逆ギレすんなし



E−1の街の中をグチョグチョと動く姿があった。

その姿は、グチョグチョした毒々しい緑色の身体を持ったスライム状の生き物。
普通の者が見れば、間違いなく魔物と判断する容姿だった。

「ウッジュゥ」

その魔物の名はベドロゥ。
リョナラー連合に所属するナイスガイなグッチョリンである。

こう見えても、彼は連合内では四天王に次ぐほどの屈指の実力の持主である。
同族との喰らい合いを勝ち抜いてきた彼は、今や単純な戦闘力で比べれば、
ルキやカレンすら圧倒するほどの力を持っているのだ。

「ウジュウジュ」

それほどの実力の持主である彼は、今デイパックを漁っていた。
グッチョリンである彼には普通の武器は装備できないが、そんな彼でも
何か役に立てることのできる物があるかもしれないと思ったのだろう。



そして、デイパックから出てきたのは……。




バケツ!



「ウジュ」

迷うことなく頭に被るベドロゥ。


次に出てきたのは……。




豪奢なマント!



「ウジュ」

それも迷うことなく纏うベドロゥ。

さらにデイパックから出てきたのは……。




サングラス!



「ウジュ」

やはり迷うことなく身に着けるベドロゥ。




そして、今ここにサングラスを身に着け、豪奢なマントを羽織り、
頭にバケツを被った愉快なグッチョリンが誕生したのだった!




ちなみに、本人は大真面目である。
せっかくの支給品なのだから、身に着けなければ損だと思っているのだ。

まぁ、支給品である以上、何らかの特殊な効果があるかもしれないし、
そうでなくても、身に着けることで少しは防御効果が期待できるだろうから
彼の判断は間違っているとはいえないのだが……。


「ウジュ?」

滑稽極まりない格好になった彼は、まだデイパックの中に基本支給品以外の
何かがあることに気が付く。

それを取り出したベドロゥの顔が一瞬固まる。

「……ウジュ……」

それは、戦いの末に命を落とした仲間の遺品。
無念の思いを抱えて散っていった少女の形見。

忌み子リゼの角だった。


「……ウッジュゥ?」

死んだリゼのことを思い出して、感傷を覚えたベドロゥだったが、
なぜここにリゼの角があるのか疑問を覚える。

リゼの角は、たしかルキが所持していたはずだ。
彼がリゼの角を肌身離さず、大切に持ち歩いていたのをベドロゥは知っている。

だからこそ、ルキがリゼの角を手放すことなどあり得ないはずなのだが……。


「……ウジュ」

まぁいい、とベドロゥは考えるのを止める。
ここにリゼの角があるのなら、自分がルキに届けてやればいいのだ。

今頃、アイツは角を無くして慌てていることだろう。
早くアイツを探し出して角を渡して、安心させてやろうじゃないか。


ベドロゥはそう結論付けると、ルキを探すために街の中をウジュウジュと
当て所なく彷徨い始めたのだった。




 


「ちっ……武器はこのメリケンサックだけか……。
 まぁ、この鎧があれば防御のほうは大丈夫そうだけどよ……」

石獣の外殻で作られた鎧に身を包みながらぼやくその少女はサリア。
小麦色の肌に引き締まった体を持つ戦士の少女だ。

ゴッド・リョーナによって殺し合いの会場に転移させられた彼女は、
真っ先に支給品の確認を行い、出てきたメリケンサックと石獣の鎧を
身に着けた。

これで、いつ殺し合いに乗った参加者やモンスターが襲ってきても
遅れを取ることは無いだろう。

「さて、どう動くかねぇ……できれば、武器のほうはもうちょっとマシな
 もんが欲しいところだけど……」

殺し合いに乗っていない他の参加者から扱い慣れた斧や盾を分けてもらえれば
言うことは無い。

だが、そう上手く殺し合いに乗っていない上に、斧や盾を支給された参加者に
出会えるとは思えない。

「まぁいい……とにかく、ゴッド・リョーナの野郎の居場所を探し出すとするか」

そして、ヤツの居場所を見つけたら首輪が爆発する前に、ヤツを倒す。

ヤツを倒す方法はそれしかあるまい。
不意を突く事さえできれば、可能なはずだ。

「覚悟してろよ……あたしたちをこんなふざけた殺し合いに巻き込んだこと、
 たっぷりと後悔させてやるぜ!」

サリアはゴッド・リョーナへの怒りを吐き出しながら、街の中を進んでいく。






街の中を一人の少女が歩いていた。
彼女の名はペセル=パフ、お腹に定評のある獣耳っぽい髪型の少女である。

ペセルが手に持っているのは彼女の支給品であろう、かなりの業物と
見て取れる長剣。

どうやら彼女は武器に関してはアタリを引いたようだ。

「誰もいないなぁ……」

殺し合いが始まって数十分……転移した先が街だったペセルは、
ひとまずこの街に他の参加者がいないか探すことにしたのだが、
未だに人の気配が微塵も感じられなかった。

少し歩きつかれたペセルは、近くのベンチに座って休憩することにした。

支給されたアップルジュースをコクコクと飲みながら、ふぅと一息つく。

「ここには他の人はいないのかなぁ?もしそうだったら、
 早くこの街から出て、他の参加者の人を探さないといけないよね」

そう言うと、ペセルはにっこりと八重歯が覗く可愛らしい笑みを浮かべて、

「……優勝するなら、できるだけ早く他の人を倒して、
 支給品を集めたほうが有利だもんね♪」

そう呟いたのだった。


つまり、ペセルはこの殺し合いに乗り気なのだ。

元々、彼女は家業を継ぐのが嫌で家出をし、伝説の魔導器クァルラリルを
求めて旅に出たのだ。

その過程でこの殺し合いに巻き込まれたわけだが、頭があまりよろしくなく、
楽観的で物事を深く考えない彼女は、

『この殺し合いで優勝すれば、クァルラリルを手に入れることができる』

と単純に考え、あっさりとゲームを肯定したのだった。

もっとも、彼女も悪人というわけではないので、出会う人物によっては
考え方を変える可能性もあるのだが……。


「おい……お前、今なんて言いやがった?」
「え?」

しかし、今回はタイミングが悪かったようだ。

横から聞こえてきた声にペセルが振り向くと、そこには険しい表情を浮かべた
小麦色の肌の女戦士……サリアの姿があった。

「……お前、今、優勝するとか言ってやがったな?
 まさか、この殺し合いに乗ったって言うんじゃねぇだろうな?」
「え……?だって、願いを叶えてくれるっていうし……
 ボク、クァルラリルが欲しいから……」

ペセルのその言葉に、サリアは表情を消して呟く。

「……よく、分かったぜ……」

そして、そのままペセルに向かって拳を振り上げた。

「!」

慌ててペセルはベンチから飛びのいて、サリアの攻撃を避ける。
サリアは怒りに震えながら、ペセルに向かって言い放つ。

「人を殺してまで願いを叶えようとするその腐った根性が許せねぇ!!
 てめぇもあのゴッドとかいう野郎と同類だ!!
 てめぇはあたしがここでぶっ飛ばして、止めてやる!!」
「なんかよく分かんないけど……お姉さんがボクの最初の相手だね!
 そのメリケンサックはいらないけど、鎧は役立ちそうだから、
 お姉さんを倒してボクが使わせてもらうよっ!」

そうして、少女たちの戦いが始まった。


「ウジュ!」


……はずだったが、そこに乱入してくる声が一つ。


「あぁ?」
「ふぇ?」

今まさに戦いを始めようとしていた少女たちは揃って間の抜けた声を上げる。
そして、声の聞こえた方向に視線を向けた少女たちの目が点になる。

そこにいたのは、豪奢なマントを羽織り、サングラスをかけ、
バケツを頭に被った緑色のスライムっぽい生物の姿があった。

今この殺し合いの会場において、最も緊張感の無い格好をしているであろう、
その者の名は、ベドロゥ。

「ウッジュゥ!」

活きの良さそうな少女たちを見つけて、リョナラーであるベドロゥは
喜んでその少女たちを痛めつけようと前へと踏み出した。

しかし、そのときベドロゥはマントの裾をうっかり身体に巻き込んだせいで、
すってんと転んでしまう。

「ウ……ウジュッ!?」

その拍子にバケツの中に頭がずっぽりとはまり込んでしまった。


「ウジュウウゥゥゥッ!!?」

抜けなくなった頭を必死でぐいぐいと引っ張るベドロゥ。


ずっぽんっ!!


「ウジュッ!?」

そして、ようやく頭が抜けたはいいが、思いっきり身体を引っ張っていた
反動のせいで、抜けた頭が勢いよく近くの壁に叩きつけられる。


バキイィィィッ!!


「ウ、ジュウウゥゥゥッ!!」

よほど痛かったのか、ごろごろと転がって悶絶するベドロゥ。


その様子を二人の少女はぽかんとした表情で見ているしかなかった。



もう一度言おう。

彼はリョナラー連合屈指の実力者であり、四天王に次ぐ実力の持主である。
単純な戦闘力なら、ルキやカレンすらも上回る実力の持主である。

……しかし、頭の出来においては残念としかいいようがなく、
頭が回り戦況によって戦い方を変えるルキや念動の力というトリッキーな
攻撃方法を持つカレンと戦う場合、正面からまともにやり合う以外の
戦い方では、勝率は五分を下回るというのが現実であった。



「ウッジュゥゥゥ……!」

いきなり無駄なダメージを負ってしまったベドロゥは、苛立たしげに
マントの裾を体液で溶かし、丈を半分ほどにして羽織り直した。

どうやら、この面白ファッションを改めるつもりは無いらしい。

「……ウジュッ!!」

そして、触手のように伸ばした身体の一部をくいくいと動かす。

それはまるで、少女たちに『さあ、かかってこい!』と言わんばかりの
挑発のようだった。


何となく言いたいことは伝わったのか、生暖かい視線を向けつつも、
少女たちは口を揃えて言った。

「後でな」
「後でね」

そして、ベドロゥを半ば無視して少女たちはお互いに向かって構えを取った。


「ウジュッ!?」

相手にされなかったベドロゥはショックを受けた様子で身体を硬直させる。

一方、少女たちはすでに戦い始めている。
ベドロゥだけ蚊帳の外に残された形であった。

しかし、それも仕方の無いことである。
いきなり失笑物の格好で現れ、間抜けをやらかしたモンスターなど、
脅威になると誰が思えるだろうか。

それこそ、後回しにされても文句など言えはしまい。

「……ウ……ジュゥゥ……!!」

だが、ベドロゥ自身はそれでは納得しない。

彼とて並外れた実力を持つ達人であり、女性から怖れられるはずの
リョナラーなのだ。
そんな彼が、女性からこんなどうでもいいと言わんばかりの扱いを受けて、
許せるはずがない。

少女たちに、リョナラーとしての誇りを傷つけられ……



ベドロゥはキレた。

 

「ウッジュウウウウゥゥゥゥゥッッ!!!」


今までの間抜けな様子からは想像もできない凄まじい咆哮に、
二人の少女が驚いて思わず動きを止める。

そんな少女たちに向かって、ベドロゥは魔力を練り、魔法を紡いだ。


ズバアアアアアァァァァアアアアァァァァァァッッッ!!


極太の光線が大気を切り裂いて、凄まじい速度で少女二人へと襲い掛かる!!

「なっ!?」
「ひっ!?」

サリアとペセルは目を剥いて、反射的に回避行動を取った。

それが功を奏して、光線は二人の脇を掠めて、向かいの建物にぶち当たり、
分厚い壁を轟音を立てて貫いていき、反対側から抜け出ていった。

大穴の開いた建物はしばらくすると、音を立てて崩壊していき、
すぐに跡形も無くばらばらに崩れ落ちてしまった。

「…………」

少女たちがベドロゥを見る目はすっかり変わっていた。
その瞳に警戒、焦燥、怯えなどを見て取ったベドロゥは満足げに
ウジュウジュと頷き、一歩前に踏み出した。

「っ……!」

思わず後ずさるサリアとペセル。

と、ペセルが慌ててデイパックから石を取り出した。
そして、サリアに向かって、

「じゃ……じゃあ、ボクはこれでっ!後はよろしくね、お姉さんっ!」
「……は?いや、ちょっと……?」

だが、ペセルはサリアの返事を待たずに取り出した石を掲げる。
すると、ペセルは光に包まれて、次の瞬間にはその場から消えていた。

(……あのガキ、あたしに押し付けて逃げやがった!!)

事態を理解したサリアは怒りに震えるが、横から聞こえたウジュという声に、
ぎくりと身体を強張らせる。


そこには、面白ファッションに身を包んだ恐怖のグッチョリン。


「くっ……!」

気圧されながらも、構えを取るサリア。

(……こんなふざけた格好のヤツに負けてたまるかよっ!!)

睨み合う女戦士とグッチョリン。
戦いの火蓋は今、切って落とされようとしていた。






【E−1/街/1日目 7:00〜】

【ベドロゥ@Rクエスト】
[状態]:健康、魔力消費(小)
[装備]:バケツ@La fine di abisso
    サングラス@BlankBlood
    皇帝のマント(丈半分)@BASSARI
[道具]:ベドロゥのデイパック(支給品一式、
    リゼの角@Rクエスト、
    ゼリー×10@BlankBlood、
    オレンジジュース(500ml/500ml))
[基本]:女性を襲う
[思考・状況]
1.リゼの角をルキに届ける
2.サリアを殺す

※ベドロゥが習得している魔法は『ブラストレイ』です。



【サリア@Tezcatlipoca】
[状態]:健康、焦燥
[装備]:メリケンサック@まじ☆はーど外伝怪物傭兵物語
    石獣の鎧@Twilight Dragon
[道具]:サリアのデイパック(支給品一式、
    エリクシル@SilentDesire
    メロン×3@現実)
[基本]:対主催、ゴッド・リョーナを倒す
[思考・状況]
1.ベドロゥを何とかする

※ベドロゥ、ペセルを危険人物と認識しました。






ここはB−4エリアの駅。

そこには支給品の転送石によって、難を逃れたペセルがいた。

「あー、びっくりした……!まさか、あのモンスターが
 あんな凄い魔法を使ってくるなんて思わなかった……!
 あの石が支給されてて本当に助かったよぉ……!」

ペセルは冷や汗を拭いながら、ベンチに腰を下ろす。

が、次の瞬間、あっと声を上げる。

「あーっ!!?しまったっ!!?」

いきなり大声を上げると、慌ててデイパックから紙を取り出す。
その紙にはこう書かれていた。


『支給品:封魔の剣

 魔物をその刀身に封印することのできる魔剣であり、
 魔王カオスすらもその刀身に封印した強力な魔剣。

 この剣は魔王を封印した封魔の剣そのものではなく、
 鞘や柄、刀身など全体の造りが異なっている模造品だが、
 オリジナルの封魔の剣と同等の力を持っている。

 封印した魔物の強さに応じてこの剣の威力や性能は変化する』


自分に支給された武器の説明書を読みながら、ペセルは後悔していた。

「あのモンスターをこの剣で封印すれば良かったんじゃないっ!!
 そうすれば、きっと物凄く強い武器が手に入ったのにっ!!」

涙目で地団駄を踏むペセルだったが、時既に遅し。

ペセルのミスにより、思わぬところで命を拾ったベドロゥだった。





【B−4/駅/1日目 7:00〜】

【ペセル=パフ@クァルラリル】
[状態]:健康
[装備]:封魔の剣@Rクエスト
[道具]:ペセルのデイパック(支給品一式、
    転送石×2@I.M.G
    アップルパイ×5@Rクエスト
    アップルジュース(900ml/1000ml))
[基本]:優勝してクァルラリルを手に入れる
[思考・状況]
1.参加者を探して倒す

※ペセルの持っている封魔の剣は魔剣ネフェリーゼの元となった
 封魔の剣とは造りが違うので、見間違うことはありません。








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