「ねーねー、殺し合おうよー♪」
首を吹き飛ばされた少女、殺し合いの宣言。
ある者は怯え、ある者は怒り、ある者はそれに乗じて自らの欲望を満たそうとする。
おそらく彼女だけであろう。純粋な「喜び」を感じたのは。
「うーん、寝ちゃってるのかなぁ?」
彼女の名はカレン。リョナラー連合南支部の構成員だ。
痛みを至上の快楽と捉える彼女は、殺し合い、切り刻み合いを何よりも好む。
そんな彼女に、バトルロワイアルという殺し合いの場が提供された。
手当たり次第に殺そうとするのは当然だ。
だが、目の前にいる相手は、そう簡単に動きそうにはなかった。
「起きてよー、殺し合おうよー、切り刻み合おうよー・・・ねこさん!」
QWERTY2003> !CAUTION!
QWERTY2003> shutdown caused by unknown event
QWERTY2003> start syscheck
ねこさんと呼ばれたモノは、科学技術と魔法技術の粋を集めた警備用機械、QWERTY2003だ。
狂いやすいという欠点があるものの、拡張性が高く、軍民を問わず非常に多くの場所で用いられた。
しかし、それは既に過去の話。
より低コストで高性能な新型機が登場した今では、その役目を終えようとしている。
QWERTY2003> checking files...
QWERTY2003> q:\bin ... [OK]
QWERTY2003> q:\boot ... [OK]
QWERTY2003> q:\dev ... [OK]
QWERTY2003> q:\lib ... [OK]
QWERTY2003> q:\mnt ... [OK]
QWERTY2003> q:\usr ... [OK]
そんな彼も、この殺し合いの参加者である。
旧式とはいえ、一般人と比べれば圧倒的な力があり、しかも余計な感情を持たない彼は、
この場において最も危険な存在である。
・・・はずだった。
現実は、フィールドに転移させられた衝撃で電源が切れてしまい、
30分経っても動かなかったので、主催者による「超法規的措置」でただいま再起動中である。
QWERTY2003> checking devices...
QWERTY2003> HEAD: CANON ... [OK]
QWERTY2003> ARM: CATCHER ... [OK]
QWERTY2003> LEG: WHEEL ... [OK]
QWERTY2003> WEP1: BLADE ... [OK]
QWERTY2003> WEP2: BLADE ... [OK]
QWERTY2003> WEP3: NONE ... [SKIPPED]
QWERTY2003> WEP4: NONE ... [SKIPPED]
QWERTY2003> WEP5: NONE ... [SKIPPED]
QWERTY2003> WEP6: NONE ... [SKIPPED]
QWERTY2003> succesfully finished
どうやら、急に電源が切れたことによる影響は無いらしい。
狂いやすい彼にとっては、奇跡と言っても良いかもしれない。
QWERTY2003> login
QWERTY2003> user: god
QWERTY2003> password: ********
god@QWERTY2003> This is QWERTY2003 system.
god@QWERTY2003> All rights reserved by Shirco.
god@QWERTY2003> input seculity level ...
god@QWERTY2003>
god@QWERTY2003> input timeout
god@QWERTY2003> level HIGHEST: automatically selected
god@QWERTY2003> seculity service start!
少し遅れてしまったが、彼のバトルロワイヤルが、今始まる。
「さて・・・せっかく再起動させてやったんだ。存分に俺を楽しませてくれよ。」
キュピーン
QWERTY2003の目が輝く。
「わーい、起きたー♪」
彼が最初に見たものは、一人の少女だった。
この無邪気に喜ぶ少女にどう対応すべきか。
彼はまず全身のセンサーを使って現在の状況を分析した。
god@QWERTY2003> gps: ERROR
god@QWERTY2003> temperature: 28.4F / -2.0℃
god@QWERTY2003> weather: sunny
god@QWERTY2003> ground: snow
god@QWERTY2003> person: unknown
GPSによる位置情報の取得には失敗。衛星との通信が上手くいかない。
気温は摂氏マイナス2度。低温により7%程度の性能低下は避けられないが、大きな問題にはならない。
また、今は晴れているので、気温はすぐに上がるだろう。
問題は地面が雪に覆われている事である。
雪上での行動は想定されていないため、足元のタイヤはスタッドレスではなくスリップの危険性が高い。
魔法技術による体制安定機構により転倒だけは回避できるが、移動能力は大幅に低下する。
そして、目の前にいる人間の顔は、彼のブラックリストにもホワイトリストにも含まれない。
つまり、この人間は彼が知らない人物だ。
これらの情報から導き出した答えは・・・
god@QWERTY2003> FINISH HER!
すぐに殺害するのが安全かつ確実。
危険人物であれば隙を見せれば破壊される可能性があり、雪上では逃げるのもままならない。
この間、わずか2秒。
そこからブレードを相手の頭上に動かして振り下ろすまで1秒。
一般人なら回避するのは不可能だ。
目の前の相手もその例に漏れず、一歩も動かない。
しかし彼女は動けなかったのではない。
「虐めてくれるのー?わーい♪」
痛みという快楽を求めて、「動かなかった」のだ。
グシャアッ
QWERTY2003のブレードが、カレンの肩から下腹部までを切り裂き、
鮮血が雪原を真っ赤に染める。
「あっ、あ・・・あれ・・・?」
足元がふらつき、目が霞む。
多少のダメージは全く気にしない彼女でも、
ここまで深い傷と出血は、さすがに辛いようだ。
ドサッ
立っていられなくなって、雪の中に倒れこむ。
その冷たさを身に感じながら、彼女の意識は薄れていった。
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