Lost Virgin

 
「まったく災難だわ!」

ぷんぷん怒りながら不気味な通路をずんずん進む少女が一人。
美しいブロンドのツインテールをなびかせ、腰には立派な長剣を帯び、もはや一昔前のものとなってしまった伝説の装備を身にまとって歩いてゆく少女の名はブロンディ。
可愛らしい容姿からは想像がつかないが、彼女は数々の修羅場を潜り抜けてきた冒険者であり、強きを挫き弱きを助く立派な騎士でもある。

その騎士がなぜ悪態をつきながらこんな所を一人彷徨っているのかというと、それは本人にもよくわかっていなかった。
ただ、ゴッド・リョーナと名乗ったあの男、あの男を許すわけにはいかない。
突如として殺し合いをしろなどとふざけたことを言いだし、(おそらく)何の罪もない少女を躊躇なく殺して見せたあの男を。

それにこの殺し合いに巻き込まれたのはどうやら自分だけではないらしい。
リタにティムにドロ、さっき参加者名簿を確認してみると、ともにいくつものダンジョンを攻略してきた仲間たちの名前が三つもあった。
ドロに関しては不安はないが、ティムはちょっと頼りないし、リタに至っては論外だ。
基本働いたら負けだと思っているあの無職女は、たとえ戦闘に巻き込まれなかったとしてもそのうちどこかで野垂れ死にしそうな気がする。

とにかく、はやく仲間と合流しなくてはいけない。
私はみんなを守る騎士なんだから、私が守らないといけないんだから。

「みんな……無事でいて………」

思わずそんなつぶやきが漏れてしまい、はたと立ち止まる。

「ちっ、違うわよ!別にあいつらが心配なわけじゃなくて……そう!私は一応雇われているわけだし、簡単に死なれたら私の面子丸つぶれっていうか!だから、そう!べ、別に心配なんてしてないんだからね!!」

耳まで赤くして必死に弁明する少女に突っ込んでくれるものは誰もいない、辺りはしんと静まり返っている。
なんだか急に空しくなってきたブロンディは一つため息をつくと再びとぼとぼと歩を進め始めた。

(それにしても)

ブロンディは考える、厄介な場所に飛ばされてしまったものだと。
自分が今いる場所は、非常に危険なダンジョン(?)だった。
あちらこちらに悪意に満ち満ちた罠が仕掛けられていて、気を抜けば一瞬で命を落としかねない。
地図を見る限り、この殺し合いは一つの島を丸ごと使って行われているようなので、広い島の中でもとびっきり危険な場所が自分のスタート地点に選ばれてしまったようだ。
とにかく長くここにとどまっていては命がいくつあっても足りない。
早急に脱出すべく、ずんずんと出口と思われる方向へ進んでいくと、どこからともなく妙な音、というよりも声が聞こえてきた。

「この声は?」

殺し合いの場には明らかに不似合いな声。
ブロンディは訝しみながらも声のする方へと進み始めた。





「どこよ、ここ………」

リオナは暗くて湿った陰鬱な空間にいた。
辺りを見回してみると、ほんの一瞬前まで自分の周りには大勢の人がいたはずなのに、今は一人もいない。

(別の空間に転移させられた?)

その証拠にさっきまで自分がいた部屋は、こんなに狭くなかったし、こんな鉄格子もなかった。
………というかここは。

「ちょっと!ここ牢屋じゃない!」

鉄格子の向こうには扉が見える、ということは自分がいるのは内側。
見るからに頑丈そうな鉄格子は押しても引いてもびくともしない、リオナは自分の運の悪さに思わず脱力した。
いや、運が悪いといえばそもそもこんなことに巻き込まれている時点で、今日の自分の運勢は最悪と言っていいだろう。
突然の宣言とともに始まった殺し合い、宙を舞う少女の首。
そっと首に触れてみると、あの少女の首を飛ばしたのと同じ首輪が自分にもつけられていた。

(まあ、いつまでも落ち込んでいるわけにはいかないわね)

とにもかくにも、ここから脱出しないことには始まらない。
こんなところで飢え死になんて末路はまっぴらだ。
顔をあげようとしたとき、視界の端に何かきらりと光るものを見つけた。

「鍵!!」

古びた鉄製の鍵が鉄格子の向こう、数メートル先の床にこれ見よがしに置いてある。
さっそく地面に這いつくばって手を伸ばしてみるが、数十センチしかないリオナの腕は当然届かない。

(人を馬鹿にして!)

おそらくあの鍵はわざとあんなところに置いてあるのだろう、主催者の性格の悪さがうかがえるといものだ。
大声で助けを呼ぶという手段もなくはないが、通りかかった人物が友好的だとは限らない。
もし殺し合いに乗った人物が自分の声を聞きつけた場合、今の状況では何の抵抗もできないまま殺されてしまうかもしれない。
助けを呼ぶのは最後の手段にするべきだ。

気を取り直して辺りを観察してみると、すぐそばにデイパックが落ちている。
なるほどこれがあの男の言っていた支給品だろう。
さっそく中身を確認してみる。

まず最初に出てきたのは、何やら赤い気体が詰められたぼろぼろのビン。
ビン自体もかなり古めかしい上に、ここまでひびが入っていて割れていないことがむしろ不思議なくらいにぼろぼろだ。
中に入っている赤い気体の正体は謎だが………

「なんとなく嫌な予感がするわね」

とりあえずこのビンについては保留としよう。
謎のビンを静かに床に置いて、再びデイパックの中を探る。
次に出てきたのはおもちゃセットと書かれた袋だった。

(おもちゃ?殺し合いにはあまりに不似合ね)

一応中を確認してみると、リオナにはどうやって遊ぶのか見当もつかない“おもちゃ”がいろいろとはいっていた。
彼女がそれらの使い方がわからなかったのは、それらが彼女の世界とは違う世界の技術で作られたものだったからか、あるいは彼氏いない歴=年齢だったためそういう知識に乏しかったからかはわからない。
が、一つだけ役に立ちそうなものが紛れていた。
微妙に反り返った木の棒。

(これでチャンバラでもするのかしら?)

などと的外れな想像をしながら長さを確認してみる。

「う〜ん、これじゃあ少し短いかな」

物は試しとやってみたが、案の定微妙に長さが足りなかった。

「ほかに何か使えそうなものは………?」

そういって立ち上がろうとした瞬間、コツンと何かが肘にあたった。
何にあたったのか、確認するまでもない。

(もぉ、なんで私ってこうおっちょこちょいなのかな)

リオナがため息をついた瞬間、破壊音が逃げ場のない牢屋の中にこだました。
そして、ビンの中に閉じ込められていた色欲の魔物、アスモデウスが解き放たれる。

 

割れたビンからもくもくと立ち上る赤い気体、その気体は空間そのものを徐々に赤く染め上げていく。

(まさか毒ガスじゃないわよね)

もしそうなら、自分の命運はここで尽きることになる。
できるだけ謎の気体を吸い込まないように部屋の隅に移動して、口元を手で覆いながら、最悪の想像をめぐらす。

(いやよ、こんな間抜けな最期なんて………)

半泣きになりながら、ただただこの気体に何の効果もないことを祈るばかりだった。
が、

「………はぁ、……はぁ」

だんだんと息苦しくなり始め、体の芯に火をつけられたみたいに体温が上がり始める。

(あぁ、やっぱり毒だったんだ)

全身の力が抜けてぺたんとその場に座り込んでしまったリオナ、絶望が心を埋め尽くしていく。

「いや、こんなところで死にたくない」

そんな願いをあざ笑うかのように息苦しさは増し、鼓動が異常に早くなる。

「いやよ………いやぁ………」

うつむくと今まで必死にこらえていた涙が零れ落ち、床の水たまりを広げていく。

「………え?」

いつの間にか股間のあたりに水たまりができていた。
いや、決して恐怖のあまり失禁したとかではない、決して。
女二十歳にして失禁とかありえない、断じて。
そう、これは………

「ひっ!」

慌てて確認すると、すでに下着はぐちょぐちょになっている。
ようやく自分の置かれた立場を理解すると同時に、今までぼんやりとしていたしびれが明確な疼きとなって全身に広がっていく。

「そ、そんな……こんなのぉ………」

ゆっくりと立ち上がっただけで下着が擦れて強烈な刺激が全身を駆け巡る。

「んっ……こんな……の…いやぁ………」

一歩歩くごとに膝から崩れそうになる。
布が肌を愛撫する感覚が鮮明に伝わってくる。

(は、はやくここからで出ないと……)

何とか鉄格子までたどり着くと、今度こそ立っていられなくなりがっくりと崩れ落ちる。
しかし、まだ気を失うわけにはいかない。
もう一度腹這いになって必死で手を伸ばすが、必死になれば手が伸びるわけではない。
冷静に考えればわかるはずだが、今のリオナにはその程度の余裕すらなかった。
しかも、

(あっ!む、胸が押しつぶされて………それにちくびぃぃぃ!!)

自らの体に押しつぶされた乳房が甘い痺れを、薄い布越しに石の床に擦りつけられた乳首が鋭い快感を同時に与えてくる。

(だめっ!こんなの耐えられない!!早くこの疼きを鎮めないと頭がおかしくなる!!)

「だ、だれかぁーー!!たすけてえええ!たすけてよおおおぉぉぉぉ!!!」

もはや忍耐の限界を迎え、鉄格子に縋り付きながら、なりふり構わず半狂乱になって絶叫するリオナ。
しかし、その声を聞き届けてくれるものは誰もいない。

(も……もぉ…………ほん、と…に………む……り………)

いまだ葛藤をはらんだ震える手がゆっくりと秘所へと延びてゆく。

「ひっうぅぅぅぅぅん!」

だがその葛藤は下着越しに自らの割れ目をなぞった瞬間吹き飛んだ。

(かっ、かきまわしたい!もっと激しく!!ぐちゃぐちゃに!!中を!!中をかきまわしたい!!)

今度は一切のためらいもなく下着の中に手を滑り込ませ、二本の指を乱暴に割れ目へと突き刺す。

「あっ!あぁ!っん!くぅ!」

突き刺すたびに体の中から卑猥な水音が響き、引き抜くたびに噴き出した愛液がすでにしとどに濡れている下着を更に濡らしていく。
その淫らな音が、臭いが、リオナをますます昂らせる。

(だめぇ、こんなのじゃものたりない!)

更にもう一本、指を自分の中に滑り込ませる。
リオナにとって三本を同時に入れるのは初めての経験だったが、今や滝のように愛液を垂れ流す秘所は難なく三本目の指を飲み込んだ。

三本の指を時にバラバラに、時にまとめて、より強い快感を得ようと激しく動かす。
しかし、

(そんな……これでも………これでも全然足りないっ!!)

今度はもう一方の手も下着の中に突っ込み、自らの秘所を破壊せんばかりにめちゃくちゃに暴れさせる。

「ひぃっ!ひあああぁぁぁぅ!」

何本もの指が隠唇をこじ開けて同時に出入りを繰り返し、膣壁をこすり、引っ掻き、肉芽を転がし、つまむ。

「ああぁ!も、もっとぉ!もっとぉぉ!!ひゅぅん!」

底なしの渇望に言い知れぬ恐怖を覚えながらも、それを一蹴するほどの激しい衝動に突き動かされ、リオナはひたすらに快感をむさぼる。

「こっ、こっち、も……」

べとべとになった手を片方引き抜き、ひそかに自信を持っている胸を惜しげもなくはだけさせ、自らの愛液をぬりたくって力任せに揉みつぶした。

「あ!んん!あぁん!ひっぐぅ!もぉ、イクぅぅぅぅ!!んあああぁぁぁぁぁぁぁぅぅぅぅ!!!」

最後の瞬間、ふたつの肉芽を千切れそうなほど強く引っ張り、巨大な快感の波に身を任せたリオナは、いまだかつて経験したことのない激しい絶頂を迎えた。

(な、なに?これ……?こんなの……すご、すぎる………)

恍惚の表情を浮かべながらも、今自分に訪れた激しすぎる絶頂に戦慄するリオナ。
しかし、それもほんの一瞬のことでしかない。
一度慰めれば鎮まると思っていた情火は、むしろ油を注いだようにますます激しく燃え上がる。
絶頂の余韻も冷めやらぬままに、再び自慰にふけり始めるリオナ。

(だ、だめ!またあんなの、あんなすごいのきちゃったら、頭がおかしくなる!)

そうわかってはいても、もはや自分では歯止めがきかない、圧倒的は肉欲と快感の前にリオナの理性は崩壊寸前だった。

「こん、なのじゃ……ああっ!ま、満足っっ!!でき、ひぃぅ!できない!!」
(もっと激しく!もっと激しく!!)

再び快感に思考が塗りつぶされ始めたリオナの目があるものを捉えた。
さっきまで自分が鍵を取ろうとして使っていた反った木の棒。

(も、もしあれを……い、入れたら………)

手淫だけでこれほどの快感を得られるのだから、あれを使えばきっと今とは比べ物にならない………

(だめよ!!それだけはだめ!!)

彼女は処女にしか使えない魔性石という道具を使って戦う戦士、あんなものを入れれば確実に処女を喪失してしまう。
魔性石を使えない彼女などただの運動オンチの女性でしかない。
こんな殺し合いの場で処女を喪失することは、彼女にとってほぼ死を意味していた。
それに、初めてが木の棒なんて惨めすぎる。

(耐えなきゃ!それだけはやっちゃダメ!)

しかし、そんな思いとは裏腹に手はすでにそれを掴んでいた。
もはや自制などできるレベルをとうに超えている。
躰は彼女の命令を完全に無視して下着をずらし、局部にそれの先端をあてがう。

(さ、先っぽだけ……ちょっと入れるだけなら………)

本当はリオナには分かっていた、そんなことをすれば快感に飲まれて最後まで入れてしまうことを。
それでももうどうしようもなかった、彼女は分かっていなかった、本当はすでに快感に飲まれているということを。
静かに、ゆっくりと彼女にとどめを刺す凶器がめり込んでゆく。

「んっくううぅぅぅぅぅ!!」

切なげな呻きをあげるリオナ。
小刻みに棒を動かすたびに甘い痺れが背筋を駆け上がってくる。

(せつない、せつないよぉ……)

小刻みだった動きが次第に大きくなり始め、ついに処女膜に到達する。
破らないように慎重に先端で膜をなぞると、それだけで未知の快感が彼女の理性を突き崩そうと押し寄せてくる。

どれくらいその時間が続いただろうか。
実際には一分もたっていない、しかしリオナには永遠とも思える時間、自分で自分を焦らし続ける地獄の責め苦を受けている気分だった。

(あ、ああぁ、……もう、ほんとに……おかしく………なる)

ついに先端を差し込んだまま膝立ちになり、両手で床に棒を固定する。
このまま体重をかければ一気に最奥まで貫かれて、今まで感じたことのない最高の快感を味わえるだろう、そうなれば私は………

(だめ!だめだめだめだめえええぇぇぇぇ!!!)

ブッチュン!!

「ひいいいいいいいぃいぃいぃぃぃいぃいいいぃぃいぃぃいぃぃぃぃぃぃ!!!!!」

足元の水たまりにほんのりと朱が差しはじめる。
ひときわ高い叫声をあげて、限界まで体をのけぞらし、白目をむいたまま、ビクビクと痙攣をくりかえすリオナ。
やがてその口元がいびつに歪んでいき………

「あ……あはっ」

ゆっくりゆっくりなるべく刺激を与えないように引き抜いていき………

(……も……ぉ…………む………り…………)

再び深く深く一気に突き刺す。

「ぁっはは、ひひ……い、いい!いいぃぃぃぃぃぃぃ!!いいよおおぉぉ!!これ!これぇ!すごいいいぃぃぃいぃぃぃいいぃぃ!!!」

グチャ!グチャ!ブチュ!グチュ!
荒々しく、荒々しく、まるで自分の体の奥の奥の奥をひたすらに破壊するようにねじ込み、内臓を引きずり出さんばかりに強引に引き抜く。
一突きごとに脳髄に衝撃が叩き付けられ意識を失いそうになる。
それでもこの抽送は止まらない、たとえ意識を失ったとしても止められない。

 

(なにこれ?)

ブロンディは目の前の光景に驚くやら呆れるやらで、扉を開けたままの体勢で固まっていた。
殺し合いの場にはあまりに不似合な艶っぽい声を聞きつけ、もしかすると誰かが暴行されている可能性もあると思い、ここまで来てみたのだが………

「ひっ……ぅん………あっぁぁ………」

なんと扉の向こうには痴女がいた。
その部屋は牢獄のようで、独房が一つあり、そこに若い女性が囚われているのだが、その女性は牢屋の中で一心不乱に自慰に耽っていた。
まあ命の危機にさらされれば生存本能が刺激されて情事に走るバカもいるかもしれないとは思っていたが、まさかこんな状況で一人遊びをしている奴がいるとは思ってもみなかった。
うちの無職も大概痴女だがここまで無節操ではないだろう………と思う。

しばしの間侮蔑の視線を投げかけ、そのまま無言で扉を閉めてその場から立ち去ろうとしたのだが。

「ま、まってぇ!ひっ、いかな……ああぁ!いかない……でぇぇ!」

呼び止められてしまった、こんなのと関わり合いにはなりたくないのだが。

「お、おねがひいいぃぃぃ!!うぁ、あっ、たしゅけへぇ……」

助けてと言われても何をどう助ければいいというのか。
だいたい助けてと言いつつも、手は休まず卑猥な道具で性器を刺激し続けているではないか。
正直あきれて物も言えない、今の自分はさぞかし冷たい目をしていることだろう。

いや、もういい、ほっといてさっさと行こう。
こんな痴態を見せつけられたら、こっちまで変な気分になって………

「はぁ……はぁ………え?」

突如自分の体に訪れた変化に困惑するブロンディ。
いつの間にか体が火照り、下腹部がじんじんと疼いている。

(な、なんで?!違う!わたしはこんな………)

そのとき、ようやくこの部屋が普通ではないことに気がついた。
部屋全体に赤みを帯びたガスが充満している上に、なにやら妙な気配を感じるのだ。

(まさか、この人がこんなになってるのってこのガスのせい?)

そうなるとこのまま放って置く訳にはいかない。
幸いにも足元にはこの牢屋のものと思われる鍵が落ちている。

「ちょっと待って、いま開けるから」

落ちていた鍵で扉を開け、牢屋の中へと踏み込む。

「ほら立って!逃げるわよ!」

女性は何とか立ち上がろうとするが、どうやら腰が抜けてしまっているようでなかなか立ち上がれない。
じれったくなって肩をかして立たせ、半ば引きずるようにして出口へと急ぐ。
女性は体中べとべとであまり気持ちのいいものではなかったが、そうもいっていられない。
牢屋の中は一段とガスの濃度が濃い、長時間ここにとどまっていては自分もどうなってしまうかわからない。

しかし、もう少しで出口というところで背後に妙な気配を感じて振り返ると、部屋中に充満していた赤いガスが一点に集中し、形を成しはじめる。
やがてガスは見たことのない奇妙なモンスターへと姿を変えた。

(追ってこられても面倒ね)

担いでいた女性をおろし、腰の剣を抜く。
美しく、ゆがみのない刀身、完璧に整えられたバランス、手に持っただけで相当の名剣だということが感じ取れる。
この剣が支給品に入っていた時点で、自分はかなりのあたりを引いたといえるだろう。

(悪いけどこの剣の切れ味、試させてもらうわよ!)

勇んで地を蹴り、得体のしれないモンスターを両断すべく真一文に刃を振りぬく。

「なっ!うわ?!っげほ、えほ!!」

が、その切っ先が触れた瞬間、モンスターは再び霧散してしまった。
しかも、ふりまかれたガスを思いっきり吸い込んでしまう。

(し、しまった!このガスは………)

変化は一瞬にして訪れる。

「ひっ?!!」

強烈な立ちくらみを起こしたように世界がぐるりと回る。
全身がほんのり赤く色づき、心臓の鼓動と連動して、下腹部がどくどくと脈打つ。
剣を杖にしないと腰が砕けて立っていられない。

再び背後に顕現したモンスターは、すかさず粘液を飛ばして反撃してくる。
間一髪その場から飛びのいて躱すも、バランスを崩してそのまま倒れこんでしまった。

(迂闊だった、まさかこんな………)

元々ガス状のモンスターであるアスモデウスには物理攻撃は全く効かない、魔法かあるいは魔力がこもった武器でないと触れることすらできないのである。

よろよろと立ち上がりながら、ぼんやりする頭で必死に思考をめぐらせる。
元々自分はパーティーでは壁役であり、いくつかの補助魔法は使えるが攻撃魔法は一切使えない。
物理攻撃が効かないとなると、自分にとっては非常に不利だ。
加えてあのガス、あんなものを立て続けに食らったらとても正気を保っていられない、あの女性と同じように淫らに狂って化け物の虜になってしまうだろう。

もはや逃げる以外に道はない。
しかし、逃げるといっても今の状態では容易なことではない。
それに自分一人ならまだしも、いまだ意識を失ったままの彼女を放っていくわけにはいかない。

ブロンディが次の策を練っている間に、アスモデウスが先に動いた。
一瞬の助走をつけると、一直線にブロンディに突進してきたのである。
しかし、ブロンディは手練れの騎士、普段のような立ち回りはできないとはいえ、直線的な突進ならば躱せないことはない。

(考えてる暇はないわね)

モンスターは勢いを殺すことなく壁に激突し、またガス状に戻っている。
行動するなら今しかない。
できるだけガスを吸わないように息を止め、おぼつかない足取りで出口へと向かう。

「ねぇ!お願い立って!」
「う……ぅぅ………」
「ああ!もう!!しょうがないわね!」

下半身の疼きを強引にねじ伏せ、まだ意識のはっきりしない女性を背負って扉をくぐる。
背後では三度モンスターの気配。
正直、今にも足がもつれて転んでしまいそうだった。
まっすぐ進もうとしても、ついひざの力が抜けて千鳥足になってしまう。
こんな状態で逃げ切れるとはとても思えなかった。

(お願い追ってこないで!)

無駄だと分かりつつも祈らずにはいられなかった。
しかし、

(………?追ってこない?)

まさかあの部屋から出られないのだろうか?
そう思って振り返った瞬間。

「きゃっ!!?」

何かに足をとられて転んでしまい、背負っていた女性ともども冷たい床に投げ出されてしまった。
見るとグロテスクな触手が足に絡み付いている。

「くっ、この……」

必死で足をばたつかせるが触手の力は予想以上に強くなかなか振りほどけない。
眼前には何本もの触手が迫っている。

仕方なく剣の柄に手をかけるが、それよりもはやく迫っていた触手の一本が、下着同然の鎧を易々とかきわけ、ブロンディの秘所を貫いた。

「――――――――ッ!!!」

声にならない叫びを上げてのた打ち回るブロンディ。
その叫びは悲鳴か、嬌声か。
そんな彼女にさらに何本もの触手が襲い掛かる。
が、

「な……め…るなあああぁぁぁぁぁぁ!!!」

すさまじい怒号と共に抜き放った剣を、秘所を貫く触手にたたきつける。
剣の切れ味は一級品で、触手は半ばからバッサリと断ち切れた、どうやらこの触手は本体と違って物理攻撃が効くようだ。

他の触手が一瞬ひるんだ隙に足に絡み付いていた触手を振りほどいたブロンディは、いまだ朦朧としているリオナを引っつかむと猛然とその場から駆け出した。



「はぁ……ぜぇ………はぁ………」

もう限界だ。
さっきまでは、あんなものに処女を奪われてしまったショックと怒りで、われを忘れてここまで走ってきたが、もうほんとに限界だ。
手に持った剣と女性が床に落ちる。
いまさら気づいたが、秘所にはまだちぎれた触手が突き刺さったままだった。

「………んっ!」

ゆっくりと忌々しい肉塊を引き抜いていくと、思い出したように血が滴り落ちる。
触手が抜け切るのと同時に、体の力も完全に抜けてしまい、ばたりとうつぶせに倒れてしまった。

「……………っく、………うぅぅぅ」

静まり返った迷宮にかみ殺した嗚咽だけが響く。
最悪のスタートを切った彼女たちが立ち上がるのは、まだ先になりそうだ。





【B−2/迷宮/1日目 7:00〜】

【ブロンディ@Warlock】
[状態]:疲労(大)、処女喪失
[装備]:ナヤマの長剣@リョナラークエスト
[道具]:ブロンディのデイパック(支給品一式、他不明)
[基本]:主催者の打倒
[思考・状況]
1.しばらく放心
2.仲間と合流



【リオナ@魔性石】
[状態]:疲労(大)、意識混濁、処女喪失
[装備]:なし
[道具]:なし
[基本]:殺し合いからの脱出
[思考・状況]
1.気絶中

※リオナのデイパック(支給品一式、夜のおもちゃセット@現実、他不明)は迷宮の何処かにある牢屋に置きっぱなしになっています
※迷宮の何処かにある牢屋にはアスモデウスが居ついています。








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