お食事タイム


B−4の駅員室。
ストーブに置いたやかんから湯気が吹き出るのを見つめながら、
三人の女性が卓を囲んで座っていた。

そのうちの一人、黒ずくめの露出の高い服に身を包み、
少しクセのある長い紫の髪を持った20代後半の女性……アザミが口を開く。

「よーし、湧いた湧いた。
 んじゃ、さっそくコイツを頂くとしましょうか」

そう言って、女性はやかんを手に持ち、卓に並べておいた
それぞれのカップ麺の容器に湯を入れていく。

「あの……こんなことをしていて、本当にいいんですか?
 私としては、早く師匠や先生と合流したいんですけど……」

それを見ていたショートカットの少女……ミアがアザミに言葉を向ける。
柔らかい栗色の髪を持つ、優しい印象の19歳の少女だ。

ミアとしては、殺し合いという危険な催しに巻き込まれた以上、一刻も早く
剣の師匠のレア、魔法の先生のイリアと合流して、戦う力の無い者を守るために
行動したかったのだ。
アザミに半ば無理やり駅員室に連れられてこなければ、今頃はそうしていた
はずだった。

「まぁまぁ、焦ることないって。いざというときにお腹が空いて
 力が出ないってことになったりするのもヤバイでしょ?
 まず先に腹ごしらえしてからでも、遅くないって」

ミアの言葉に笑いながら返答するアザミ。

「んー、本当にそんなのでいいのかなぁ?こうしてる間にも、
 誰かがコロシアイを始めてたりしたら、どうするの?」

アザミの言葉に最後の一人である学生服の少女……ミントが不満そうな声を上げる。
猫耳のようなクセの強い緑の髪を持ち、人懐っこそうな印象を与える彼女は
三人の中では最年少の13歳だ。

魔法少女であるミントもミアと同様、力の無い参加者を守るために、
すぐにでも行動を開始したかったのだ。
それなのに、自分とミアを強引に連れてきて、することが腹ごしらえでは、
不満な顔の一つもしたくなるだろう。

「コラ、そんな顔しない。どっちにしろ、お互いのことを話し合う必要は
 あるんだから、何か食べながらのほうが話しやすいでしょ?」
「それは、まぁそうだけどさ〜……」

アザミの言葉に、ミントも情報交換の必要はあると思っていたのか、
納得のいかなさそうな顔をしつつも、反論の言葉を飲み込んだ。

「……そうですね。確かにアザミさんの言う通り、焦っても仕方ないですし
 情報交換や落ち着くための時間も必要ですよね」
「そうそう、こんなことになっちゃったんだから、まずは落ち着かなきゃね。
 ……さ、話しているうちに時間も経ったし、さっそく頂こうじゃない」
「……んー、まぁいっか。私もお腹空いたし。いただきまーすっ」

そして、三人の女性はカップ麺をハフハフと食べ始めたのだった。

そんな中、アザミ……悪の幹部候補生ゼッケン番号2番(二号)は
内心でほくそ笑む。

(ふふ、上手く言ったわ……これで、この二人は私の思うがまま……)

実はアザミは二人に出会う前に、注射器によってミアとミントの分の
カップ麺に痺れ薬を注入しておいたのだ。

もちろん、勘の良い相手には気づかれてしまう恐れがあるため、
二人の人となりはしっかりと観察した。
そして、彼女たちが警戒心の薄い底抜けのお人よしだと理解したアザミは、
嬉々として痺れ薬入りのカップ麺を彼女たちに振舞ったのだ。

(ふふふ……最初からこんな可愛い子を二人も思い通りにできるなんて、
 私って本当に運が良いわ〜。どうやって虐めてあげようかしら?)

くすくすと不気味に笑うアザミ。

「ね、ねぇ……?アザミさん、なんで笑ってるのかな……?」
「さ……さぁ……?」

それを、若干引いた様子でミアとミントは見つめていた。

黒い欲望が漏れ出ているとは気づかずに、アザミはしばらくの間
少女たちの嬲り方を妄想しながらニヤニヤと笑いを浮かべていた。






D−4の駅の近くに、街道を歩く一人の少女の姿があった。
背中に蝶のような羽を生やし、艶やかな緑の長髪の先を白いリボンで
結んだ和服の少女。

彼女の名は、シルフェ・アリーリョ・ナスプ・ライト・ティクス・ターニア。

殺し合いという恐ろしい催しに巻き込まれたにも関わらず、
その愛らしい顔には、少女が浮かべるには似つかわしくない
酷薄な笑みがあった。

「殺し合いねぇ……あのゴッド・リョーナとかいうヤツ、
 人間にしては面白いことを考えるじゃないか。
 まぁ、暇つぶしくらいにはなるかな?」

不敵な言葉とともに、シルフェはゆっくりと歩く。

先ほどの言葉からも分かるように、殺し合いには乗り気なシルフェだが、
だからといって、彼女は焦るつもりはなかった。

殺し合いの参加者に出会ったなら、痛めつけて殺して喰らうが、
参加者を見つけるために、フィールドをしらみつぶしに探すつもりも
なかったのだ。

……しかし、ふとシルフェの鼻が香ばしい匂いを捉えた。

「……ん?この匂い……?」

それは、明らかに食べ物の匂いだった。
匂いの元に視線を向けると、そこにあるのは駅員室。

駅というものを知らないシルフェでも、扉があって、
そこから食べ物の匂いがする以上、そこに人がいることは分かる。

「アハハハ、馬鹿だなぁ。そんなところでノンキに食事なんてしてなきゃ、
 ボクが気づくことも無かったかもしれないのにさ」

シルフェの顔に浮かんだ笑みが深くなる。

それは、正に獲物を見つけた肉食獣の如き表情。
可憐な少女の容姿を持つ彼女だが、その表情を見れば、
彼女を容姿通りのか弱い少女だと思う者は一人としていないだろう。

「見つけちゃった以上、逃がすつもりはないよ。
 せいぜい、頑張ってボクを楽しませてよね?」

そう言って、駅員室へ向かおうとしたシルフェだったが、
ふと彼女の長い耳がぴくっと動き、駅員室から視線を外し、
あらぬ方向に目を向けた。

すると、シルフェが向けた視線の先にいきなり光が発生した。
そして光が収まると、そこには先ほどはなかった一人の少女の姿があった。

「あー、びっくりした……!まさか、あのモンスターが
 あんな凄い魔法を使ってくるなんて思わなかった……!
 あの石が支給されてて本当に助かったよぉ……!」

少女……ペセルは冷や汗を拭いながら、駅のベンチに腰を下ろしたが、
すぐに、あっと声を上げる。

「あーっ!!?しまったっ!!?」

いきなり大声を上げ、デイパックから紙を取り出す。

「あのモンスターをこの剣で封印すれば良かったんじゃないっ!!
 そうすれば、きっと物凄く強い武器が手に入ったのにっ!!」

取り出した紙に視線を走らせながら、ペセルは涙目で地団駄を踏んでいた。


そんなペセルの様子を見ながら、シルフェは顎に手をやりつつ考える。


(……どっちから先に食べようかな?)






【B−4/駅/1日目 7:00〜】

【ミア@マジックロッド】
[状態]:健康(痺れ薬の効果が現れるまであと数分)
[装備]:なし
[道具]:ミアのデイパック(中身不明)
[基本]:対主催
[思考・状況]
1.ミント、アザミ(二号)と行動。



【ミント@悪の幹部候補生】
[状態]:健康(痺れ薬の効果が現れるまであと数分)
[装備]:なし
[道具]:ミントのデイパック(中身不明)
[基本]:対主催
[思考・状況]
1.ミア、アザミ(二号)と行動



【アザミ(二号)@悪の幹部候補生】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:アザミのデイパック(
    涼子のナイフ@BlankBlood、
    ウインドの薬箱@Rクエスト、
    カップ麺×7@現実、
    マックスコーヒー(250ml)×5@現実)
[基本]:生き残りつつ、参加者をリョナる
[思考・状況]
1.ミア、ミントが痺れて動けなくなった後、二人を痛めつける。



【シルフェ@I.M.G】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:シルフェのデイパック(中身不明)
[基本]:参加者を見つけて、殺して喰らう
[思考・状況]
1.駅員室の参加者とペセルのどちらかを襲う



【ペセル=パフ@クァルラリル】
[状態]:健康
[装備]:封魔の剣@Rクエスト
[道具]:ペセルのデイパック(支給品一式、
    転送石×2@I.M.G
    アップルパイ×5@Rクエスト
    アップルジュース(900ml/1000ml))
[基本]:優勝してクァルラリルを手に入れる
[思考・状況]
1.参加者を探して倒す

※ペセルの持っている封魔の剣は魔剣ネフェリーゼの元となった
 封魔の剣とは造りが違うので、見間違うことはありません。
※駅員室の三人とシルフェには気が付いていません。








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