「コロシアーイ♪コロシアーイ♪ナンかよく分かンナイけど、コロシアーイ♪」
物騒なことを楽しそうに口にしながら、D−7の荒れた道の上を飛ぶ少女がいた。
風を操る妖精族の少女、トゥイーティ・プラムである。
ゴッド・リョーナによって殺し合いの会場に転移させられたプラムだが、
幼い彼女にはこの恐るべき殺し合いのルールが理解できていなかった。
「イキナリ変な場所に連れてコラれちゃったケド、そんなの関係ナイもーん♪
いつもとオンナジように遊ぶだけだもーん♪」
プラムはケラケラと笑いながら、いつも通りに遊び相手を探す。
そう。
いつも通りに見つけた相手に風の刃を放って、
逃げる相手を追いかけて、バラバラにするために。
プラムに悪意は欠片もなかった。
彼女からすれば、それは鬼ごっこのようなものだったから。
相手が逃げ切れば、相手の勝ち。
プラムが相手をバラバラにすれば、プラムの勝ち。
プラムからすれば、それはただの遊びだった。
純粋無垢で無邪気なプラムは、いつも通りに遊び相手を求めていただけだった。
自分の行いの残虐さと罪深さに、プラムは気が付かない。
純粋で無邪気だからこそ、気が付かない。
取り返しのつかない事態になるまで、気が付かない。
「……見ツケタ!」
前方に大きな人影を見つけたプラムは、大喜びでその影に向かっていった。
「ムフー、全くこの吾輩グレートヌコスともあろうものが、
何が悲しくてあんな優男の言いなりになって殺し合いなど
せねばならんのだ!!?」
巨大なパンツ一丁の猫面の男……リョナラー連合四天王の一人、グレートヌコスは
憤懣やるかたないといった様子で額に青筋を浮かべていた。
「……ふん、まぁ良いわ。殺し合いの参加者たちは、
なかなかの上物を揃えておったようだしな」
彼にとって、この状況は不本意極まりないものだったが、
それでも、この殺し合いの会場に飛ばされる前の部屋にいた
大勢の参加者の女性たちを殺せるのだと思うと、股間の奥が昂ってくる。
「ひとまずはこの殺し合いとやらで優勝し、その後に
あの優男をぶち殺してやるのが賢いやり方といえよう!」
そう結論付けると、グレートヌコスは豪快に笑いだした。
「ヌハハハハ!!ならば、さっそく獲物を探しに行くとするか!!
たっぷりと楽しませてもらうぞおぉぉぉぉっ!!」
そして、グレートヌコスはのっしのっしと歩き出した。
「……む?」
だが、彼はすぐにこちらへと飛んで来る小さな姿に気付き、視線をそちらに向けた。
凄まじいスピードでヌコスの元まで飛んで来たその影は、小さな少女だった。
「こんにちは、猫のオジチャン!!」
「……何だ、貴様は?」
目の前に飛んできた少女……プラムへじろじろと値踏みするような視線を向ける。
ヌコスに、少女は笑顔で答える。
「あたし、プラム!!ネェネェ、猫のオジチャンっ!!あたしと一緒に遊ぼっ!!」
「…………」
可愛らしい笑顔で話しかけてくるプラムの顔を無遠慮に眺めまわした後……。
ヌコスはいやらしく、にやりと笑った。
「……良かろう、吾輩がたっぷりしっぽりと遊んでやろうではないか」
「ホントっ!?ありがとう、オジチャンっ!!」
プラムは笑顔でお礼を言うと同時に、ヌコスに風の刃を放つ。
ぶんっ!!
しかし、ヌコスは軽く腕を振って、放たれた風の刃を弾き飛ばしてしまった。
きょとんとした顔を見せているプラムに、ヌコスは口の端を歪めながら問いかける。
「どうした、小娘?その程度か?」
馬鹿にしたようなヌコスの態度に、プラムはむっとする。
「……オジチャンの意地悪っ!!ちゃんと避けて、逃げ回ってよっ!!
追いかけっこにならナイじゃないっ!!」
そう言うと、プラムはヌコスに向かって、今度は一つではなく、大量の風の刃を放つ。
だが、風の刃が放たれると同時に、ヌコスは大地に足を爆発するほどの勢いで
叩きつけ、拳を前に突き出す。
「…………カアアアァァァアアアアァァァァっっ!!!」
周囲を震わす雄叫びとともに突き出された拳の凄まじい風圧を受けて、
風の刃は勢いを失って霧散してしまった。
「……ふん……まぁ、こんなものだろうな……」
面白くもなさそうに呟くと、ヌコスはプラムに視線を向ける。
「……あ……ぁ……!」
先ほどのヌコスの凄まじい雄叫び、そして自分の風の刃の群れがあっさりと
かき消されたのを見て、プラムは呆然としていた。
「……さて……たしか、一緒に遊んでほしいとか言っていたな、小娘?」
ゆっくりと近付いてくるヌコスの姿を見て、プラムの身体がびくっと震える。
「ひっ……!」
「どうした?何を怯えている?一緒に遊んでほしいのではなかったのか?」
「あ……で、でも……!オジチャン、あたしの風きかないし……!
コレじゃ、追いかけっこできないから……!だから……!」
目の前の巨大な猫男が、自分よりもはるかに格上の存在だと自覚するとともに、
プラムの心には怯えが生まれていた。
プラムは今まで、自分よりも強い者に出会ったことがなかった。
遊び相手は皆、プラムよりも弱くて必死で逃げ回るような者ばかりだったのだ。
「だから……!だから、その……!」
「何、問題無い。貴様が吾輩を追い回すのが難しいというのなら……」
つまり、プラムは今までに追いかけっこの「鬼」しか経験していなかった。
だが、目の前の猫男はプラムよりも強い。
それが意味することは……。
「……吾輩が貴様を追い回し、追い詰め……嬲り殺しにしてやろうではないかっ!!」
「!!?……いっ……いやああぁぁぁぁっ!!?」
今まで追う側だったプラムが、追われる側に回るということ。
追われる相手の恐怖を理解せずに、ただ自分が楽しむためだけに
相手を追い回し、嬲り殺しにしていた妖精族の少女。
彼女は今初めて、自分よりも圧倒的に強い存在に追い回され、
追い詰められる恐怖を知ることになるのだった。
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