種野郎)
ゴッド・リョーナを想像の中で十数回ほど無惨に殺し、
ある程度溜飲を下げた後、ようやくデイパックの中身を確認し始めた。
先ほどは魔剣と角のことしか頭に無かったので、
何が入っているのかをちゃんと確認していなかったのだ。
まず出てきたのは斧、そしてロッドだった。
斧のほうは特に変哲の無い、戦闘用の片手斧のようだ。
なかなか頑丈な作りのようで、ルキが魔剣ネフェリーゼの前に使っていた
鉄の長剣に比べると、こちらのほうが武器として数段優秀だろう。
ロッドのほうは強力な魔力を感じるが、残念ながらルキには扱えないようだ。
魔術師ではないからなのか、それとも特殊な才能が必要なのかは分からないが、
少なくとも、ルキにとってはこのロッドは鈍器にするくらいしか使い道が無い。
「おk、せっかくだから俺はこの斧を選ぶぜ」
ルキは迷わず、斧を武器として選択する。
ロッドのほうは扱える者に出会ったときに、交渉の材料として使えば良い。
そして、一通り支給品を確認したところで、異変が起きる。
がたんっ!
「!?……何だっ!?」
いきなり列車が大きく揺れたことで、ルキは驚いて腰を浮かす。
そして、次の瞬間、駅構内にアナウンスが鳴り響いた。
『ヒャッハー!!D駅から発車しますぜ、ヒャッハー!!
乗車する方は閉まるドアに挟まってリョナられやがれ、コノヤロー!!』
どこか聞き覚えのある喋り方をする、甲高い声のアナウンスに、
ルキは唖然とする。
「……何してはるんですか、モヒカンさん……?」
いや違う、落ち着け。
これはモヒカンではない。
少なくとも、モヒカンはこんな声では無い。
アイツの声は、もっと汚くて耳障りな声だ。
ていうか、駅ってことは馬車なのか、これ?
いや、こんなでかい馬車(?)を動かせる馬なんているはずが無い。
いや待て、竜ならどうだ?
レムウィスやギルドランくらい巨大な竜なら
これくらいの大きさはいけるかもしれない。
しかし、そもそもこの馬車(?)を引いている動物自体が見当たらない。
だとすると、魔法が動力源となっている可能性が……。
と、そこまで考えて、ルキは思考を中断した。
「……まぁいいや、頭脳労働は俺の専門じゃねぇし、
深く考えるのはよそう。
とりあえず、この暫定馬車は殺し合いを円滑に進めるために、
あの男が用意したものだと考えるのが自然だな。
地図を見た限りじゃ、それなりに広い島を殺し合いの舞台に
使ってるようだし、移動手段が徒歩だけじゃ殺し合いが
停滞するかもしれないって考えたんだろ。
つーわけで、考察終わり」
そして、ルキは座席に乱暴に座り、斧とデイパックを傍らに置き、
足を組んで、腕組みしつつ目を閉じる。
そして、そのまま寝息を立て始めてしまった。
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